2020年07月13日

古いエンジン発電機 EG1200X を復活させる −− その4

 このEG-1200X発電機はホンダ製で、このGX120エンジンは発電機専用のものが使われています。速度調整レバーが半固定であることに加えて、クランクケースの出力側カバー部品が専用のものになっています。このカバー部品には、クランクシャフトベアリング、オイルフィラーキャップなどが組み付けられているのですが、同時に発電機のエンジン側ハウジングも兼ねた構造になっているため、エンジンと発電機を独立した形で分離することはできません。
 今回は発電機側を見ていきます。

■ 発電機

 発電機は単相同期発電機で、回転子(界磁)、電機子とも2極なので、1回転で交流1サイクルが出力されます。つまりエンジン回転数が3000RPMで50Hz、3600RPMで60Hzとなります。周波数は前に触れたようにエンジン回転数のガバナー制御で安定化されます。
 回転子は直流励磁タイプで、2組のスリップリングで励磁電流を供給します。出力電圧の制御は励磁電流の調整で行われ、電機子の主巻線はそのまま交流出力としてコンセントに接続されます。交流出力には、出力主回路の開閉、過電流保護のためのサーキットブレーカー(過電流遮断器)が組み込まれています。

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  発電機側

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  カバーを外したところ。左側にあるのが電機子巻線

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  電機子巻線には2系統の出力がある

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  回転子のスリップリング

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  回転子とファンの取り付けボルト


 発電機の各要素について、以下にまとめておきます。

・主巻線
 主巻線は発電電力を生成する固定側電機子巻線で、白、赤、薄緑の3本の配線が出ています。白と赤の2本は100V出力用で、もう1本の薄緑(たぶん電圧検出用)と白がレギュレーターに接続されます。
 この巻線はフレームに接地されていません。測定値は以下のとおりです。

 白−赤 0.3Ω、43mH
 白−緑 0.4Ω、73mH
 赤−緑 0.1Ω、4mH

・補助巻線
 補助巻線はもう1組の固定側電機子巻線で、2本の配線(白地に黒)が出ています。主巻線より細い銅線が使われており、巻数も少ないようです。この巻線は主巻線とは接続しておらず、また接地もされていません。この巻線の2本の出力はレギュレーターに接続されます。
 この巻線の測定値は以下の通りです。

 0.6Ω、1.2mH

・回転子
 ブラシとスリップリングを介して回転子に励磁電流が送られます。この配線は薄緑黒と薄緑白です。この巻線も接地されていません。測定値は以下の通りです。

 92Ω、3.53H

・接地線
 発電機のケースとレギュレーターを収めるボックスの金属ケースを電気的に接続しています。


 発電機のエンジン側でないほうの軸端に回転子のスリップリングがあり、ベアリングから飛び出した軸端に発電機冷却用のファンが取り付けられています。回転によって外部から取り込まれた空気は回転子や電機子周辺を通り、発電機を冷却します。カバーを外した状態だとこの風が送り込まれないので、冷却不足になる可能性があります。特にエンジン側の発電機ケースはクランクケースと兼用なので、エンジンの熱が直接来ています。そのため発電機負荷が小さくてもケースが高温になるため、冷却は不可欠です。
 ファンを止めている中央のボルトは長いもので、回転子をエンジン出力軸に固定する役割も担っているようです。


■ レギュレーター

 発電機上部に取り付けられたボックスには、ブレーカーと出力用のコンセントが2口、接地用ターミナルが備えらています。

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  ボックス内部

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  コンセントとブレーカー


 内部にはレギュレーター回路があり、発電機の出力電圧を制御しています。出力周波数はエンジン回転数制御で行われ、これはエンジン側の遠心ガバナーとキャブのスロットルを連携させることで実現されているので、レギュレーター側は何も関与しません。

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  レギュレーターとアース端子


 ボックス中に置かれたレギュレーターには、以下の配線が接続されています。

・エンジンの発電コイル出力 2本
 エンジンのフライホイール内側に設置されたコイルによって発電された交流電圧が接続されています。起動時の励磁電力供給に使われているものと思われます。
 この発電コイルの配線の色は水色で、接地されていません。測定値は以下の通りです。

 2.2Ω、11.3mH

・励磁電流 2本
 スリップリングを介して、回転子に直流の励磁電流を送ります。これも接地されていません。

・補助巻線 2本
 発電機の電機子には出力用の主巻線とは別に補助巻線があり、レギュレーターに接続されています。発電機運転中の励磁電力供給に使われているのではないかと思います。

・主巻線 3本
 主巻線には中間タップがあり、全部で3本の線が出ています。このうちの白と薄緑の2本がレギュレーターに接続されています。白と赤は100V出力のタップです。

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 レギュレーター

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 発電機の全体構成


 レギュレーターは樹脂封止されているので、内部の回路やどのような部品が使われているのかはわかりませんが、基本的な機能は、出力電流に関わらず、出力電圧を一定に維持するために励磁電流を調整することです。
 発電機が始動した時点では、励磁電流はエンジン側の発電コイルからの電力を使っているものと思われます。この時点では発電機は回転しているものの、発電を開始していないからです。エンジン側からの電力で回転子を励磁すれば、発電機は電力を生成できます。すると補助巻線にも電圧が発生します。
 また主巻線のタップもレギュレーターに接続されています。
 内部構成がわからないのでなんとも言えないのですが、主巻線からレギュレーターへの接続は、出力電圧を監視するためのものと考えられます。この電圧の変動に応じて励磁電流を調整し、主巻線電圧を一定に維持しているのでしょう。
 補助巻線からの電力は、運転中の励磁電流源かなと思いますが、確証はありません。エンジン側からの電力と自身の補助巻線の電力がどのように扱われているかの真相は、レギュレーターの樹脂の中です。
 レギュレーターの内部構成は不明ですが、やっていることは明らかで、回転子の励磁電流の制御です。励磁電流が増えれば出力電圧が上昇し、少なくなれば電圧が低下します。この電流をうまく制御することで、発電機の出力電圧をほぼ一定に維持します。


■ 発電機として動かす

 この発電機の出力は、50Hzモデルで1kVA(1000VA)、60Hzモデルで1.2kVA(1200VA)となっています。電気機器の消費電力などは一般にWで示されますが、発電機や変圧器などはしばしばWではなくVA(ボルトアンペア)で規定されています。これを皮相電力といいます。
 Wは実際の消費電力で、有効電力といいます。VAは負荷電圧と負荷電流を掛けたものです。直流ならこれらは同じものなのですが、交流の場合は、誘導負荷(モーターなど)や容量負荷の場合に、話が変わってきます。抵抗負荷以外では電圧位相と電流位相がずれるため、電流が流れているにも関わらず、エネルギーとしては利用されないという場合があるのです。例えば100Vで5A流れているにも関わらず、電力値は100Wといった感じです。この場合、有効電力は100Wですが、皮相電力は500VAとなります。その差の400Wは無効電力となります。また有効電力の割合を力率といいます。
 発電機の電流出力能力が例えば10Aの場合、100V×10Aで最大1000Wの電力を供給できますが、これは皮相電力となります。力率が1の機器であれば1000Wまで接続できますが、力率が0.5なら、消費電力が500Wの機器であっても電流は10A流れ、発電機の限界値になります。
 またモーターのような突入電流が大きい機器では、突入電流が発電機の定格値を超える場合があるので、使用可能なW数はさらに小さくなります。まぁ実際には、突入で落ちなければそこそこ使えるのですが。

 さて、組み上げた発電機が実際に機能するかどうかを確かめてみました。巻線類は事前のチェックで問題なさそうだったので、あとはレギュレーターが経年劣化で壊れていない限り、問題なく動くはずです。これは樹脂モールドされているので、実際につないで動かしてみる以外、調べる方法がありません。で、配線を接続し、エンジンを動かしてみました。結果は問題なし、あっさり動きました。


■ 仕上げ

 発電機側の動作確認の後、フレームまで分解して、フレームなどの塗装をして作業は完了です。ガソリンを抜いて、再び物置にしまわれたのでした。

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  フレームを塗装


■ 電気が汚い

 このクラスの発電機(数百VAから数kVA)の注意書きには、接続できる機器種別や消費電力が示されています。その中には、電子機器が接続できる、できないという項目があります。一般にインバータータイプの発電機は電子機器も含めてどんな機器でも接続できるのに対して、非インバーターの一般モデルは電子機器への給電を避けるように指定されています。これはどういうことなのでしょうか?
 このクラスの発電機の発電出力にはいくつかの構成があり、それに応じた使用上の注意が示されています。
 インバータータイプは、発電機で生み出した電力をCVCF(Constant Voltage Constant Frequency)という機器に送り、その出力が負荷に供給されます。CVCFは一定の周波数、一定の電圧を生成するインバーター電源装置のことです。つまり入力電力の電圧や周波数が変動しても、安定した出力が得られるというものです。CVCFはインバーターの一種です。インバーターには可変電圧、可変周波数のVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)というものもあり、モーター制御などに使われます。このBlogで以前に触れた(途中で止まってる)モーター用のインバーターは、VVVF装置です。
 ちなみにインバーターとは、交流を出力する装置のことです。狭義では直流を交流に変換する装置ですが、一般の製品では交流入力のものも含めてインバーターと呼ぶことが多いようです。これは内部で一度直流に変換しています。インバーターに対して、交流を直流に変換する装置はコンバーターと言います。
 インバータータイプの発電機の出力は、CVCFのおかげで電力会社から供給されるのと同等な正弦波で、負荷変動などがあっても電圧、周波数が安定しています。つまり商用電源と同等のクオリティが得られるということです。当然、使用する機器の制限はなく、電子機器でも問題なく使用できます。ただしインバーター回路の分、価格は高くなります。
 ではCVCFを使っていない、つまりインバータータイプではない発電機は、どのような電気出力なのでしょうか? なぜ電子機器を接続してはいけないのでしょうか?
 この疑問に正直に答えているサイトなどは意外とみつからず、誤動作したり最悪故障するとは書いてあっても、それがなぜなのかに触れていません。
 前にも書きましたが、ガバナーによるエンジン制御は、負荷変動に対する応答性の悪さ(遅さ)という欠点があります。負荷が変化したことによるエンジン回転数の変動が物理的なガバナーとスロットルによって行われるので、回復に数百ミリ秒の時間がかかります。これは周波数の変動という形で現れます。
 負荷変動に対する励磁電流の変化は、電子回路で行われているので周波数の回復よりは時間がかかりませんが、それでも交流のサイクルのオーダーでの回復時間は必要でしょう。これは電圧変動という形で現れます。
 これらの変動は、通常の商用電源だったら事故とみなされるレベルのものです。そのため、電源系のノイズに弱い機器の誤動作が起こりえます。故障にまで至るかどうかはわかりませんが、頻繁に発生したら使い物になりません。
 もうひとつ考えられることは、出力波形です。励磁電流制御レギュレータータイプの多くは、励磁制御が直流電流を変化させるのではなく、パルス幅変調(PWM)を行っています。回転子の巻線により多少の平滑化は行われるものの、磁力が変動することになるので、出力波形は正弦波ではなく、歪んだ形になってしまいます。これは出力電圧に周波数の高いノイズが乗っていることになるので、負荷によっては問題が起こる可能性があります。
 今回は調べていませんが、以前、オルタネーターの交流出力の波形を調べた時は、励磁電流のPWM制御の影響と考えられる波形歪が見られました。
 ほかにサイクロコンバータ式というものもあり、中間程度の性能です。



posted by masa at 13:33| 電気機械

古いエンジン発電機 EG1200X を復活させる −− その3

 動作確認とは別に、発電機の各部を見てみます。ついでに、錆びた部分などを塗装してごまかします。
 問題ない余計な部分をバラすというのは、大抵の場合、不幸の始まりなのですが、そんなことは気にしません。もともと使えなかったものなのですから。ただしクランクケースやシリンダヘッドは、ガスケット交換が伴うので(問題が見つからない限り)開けません。


■ 排気系

 シリンダ上部に小さなマフラーが付いています。この大きさなので消音効果はたかが知れていて、はっきり言ってうるさいです。安全のために遮熱カバーで覆われていますが、それを外すと内部のマフラーが見えます。

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  シリンダー上部にマフラーがある(燃料タンクは取り外し済)

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 遮熱カバーを外したマフラー


■ ガバナーとスロットル

 GX120エンジンにはクランクシャフトの回転で動作する遠心錘式のガバナーが装備されており、回転速度の上昇に伴って動くレバーがエンジン外部に備えられています。このレバーはリンクを介してキャブのスロットルレバーに繋がっています。このリンクにより、キャブのスロットル調整はガバナーレバーにより行われるようになります。


  ガバナーレバーが動く様子


 ガバナーレバーはエンジン回転の上昇により角度が変化しますが、この変化量を制御するためのスプリングが取り付けられています。回転数が上がるとエンジン上部にあるガバナーレバーが動きます。このレバーはスプリングで引っ張られており、このスプリングの力と遠心力によるガバナーレバーを動かす力が釣り合った位置で、ガバナーレバー角度が安定します。スプリングの力が弱ければレバーは大きく動き、強くするとレバーの動きは小さくなります。つまりスプリングが強く引いている時は、エンジン回転数が高くならないとレバーが動きません。エンジンの回転速度調整レバーは、このスプリングの力を調整します。 ガバナーレバーの動きはリンクでキャブレターのスロットルバルブにつながっています。エンジン回転数が変化すると遠心力が変化するのでガバナーレバー角度が変わりますが、これによりキャブレターのスロットルが制御されます。スロットルレバーは、回転数が下がるとスロットルがより開き、回転数が上がると閉じる方向に動作します。これにより負荷変動で回転数が変化した時にスロットル開度が変わり、回転速度が回復する方向に動作します。そして元の回転数に達した時点では、ガバナーレバーの角度とスロットル開度がバランスした状態になり、回転速度が維持されます。
 このバランスする位置は、回転速度調整レバーにつながったバネの強さによって決まります。つまり回転速度調整レバーによって、エンジンは負荷状態に関わらず、レバー位置に応じた一定の回転速度を維持することになります。このあたりが、キャブのスロットルを直接操作するバイクや車のエンジンと違うところです。

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  出力調整レバー、ガバナーレバー、スロットルレバー

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  ガバナーとスロットルの連携


 一般的な汎用エンジンでは、出力調整レバーをユーザーが操作できる構造になっていますが、発電機用エンジンではレバーに手で操作する部分がなく、調整ネジでポジションを固定するようになっています。つまりドライバーで調整ネジを回して、エンジン回転数を決めるのです。このエンジンは50Hz用、つまり3000RPMに調整済ですが、調整ネジを回すことで例えば60Hz用の3600RPMに変えることができます(発電機側に50Hz/60Hzの仕様があるのかどうかはわかりません)。


■ リコイルスターター

 このエンジンは、リコイルスターターを手で勢いよく引くことで始動します。昔のロープを巻き付けて引っ張るタイプに比べるとお手軽です。
 リコイルスターターのロープのリールにはゼンマイバネが内蔵されており、ロープを引き出した力を緩めると自動的にロープが巻取られます。

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  リコイルスターターの裏側


 ロープを手で引いてリールが少し回転すると、回転するハブから爪が飛び出し、これがエンジンのフライホイールに取り付けられたカップリングの内部に引っかかり、エンジンが回転します。この引っかかりは方向性があり、リコイルスターター側の正回転はエンジンに伝わりますが、逆回転は伝わりません。またエンジンが回転してもリコイルスターター側に回転は伝わりません。従ってエンジンが始動した後は、フライホイールのカップリングだけが回転し、スターターのハブは回転しません。そしてロープを巻き戻すと爪が引っ込むので、スターターとエンジンの接触は完全に断たれます。


■ フライホイールと電気系

 リコイルスターターを外すと、スターター用のカップリング、強制空冷用のファンが取り付けられたフライホイールが見えます。冷却風を誘導するシュラウドを外すと、フライホイール全体が見えます。

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  フライホイールカバーにリコイルスターターとエンジンスイッチがある

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  カバーを外したところ


 ファンの中央部分にあるカップ状のものは、リコイルスターターの爪が噛み合うカップリング部品です。
 フライホイールの外側(写真では左側)には、点火プラグ用の高圧パルスを発生させるマグネトーがあります。マグネトーは鉄芯入りのコイルで、フライホイール外周の1箇所に取り付けられたマグネットによって、1回転に1回、電気パルスが発生します。
 フライホイール内側には、外部に電力を供給するための発電用コイルが取り付けられており、フライホイール内側のマグネットによって交流電流を発電します。このエンジンでは、フライホイールが1回転すると2サイクル分の交流が発生します(アナログテスターをつなぎ、フライホイールを手で回して電圧の振れを調べました)。ここで発生する交流の周波数を測定すれば、回転計がなくてもエンジン回転数を調べることができます。
 マグネトーも発電用コイルも、フライホイールに取り付けられたマグネットがコイルの鉄芯近辺を通過することで、誘導起電力が発生します。
 フライホイールはクランクシャフトにナットで固定されています。軸にはキーがはめ込まれているので、クランク位相とマグネトー用のマグネット位置は正しく維持されます。


■ 点火系

 小型のバイク用エンジン、この種の汎用エンジン、航空機用エンジンなどは、外部電源を使わずに点火プラグ用の高圧パルスを生成できるマグネトーがしばしば使われます。エンジンの運転に外部電気回路が不要なので、運用が手軽になる、信頼性が高いというメリットがあります。
 フライホイールの横に取り付けられているイグニションユニットは、イグニッションコイルが一体に組み込まれています。イグニッションコイルの1次側では、フライホイールのマグネットによってクランクシャフト1回転につき1回、電圧が発生します。これにより、巻数比の大きい2次側コイルに高圧が発生し、プラグコードを介してプラグ先端のギャップ部分で放電することで、シリンダ内の混合気に点火します。
 4サイクルエンジンの場合は圧縮工程の最後に点火するので、クランクシャフトの2回転に1度、電圧を発生すればいいのですが、この構造では1回転ごとに火花が飛ぶことになります。つまり排気が終わり、吸気が始まるところでも火花が飛ぶということです。

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  エンジンスイッチ


 エンジンにはエンジンON/OFFスイッチがあり、ONポジションでエンジンが始動可能で、動作中にOFFにするとエンジンが停止します。これはイグニッションコイルの1次側を接地するスイッチになっています。コイルの1次側が接地すると電圧が発生しないのでプラグで火花が飛ばず、エンジンが停止します。つまり普通のスイッチと逆で、接点が開いているとエンジンが運転できるということです。したがってこのスイッチの配線が外れたり、スイッチが壊れるとエンジンが止まらなくなります。セーフティ的にどうよと思いますが、構造を単純化することを優先しているのでしょう。バイクのエンジンスイッチもこのような構造のものがあります。ただバイクは人間の操作でエンジンを止められますが、発電機の場合、燃料カットしてしばらく待つか、プラグコードを抜くしかありません(感電するかも)。
 またこのエンジンにはオイルアラートスイッチが組み込まれており、エンジンオイル液面が低下すると保護のためにエンジンが止まります。このスイッチも液面低下で接点が閉じるスイッチで、エンジンスイッチと並列に接続されており、アラート時に点火系を地絡して停止させます。


■ エンジンの発電コイル

 写真はありませんが、フライホイールの内側には、発電用のコイルが置かれています。自動車の場合は、エンジンとは別体のオルタネーターをベルトで駆動しますが、小型エンジンの場合はフライホイール部分に一体で組み込まれることが多いのです。バイクや農機具用の汎用エンジンでは、ライトや保安部品などに電力を供給するために使われます。またスターターモーター付きの高級な製品の場合は、バッテリー充電にも使われます。
 発電コイルからの配線には生の交流が出力されており、回転数によって電圧と周波数が変化します。そのため直流が必要な場合はレクチファイヤで整流する必要があり、ライトの点灯などを行うには、電圧を安定化するレギュレーターが必要です。
 発電機用エンジンの場合は、安定化されていない交流のまま、発電機用のレギュレーターに接続されます。発電機のレギュレーターは、発電を始めるために回転子に励磁電流を供給しなければなりませんが、そのための電力をエンジン側からもらっているのでしょう。
 GX120は、出力電圧が6V、12V、電力が25W、50Wが選べるようです。この発電機用エンジンでは、アイドル回転時15V程度出力されていたので、たぶん12V仕様でしょう。ワット数はわかりません。

 次回は発電機側を見ていきます。

posted by masa at 12:27| 電気機械

古いエンジン発電機 EG1200X を復活させる −− その2

 圧縮と点火がどうにかなりそうなので、今回はキャブレター掃除をします。


■ キャブレター

 放置したエンジンはだいたいキャブの中の古いガソリンが劣化し、詰まりを起こしていることが多いので、キャプ整備はほぼ必須作業です。
 シリンダヘッドの吸気側に、キャブとエアクリーナーケースが2本の長いスタッドボルトで共締めされています。まずエアクリーナーを外し、ガバナーとスロットルレバーのリンクを外せば、キャブを取り外すことができます。ここでちょっとした問題が。キャブをはずす時、発電機のパイプフレームにキャブのチャンバー部が干渉するのです。そのため、燃料チャンバーを外すか、エンジンを持ち上げ気味にした状態でないと取り付けできません。

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  キャブの取り外し(パイプフレームにあたる)

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  取り外したキャブ


 使用されているのはKEIHINのBE型という汎用エンジン用キャブレターです。シングルバレル、サイドドラフト、バタフライスロットルバルブ、チョークバルブという構成です。バレルの下に燃料チャンバーが、横に燃料コックとフィルターがあり、上側に置かれたタンクから自然落下したガソリンがフロートバルブで調整され、チャンバー内の燃料液面が一定に維持されます。
 チャンバー内の燃料は、縦に配置されたパイプ(チャンバー取り付け兼用)の側面の穴から中に流入し、メインジェット(#60)とノズルを通ってバレル内で気化されます。メインジェットの手前にはスロー系(パイロット系)の分岐があり、別に置かれたスロージェットを通り、パイロットスクリューで調整されてバレル内(バタフライバルブの後)で気化します。発電機の場合、スローでの運転はないので、スロー系はどうでもいいのかなとも思いますが。
 ネットを検索すると、このBE型の互換の中華キャブがいろいろ販売されています。値段は2000円以下からあり、純正の部品を買うより中華キャブに置き換えるほうが安く済みます(メーカーのサイトには中華偽物に注意という喚起があります)。
 キャブを交換するかどうかは後で考えるとして、まずは今のキャブレターを調べます。古いエンジンのキャブレターは、だいたい劣化したガソリンで内部が詰まっているので洗浄します。
 自宅にある自動車用具を物色していたら、キャブクリーナーを発見しました。発電機ほどは古くないにしろ、15年以上は前のものと思われます。シトラスクリーンが新発売され、試供品が付いていた時代のものなので、もしかしたら20年以上前かも。もちろんガスは抜けていたので、缶に穴をあけて適当な瓶に中身の液体を注ぎ、洗浄液として使います。

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  古いキャブクリーナー


 チャンバーを外したところ、思ったよりはよい状態でした。チャンバー内にガム状のものはなく、ちょっと汚れているだけでした。メインジェットのノズルを取り外して点検します。メインジェットは詰まり気味でしたが、年代もののキャブクリーナーに浸けてエアブローで開通しました。

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  チャンバー取り外し

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  チャンバーを外したキャブ

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  チャンバー清掃

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  フロートバルブ、メインジェット、燃料フィルター


 スロー系は分解はせず、空気通路とガソリン通路にキャブクリーナーを垂らし、エアブローするという作業を数回繰り返してクリーニングし、懐中電灯の光やエアブローで開通を確認しました。分解した時点では、スロー系のパイロットスクリューは、締切から2と1/3回転程度の戻しでした。サービスデータによると、2回転、あるいは2と3/8回転戻しが有効な数値のようです。


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  スロースクリュー(金属製)とアイドルスクリュー(黒い樹脂製)、右側はチョークバルブ

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  スロットルバルブ

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  キャブ上部のスロットル、チョーク、奥側に燃料コック


 チャンバーのパッキンはOリングを使っているのですが、これはさすがに変形しており、気密に難ありそうなので、耐燃料タイプの同じような寸法のOリングを用意し、交換しました。燃料フィルター部分にもパッキンがあるのですが、これはまだどうにかなりそうなのでそのまま使います。ダメなら純正ガスケットセットを購入します(最初にOリングを注文した時は、まだパーツリストを入手していなかったのです)。
 燃料コックは、分解すると内部のゴム部品を交換することになりそうなので、開閉操作により通気が開閉されることを確認してよしとします。漏るようならその時考えます。


■ 仮組み立て

 掃除したキャブレターをエンジンに取り付けますが、インテークマニホールドのガスケットがくたびれているので、取り替えます。とりあえず、汎用のガスケットシートを使い、同じ形に切り抜いて使います。

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  ガスケットは新調


 シリンダヘッドにねじ込まれた長いスタッドボルトで、キャブレターとエアクリーナーケースを共締めして取り付けます。

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  キャブを取り付け


 エンジンオイルも、今まで入っていたのは20世紀のものなので、さすがに交換します。とはいっても、入れ替えるのは21世紀初頭に購入したまま未開封だったものですが。
 オイル交換の際には、ロッカーカバーをはずし、ロッカーアームまわりにも注油しておきました。跳ね掛け式なので、この部分には久しくオイルが回っていないと思われるので、初回始動時の初期潤滑のためです。

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  ロッカーカバーをはずしたところ


 今の時点では、ガバナーとスロットルは連結しません。手でスロットルを操作していろいろエンジンをいじってみます。
 燃料タンクはクランクケースの上に位置するので、燃料パイプを新しいものに交換し、キャブにつなぎます。


■ 始動手順

 タンクにガソリンを入れ、燃料コックを開くとキャブのチャンバーまでガソリンが来ます。エンジンの始動は、スイッチをONにしてリコイルを引きます。キャブにはチョークがあるので、エンジンや周囲の温度によって適宜絞ります。エンジンが始動したら、安定して回転するところまでチョークを戻します。暖まったらチョークを完全に戻します。
 このエンジンは空冷で冷却水がないので、シリンダまわりはすぐに暖まります。しかし単にシリンダブロックが暖まるだけでなく、オイルの温度が上がって暖機完了です。

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  燃料コック、チョークの操作部


■ 試運転

 問題がなければ、この手順でエンジンを始動できるのですが、さっそく問題が起きました。燃料コックを開くと、レバーの隙間からガソリンがポタポタと漏れます。コックを閉じても、隙間からにじみ出てきます。これでは危なくて始動できません。
 一度ガソリンを抜き、コックをばらしてみたところ、可動するレバーに接触する内部のゴムパッキン部品がかなり固くなっていました。そのため密着が悪くなり、漏れたのでしょう。この部品はキャブレターのガスケットセットに含まれているので、仕方なくガスケットセットの部品(16010-ZE0-025か16010-ZE0-812)を注文しました。
 新品のゴム部品は、古いものと比べ、厚みが5割増しくらいありました。古いほうは、長年の放置でずっと押されたまま、潰れてしまったのでしょう。。もっともゴム部品はガソリンと接触することで膨潤するので、もしかすると古いものでも、ちょっと待てば膨らんで漏らなくなったのかもしれませんが。


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  燃料コックを分解したところ

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  新旧の燃料コックのパッキン


 ゴム部品の交換でガソリンが漏れなくなったので、いよいよエンジン始動です。発電機として組み立てられている場合は、始動すると即座に発電用の規定回転数になりますが、この時点ではそのためのリンケージを接続していないので、手でスロットルレバーを操作できます。
 コックを開いてガソリンを流し、チャンバーに貯まるまでちょっと待ちます。気温は25度くらいあるので、とりあえずチョークは使わず、スロットルはアイドルより気持ち開けた状態で、リコイルロープを何度か引いたら、エンジンが20年ぶりくらいに息を吹き返しました。


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  試運転(発電機カバーを外した状態)


■ またガソリン漏れ

 エンジンを止め、しばらく置いておいたら、キャブの下にガソリンが漏れていました。調べて見ると、チャンバーをキャブに固定しているボルトか、チャンバーのドレンボルトから染み出しているようです。ガスケット不良を疑い、新しく買ったものに取り替えてみても症状は変わりません。
 チャンバー底面が変形し、密着が悪くなっているのかもしれません。とりあえず液体ガスケットを塗ってごまかします。本当は耐燃料タイプを使わないといけないのですが、手元にないので普通のもので様子を見ます。


■ スロー調整

 とりあえず問題が一通り解決したところで、調整を行います。とはいっても単純なキャブなので、スロー(パイロット)スクリューとアイドルスクリューがあるだけです。
 まずエンジンを十分に暖機します。空冷エンジンなのでシリンダーはすぐに温まりますが、ほかの部分の温度上昇にはしばらくかかります。基本的には、油温が十分に上がったら暖機完了となります。とはいっても油温計も何もないので、単にしばらく回すだけです。
 十分に温まったら、まずパイロットスクリューを調整します。エンジン始動前に規定状態(2と3/8回転戻し)にしておき、スロットルを閉じます。この状態でパイロットスクリューをどちらかに回し、エンジン回転が一番高くなる位置を探します。そしてこの位置から1/4回転ほど戻し、パイロットスクリュー調整とします。
 実際にやってみたところ、多少の回転数の変化はあるものの、だいたい既定値のあたりで問題なさそうなので、それで良しとしました。
 これが終わったら、アイドル回転数を調整します。パイロットスクリューのそばにあるプラスチック製のアイドルアジャストスクリューを回すと、スロットルレバーの絞り位置が調整でき、これでアイドル回転数が決まります。
 GX120の規定アイドル回転数は1400RPM(+200、-100)です。回転計は持っていないので、発電コイルの周波数で回転数を調べます(発電コイルについては後で説明します)。1回転で2サイクルのコイルなら、1400RPMで交流出力は46.6Hzとなります。周波数測定ができるテスターやオシロスコープを使い、アイドル回転数を調整します。

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  テスターを使って周波数を測定

 回転数がかなり高めだったのでこの周波数を目標に落としてみたのですが、回転が不安定になるぎりぎりのようなので、ちょっと高めに設定しました。


■ キャブまわり完成

 スロートアイドルを調整したところで、スロットルレバーをガバナーと連携させます。
 ガバナーレバーは燃料タンクの下にあります。ガバナーレバーとスロットルレバーは曲げた針金のようなリンク部品で繋がります。またこの2つのレバーを弱いバネで結びます。これはレバーの軸穴によるガタを無くすためのものでしょう。
 スロットルがガバナーと連動するようになったら、以後は半固定式の回転数調整レバーの角度をネジで調整し、エンジン回転数を調整することになります。

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  ガバナーとスロットルの連携


 次回は、エンジンのその他各部を見ていきます。
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