2020年05月24日

NDのバルブタイミング制御

 今回はエンジンのバルブタイミング制御の話です。

 今どきのエンジンでは、バルブの開閉のタイミングを制御する可変バルブタイミングは珍しい機能ではありません。一般的な可変バルブタイミング機構は、カムシャフト用スプロケットホイールとカムシャフトの間に、位相をずらす機構を組み込むことで実現されます。NDのP5-VPでは吸気側、排気側の両方を制御しています。

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向かって右側が吸気系、左側が排気系

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エンジンの後ろ側にあるのは、カムシャフト角度のセンサー


 排気バルブタイミング制御はエンジンオイルを使った油圧制御です。ECUで制御されたコントロールバルブによって油路が開閉され、油の出入りによってカムシャフトとスプロケットの間にある油室の容積が変化します。これでスプロケットとカムシャフトの位相が変化し、バルブタイミングが変わります。
 この機構はカムカバー内に収まっているため、写真では存在はほとんどわかりません。

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排気カムシャフト用スプロケットの構造


 排気系にに使われている油圧制御は昔からある技術ですが、吸気系には比較的新しい電動制御になっています。油圧ではなく電動を使っているのは、油圧の低い低回転時にも適切に制御するためらしいです(油圧が低いと十分な圧力がかからず、機構が十分に作動しないため)。
 電動可変バルブタイミング機構のわかりやすい解説として、デンソーの資料があります。NDの電動可変バルブタイミングのための機構は、内部の機構などを見るとデンソーのものに近いですが、減速メカニズムがちょっと変わっています。デンソーの資料のものはサイクロイド減速、マツダのものは特殊な偏心遊星歯車を使っています。
 この電動のバルブタイミング制御はかなり複雑な機構です。
 カムシャフト前部にはクランクシャフトからチェーンで駆動されるスプロケットがあります。排気側と同様にこのスプロケットとカムシャフトの位相を変えることでバルブタイミングを変化させます。この位相差をモーターの回転で生み出すのですが、これがかなり興味深い構造なのです。

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吸気カムシャフト用スプロケットの構造


 スプロケットのすぐ前にモーターがあり、通常はこれがスプロケットと同じ速度で回転します。モーターとスプロケットの間には減速機構が組み込まれていてます。前に示したデンソーのものはサイクロイド減速機構ですが、NDの減速機構はモーターで駆動される偏心軸に取り付けられた歯車とスプロケット、カムシャフトに取り付けられた内歯車が噛み合うというもので、サイクロイド減速機構の変形版のようなものです。これらの減速機構の特徴は、1段で大きな減速比を実現していることで、NDの場合はおそらく数十の減速比になっていると思われます。つまりこの割合でトルクを増加させ、大きな負荷のかかるカムシャフトの位相を変えているのです。
 この減速機構はスプロケットが固定ハウジング側、モーター軸が入力側となります。そして減速出力がカムシャフトにつながっています。モーターとスプロケットが同じ速度で回転している場合は、減速機構のハウジング(スプロケット)に対して入力軸(モーター回転)が回転していないことになります。つまり減速機構は駆動されないので、減速機構の出力軸はスプロケットに対して回転しません。したがって出力がつながっているカムシャフトはスプロケットに対して回転せず、スプロケットと同じ速度で回転し、位相は変化しません。モーターとスプロケットの回転に速度差があると、その回転速度差が減速機構で減速され、カムシャフトがスプロケットに対して回転します。これでカムの位相がずれ、バルブタイミングが変化します。目的の変化量に達した時点でモーターの速度をスプロケットの速度と一致させれば、カムシャフトの位相がずれた状態が維持されます。
 このような機構により、クランクシャフトの回転数に応じたモーターの回転数を制御することで、吸気バルブのタイミングを自由に変えることができます。

  クランクシャフト速度 < モーター速度 → 進角方向に変化
  クランクシャフト速度 = モーター速度 → 位相を維持
  クランクシャフト速度 > モーター速度 → 遅角方向に変化

 ただしこの機構は、常時クランクシャフトと同じような速度でモーターが回転することが求められます。モーターはメンテが必要になるブラシタイプではなく、ブラシレスモーターを使っていますが、機構の寿命が気になるところです。

posted by masa at 18:54| 自動車