2018年08月27日

ウインチを整備する その5

 前回までで、ギヤボックスとドラムができあがりました。今回はモーターを組み立て、ウインチを車に取り付けます。


■ モーター整備

 モーターは正常に動作するし、運転時間も15年でせいぜい10分程度なので、ブラシの摩耗の心配はありません。しかし軸受はどうにかしたいところです。現在のWARNのウインチはモーターの軸受はボールベアリングですが、この時代のモーターは、ブラシ側がメタル軸受なのです。せっかくウインチを降ろしたので、モーターも分解してここに給油することにしました。そうしたら内部の腐食がひどく、ばらしてみて正解でした。
 モーターは内部のサビを軽く落とし、サビ転換剤で処理します。接合面のサビはしっかり落とし、鉄の地肌を出しておきます。あとは整流子まわりを目の細かいサンドペーパーで軽く磨きます。
 組み立ては、まずケースに回転子をはめ込みます。ブラシを適当なパイプなどで引っ込めておき、回転子をはめ込みます。この状態で、ドラム軸受にモーター軸を差し込み、ケースを載せます。最後にブラシホルダーにサーモスタットを組み込み、キャップをはめます。

回転子を挿入
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ドラム軸受に取り付け
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キャップを取り付け
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 ドラム軸受、モーター界磁、キャップは、2本の長いボルトで固定されます。この時、接合部にはガスケットが使われておらず、長年の放置で継ぎ目から水が染み込んでいました。特にドラム側がひどく、ドラム軸受側のダイカストの塗装ははがれ、モーター側にもサビがでていました。ブラシ側も接合部に水の侵入が見られ、もう少し放置しておいたら、モーターが回らなくなっていたかもしれません。かつて同じ形式のウインチを積んでいたJeepでは、しばらく使わなかったら、漏った水で軸受が固着し、動かなくなったことがありました。
 そこで今回は防水を意識して組み立てることにしました。ドラム側には底部の水抜き穴以外に、側面に位置する水抜き穴(垂直面にマウントしたときに下部になる)と、モーターを90度回展させて取り付けるためのボルト穴(ドラムのツバの裏側が開口部としてあります。雨中の走行でこれらの穴から水が侵入したと思われるので、一番底になる水抜き穴以外を塞ぎます。そして組み立てに際しては液体ガスケットを塗布し、接合面から水が浸入しないようにします。不要な穴は、試運転が済んだ後、適当なシール剤で塞ぎます。

開口部の位置
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 ブラシ側は、キャップ側に段差があり、多少は水がはいりにくいようになってはいるものの、過去にJeepで水浸入で動かなくなったことがあるので、液体ガスケットを塗布して組み立てます。
 軸部に潤滑油をつけ、ブラシ側のキャップを取り付ける前に、軸受メタルの奥にある不織布のパッドに、十分に潤滑油を染み込ませておきます。この種のメタルに適した油の種類や粘土はわかりません。あまりサラサラのものだとすぐに無くなってしまいそうなので、今回はエンジンオイルを使ってみました。まぁ数年は持つでしょう(さすがに15年たった状態では、ほぼ乾いていました)。またこの油がブラシ部分に回らないように、モーター軸にファイバー製のワッシャーがはいっています。組み立てるときはこれを忘れないようにします。

キャップ
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 キャップを取り付けるときには、サーモスタットを先に取り付けます。サーモスタットの接触面に熱伝導グリースを塗布し、ブラシ横のクリップにはめます。電線が短いのでちょっとやりにくいですが、困難というほどのものではありません。
 最後に長いボルト2本でキャップとケースをドラム軸受部品に固定します。このボルトは、1本は界磁コイルの間を通り抜けるだけですが、もう1本はアース側でないほうのブラシ配線のすぐ横を通ります。配線はチューブで絶縁されていますが、差し込むときにこの配線を傷つけないように注意する必要があります。
 電気機器を整備する場合、ショートしていないかをチェックするのですが、モーターのような機器では、これが簡単ではありません。巻数の少ないコイルは抵抗値が限りなく0Ωに近いため、ショートしていてもわからないのです。
 このウインチ用のモーターの場合、界磁コイルは逆転のために極性を変えられるようになっているので、モーターケースからは絶縁されています。テスターでチェックする場合は、ターミナルF-1F-2の間に導通があり(ほぼ0オーム)、ケースとの間には導通がないというのが正常な状態です。
 回転子側は、片方がケースを介してアースに落ちているので、組み立てた状態ではケースとターミナルAの間は導通があります(ほぼ0オーム)。ブラシまわりのショートのチェックは、モーターを組み立てる前、電機子をはめていない状態で行います。この時はターミナルAとケースの間に導通があってはいけません。ターミナルAとブラシ2個の間は0オーム、残り2個のブラシとケースの間が0オームとなります。ただしブラシがスプリングで飛び出していると、ブラシどうしが接触している場合があるので、ブラシが離れていることを確認してチェックします。
 回転子は、個々の整流子片の間に導通がありますが、軸などの金属部分とは導通があってはいけません。
 モーターの測定では、テスターでは導通なしとなりますが、実際に絶縁抵抗を測ると抵抗値が得られます。手元にある絶縁抵抗計を使って測定したところ、界磁コイルとケースの間が約500kΩ、Aターミナルとケースの間も約500kΩでした(絶縁抵抗計はテスターよりも高圧をかけて抵抗を測定します)。動作電圧は12Vなので、実際問題としては数キロオーム以上あれば問題はありません。

絶縁抵抗の測定
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 コイルの抵抗はほぼ0オームなので、コイルがショートしていもテスターではわかりません。電流を流したら煙を吹いたといった状況で、初めてショートとわかります。しかし別の測定器を使うとショートを調べることができます。LCRメーターを使うと、コイルのインダクタンスを測定できます。健全なコイルのインダクタンスがわかっていれば、コイルのショートをある程度判定することができます。コイルがショートするとインダクタンスが低下するからです。我が家のモーターのインダクタンスは、界磁コイルが12.1μH、回転子(Aとケースの間)が9.9μHでした。ちなみに、ソレノイドのインダクタンスは3.2mHでした。

LCRメーター
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■ 全体の組み立て

 ここまでできたら、ギヤボックス、ドラム、モーターを組み合わせて2本のパイプで接続することができます。
 分解のとき、金属棒のボルトを折ってしまったので、この金属棒は作り直しました。オリジナルはアルミ合金のようでしたが、S55Cミガキ鋼棒から作りました。直径16mm、長さは226.5mmで、両端にボルトで止めるためのネジを切ります。もともとインチネジが使われていましたが、作り直したほうは8mmのボルト(六角部12mm)です。

鋼棒を加工
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製作した金属棒
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ドラム軸受とパイプ
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ドラムが回転することを確認
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 このパイプを使ってウインチ全体を組み合わせます。ギヤボックスに六角シャフトを差し込み、ドラムをギヤボックス側にはめます。モーター側は、モーター軸にカップリングを差し込み、これがドラム内のブレーキユニットにはまるようにしながらドラム軸受をはめ込みます。ドラムのブッシュの部分は、水の浸入を防ぐために、たっぷりとグリースを塗布しておきます。

ギヤボックス側
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モーター側を接続
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組み上がり
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 あとはリレーボックスの配線を接続し、バッテリーをつないで動作試験をします。

アース線を接続
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リレーボックスを仮接続
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 リレーボックスには、コネクタ配線を接続します。
 リレーボックスの電源は、車体側とつながる2Pコネクタで供給されます。Acc電源の12Vと、コネクタ接続時にこの12Vをメインソレノイドリレーに送り返すので2極なので、コネクタが接続されていれば、どちらに12Vを供給しても動作します。アース側はリレーボックスの金属部分です。この2箇所にミノムシケーブルで電圧をかけます。ミノムシケーブルの反対側はモーター用のブースターケーブルのクリップ部分につないでおきます。リレー回路は、ウインチのモーターに比べれば微々たるものですが、それでも7Aは流れるので、あまり細い電線は使えません。
 モーター電源はブースターケーブルを使って、モーターのアース電線をバッテリーのマイナス端子につなぎます。プラス側は、ソレノイドのプラス電源が接続されていた銅板のバスバー(リレーボックスのAターミナルにつながっていない側)に接続します。これで、コントローラを接続し、スイッチを操作すればウインチが動作します。コネクタのケーブルとモーターのサーモスタットの接続部分は分解時に切断したので、ここはギボシ接続にしてあります。このギボシを接続していないと、サーモスタット作動中と同じように回路が切れてしまうので、巻取り側が回転しません。またこのとき、コントローラの警告LEDが点灯します。したがってギボシを外した状態でスイッチを巻き取り側にすれば、モーターが回転せず、LEDが点灯することを確認できます。

バッテリーに接続
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クランプメーターで電流を測定
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約100A
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 また、モーターオフの際に一瞬LEDが点灯することがあります。これはソレノイドの逆起電力によるものでしょう。
 実際に使い古しの135D31バッテリー(CCA実測値は500)で動作させたところ、約100Aの電流が流れました。このときのバッテリー端子電圧は約10Vでした。これにはソレノイド駆動電流7Aも含まれています。現行製品とはモーターが変わっているので比較できませんが、現行品(80A)よりちょっと多いようです。


■ ウインチベッドとローラーフェアリードの組み立て

 ウインチを降ろしたので、ベッドのほうもきれいにします。ベッドはサビを落として塗装しました。
 製品版のM8000は、ウインチ本体と、ボルトで取り付けるローラーフェアリードかハウスフェアリードから構成されますが、サファリの純正ウインチの場合は、ベッドにローラーフェアリードが直接組み込まれています。
 フレームからベッドを取り外し、ローラーを外します。ローラー軸は両端にスナップリングがはめられており、これを外すと軸が抜けるのですが、ここでも問題がありました。左右のローラー(垂直軸)の内部で軸が錆びて膨らみ、抜けにくくなっていました。実は何年か前に同じ部分を分解したことがあり、そのときもサビがひどく、叩いて抜いたのです(このとき、ブッシュのツバが壊れました)。そのときにグリースをたっぷり塗って組み立てたのですが、どうも縦軸は水がはいって錆びるようです。

分解したウインチベッド
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 ローラーは軸に対して滑らかにまわるように、パイプの両端に樹脂製のブッシュがはめられています。樹脂ブッシュは基本的に無潤滑でいいのですが、油分がないと軸のほうが錆びてしまいます。これを防ぐために、以前分解した時は防錆のためにグリースを塗布して組み立てました。結局それでもだめだったので、今回は強硬策に出ます。内部の空間が完全にグリースで満たされれば、錆びることはなくなります。そこで軸にグリース給脂のためのニップルを取り付けることにしました。
 軸の中央付近に直角方向に貫通孔を開けます。そして軸の端部から中央部分まで穴をあけます。これで端部からローラー内部へのグリース流路ができます。端部はブリースニップルを取り付けられるようにネジを切ります。

ニップルを取り付けた縦軸
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 水平軸は普通にグリース塗布だけでサビは発生しなかったので、この加工は行いません。


■ 車両への取り付け

 まず、ウインチベッドをフレーム前端に取り付けます。ウインチベッドの固定ボルトに取り付けられたステーは、鉄バンパーの取付部なので、このボルトは鉄バンパーを取り付けるまで、仮締めにしておきます。
 ウインチを取り付ける前にコネクタハーネスを取り付けるのですが、これのコネクタがローラーフェアリードの水平軸のそばなので、先に水平ローラーを取り付けておきます。防錆のために軸にグリースを塗布し、スナップリングで固定します。ワッシャーが10個ほど使われていますが、厚さが3種類あり、どこにどれを使うのかを事前に確認しておきます(最初に分解した時に記録していなかったのです)。フェアリードはプレス部品なので、多少の製造誤差があるようで、ローラーがうまく回るように配置します。

ローラー部品
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水平ローラーの取り付け
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 次にコネクタ用ハーネスを取り付けます。これはウインチの背後を回っているので、ウインチ取り付けより先にやっておいたほうが作業が楽になります。コネクタはフェアリードの向かって右に取り付けます。このとき、紛失防止用ワイヤーもいっしょに止めておきます。

コネクタの取り付け
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 試しにウインチを載せてみました。

ベッド上のウインチ
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 実際にウインチを取り付ける前に、リレーボックスとモーターを接続します。電線が長くないので、後から接続するのは面倒なのです。このとき、電線の取り回しの調整が必要です。リレーボックスを正規の位置に取り付けたときに、モーターに行く3本の電線に無理がかからず、なおかつ周辺の部品に当たったりしないように、ターミナルに取り付ける角度を調整します。

ウインチを取り付け(リレーボックスの取り付けを誤っている)
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 電線の配置がおおよそ決まったら、リレーボックスがつながった状態のウインチをベッド上に起き、板ナットとボルトで固定します。リレーボックスはウインチベッド前縁にボルトで固定します。部品の大きさや必要な強度に対し、妙に太いボルトで取り付けられています。この取付でアースが接触しなければならないので、取付後、アース回路の導通を確認しておきます。
 実はここで失敗しました。整備書通りに、ベッドより前側にリレーボックスのステーを取り付けたのですが、この状態では鉄バンパーがリレーボックスに当たってしまい、取り付けられませんでした。リレーボックスステーをベッドの裏側になるように固定すれば、干渉しなくなります。普通なら、部品についている取り付け跡でわかるのですが、このあたりはすべて塗装してしまったのでわからなくなっていました。
 コントローラーコネクタからのハーネス、バッテリー母線の太い電線、Acc電源/メインリレーのコネクタを元通りに接続すれば配線は完了です。ケーブルをうまくさばき、コルゲートチューブなどで適宜保護、固定します。リレーボックスにカバーを取り付ければ、ウインチ本体の装着は完了です。

リレーボックスの配線
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カバーを取り付け
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 塗膜と共に剥がれてしまった各種のシールを貼り付けます。シール裏に残った古い塗装を軽く落とし、合成ゴム系の接着剤で貼り付けました。耐候性の薄手の両面テープがあればそれがよかったのですが、あいにく手元にありませんでした。まぁ、剥がれても実害のないものですし。

シールの貼付 9100
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 ローラーフェアリードの縦軸のローラーも取り付けます。グリースを塗布してスナップリングで軸を止めたあと、内部の隙間をなくすためにグリースガンでグリースを給脂します。

取り付け完了
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 あとはワイヤーを巻取り、フックを取り付けます。フックはピンを挿した後、割りピンで止めるだけです。最後まで巻取り、フック押さえを取り付ければウインチ回りの作業は終わりです。
 ローラーの塗装は、予想したとおり、1回ワイヤーを通しただけでボロボロになりました(笑)。

ワイヤーを巻き取る
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フックの取り付け
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フック押さえ
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 あとはバンパーまわりを元通りに取り付けます。鉄バンパーを取り付けたら、忘れずにステーとベッドを共締めしていたボルトを本締めします。あとはプラスチックバンパーを取り付け、外した部品を元に戻しておしまいです。

バンパーの取り付け
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出来上がり
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■ ウインチのアクセス性の向上を考える

 この純正ウインチ、ちょっと考えておきたいことがあります。純正ウインチは、きれいにバンパー内に収納されますが、そのおかげでウインチ本体にはほとんど触ることができません。ワイヤーのマスター巻の際などは、ドラムを見ながら、場合によっては手でワイヤーを整えながらやりたいところですが、これができません。
 現状では、バンパー上部に小さなのぞき窓(一応、ドラムが見える)しかありません。
 バンパーを加工すればいいのですが、どうしたものか考え中です。内側の鉄バンパーは2段になっていて、フェアリードの上部、そしてさらにその上とのバンパー上面に分かれています。この2段のうち、どちらかを切り取ってしまえば、多少はアクセスがよくなります。その上にプラスチックバンパーがかぶりますが、一部を切って取り外し可能にするか、蝶番で跳ね上がるようにするか。。。
 溶接ができれば、幅のある部分を棒材や細いアングルに入れ替えるといった加工もありなのですが、残念ながら我が家には溶接設備がありません。
 さて、どうしたものでしょう。


■ フェアリードについての小ネタ

 ウインチのワイヤー繰り出し部のガイド部品のことをフェアリードといいます。fairleadはロープやワイヤーを繰り出す際にワイヤー類を傷めず、滑らかに動かすためのガイドで、もともとは船舶の係留ロープなどのための部品の名称のようです。
 ウインチの場合は、ドラムに対して直角以外の方向に牽引する際に、ワイヤーに無理な力がかからないようにガイドする部品で、回転するローラーを上下左右に4本配置したローラーフェアリードが広く使われています。別の形式として、回転部分を持たない単純なガイドもあります。これは金属ワイヤーにも使われますが、最近はやりの非金属ワイヤーでは、こちらのタイプがよく使われているようです。
 ところで、ローラー式でないフェアリードの名称ですが、一般にはハウスフェアリードと呼ばれています。
 調べてみたらこのハウスの綴りはhawseで、辞書で引くとホォーズが近いようです。そして意味は、錨鎖孔となっていました。船の錨の鎖を通すための、船体の船首部の穴です。この部分は大荷重のかかる鎖を通すため、鋳鉄製の丈夫なガイド部品が使われています。確かに用途としては同じです。ところでこの錨鎖孔のことは、日本では一般にホースパイプと呼ばれています。
 ハウス、ホース、ホォーズ、ホーズ、、英語を日本語にすると、発音や綴りやらがいろいろ組み合わされて、用語ごとに違う表記になることがよくあるのですが、これもそのパターンのようです。ちなみに、ホーズパイプはあるのかなと調べたらありました。どちらかというとホーズという表記のほうが正式なようで、役所などの文書ではホーズパイプが使われている事例があります。ただ数の上では圧倒的にホースパイプでした。
 用語の表記の分布を調べる場合、Google検索の件数というのがありますが、おおよそ次のようになりました。

ハウスフェアリード 約150万件
ハウズフェアリード 約2万件
ホースフェアリード 約116万件
ホーズフェアリード 約16500件

ホースパイプ 船  212万件
ホーズパイプ 船  105件

 元の発音に従えば、一番近いのは錨鎖孔にしろウインチにしろホーズということになりそうですが、実際には濁らないホースのほうが圧倒的に多いようです。正しさの度合いでは、ホーズ>ホース|ハウズ>ハウスでしょうか。一番近いのはたぶんホーズフェアリードなのでしょうが、この検索結果を見ると通用しない可能性が高そうです。
 また、かつてはほとんど聞かなかったホースフェアリードがハウスフェアリードに近い数であることにけっこう驚きました。自分が4WDに興味を持ち始めた1980年代は、ローラーフェアリードのほうが高級品とみなされていました。そのためほとんどの輸入ウインチはローラーフェアリードが組み合わされていました。ハウスフェアリードはメーカーのラインナップにはあったものの、ほとんど国内では見ませんでした。
 最近は非金属のシンセティックロープが広く使われるようになっていますが、こちらは樹脂やアルミ製のハウスフェアリードが使われているようで、それで非ローラーフェアリードが復権したのでしょう。この際、昔のハウスフェアリードを知らない人が、正しく?ホースという音を当てたのかもしれません。


posted by masa at 03:18| 自動車整備

2018年08月26日

ウインチを整備する その4

 家で行った実際のウインチの分解整備について説明します。なおこの解説はモジュールごとに書いており、実際の組み立て順序とは一致していない部分があります。


■ バンパーを取り外す

 ウインチはウインチベッドという台座に取り付けられています。これは車両のフレーム前端にボルト止めされています。問題は、このウインチとウインチベッドは、完全にフロントバンパーの中に収まっているということです。
 Y61サファリのバンパーは、普通のプラスチックバンパーなのですが、内部に鉄板のバンパーが組み込まれています。従ってウインチベッドやウインチを取り外すには、まずこのバンパーブロックを外す必要があります。
 作業の内容は次のようになります。

・フロントグリル取り外し
・タイヤハウス内のプロテクター取り外し
・フォグランプ取り外し
・ヘッドライトウォッシャーホース切り離し
・ナンバープレート取り外し
・プラスチックバンパー取り外し
・鉄製バンパー取り外し

 プラスチックバンパーと鉄バンパーを組み合わせたまま外すこともできますが、ボルトへのアクセスが悪いこと、重いことなどを考えると、別々にやるのが正解でしょう。

フロントの各種部品を外す
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プラスチックバンパーを外す
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鉄バンパーの奥のウインチ
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鉄バンパーを外す(ウインチ配線切り離し済み)
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 鉄バンパーはサビも出ているので、錆止め塗料を塗ります。今回はシャーシーブラックではなく、屋外用の錆止め塗料を使いました。刷毛目もクッキリです。

鉄バンパーを塗装
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■ ウインチを降ろす

 ここまでやって、やっとウインチが現れます。
 今回は、気楽に考えてワイヤーを巻き取ったままの状態で分解しました。なにより、フリースプールが回らないというのが整備に最大の動機だったので、ワイヤーをほどこうと思うと、モーターを回してほどかねばならなかったからです。しかし思ったよりもいろいろやることになり、結局、ワイヤーは事前にすべてほどいておくべきでした。分解した後にほどくのはけっこう大変ですし、またワイヤーの分だけウインチが軽くなるので、作業が楽になります。
 ウインチはかなり重く(ワイヤー込だと30kg以上)、ベッドと一体の状態だと40kgを超えるので、先にウインチだけを外します。まずは電線を切り離します。ウインチ周辺には、ウインチリレーへのバッテリーからのプラス線、ボディアースに落ちるアース線、ウインチリレーを駆動するためのAcc系統の線(コネクタ)、コントローラのコネクタに行く線がつながっています。これらを、ちゃんと元に戻せるように、リレーボックスやボディーアースの位置で外します。コントローラーソケットとモーターのサーモスタットを接続する線のみ、コネクタでなくカシメによる直結だったため、ここは切断しました。組み立てる時はギボシでつなぎます。ウインチのワイヤーは、ローラーフェアリードを通ってフックにつながっているので、フックも外します。あとはベッド底面にあるボルト4本とリレーボックスのボルト2本を外せば、ウインチとリレーボックスを降ろすことができます。

取り外したウインチ 6050
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ウインチベッド
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■ ウインチの整備

 15年も経っているので、動いてはいるものの、状態は相当悪くなっています。まず、塗装がボロボロにはげ、金属が腐食しています。M8000はドラム軸受部と右側のギヤボックスがダイカスト製で、モーターと最終段ギヤの内歯車が鉄製です。鉄の部分は多少のサビはあるものの、まぁまぁの状態なのですが、ダイカストの部分はひどい状態です。塗膜の下で腐食がすすみ、塗膜がカサブタのように剥がれています。

ダイカスト部の腐食
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 リレーボックスも内部の鉄板がかなり錆びており、機能の問題はないものの、補修します。

リレーボックスの裏側
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 ローラーフェアリードは、軸が錆びているので対処します。ここは過去に1度分解したことがあるのですが、以前もサビがひどく、軸が抜けなくなっていました。今回も軸を叩いて抜くような状態になっていました。
 ローラーにケーブルが擦った後がほとんど見られませんが、過去に分解したときに銀色に塗装したためです。

ウインチベッド
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ローラー取り外し
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■ リレーボックスのサビ処理

 事前の動作確認で、モーター回りやリレーに不具合はなかったものの、15年の年波でかなり腐食などが見られるので、主にボックスの鉄板部分の補修をしました。
 リレーボックスのサビを落として塗装しますが、この時、金属部のアース接続を確実にしておく必要があります。ソレノイドリレーの駆動回路は、プラス側の電線が1本しかつながっておらず、もう1本は本体の金属部からアースに落ちます。塗装などで車体アースが取れないと動作しなくなるので、金属の接触面はなるべく塗料を塗らず、組み立ててから塗装します。ボルトやネジの部分は、締め込みにより金属面が接触しますが、一応、導通を確認しておきます。

ベースプレート
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リレーボックス
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 ウインチの操作は有線の手元スイッチで行いますが、これはコネクタでリレーボックスに接続します。コネクタには防水/防塵のためのキャップがあり、紛失防止のために一体成型の細いベルトでベース部分とつながっています。しかしこれが経年劣化で切れてしまい、キャップがいつ紛失するかわからない状態になってしまいました。そのため、キャップに細いワイヤーをネジ止めし、これをコネクタ取り付けネジに取り付け、紛失しないようにしました。ネジ止め部には圧着端子を使っています。キャップにねじ込んだタッピングビスの先端が裏側に飛び出しますが、正確に中央に穴をあけてねじ込めば、コネクタの中央の端子穴(未使用)の位置になるので、干渉せずにキャップをしっかりとかぶせることができます。

コネクタキャップ
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■ 全体の分解

 降ろしたウインチを分解します。ドラムを挟んでモーターとギヤボックスがあり、これはドラム上部の2本の金属棒でつながっています。この金属棒を取り付けるボルトもかなり腐食していましたが、ギヤボックス側は外すことができました。ドラムをモーター側に残してギヤボックスを取り外します。

取り外したギヤボックス
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 クラッチ軸の側面に位置する六角ネジを抜き取ると、クラッチレバーを抜き取れます。ギヤボックスからクラッチレバーを取り外し、中を覗いたところ、初段、2段めの遊星歯車の共用内歯車のスライド用ガイド溝の内部にサビがあります。どうもクラッチレバーの穴から水が侵入したようです。ただクラッチレバーによるスライドはでき、またクラッチを切ってモーターを回すとドラムは回転しないので、内歯車は固着していないことがわかります。

クラッチ穴から覗いたガイド溝
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 さらに、初段と2段めのケースと、終段の内歯車を切り離します。こちらまでは水は浸入していないようです。

ギヤボックスを分離
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 ギヤボックスとモーターをつなぐ金属棒を外すと、本当ならドラムもモーター側から抜き取ることができるのですが、なぜか外れません。回りもしません。どうも、軸受が固くなっているようです。モーターでは回転したので、完全な固着ではありません。

ドラムがはずれない
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 ドラムは置いておき、モーターを分解します。モーターの端にある2本のボルトを外すと、ブラシ側のキャップを外すことができます。ここにはサーモスタットの配線があり、エンドキャップを外すと、サーモスタットも一緒にはずれます。サーモスタットはブラシホルダーの1つにクリップで固定されているだけなので、簡単に脱着できます。
 次に界磁コイルを保持するモーターケースを外します。これで、回転子だけが残った状態になります。回転子はドラム軸受に取り付けられたボールベアリングに差し込まれているので、これを抜き取ればモーターの分解は完了です。
 モーターケースを外したら、内部はドラム軸受から塗装が剥がれてひどい状態でした。モーターケース側にも多少サビが出ています。どうも水の侵入で腐食してしまったようです。ベアリングはラバーシールタイプなので、問題はありませんでした。

ドラム軸受のモーター側の腐食
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モーター内部の腐食
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 これでモーター側のドラム軸受に、ドラムと金属棒パイプがつながったものが残りました。ドラムはかなり固く、プラハンマーで軸受側を軽く叩いて抜きました。ドラムのツバの背後の部分の腐食もかなりひどいです。

ドラム軸受の腐食
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 金属棒を取り付けるボルトを外すために、金属棒を万力で挟んでレンチで緩めたのですが、腐食に負け、ボルトが折れてしまいました。

折損したボルト
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 なお、ボルトや六角ネジなどはインチ規格なので注意が必要です。この金属棒の固定ボルトは、直径は約8mm、六角部は1/2インチで、12mmソケットははまらず、13mmだとちょっとゆるいです。かなり力のかかる部分なので、1/2インチのツールだけは用意しほうがいいでしょう。それからギヤボックスの組み立てに使われている六角ネジもインチのようです。ソレノイドの主回路のターミナルのナットは1/2インチ、モーターの取り付けボルトやソレノイドの制御端子のナットは3/8インチでした。
 ウインチの取り付けボルトは、17mmのコマがぴったりはまりますが、ミリネジなのかインチネジなのかは確認していません(サイズによっては、ミリとほとんど同じになるのです)。


■ 腐食がひどいので塗装

 このウインチのボディは、鉄とアルミダイカストを使っています。モーター部分は鉄、ドラムの両側の軸受部はダイカスト、最終段の遊星歯車の内歯車は鉄、初段と2段め(クラッチ部)のギヤケースはダイカストです。
 これらがメタリックグレイに塗装されていたのですが、ダイカストに対する塗装が悪かったのか、環境が悪かったのか、ボロボロに剥げてしまいました。鉄の部分は年式相応のサビ程度なのですが、ダイカスト部分は塗膜がカサブタのように剥げ、下地のダイカスト表面が白い粉を吹いた状態になっています。
 この状態を放置するのもなんなので、全体を再塗装することにしました。各部を分解し、グリースなどを除去した後、ワイヤーブラシで酸化物や古い塗装を極力落とした後、金属用のサビ止め塗料(アルミも使用できるもの)を塗ります。今回は茶色にしてみました。
 モーターケースはさほど腐食していないので、そのまま元のグレーを残しました。


■ ギヤボックスの組み立て

 今回の不具合、つまりフリースプールがまともに動かないという症状は、ギヤボックス内のクラッチ回りのグリースが固まったものと想像していのたですが、実際には、モーター側のドラム軸受が固くなっていたのが原因だったようです。とはいってもクラッチまわりもまともな状態ではありませんでした。これらのサビを落とし、古いグリースを洗浄します。

ギヤボックスを分解
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初段と2段めの内歯車
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ギヤボックスのケース 7020
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 内歯車には、クラッチレバーと噛み合ってスライドするための溝があるのですが、ここが結構錆びています。どうもクラッチレバーの穴から水が浸入したようです。レバーの付け根の部分にはゴムパッキンがあるのですが、ゴムが劣化したのか、軸に対して多少の隙間があり、強く水がかかれば内部に漏れてしまいます。ウインチは車体最前部、バンパー内部にありますが、クラッチレバーを手で操作するための開口部があるため、雨の中で走れば水が激しくかかります。ゴムパッキンをどうにかしないと、水漏れは直らないでしょう。

クラッチレバーとオリジナルのパッキン
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 ここの水漏れで、初段と2段めの内歯車の外周部にもかなりのサビがあり、それがケースの内面にも移っていて、あまりよい状態とはいえません。ただ部品が痩せるほどの腐食ではないので、ブラシで落としてよしとします。
 遊星歯車などはグリースのおかげで、特に問題はありませんでした。
 ドラム軸受、鉄の内歯車、クラッチ周辺のギヤケースは、10本の六角ネジで共締めされてこていされています。各部品の間には、水や油脂が漏れないようにガスケットが挟まれているのですが、15年の風雪で完全に貼り付いており、分解時に1つはボロボロに破れてしまいました。もう1つは形は保っているものの、一部が剥がれて薄くなっているので、再使用には耐えそうにありません。そこで汎用のガスケットシート(0.6mmくらいのもの)から切り出し、新しく作りました(黒いガスケットがオリジナルのもの)。

ガスケットを製作
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 あとは元通りに組み立てるだけですが、問題はクラッチ回りです。
 クラッチレバーは、軸とパッキンカバー、パッキン材から構成されているのですが、古いパッキン材は使わず、軸に合うサイズのOリングをはめました。しかしこれだけでは径が足りないので、その外側にさらに一回り大きいOリングをはめ、2段構成としました。これにグリースを十分に塗布し、あとは水が漏らないように祈ります。

クラッチレバーのOリング
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クラッチレバーに組み込んだ状態
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 ギヤボックスの組み立てに際して、潤滑にはモリブデングリースを使用しました。
 内歯車は、前に説明したように、クラッチを切ったときにはケース内で回転します。ここをグリースまみれにしてしまうと回転が重くなり、フリースプールが軽く回らなくなってしまいます。Youtubeにあったウインチ整備の動画では、ここにはグリースを塗るなと指示されていますが、水が漏った場合、油分がないとあっという間に錆びてしまいます。そこで、ケース内面と内歯車外周、スライドガイドの溝に薄くグリースを塗布しました。回転はちょっと重くなりましたが、錆びて動かなくなるよりはいいでしょう。

参考になるYoutubeの動画(全部で3本)



 ケースを組み立てる際にはガスケットを挟みますが、自作のものなので、念の為に液体ガスケットも塗布しておきました。また分解したら、ガスケットを作り直さないといけません。また最初の状態では、接合面も塗装された状態でしたが、今回はダイカストや鉄の地肌を出した状態で組み立てています(刷毛塗り塗装で凸凹なので)。組み立て後に露出した地肌の部分は塗装します。
 あとは、グリースを十分に塗布しながら遊星歯車を組み込んでいきます。この時、キャリアー軸の潤滑に注意しなければなりません。遊星歯車の公転は、キャリアを介して次段を回転させます。パーツクリーナーを使って遊星歯車のグリースをきれいにすると、このキャリアー軸のグリースも流れてしまいます。組み付け時にグリースをたっぷり付けても、キャリアー軸にはなかなか回り込みません。まぁ、しばらく回転させれば回っていくのでしょうが。しかしそれまで無潤滑で回すのもアレなので、初期潤滑のためにモリブデンタイプのスプレーグリースを、キャリアー軸に吹き付けておきました。スプレータイプは噴射剤が揮発するまでは流動性が高く、細かいところにも流れやすいのです。細いノズルを使えば、狭い隙間にも吹き付けられます。本当は別種のグリースを混ぜないほうがいいのですが、微量なので大丈夫でしょう。

内歯車と初段の遊星歯車
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2段めの遊星歯車
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ドラム軸受と終段内歯車
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終段遊星歯車とスラストワッシャー
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ギヤボックス完成
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 ドラム軸受の部分は、ボールベアリングやメタルではなく、樹脂製のブッシュが使われています。ここも腐食で固まらないように(モーター側は固まっていたのです)、腐食を除去して地肌が出ている取り付け面に薄くグリースを塗布し、ブッシュをはめます。

ドラム軸受のブッシュ
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ブッシュを取り付け
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 終段の遊星キャリアにはまっている歯車のような部品は、ドラムに回転を伝えるためのカップリング部品です。これがキャリアとドラムの両方に噛み合った状態で回転を伝えます。

ドラム用のカップリングを取り付け
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カップリングがはまるドラム側
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駆動軸を挿入
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ドラムを取り付け
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■ ドラム整備

 ドラム本体とブレーキには問題ないのですが、モーター側のドラム軸受がきつくなっていた問題を解決しなければなりません。プラハンマーで叩いてドラムを抜き取った後、軸受部のブッシュを外そうとしたのですが、えらくきつくなっています。ギヤボックス側は軽く外れたので、どうやらここに問題ありです。実際、内径を測ってみたところ、ギヤボックス側より何分の1ミリか小さくなっていました。ドラム側の軸径とほぼ同じか小さく、これでは軽くは回りません。

ドラム軸受
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 手でははずれないんので、刃先の薄いドライバーを隙間に差し込み、少しずつずらしてどうにかブッシュを外してみたところ、ブッシュのはまる部分のダイカストが腐食し、膨らんでいました。腐食をブラシで落とし、ブッシュの側もきれいにしたら、ブッシュも軽くはまり、ドラムも滑らかに回るようになりました。組み立てのときは、腐食防止のために、薄くグリースを塗布してブッシュをはめました。
 ブレーキユニットには問題はなかったのですが、ここまで分解してここだけ何もしないという手はありません。意味もなく分解してみました(仕組みをじっくり見たかったのです)。構造は前に書いたとおりですが、実際にバラすときには注意が必要です。
 ブレーキユニットはモーターのトルクが掛かっていないときは、スプリングによるプレロードでブレーキが掛かっており、ドラム内で動かないようになっています。そのためドラムから抜き取る際は、モーターでトルクをかけたときと同じように、カムを回す突起の位置を揃えなければなりません。これは先が細くなったラジオペンチなどを使います。ペンチで2つの突起を挟むとシューが緩むので、反対側から駆動シャフトを押して、ブレーキユニットをモーター側に抜き取ります。このとき、シューにグリースがつかないように、ドラム軸周辺をきれにしておきます。

ドラムの奥のブレーキユニット
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 抜けたとたん、3個のシューがばらけ、また上側コーンが回ってかかっていたプレロードも抜けてしまいます。真面目にやるのであれば、シューが半分くらい露出したところで、テープで巻くなどして仮止めすべきです。さらに問題になるのが組み付けで、誤ってプレロードをかけずに組み込むと、ブレーキがまるで効かなくので注意が必要です。実は最初にこれをやってしまいました。ブレーキを組み込んだものの全然効かず、いろいろ考えたらプレロードが必要だと気づいたのです。

ブレーキユニット
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 コーンのまわりに3個のシューを添えた状態で上側の回転するコーンを半回転させ、プレロードをかけます。この状態でテープやインシュロックなどでシューがはずれないように仮押さえし、ドラムに差し込みます。シューが半分くらいはいったら、仮押さえを外し、後は外したときと同じようにペンチで突起を挟み、ブレーキを緩めながら奥まで差し込みます。ブレーキユニットの位置は、モーター側のカップリング、ギヤボックス側の六角駆動シャフトを組み合わせた状態で、ギヤボックスとモーター側ドラム軸受を金属棒で接続し、ドラム回転に無理がない位置です。よく見ると、ドラム内側にブレーキシューが当たっていた跡があると思います。とりあえず組んでしまえば、モーターで回転しているときに適当な位置にずれていくはずです。
 ブレーキユニットは、コーン部、シューなどが摩擦で制動するため、グリースは塗布しません。
 ドラムをドラム軸受に取り付ける際は、水の浸入防止も願いつつ、軸部分にたっぷりとグリースを塗布しておきます。ただしブレーキシューにグリースがついてしまうと制動性能が著しく低下するので、ブレーキユニットを抜き取る際には、ドラムのグリースをきれいに除去しておく必要があります。


■ 動作確認

 ここまでできたら、ギヤボックス、ドラムを組み合わせ、金属棒を使ってモーター側ドラム軸受を組み合わせてみます。ドラム内には駆動軸とカップリングを組み込んでおきます。そしてモーター側に回転子を差し込み、手で回してみます。

仮組みして動作確認
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 クラッチがつながった状態では、回転子を手で回すとドラムがゆっくり回ります。またドラムをケーブル繰り出し側に手で回そうと思っても回らないはずです。ブレーキユニットにプレロードを掛けてないとこの状態で回ってしまうことがあります。
 クラッチを切った状態では、ドラムは手で回るはずです。今回はクラッチ部分の内歯車外周に薄くグリースを塗布したため、回転はちょっと重めです。
 ギヤボックスにドラムを取り付ける際は、ドラム軸受だけでなく、内部の駆動軸をブレーキユニットに差し込まなければならないため、全体を立てて行ったほうがやりやすいでしょう。
 テストが済んだら、モーター組み立てのためにモーター側のドラム軸受を外します。

立てて組み立て 7630
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 次回はモーターを組み立て、動作テストを行います。
posted by masa at 19:30| 自動車整備

ウインチを整備する その3

 今回は、ウインチの駆動系を解説します。


■ 遊星歯車減速装置

 モーターの回転は、3段の遊星歯車で減速され、ドラムを回転させます。どの段も、内歯車が固定、太陽歯車が入力、遊星キャリアが出力(次段の太陽歯車かドラムを回転させる)という構成です。

ウインチの動力伝達
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 モーター側(ブレーキユニット)からの六角軸は、ギヤボックスの一番奥(向かって一番右側)まで達していて、そこで奥側の遊星歯車の太陽ギヤを回転させます。この1段め(初段)のキャリアに取り付けられた歯車が2段めの太陽歯車となり、そして2段めのキャリアの歯車が3段め(最終段)の遊星歯車の太陽歯車となります。伝達トルクが大きくなるほど、歯車が大きくなっているのがわかります。
 2段めと終段の太陽歯車、そして終段とドラムを接続するカップリングは、その中心をモーター軸が通るので、大きめの穴が空いています。

3個の遊星歯車
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初段と2段め用のケース
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初段と2段め用の内歯車
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初段の太陽歯車、遊星歯車、駆動軸
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ケースに内歯車と太陽歯車をセット
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六角軸は太陽歯車を駆動
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初段の遊星歯車をセット
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2段めの遊星歯車をセット
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 初段/2段めの内歯車と終段の遊星歯車の間には、樹脂製のスラストワッシャーがはいります。

終段の内歯車とスラストワッシャーをセット
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終段の遊星歯車をセット
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ギヤボックス側のドラム軸受とドラムのカップリングをセット
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 ギヤボックスは3個のケース部品、すなわちドラム軸受、終段用内歯車、初段と2段め用のケースから構成されています。終段用のみ鉄製で、残りはアルミダイカスト製です。初段と2段め用のケースにはクラッチ機構も組み込まれています。終段の遊星歯車の内歯車は、ギヤボックスの内側に直接歯が刻まれています。初段と2段めはパイプ状の共通の内歯車を使っており、これがギヤボックス右側のケースの中に収められています。
 この3個のケース部品は、10本の六角ネジで固定されます。各部品の接合面にはガスケットが使われています。ケースの角度を変えて取り付けることで、クラッチレバーの位置を変えることができます。標準ではクラッチレバーは真上になりますが、サファリの純正ウインチでは、前側に36度傾いた位置となっています。
 初段と2段めの鉄製の内歯車は共用されており、パイプ状のこの内歯車がケース内で回転、スライドできる構造になっています。奥側にスライドすると、内歯車の歯がケース側に刻まれた歯と噛み合い、固定されます。ドラム側にスライドしている時は噛み合っていないので、ケース内で自由に回転することができます。
 固定状態では、初段と2段めの遊星歯車は減速歯車として働き、3段めを回転させます。3段での減速比は216となります。


■ クラッチ

 初段と2段めの内歯車をスライドさせるのがクラッチレバーです。内歯車のリングの外周には溝が切ってあり、これがクラッチレバーの偏心した突起と噛み合い、レバーの回転でスライドする構造になっています。

クラッチレバー
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クラッチが切れた状態(内歯車は回転できる)
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クラッチがつながった状態(内歯車は固定)
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内部での動き
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 内歯車が固定された状態では前述のように減速が行われ、モーターの回転でドラムがゆっくり回転します。
 クラッチが切れ、内歯車が自由に回転できるときにウインチがどのように動作するかを理解するには、まず遊星歯車の動作について理解している必要があります。
 遊星歯車は、太陽歯車、遊星キャリア、内歯車という3要素のうち、1つを固定(ウインチの場合は内歯車)することで、1入力1出力の減速歯車(逆向きに見れば増速)として働きますが、各要素を固定せず、1入力2出力あるいは2入力1出力の歯車装置として使うこともできます。例えばプリウスのエンジン、モーター/発電機、駆動軸は遊星歯車によって連携しており、エンジン出力、モーター出力/発電機入力、駆動出力/エンブレ入力の3つの回転をミキシングし、ハイブリッド走行を実現しています。あるいは戦車などの履帯車両の出力ギヤは、前後進の駆動軸と操向のための左右の回転数差を与える軸の出力を遊星歯車で合成して、スプロケットホイールを回転させています。1入力2出力の例としては、フルタイム4WDのセンターデフとしての使用などがあります。

遊星歯車
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 このウインチでちょっとわかりにくい点は、初段と2段めの遊星歯車が内歯車を共有していることです。しかし実際に歯車を組み合わせて動かしてみればわかりますが、このような形で2組の遊星歯車を組み合わせた場合、両方合わせて1つの遊星歯車として見ることができます(ここではこれを組み合わせ遊星歯車と称します)。内歯車固定であれば、2組の遊星歯車の遊星キャリアの減速比を掛け合わせた減速比を持つ1つの遊星歯車とみなすことができます。そして内歯車がフリーであれば、適当な比率で3つの要素が回転します。なのでこのウインチのギヤボックスは、この組み合わせ遊星歯車と終段の遊星歯車の2段構成として考えることができます。

遊星歯車の組み合わせ
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 このように考えると、クラッチが切れている時の動作がわかりやすくなります。まず、モーターが回転した時を考えてみましょう。
 モーターの駆動トルクによりブレーキの拘束は解除されているので、ドラムはモーター軸に対して異なる速度で回る、あるいは止まっていることができ、そしてドラムの回転に連動して終段の遊星歯車も回転します。また初段、2段めからなる組み合わせ遊星歯車の内歯車もフリーです。そのため組み合わせ遊星歯車は、モーター軸からの1入力、内歯車と、終段につながるキャリアへの2出力となります。この2出力はどちらも自由に回転することができます。このどちらにも大きな負荷はかかっていないので、モーターの回転トルクは両方に流れます。通常はワイヤーが巻いてあるドラムよりも内歯車のほうが軽く回るので、モーター回転で内歯車が回り、ドラムは回転しないということになります。ワイヤーを巻き付けていないなど、ドラムの抵抗が小さければドラムも回転しますが、手で押さえれば止まる程度の力です。
 つまり、クラッチを切ってモーターを回した場合は、ドラムはほぼ回転せず、モーターが空転することになります。

モーターの空転(灰色の部分は回転しない)
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 では、モーターオフでドラムを回転させた時はどうなるでしょうか?
 ドラムの回転は、終段遊星歯車で増速され、組み合わせ遊星歯車のキャリアへの入力となります。モーター停止時はドラムとモーター軸はブレーキで拘束されているので、ドラムの回転はまた、モーター軸を介して組み合わせ遊星歯車の太陽歯車を回転させます。この場合の組み合わせ遊星歯車は、太陽歯車がモーター軸による入力、そしてキャリアは終段遊星歯車からの入力となります。つまり2入力1出力となり、その結果、残りの要素である内歯車が出力となって回転します。
 これはブレーキがドラムとモーター軸を拘束しているにもかかわらず、ドラムが自由に回転できるということです。またモーターは、ドラム内部で拘束されているモーター駆動軸により、ドラムと同じ速度で回転します。モーターの抵抗により、カム部の突起が多少ずれ、ブレーキが軽くなるという現象も起こるかもしれません。
 これがクラッチを切るとドラムが自由に回る仕組みです。ドラムがフリーになることで、モーターを回さず、ワイヤーを手で引っ張り出すことができます。

ドラムの空転(すべての歯車とモーターが回転する)
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 クラッチが切れていないときは、組合せ遊星歯車の内歯車の回転ができないため、ドラムは回転できません。
 ドラムを外力で回転させた時、内歯車が空転しますが、このとき終段で増速されるので、組合せ遊星歯車のキャリアは太陽歯車より高速回転し、内歯車はそれよりさらに増速されて回転します。そのため内歯車の回転に抵抗があると、ドラムの回転はかなり重くなります。それゆえこの部分は、回転抵抗の大きいグリース潤滑は不向きです。無潤滑ならかなり軽く回るので、内歯車とケースの間にはグリースを塗布しないほうがよく、実際製品出荷時は無潤滑だったようです。しかし油分がないことによるサビが見られたので、ちょっと回転が重くなってもグリースを使うという選択もあります。


■ ブレーキ

 ブレーキユニットはモーターオフ時にドラムが回転しないように拘束するもので、ドラム軸の内部に組み込まれています。動作としては、モーター駆動シャフトとドラムの間を拘束します。モーターシャフトは高速回転し、それがギヤボックスで減速されてドラムをゆっくり回転させるので、ドラムとシャフトが拘束され、回転速度差を許さない状態では、ドラムは回転することができません。これでブレーキとなります。モーターが回転すると、その回転によりブレーキのカムが動作し、ブレーキが緩み、ドラムと軸が異なる速度で回転できるようになります。これで、モーターの力でドラムを回すことができます。

ドラム中のブレーキユニット
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カップリングがセットされた状態
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 ブレーキユニットは、モーターの出力軸に取り付けられたカップリングによって回転する部品で、写真のブレーキユニットの上側にカップリングがかぶさります。ブレーキユニットの下側には六角形の穴があり、それがギヤボックスに回転を伝える六角軸を回転させます。つまりブレーキユニットは動力伝達部品でもあり、モーターによって回転し、そして必要に応じてブレーキを作動させます。

ブレーキユニット
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カップリング
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ブレーキユニットとカップリング
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 ブレーキユニットは、カムによってスライドする2個のコーン型(円錐形)の部品と、3分割されたブレーキシューで構成されています。2個のコーン部品が接近すると。シューが外側に広がり、ドラム軸内面に押し付けられます。離れるとシューへの圧力がなくなるので、ドラムを押さえる力が抜けます。
 ここでは上側のコーン、下側のコーンと言っていますが、これは立てて置いた場合の話です。実際にウインチに組み込まれている状態では、「上側」コーンがモーター側、「下側」コーンがギヤボックス側となります。
 下側のコーンは中心の軸に固定されています。その上にある上側コーンは軸に対して自由に回転することができます。上側のコーンの上部はカムになっていて、軸に固定されている最上部のカムと接触しています。このカムにより、上側コーンが回転すると、上側コーンがスライドする構造になっています。このスライドにより2個のコーンの間の距離が変わり、シューが外側に広がったり戻ったりします。

ブレーキの動作
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 前の写真はカムがスライドし、ブレーキが作用する位置を示しています。次の写真はブレーキがほぼ緩んでいる状態です。カムと突起の位置関係の違いがわかります。

緩んだ状態のブレーキユニット
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 回転する上側コーンは、軸にスプリングでつながっています。これはゼンマイのように働き、上側コーンをひねる力を発生させます。ブレーキが組み付けられている状態では、ブレーキをかける方向(回転してコーンが接近する方向)に作用します。
 上側コーンのカム部と最上部のカム(下側コーンとつながっている)にはそれぞれ突起があり、突起の位置が揃っている状態で、2つのコーン間の距離が最大になり、ブレーキが緩みます(図の上側の状態)。力がかかっていないときは、スプリングの力でブレーキがかかる方向に突起がずれています(図の下側の状態)。
 モーター軸に取り付けられたカップリングは、この2セットの突起部と噛み合うようになっており、モーターのトルクがカップリングにかかると、カップリング内部の突起がブレーキユニット側のそれぞれの突起を押すので、突起の位置が揃うようにカムが回転し、ブレーキが緩みます。モーターが回っていないときは、スプリングの力によりカムがずれてブレーキが作動します。
 重要な点は、スプリングによって常時ブレーキが作動するようにコーンに力がかかっていることです。もしスプリングで押さえる力がないと、モーターが止まったときにブレーキが作動しません。
 このスプリングの力はささやかなもので、人間の手で回せる程度です。この程度の力でカムを介してシューを押さえたところで、大きな力がかかるドラムの回転を止められるものでしょうか?
 まずドラムは減速ギヤによってトルクが増大されているという点が重要です。すなわち、このブレーキユニットの位置では、それほど大きなトルクはかかっていないのです。ウインチの能力という面で見れば、モーターの出力トルク程度の制動能力があれば、定格牽引能力に対してドラムを制動できることになります。
 以下は想像ですが、さらに制動能力を高める効果も考えられます。
 モーターが回転していない時、ワイヤーを引き出す方向にドラムを回そうとすると、何が起こるでしょうか? ドラムの回転トルクはギヤボックスを経て、モーター軸(ブレーキユニット)をドラムより高速で回転させようとします。これはブレーキユニットのカムを回転させるトルクとなり、カムを作動させます。
 ブレーキシューは、スプリングの力でドラムに押し付けられているので、下側コーンが回転しようとしたときに、回転できる上側コーンは下側コーンよりも回転が遅れます。つまり上側と下側の間で回転が起こり、これがカムを作動させ、2個のコーンがさらに接近しようとします。これでシューを押さえつける力が強くなります。カムを動かす力は、ドラムを回そうとする力が増えるほど強くなるので、ブレーキも強力になり、大きな制動力が得られます。つまり自己倍力効果によって強力なブレーキ作用を発生させていると考えることができます。実際にこの効果がどれだけあるのかはちょっとわかりません。この効果による制動能力を求めるには、減速ギヤ比、カムやコーンの勾配、シューの摩擦係数などから計算する必要があります。


 ウインチのおおよその構造の説明は以上です。次回は、我が家のウインチの整備の顛末を紹介します。
posted by masa at 11:15| 自動車整備