■ さらにチャージランプについて
前に説明したように、オルタネーターに制御電源が供給されている状態で発電されていないと、警告灯のチャージランプが点灯します。エンジン始動前やエンストした時はこのような状態になるのでランプが点灯します。
普通に運転しているにも関わらず、このランプが点灯した場合は、オルタネーターが発電していないということです。オルタネーターの故障、ファンベルトのスリップや切断などでこの状態になります。オルタネーターが発電していない場合、運転に必要な電力はバッテリーから供給され、しばらくは運転を続けることができますが、バッテリーが上がったらエンジンは止まり、車は動けなくなります。一般ドライバーの多くは、チャージランプに意味を理解していないと思われるため、オルタネーター故障は、たいていこの段階で発覚します。
車に電圧計/電流計が備えられている場合、走行中にチャージランプが点灯すると、電圧計は12V程度まで指示値が下がります。母線電圧がオルタネーター出力電圧からバッテリー端子電圧になるためです。電流計のほうはほぼ0だった表示が、各種機器への電力供給のため、10から数十アンペアの放電になるでしょう。エンジン始動時に各種負荷にバッテリーが電力供給していた時と同じです。
オルタネーターが機能停止することで、母線電圧が約14Vから12V程度まで低下するので、夜間であればライト類が暗くなるといった症状があらわれますが、これは気づかないかもしれません。チャージランプの点灯に気づかなければ(あるいは無視していると)、バッテリーが上がってエンストし、初めて異常を認識することになります。チャージランプに加え、電圧計や電流計が備えられていれば、電圧の低下、放電電流の増大という形で、バッテリーがあがる前にオルタネーターの障害に気づけます(メーターを見ていればですが)。
運転中にこの状態になったら、極力電力消費を抑え、安全なところまで走行するしかありません。
オルタネーター故障でもなく、エンジンが回転しているのに発電していないという状況があります。以下は筆者が経験した事例です。
・始動後のエンジン回転数が低すぎた
現在の電子制御エンジンでは、冷間時に自動的にアイドルアップしますが、キャブ車にはこのような制御はありません(チョークを使えば回転が上がりますが)。そのためエンジンを始動し、規定アイドル回転数以下という状況が起こりえます。
オルタネーターは回転数が低すぎると、出力電圧が十分に高まりません。発電電圧がバッテリー電圧より低い場合は、オルタネーターから母線に電流が流れません。ある程度回転数を上げると電圧が上昇するので、出力電流が流れるようになります。十分に出力電圧が高くなる回転数はアイドル回転数より低いので通常は問題ないのですが、冷間時などで極端に回転が低い場合、これに達しないことがあるのです。この場合、出力電圧が低すぎるため、エンジンが回転しているのにチャージランプが消えないという状態になることがあります。
似たような事例として、エンスト寸前という状況があります。エンストには至らなかったものの、回転数が極端に下がったときに、一時的にチャージランプが点灯することがあります。
・ベルトのスリップ
オルタネーターはファンベルトによって駆動されますが、このベルトの張り調整がゆるいと、大負荷時や水で濡れた時にスリップすることがあります。以前Jeepで煌々と前照灯を照らして林道を走っていた時(オルタネーターはほぼ最大出力)、水たまりで跳ね上げた水でベルトがスリップし、水分が飛ぶまでオルタネーターが止まり、ライト類が薄暗くなったことがありました。また洗車で下回りに水をかけた後のエンジン始動で、スリップが発生したことがあります。
■ 大電力を必要とする負荷 −− 作業機用モーターなど
4WDや小型クレーンの電動ウインチ、軽トラのダンプやパワーゲートの電動油圧ポンプなど、通常の自動車用の電気負荷と比べ、桁違いに大電流を消費する負荷があります(ここでは、スターターモーターよりも大電力を消費するもの、あるいはそこまで電流が流れなくても、比較的長い時間使用するものなどを考えます)。これらの負荷が消費する電力は、オルタネーターが発電できる最大電力よりも大きい場合があります。
自動車の電装系の消費電力が増えると、それに応じてオルタネーターの出力電流も増加し、14V近辺の電圧を維持します。これはオルタネーターに内蔵されたレギュレーター(電圧調整回路)の働きです。これについては、以前の記事でも少し解説しました。そしてオルタネーターが出力可能な最大電流に達すると、以後電流は増加せず、出力電圧が低下していきます。
オルタネーター出力電圧がバッテリー端子の開放電圧まで下がると、バッテリーに充電する電流がなくなり、逆にバッテリーの放電が始まります。以後はオルタネーターの発電した電流と、バッテリーの放電による電流が電気負荷に流れます。この場合の出力電圧は、おおよそバッテリーの端子電圧になります。例えば負荷電流が250A(そのうち50Aが自動車走行のための負荷、200Aがウインチ負荷)で、オルタネーターが150A発電できるなら、バッテリーは100A放電します。そしてこの時のプラス母線電圧は、おおよそバッテリーが100A放電している状態の端子電圧となり、11V程度になるでしょう。
バッテリー端子に大負荷を接続した時の電流の流れ(エンジン運転時)。
100A以上流れるような負荷をつなぐ場合は、スターターモーターと同様に、バッテリーのプラス端子に直接接続することが多くなります。なぜこのような接続にするのかを考えてみます。
バッテリーのプラス端子につながる車両側プラス母線の配線は、大電流を必要とするスターター専用配線は別になっているので、エンジン停止時の放電電流、スターターを除くエンジン始動時の放電電流と、始動後の充電電流が流れます。充電電流はオルタネーターの最大出力電流を超えることはなく、それ以外の放電電流も、通常はオルタネーター出力でまかなえるはずです。そのためオルタネーターとバッテリーの間の配線は、最大で100A程度流せれば十分で、通常の運転中であれば連続的に数十アンペア以上流れることはありません。
ここにオルタネーターだけではまかないきれない大電力負荷を接続する場合、オルタネーターの下流に接続すると、バッテリー、オルタネーターと負荷の間の配線が過電流状態になる可能性があります。負荷にはバッテリーからも大量に電流が流れ、この最大値はバッテリーの容量にもよりますが、最大で数百アンペアにまで達するからです。
以下の図は、500A必要とするウインチがオルタネーター下流に接続されている状態です。この場合、バッテリーとオルタネーターの間に400A、オルタネーターとウインチの間に550Aも流れることになります。この部分の配線が100A程度しか想定していないものであれば、発熱して溶け落ちたり火が出ることになります。
負荷接続位置による不具合。
こういった状況で配線を保護するために、大負荷はバッテリーのプラス端子に直接つなぐのです。このように接続することで、大負荷への電流は負荷につながる専用配線のみを流れ、残りの回路上で過電流になる配線はなくなります。バッテリーとオルタネーターの間の配線も、最大でもオルタネーターの出力電流以下です。
もちろん、既存の配線をすべて太いものに取り替えれば、オルタネーターの下流に接続することもできます。しかし自動車の設計段階から想定しているならともかく、後付機器の場合はあまり現実的ではありません。
■ 大負荷と電流計
大電力負荷をこのようにバッテリー側に接続した場合の難点は、スターターと同じように、これらの作業機負荷に流れるバッテリーからの放電電流が、電流計の充放電の電流値として指示に反映されないことです。ただ、エンジン始動時のスターターの消費電流が電流計にまったく反映されなかったのと異なり、これらの作業機に流れる電流は、別の形で電流計に表れます。違いは、スターターモーターの電流がエンジン停止時(オルタネーター非発電時)に流れるのに対し、作業機などの負荷はオルタネーター発電中に使われる点です(パワーゲートなどはエンジン停止状態で使うことが多いようです。この場合はスターターと同じ関係になります)。
エンジンが動いている時、オルタネーターの最大発電量が150Aで、車両本体で50A、作業機のモーターが200A消費する場合、電流はオルタネーターからバッテリーに接続された負荷に流れます。電圧計と電流計が備えられていれば、これらの値をある程度知ることができます。
まず車両が使用する電流はオルタネーターから車両側に流れます。これでオルタネーター容量150Aのうち、50Aが使われます。作業機は200Aなので、オルタネーターの残り容量100Aは電流計とバッテリーのプラス端子を経由し、作業機のモーターに流れます。このモーターはさらに100A必要なので、バッテリーからも100A放電することになります。
この時、電流計の指示値はどうなるでしょうか? オルタネーターからの100Aがここを通り、バッテリー側に流れているので、100Aの充電電流が流れているという指示になります。もちろんこの100Aは、実際にはバッテリー充電ではなく、作業機のモーターに使われています。
バッテリー直結の大負荷時の電流計の指示。
このように電流計指示値は、オルタネーターから作業機を含むバッテリー側に、どれだけの電流が流れるかを示すことになります。実際の作業機に流れている総電流は、この位置に置かれた電流計では知ることはできません。
また作業機を止めた後、バッテリーは相応の放電をしたことになるので、エンジンが動いていれば、オルタネーターからの電流で充電が始まります。この充電電流値は、当然のことですが、電流計に指示されます。そのため作業機を止めても、電流計は充電側に触れ続け、バッテリーがいっぱいになるにつれて、電流値が減っていくでしょう。
このように、大電力負荷をバッテリー端子につないだ場合、電流計は負荷電流を測るという面ではあまり役に立ちませんが、バッテリーの状態監視には便利に使えます。というか、現在の自動車で電流計を備える最大の理由は、このような用途です。
■ 電流計のあるべき形
このように、バッテリーに直接つないだスターターやウインチなどの電流については、電流計は正確な充放電電流の測定ができません。電流計をセットする位置がオルタネーターとバッテリーの間であり、これらの大負荷がバッテリー側につながっているためです。配線を強化、あるいはバッテリープラス端子に電流検出センサーを置き、その直後に大負荷への配線をつなぐなどして、これらの負荷を電流計より車両側につなげば、理屈通りの測定ができます。ただこの場合、電流計を流れる最大電流は数百アンペアとなるため、これを測定可能なアナログメーターを使うと、こんどはわずかな電流の時の値を示すことができません。例えばフルスケールで500Aなら、10A流れても針が触れているかどうかわからないでしょう。そうすると、普段の使用時の充放電などの観測に支障をきたします。
可能性としては、測定範囲が広く高分解能のセンサーを使い、デジタル表示することでしょうか。3桁のデジタル表示で0Aから999Aまで正確に示すことができれば、日常の僅かな電流から最大電流まで表示可能でしょう。
■ 大電流を測るには
電流計がついていても、スターターや作業機モーターにどれだけ電流が流れているかはわかりません。しかし負荷の見積もりや故障診断などで、これらの電流を測りたいことがあります。あるいは電流計のないクルマで、バッテリーの充放電や車両負荷電流などを調べたい場合があるでしょう。
このような時は、直流対応のクランプメーターが便利です。クランプメーターは測定器の一種で、電線のまわりにループ状のセンサー部を挟むように置くことで、その電線に流れている電流を調べられるという便利な測定器です。一般に電流を測るためには、配線を切断し、そこに電流計をかますという形になりますが、クランプメーターは、配線を切ることなく測定することができます。かつてはループコイルに発生した誘導電流により交流電流を測るものでしたが、その後、磁気センサーを組み込むことで、直流電流も測定可能になりました。ただし微小電流の測定は苦手で、測定可能なのは数アンペア以上です。上限はかなり大きく、数百から数千アンペアまで測定できます。
クランプメーターでウインチに流れる電流を測定しているところ。
注意しなければならないのは、挟む線の数です。基本的には1本の線を挟みます。電流が往復する2本以上の線を挟むと、向きによって磁界が相殺されるため、個々の線の電流は測れません。測定値は、流れる向きに正負の極性を付け、それを加算した値になります。例えば同じ電流量が逆向に流れている場合は測定値は0になり、同じ向きであれば合計電流となります。
クランプメーターと電流の向き
クランプメーターをスターターに行く配線にセットすれば、スターターモーターの消費電流を測定できます。オルタネーターとバッテリーの間にセットすれば、充放電電流を調べられます。オルタネーターのB端子配線を調べれば、オルタネーターの出力電流がわかります。
■ バッテリーの容量とアンペアアワー
実際に電動ウインチなどを使用すると、かなり大きなバッテリーを搭載していも、連続使用したらすぐに放電しきってしまします。ここでちょっとバッテリーの容量について見てみます。
バッテリーの容量を示す目安として、Ah(アンペアアワー)で示される値があります。これは、流れる電流と流れる時間をかけ合わせた値で、例えば10Aの電流を10時間流した場合、100Ahとなります。バッテリーが放電しきるまでのアンペアアワー値は、バッテリー容量を示すひとつの目安になります。
ただし放電電流と放電時間の関係はきっちりとしたものではありません。10Aを10時間放電できるバッテリーが100Aを1時間放電できるわけではありません。同じ容量であっても、一般に放電電流が大きくなるほど、電流×時間で示されるアンペアアワー値は小さくなります。特に電流が大きくなると、この容量値は極端に小さくなることがあります。例えば100Ahであっても、100Aの放電は10分くらいしか続かないといったことになります。ただしちょっと間をあけると回復し、また放電できるといったこともありますが。
そのためバッテリー容量をアンペアアワーで示す場合は、何時間かけて放電したかという条件を示す必要があります。JIS規格では5時間率で示す事が多いようです。つまり100Ahなら、20Aを5時間放電することになります。
■ 自動車用バッテリー
鉛バッテリーには、その用途により、容量をまるまる放電するような使い方を意図したものと、大電流を短時間放電する用途に向けたものがあります。前者はディープサイクルバッテリーといって、例えばキャンピングカーの電源、バッテリーカー、ウインチなどを使う場合に向いています。後者はスターターバッテリーといい、エンジン始動時にスターターを回し、それ以外の時はあまり放電しないという、普通の自動車用のバッテリーに向いたもので、総容量よりも短時間の大電流放電の特性を向上させています。
コンパクトカークラスのバッテリー。
後者のように、一時的に大電流を流すという用途のバッテリーでは、容量を示すためにCCAという単位がしばしば使われます。これはCold Clanking Ampare(寒冷時のクランキング電流)の略で、氷点下18度で30秒間放電し、単電圧が7.2Vになるという条件での電流値を示します。例えば-18度で500Aの放電を行い、30秒後の端子電圧が7.2Vに低下した時、このバッテリのCCA値は500となります。
現在の自動車用バッテリーは、アイドリングストップや充電制御への対応/非対応などでいくつかの種類があります。そのうち、アイドリングストップなどを行わない昔ながらの一般的なバッテリー、つまり通常の運転中はほとんど放電を行わないという用途のものは、日本では115D31Rといった形式で示されます。最初の数字(115)が性能ランク、D31などはバッテリーの大きさ、最後のRかLは端子の位置を示します。
性能ランクは、おおよそそのバッテリーの容量を示し、数字が大きいものほど放電できる容量が大きく、そしてスターターなどのために大きな電流を取り出せます。小さな自動車なら40程度から、比較的大きな乗用車などでは100以上のバッテリーを搭載しています。性能ランクはJISで制定されているもので、CCA値と、25A放電を何分間維持できるかという数値から算出した値です。大体5時間放電率のアンペアアワー値より何割か大きな数値になるようです。また性能ランクが同じ値でも、ケースの大きさ(D31など)が変わると容量などはちょっと変化します。例えば115D31Lなら、CCA値は710A、5時間放電率は70Ah、20時間放電率は81Ahとなります。
■ バッテリーテスター
バッテリーの状態や特性値は、バッテリーテスターを使って測定することができます。車載、あるいは降ろした状態のバッテリー端子に測定クリップをつなぎ、バッテリーの形式を指定すると、現在の充電状態(パーセント値)、CCA値、内部抵抗、健全性などを判定できます。もちろんこれはバッテリーを冷やして大電流を測っている訳ではなく、電圧や内部抵抗などを測定しているものと思われます。
例えば筆者が使っている145D31というサイズのバッテリーは、このテスターで測ると、新品時で700 CCA以上でした。
バッテリーテスター。バッテリーに接続することで、各種情報を示す。必要な電力はバッテリーから得る。
CCA値。これはちょっと放置した145D31Lバッテリーを調べたもの。
内部抵抗。
バッテリーの健全性。
放電状態。
全体的な状態。状態は悪くないが、充電せよということ。
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次回は、自動車用の電圧計/電流計の構成や接続について説明します。