■普通のオルタネーターとして動かす
オルタネーター1号は、実際に運転できる環境を作る前に分解し、配線を引き出してしまったので、普通のオルタネーターとしては動かしていません。今回、オルタネーター2号を入手したので、まずは何も手を加えず、普通の自動車用オルタネーターと同じ構成で運転してみました。
電源として12Vシールド鉛バッテリーを接続し、オルタネーターを動かします。回路は以下のようになっています。

ボディアース(マイナス)とB(バッテリー)端子にバッテリーを接続します。この状態では、オルタネーターには電流は流れません。バッテリーの開放電圧は12.8V程度なので、回路の電圧も同じになります。
ここでIG(制御端子)に+12Vを接続すると、200mAほどの電流がIG端子に流れます。これが停止状態での回転子の励磁電流となります。同時に、+12VのIG端子からL(チャージランプ)端子に接続したLEDに電流が流れ、点灯します。
この状態でモーターを起動し、オルタネーターを回転させると発電が開始され、B端子に出力電圧が発生します。
発電開始とともにL端子のトランジスタがOffになり、チャージランプは消灯します。チャージランプはオルタネーターが発電していないことを警告するものなので、IGがOnで停止時に点灯し、発電開始により消灯するという動作になります。
発電電圧は、無負荷状態で約15Vでした。電圧を調整するのは、内蔵しているレギュレーターの働きです。この電圧はバッテリー端子電圧より高いので、オルタネーターからバッテリーに電流が流れ、充電が始まります。そして実際の自動車であれば、各部に電力を供給することになります。またこの状態では、回転子の励磁電流もオルタネーター自身が供給します。そのためバッテリーの端子を外しても、オルタネーターは発電を続けることができます。
これが自動車などに搭載されたオルタネーターの標準的な動作です。
■レギュレーターを壊す
オルタネーター1号のレギュレーターからの配線をすべて引き出した状態で実験をしていたところ、オルタネーターから電源に電流が逆流したのか、実験電源が壊れました。その際、電源の出力が30Vくらいに上昇し、どうもレギュレーターを道連れにしたようです。以後、IG端子への電圧印加で発電は開始するものの、電圧調整機能は正常に動作しなくなってしまいました。
オルタネーター2号を導入したのはほかの実験のためだったのですが、1号レギュレーターが壊れてしまったため、レギュレーターの実験は2号のものを使うことにしました。
■オルタネーター2号の分解
オルタネーター2号も、1号と同等の形式のもの(だと思って)購入したのですが、実際にいじってみると、メーカーや形状はほとんど同じであったものの、細部がいろいろ変わっていました。出力が45Aから50Aになっていたのですが、内部も一部変わっていました。最初につまづいたのがプーリーナットです。1号は22mmだったのに2号は24mmとなっていました。また電機子出力は、三相Y接続の3線ではなく、中性線が最初から引き出された三相4線式で、レクチファイヤの整流方式がちょっと変わっていました。

1号のレクチファイヤは、三相交流の3本の出力を6個のダイオードで全波整流していましたが、2号のレクチファイヤは中性線にも2個のダイオードを接続し、合計8個のダイオードで整流しています。オルタネーターではこのような構成の整流回路もしばしば使われているようです。
実はオルタネーター2号は泥だらけで、電線のハンダ外しに手こずりました。その結果、熱でレクチファイヤの絶縁体を破損してしまい、2号レクチファイヤはボツとなりました。残念ながら、この方式の全波整流の実験はできませんでした。
2号はほかにもレギュレーターとスリップリング回りの配線が変わっており、レギュレーターからの配線とスリップリングへの接続を簡単に切り離すことができませんでした。そこでここは切り離さないまま、電線だけを引き出しました。レギュレーターの構成そのものは、1号のものと同等のようです。
また実験とは関係ありませんが、泥水のせいか、プーリー側ベアリングは回転がなかり重くなっていたため、新品と交換しました。
■レギュレーターの実験
こういった事情により、レギュレーター以外のオルタネーター1号と2号のレギュレーターを組み合わせるという、変則的な構成で実験することにしました。
自動車用として使う場合は、レギュレーターで出力電圧を調整します。レギュレーターの構成は製品によって異なり、また最近は燃費向上のために細かな制御が行われているので、ここで説明するものより複雑になっています。
オルタネーターの交流出力をレクチファイヤで整流すると直流が得られますが、これは安定化されていません。回転が上がると電圧が上昇し、負荷が増えれば電圧が低下します。この電圧変動を調整し、出力電圧を一定の範囲に収めるのがレギュレーターの役割です。回路構成や省エネ機能などの違いはあるものの、出力電圧を調整する基本的な仕組み(回転子の励磁電流を調整する)は同じです。
今回実験に使ったオルタネーターのレギュレーターは、以下の接続があります(レギュレーターICを裏から見たところ)。
(*が付いているのは、オルタネーター内部の接続で、通常は外部に出ていません)

・グラウンド(G)
直流出力のマイナス側が基準電位になります。レギュレーター部をオルタネーターに組み付けることで、レギュレーターのグラウンド回路がオルタネーターボディに接続されます(レギュレーター側にグラウンド用の配線や端子はありません)。実験回路ではオルタネーターボディの使っていないネジ穴(レクチファイヤ取付ネジ穴)に端子をネジ止めし、ここにグラウンド配線を接続します。
・バッテリー(B)端子
オルタネーターの主プラス出力で、自動車のバッテリー/電装系に接続される端子です。
・励磁電力端子(Fp)*
レクチファイヤには、電力出力用の主プラス端子とは別に、回転子励磁のために使う補助プラス端子があります。これをレギュレーター経由で回転子に接続し、励磁電力を供給します。今回の2台はどちらもこの端子を利用していますが、使わないもの(B端子からの電力を使う)もあるようです。これは内部で接続されています。
・励磁出力(F+、F-)*
スリップリングを介して回転子に送る12Vの励磁電力です。回転子のプラス側(F+)は励磁電力端子に、マイナス側(F-)はレギュレーター内のトランジスタを経てグラウンドに落ちます。この2本の配線は内部で接続されています。
・制御電源(IG)端子(コネクタ)
ここに12Vを加えるとレギュレーターが動作します。
・チャージランプ(L)端子(コネクタ)
発電していない時にグラウンドに落ち、チャージランプを点灯させます。
レギュレーターとレクチファイヤ、オルタネーターの交流発電部分は以下のように接続されます。レギュレーター内部の回路は類推したもので、この通りであると確かめたものではありません。

■停止状態
バッテリーは、レギュレーター/レクチファイヤのB端子とグラウンドに接続されます。IG端子はスイッチで12VがOn/Offされます。Offの状態ではレギュレーターは動作せず、電流も流れません。レクチファイヤも内部にダイオードがあるので、バッテリーからオルタネーターには電流は流れません。
この状態でIG端子に12Vをかけると、IG−Fp(励磁電力)端子の間のダイオードを通り、F+を通して回転子に電圧がかかります。この状態で、F-(回転子マイナス)−グラウンド間のトランジスタが導通すると、回転子に電流が流れます。つまり、トランジスタの制御により、回転子の励磁電流を調整できるということです。
IG端子からの12VはFp端子にもかかりますが、レクチファイヤの整流ダイオードにより、電流はレクチファイヤ側には流れません。
またIG端子に12Vがかかっている間、レギュレーターは出力電圧を監視しており、発電していないと判断すると、L(ランプ)端子をトランジスタを介してグラウンドに落とします。したがって、+12Vからチャージランプをこの端子に接続しておくと点灯します。出力電圧が規定値以上になるとトランジスタがOffになり、ランプは消灯します。

回転子の直流抵抗は数オーム程度なので、12Vをかけると3Aから5Aくらい流れることになりますが、実際に測ってみると、そんなに電流は流れていません。テスターで測ると、停止時のIG端子電流は200mAほどでした。
停止状態では回転子に1.6Vほどの電圧がかかっており、後述するスイッチング動作は行われていません。レギュレーター内部の構成はわかりませんが、電流制限抵抗(この場合だと50Ωほど)がはいっていると考えられます。
■回転状態
IG端子に12Vを加えた状態でオルタネーターを回転させます。回転子には励磁電流が流れているので、電機子コイルに起電力が発生します。起電力はおおよそ励磁電流と回転数に比例するので、ある程度以上の回転数になれば、規定以上の電圧が得られます。
発生した交流は、レクチファイヤで整流されます。レクチファイヤのFp(励磁電力)出力電圧が上昇すると、励磁回路にはレクチファイヤからの電流が流れるようになります。Fp−IG端子間にはダイオードがあるため、Fp電圧がIG電圧より高くなっても、この電力はIG端子側には逆流しません。この状態になると、IG端子に流れる電流は数ミリアンペアに減少します(わずかに流れる電流は、内部動作のためのものでしょう)。
レクチファイヤのB(バッテリ)端子の電圧もバッテリー電圧以上になり、オルタネーターの電力で、バッテリーへの充電、そして自動車であれば、周辺回路への電力供給が始まります。
オルタネーターの回転数が上がると、内部の交流発電機の出力電圧は高くなりますが、レギュレーターの働きにより、一定以上の電圧には上昇しません。負荷の増大により電圧降下が起きた場合も、レギュレーターの働きにより出力電圧が調整され、なるべく一定の電圧を維持するように動作します。

次回は、レギュレーターのさらなる詳細や、電圧制御の仕組みなどを見ていきます。