■ 電流計の今昔
車の発電能力の低かった時代は、バッテリーの状態を知るために電流計はかなり重要なメーターであり、多くの車が搭載していました。昔はオルタネーター(交流発電機)ではなくダイナモ(直流発電機)を使っており、エンジンが低速の時は発電能力が低かったのです。今の車は、エンジンを始動して数分も運転すればほぼ満充電になり、以後はほぼその状態が維持されます。しかし発電能力が低かった時代は、雨や夜などで消費電力が大きいと、車が停止してアイドリング状態の時にはバッテリーから持ち出しになり、渋滞などでバッテリーが放電状態になることが多かったのです。
電流計を見れば、現在バッテリーに充電しているのか、放電しているのか、あるいは充電が完了して満充電といったことがわかります。放電が続いた後は、ある程度充電しておかないと、次のエンジン始動時に容量不足になっている可能性もあります。そういう意味で、電流計は重要なメーターだったのです。
今は普通に使っている限り、オルタネーターの発電電力で不足することはないため、電流計で細かに観測する必要性はほとんどありません。そのためわざわざ備えている車は、特殊車両でもない限りありませんし、その意味を知っている人も減りました。
しかしウインチを装着した4WDとか、作業機を頻繁に使うといった用途では、電圧計と電流計があればバッテリーの状態がよくわかり、適切に使用することができます。全く無用の長物というわけではありません。
こういった今昔の事情とは別に、現在はまったく異なる理由で、電流測定をしている車が数多くあります。これは充電制御やアイドリングストップといった機能のためです。これらについては、また後で触れるかもしれません。
■ 余談 −− 追加電力負荷用の配線の接続位置
車をいろいろいじる際に、電力負荷を追加することがあります。
電気を使う機器を組み込む場合は、常時系、Acc系、On系、ライト系などを必要に応じて接続しなければなりません。例えばオーディオを同等品と入れ替えるといった場合なら、既存のオーディオ用電力配線を利用できます。あるいはちょっとした室内用ランプなど、わずかな電流しか使わないものなら、既設の配線を分岐して利用する事ができます。
しかし大電流を必要とする機器を追加する場合は、新規に電源配線を用意しなければなりません。既設の配線から取ると、その系統の電流上限を超え、ヒューズが飛ぶなどの問題が起こります。
車に備えられたヒューズボックスには、運が良ければ未使用の回路があります。オプション装備用の回路、最初から予備として用意されている回路などです。一般にこれらは、アクセサリ系やIGN系などで、10A程度のヒューズを組み込んで使うことができます。必要な用途での電流量が足りるのであれば、これらの予備系を使えば簡単です。
電流や回路数が足りない場合は、より大元のプラス母線から分岐させる必要があります。よくあるのが、大光量の補助灯(今ではLED化が進み、だいぶ電力は小さく済むようになりました)やハイパワーオーディオなどです(4WDの電動ウインチなどは、前に触れたようにまた別の扱いになります)。こういった機器の説明書を見ると、しばしば、バッテリーのプラス端子に接続しろと書かれています。なるべく電源の大本につなぐことで、無駄な電圧降下や既存配線の過負荷を防ごうという意図だと思われますが、実はこれは正しいとは言えません。
大電力ではあるものの、エンジン運転時のオルタネーター出力でまかなえる程度の負荷の場合は、一番好ましいのはオルタネーターのB端子からの配線を引き込んでいるメインのヒューズボックス(たいていエンジンルーム内にある)内で、適当なヒューズを介した部分から取り出すことです。ここはオルタネーターが発電した電力が車両全体に分岐する部分であり、スターターなど一部の例外を除き、車両の電源回路の一番の付け根となるからです。ここからヒューズを介して負荷に給電することで、車両のほかの電装系と同等の接続形態となります。
ただこの場所はメインヒューズボックス内部であり、配線を簡単に接続できるとは限りません。その場合はオルタネーターのB端子から配線を引き出し、ヒューズを介して負荷に送ることができます。
通常の車では、バッテリーのプラス端子とオルタネーターのB端子は直結されています。なのでバッテリーのプラス端子につないでもオルタネーターにつないでも電気的には同じです。しかし電流計を備えた車であれば話は変わります。もし拡張用の配線をバッテリー側に接続すると、前回説明した作業機用モーターなどと同じ構成になります。つまり追加した負荷に流れる電流は、電流計の上で充電電流として示されてしまうのです。またエンジン停止時に使った際に、バッテリーの放電電流として示されません。これでは、電流計の意味がなくなってしまいます。
負荷をメインヒューズボックスかオルタネーターのB端子に接続すれば、オルタネーターから負荷に流れる電流は電流計を通らず、車両側のその他の電気負荷と同じ扱いになり、電流計の働きを損ないません。
追加回路と電流計の関係
■ 自動車用の電圧計と電流計
今乗っているY61サファリには、電圧計と電流計を後付で備えました。ちなみに、前に乗っていたY60サファリにも付けていました。その前のJeep J58は標準で電流計を備えており、さらに別途電圧計を取り付けていたので、自分の車で電圧/電流計がないのは、NDロードスターだけということになります。
まずは昔ながらの電気計器としての電圧計と電流計について説明します。
単純なアナログ式の電圧計や電流計は受動的に動作します。つまり測定対象の電気回路からエネルギーを取得し、それで針を動かすのです。この場合、メーターを機能させるために外部の電源は必要ありません。自動車のような規模の電力の場合、メーターのために使われる電力はごく僅かなので、負荷回路に対する影響はほとんどありません。
・電圧計
一般に可動コイル型電流計に倍率抵抗を直列にいれて実現します。これに電圧をかけると、電流計の内部抵抗と倍率抵抗の合成抵抗に対して、加えた電圧に比例した電流が流れるので、電流計の針の動きにより電圧を知ることができます。電流計は、磁石で作られた磁界中に回転できるコイルを置き、それにスプリングを取り付けます。コイルに電流を流すと磁界が発生し、これと磁石の磁界によりコイルが回転するモーメントが発生します。コイルにはスプリングが取り付けられているので、電流によるモーメントとスプリングの力がバランスしたところで回転が止まり、電流に比例した角度位置となります。このコイルに指針をつけることで、目盛板上で電流値を読み取ることができます。電圧計として使う場合は、倍率抵抗などを使って電圧に換算した値を目盛板上に記すことで、電圧値を読み取ることができます。
電圧を測る間、この回路に電流が流れますが、これはせいぜい数ミリアンペアなので、自動車のバッテリーであれば常時接続したままでまったく問題ありません。かつて自分のJeep、Y60に取り付けた電圧計はこのタイプのものでした。
アナログ式の可動コイル型電圧計
・電流計
自動車用の直流電流計には、電流を直接測るタイプと、シャント抵抗を使って分流するタイプ、電線周辺の磁界を測定するタイプなどがあります。電圧計に使われるような可動コイル型電流計は微小電流用なので、自動車の回路のように何十アンペアも流れる回路には直接使用できません。そのため異なる構造のメーターを使ったり、回路を工夫して測定します。
直接測るタイプは、測定対象の電流がすべて電流計を通過するように接続します。かつてJeepに搭載されていた電流計は、このような直接測定型でした。
内部構造の詳細は正確には覚えていませんが、自動車の車載用のものはさほどの精度は求められず、なおかつ数アンペア以上の大電流測定用ということで、かなり簡略化された構造のものでした。電流が流れる太い導線部のそばに、磁界の大きさによって回転するように、指針が取り付けられた金属片が置かれていました。電流の正負で逆に振れなければいけないので、これは磁石片だったのでないかと思います。
このような構造だと、正確に何アンペアといった測定には不向きですが、自動車用の場合、充電か放電か、電流が大きいか小さいか程度がわかれば十分なので、この程度でよかったのでしょう。
シャント抵抗型は、測定位置で配線を切断し、抵抗器を挿入します。これをシャント(分流抵抗)といいます。ここに電流が流れると、抵抗の両端に電流に比例した電圧が発生します。回路全体の動作に影響しないようにシャント抵抗は極めて小さい抵抗値で、発生する電圧はわずかです。この微小電圧を可動コイル型電流計に流すことで、回路に流れる電流を計測できます。つまり回路に流れる大電流を、シャント抵抗と微小電流用電流計に分けて流すこと(分流)で大電流を測定するのです。
Y60に取り付けた電流計はこのタイプのものでした。
シャント抵抗を使う電流計
■ 外部電源を必要とする電圧計と電流計
Y61サファリに付けた電圧計と電流計はここまで説明したメーターとはちょっと異なり、作動させるのに外部電源を必要とするタイプです。
電圧計は、測定対象電圧を内部で測定し、広角メーターを動かしています。動作電源と測定端子は共通なので、接続する配線は2本だけ(それとは別に照明電源が必要)ですが、単純な可動コイル型メーターよりも消費電流が多くなっています。
電流計は前述したシャント抵抗タイプですが、シャントの電圧を測定する2本の電線とは別に、メーター電源が別途必要です。また放電電流がある程度以上大きくなると赤色LEDを点灯させる回路が組み込まれています。この電流値は、裏側にある半固定抵抗で設定できます。電源オフの時、電流計指針はマイナス側に振り切った状態で、電源を入れると、中央のゼロ位置からプラスマイナスに振れるようになります。
これらのメーターは広角指示でかっこいいのですが、外部電源が必要という条件は、実は電圧計と電流計に関してはとても不便なのです。
■ 電圧計の問題
外部電源を必要とする電圧計と言っても接続は単純で、測定したい電圧の配線にメーターを接続するだけです。メーターはこの配線の電圧を示します。つまり配線は以前の受動的な電圧計と一緒です。ただ、内部に電子回路がある分、消費電流が大きくなっており、車両のプラス母線に常時接続で使うにはちょっと不安があります。
ではAcc電源(アクセサリ位置、On位置で供給される)に接続すればいいかというと、それでは不十分です。まず、車が全く電気を使っていない時(キーOff位置)のバッテリー電圧を測れません。これはバッテリー状態を知りたい時、結構重要な情報です。エンジンをかけないままAccにすれば電圧はわかりますが、この状態ではナビやオーディオなどの電力消費が発生しており、無負荷状態とはいえません(無負荷にするために装備のスイッチを切るのも面倒です)。
しかし最大の問題は、ST位置です。エンジン始動のためにスターターを回す際は、大電流を供給するために必要ない部分の電源を切るようになっている車が多くあります。実際、うちの車ではAcc系がオフになってしまうのです。これがどういうことかというと、スターターモーターが回転している時の、バッテリーの電圧降下を調べられないのです。電圧計の電源をOn系にすればスターター時の電圧を測定できますが、今度はOff時、Acc時の電圧は測れません。
つまり消費電流の多い電圧計を使う場合、単純な接続では、Off、Acc、On、STすべての状態で電圧を測る方法がないのです。
■ 電流計の問題
電流計のほうは、動作用の12V電源と、オルタネーターとバッテリーの間の母線に挿入したシャント抵抗の電圧を測る2本の線から構成されます。12V電源が供給されなければ、当然、指針は動きません。つまり電源供給と測定に関して、電圧計と同じ問題があるのです。Off時は普通は(測定可能なレベルの)電流は流れていませんが、ライト類を使っていれば放電電流が流れます。Acc、On、STに関しても、電圧計と同じ問題があります。前に触れたように、どのスイッチ位置であっても、電流計の指示値を知りたいのです。
電流計にはもう1つ問題があります。シャント式の場合は、シャント抵抗の両端からの配線をメーター部まで引き込みます。よく考えると、この配線はバッテリーのプラス端子直結です。この配線がショートすると、バッテリーからの大電流が流れ、溶断、発火の可能性があります。そのため、ヒューズなどによる保護を考える必要があります。
■ メーター用電源をどうにか用意する
メーターの消費電力の都合上、メーター電源を常時供給するわけにはいきません。そのため、Offの状態では、後付したスイッチを押している間だけ、メーターに電源を供給するようにします。またキーがAcc、On、STのすべての状態でメーターを動かすためには、AccかOnのどちらか(あるいは両方)の電源が来ている時に、メーターに電源を供給するようにします。
要するに、手動スイッチ、Acc、Onで供給される12VをOR接続すればいいのです。ただし、これらの配線を単純につないでもだめです。例えば後付したスイッチをOnにしたら、Acc系、IGN系すべてに通電されるなどといったことは許されません。AccとOnも同様です。それぞれの系統の他の部分に影響することなく、メーター電源のみ、これらの電源供給のORで動くようにしなければなりません。
これは、ダイオードOR回路を利用しました。それぞれの系統からの電流を、ダイオードを通してから接続することにより他系統に影響することなく、OR的に電力を供給することができます。
ダイオードを使ったOR回路
ダイオードを使うことで、ある系統に12Vが加わった時、ダイオードに順方向の電流が流れます。関係ない系統については、ダイオードが逆方向となるため、電流は逆流しません。これでほかに影響するすることなく、スイッチ、Acc、Onのいずれか(複数可)に12Vがかかると、回路に電流が流れます。ここには12Vで動作するリレーをいれ、その接点を介してメーター類にプラス母線から12Vが加わるようにします。
リレーを置かず、ダイオードからの電流を直接メーターに送ってもいいのですが、ダイオードによる電圧降下があるので、電圧計の指示値がその分下がってしまいます。シリコンダイオードだとこの電圧降下は約0.6Vから0.7Vになります。これを避けるために、リレーを入れているのです。リレーは機械接点なので、電圧降下はありません。
このような回路から電源を供給することで、Offの時はスイッチ操作で、それ以外の時は常時メーターが稼働するようになりました。
この電源供給回路も含めて、Y61サファリに取り付けた電流計と電圧計の回路を示します(照明系統は省略してあります)。
実際のメーター周辺回路(イルミネーション系は省略)
■ 今どきの電流と電圧の測定
最近は配線のすぐそばに磁気センサーを置くタイプが広く使われているようです。電線に電流が流れると、線を中心として周辺に磁界が発生するので、それを磁気センサーで測定すれば電流量がわかります。電圧はエンジン制御コンピュータが電源電圧を測定することで把握しています。これらの情報は、充電制御やマイルドハイブリッド、アイドリングストップなどの制御に使われます。