今回使っている三菱電機のE-700シリーズは、汎用磁束ベクトル制御とアドバンスト磁束ベクトル制御という2種類のセンサレスベクトル制御がサポートされていますが、アドバンスト制御のほうが高性能で、汎用のほうは過去の製品との互換性のために用意されているようです。ここではアドバンスト制御を使います。ちなみに、出荷時状態はV/F制御になっています。
ベクトル制御を正確に行うには、さまざまなパラメータが必要になります。なので、実際に使う前にこれらのパラメータを設定する必要があります。パラメータには、使用するモーターの仕様で決まるものと、モーターそのものの電気的な(仕様書などには示されていない)特性値があります。いまどきのインバータは賢いので、電気的な特性値を自動的に求める機能が備わっています。特性値を調べ、設定する機能を「チューニング」といいます。
■アドバンスト磁束ベクトル制御の設定
ベクトル制御を行う際は、モーターに関するいくつかのパラメータを設定する必要があります(以下の説明には、ベクトル制御専用のパラメータ以外のものも含まれます)。モーターの出力、極数などの情報は、ユーザーが直接指定します。ここでは以下のパラメータを設定します。おもにインバータ出荷時設定からの変更ですが、初期設定のままのものもあります。見出しの後のPnnは、パラメータnnの意味です。
電流、周波数のパラメータは、単位を示すA、HzのLEDが点灯します。電圧のVは単位表示はありません。これらのパラメータは、小数点も表示されます。
・上限周波数 P1
インバータが出力する最高周波数、つまり最高回転数の指定になります。ここでは定格周波数の倍の120(出荷時設定値)とします。これはV/F制御でも参照されます。
・下限周波数 P2
インバータが出力する最低周波数、つまり最低回転数の指定になります。ここでは0(出荷時設定値)とします。これはV/F制御でも参照されます。
・電子サーマル P9
サーマルはサーマルリレーの略で、電流による発熱で動作する保護機構です。過負荷などによる過電流を検出し、出力を遮断して機器を保護します。一般にサーマルリレーは独立した部品、あるいは開閉器とセットで使われますが、インバータには、電子的に等価な操作を行う機能、つまり過電流が流れた時に出力を遮断する機能が組み込まれています。これが電子サーマルです。初期設定ではインバータの定格に見合った電流値が設定されていますが、定格より小さなモーターを使う場合は、この値を小さくする必要があります。この値は0.01A単位で設定できます。今回使った200Wモーターの定格電流は60Hzで0.98Aです。汎用モーターの場合は、これを1.1倍した値(1.1A)を設定します(詳細はマニュアルを参照)。
・適用モーター P71
使用するモーターの種類で、三菱の汎用、高効率、定トルク、他社製などがあります(マニュアル参照)。三菱の指定形式以外の場合、後述するオートチューニングが必要になります。今回、日立の汎用モーターを使っているので、他社汎用モーターを意味する3を指定し、後でオフラインチューニングを行います。
・モーター容量 P80
モーター容量をkW単位で指定します。9999だとV/F制御(モーター容量は関係しない)となります。ベクトル制御の場合は、0.01kW単位でモーター容量を指定します。今回は200Wモーターなので、0.20を設定します。
・モーター極数 P81
モーターの極数で、2、4、6などがあります。V/F制御の場合は9999にします。極数が多いほど、同じ周波数でも回転数が低くなります。60Hzの場合、2極だと3600RPM弱、4極だと1800RPM弱になります。今回は4極を使うので4を設定します。
・モーター定格電圧 P83
モーターの定格電圧を0.1V単位で設定します。ここでは200V(出荷時設定値)を指定します。
・モーター定格周波数 P84
モーターの定格周波数を0.01Hz単位で設定します。ここでは60Hz(出荷時設定値)を指定します。
・速度制御ゲイン P89
負荷変動により回転数が変化したときの回復動作の応答性のパラメータで、100(%)が標準です。設定は0.1%単位で行います。9999だと指定したモーターのデフォルト値が使われます。この数字が小さいと変化に対する応答がゆっくりになり、大きいと早くなります。値が大きすぎると、状況によっては過負荷になったり、速度の振動が発生することがあります。このパラメータは実際に負荷をかけた運転で調整することにし、ここでは9999(出荷時設定値)としておきます。
・制御方法 P800
汎用かアドバンストかを指定します。ここではアドバンスト磁束ベクトル制御なので、20を設定します。
これらのパラメータを設定すると、アドバンスト磁束ベクトル制御モードとなります。つまり、モーター容量(P80)と極数(P81)を設定するとV/Fモードからベクトル制御モードになり、さらにP800で汎用かアドバンストかの制御方法を決めるということです。
ベクトル制御を選択した場合は、実際に運転する前に、次に説明するオフラインオートチューニングを行う必要があります。
■オフラインオートチューニングの実行
アドバンスト磁束ベクトル制御では、モーターの巻線の抵抗やインダクタンスなどのパラメータが必要になりますが、これらはインバータが自身で測定し、設定できます。接続されたモーターに適当な電圧を加え、それに対する電流値を測定することで、これらのパラメータを求めます。これをオフラインオートチューニングといいます。
オフラインチューニングではモーターは回転させず(多少軸が動くことはあるようです)、必要な調査を行うので、モーターを機器に組み込んだ状態でも実施できます。オフラインチューニングにより、P82、P90-94、P859が自動的に設定されます。あるいは事前に求めておいたこれらのパラメータをインバータに設定することで、個々の機材でのチューニングを省略することもできるようです。
オフラインチューニングとは別に、通常運転中にパラメータを調べ、最適な状態に自動的に調整するオンラインチューニングという機能もあります。
オフラインオートチューニングは、以下のように行います。
・オートチューニング P96
オートチューニングの実行、現在の状態を示します。0はチューニングを実行しない、1はアドバンスト制御のためのチューニングの実行を示します。
前述のパラメータ設定を行った後、P96に1を設定し、PU運転モードにしてRUNボタンを押します。この時、LED表示を電流や電圧以外にしておくと、進行が数字で表示され、1から3まで進みます。
途中で停止する場合はSTOP/RESETを押します。チューニングには数秒から数十秒かかります。RUN LEDが点滅したら正常終了で、STOP/RESETを押してチューニングを終了します。これでパラメータが設定されます。終了後にP96の値を変更する必要はありません(変更するとパラメータが無効化されます)。
これで出荷時のV/F制御からアドバンスト磁束ベクトル制御になったはずですが、無負荷で回転させる実験では違いがわかりません。このモードの違いは、実際に負荷がかかった環境で低速運転や負荷が変動する運転をしないとわからないでしょう。
2017年03月26日
三菱のインバータで遊んでみる その4
posted by masa at 18:34| 電気機械