2017年06月21日

ジョグシャトルで遊ぶ その1

 テープ時代のビデオ編集をやったことがある人なら、ジョグ/シャトルコントローラを知っているでしょう。VHSやベータのビデオでも、高級な機種には本体やリモコンに装備されていました。
 ジョグ/シャトルは、実はビデオ編集に限らず、何かと便利に使うことができます。単発からある程度の周波数まで、パルス発生のためのコントローラとして便利に使うことができます。筆者は、CNCフライス盤のMPGに、このコントローラを使おうと考えています。MPG(Manual Pulse Generator)は、ツマミを回してテーブル移動用ステッピングモーターを回転させるコントローラです。つまりハンドルを手で回す代わりに、モーターで動かせるようにするのです。駆動はパルスに比例して回転するステッピングモーターを使うので、モーター制御にジョグ/シャトルは好都合です。微動はジョグモードで、早送りや定速送りはシャトルでと考えています。

■ジョグ/シャトルコントローラ

 ジョグ/シャトルはVTRのテープの早送りからコマ送りまでを円滑に行えるコントローラです。ジョグ/シャトルという名前が示すように、ジョグとシャトルという2つの機能があります。

・ジョグ
 ジョグは、何回転でも自由に回るツマミを回して、ビデオのコマ送りをする機能です。時計回りで正送り、反時計回りで逆送りで、ツマミの1回転で数フレームから数十フレームのコマ送りができます。
 VHSやベータ、8mmなどの家庭用アナログ機、DVなどのデジタル機では、ジョグを一定角度回転させるごとに1フレーム送りという形でしたが、ベータカムなどではフレーム単位ではなく、まさにテープを微動させるという形で制御できました。つまり1フレームの途中で好きなところで止めることができました。
 ビデオ編集において、フレーム単位(あるいはフィールド単位)でテープの位置決めをする際には、ジョグは欠かせない機能でした。

・シャトル
 シャトルは、正方向、逆方向に、静止画から早送りまで、速度を自由に変えながらテープを送る機能です。ツマミのセンターが静止で、左右にそれぞれ数十度から150程度回すことができます。もちろん、センターから回すほど送り速度が高まります。
 家庭用のシャトルは、手を離すとセンターに戻るものが多かったですが、SONYの業務用のものは、手を放しても戻りません。

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■ジョグ/シャトルコントローラの構成

 家庭用VTRや一部の業務用のジョグ/シャトルコントローラは、中央にジョグツマミがあり、その周囲にシャトルのリングがあるという構成です。ジョグツマミは自由に回転しますが、シャトルは左右に一定角度しか回転しません。
 一方、SONYの業務用VTRや編集機に使われていたものは構造がちょっと異なります。丸いツマミが1つだけで、上から押すごとにジョグとシャトルが切り替わります。ジョグモードの時は自由に回転し、シャトルモードの時は、中央から左右に150度程度回転します。手を放しても中央には戻らず、中央位置には、中央であること示すクリックがあります。また最大角度に回した時にもクリックがあります。
 ツマミが回転すると、羽車と2組のフォトインタラプタによって、位相が90度ずれた2相パルスが生成されます。各相は1回転で24サイクルなのです。どのエッジに着目するかで、1回転あたりの回転検出数は24回から96回となります。
 ツマミを上から押すと、ノック式ボールペンと同じような仕組みで、ツマミの位置が上下します。ツマミが上に上がっている時はシャトルモードで、ツマミの回転範囲が制限されます。ツマミが沈んでいる時はジョグモードで、回転範囲の制限が外れ、自由に回転できます。この回転角を制限する部品は、シャトルモードの時は軸とともに回転しますが、ジョグモードの時は軸との結合が外れ、スプリングでセンターに戻っています。そのためジョグモードからシャトルモードに切り替わった時は、必ずセンター位置から始まります。
 現在のモードがジョグであるかシャトルであるかは、ツマミの軸受け部分の上下方向の位置を別のフォトインタラプタで検出します。また、シャトルモードの際のセンター位置も、フォトインタラプタによって検出されます。

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 2相の回転パルス、ジョグ/シャトルモードの判定、シャトルのセンター検出の合計4個のフォトインタラプタは、ユニット側面の基板に装着されており、そこからの信号は基板上のコンパレータICで処理されます。このICとフォトインタラプタの電源は+5Vで、信号出力は0Vか5Vのデジタル信号となります。ただし回路の都合により信号を受ける側に適当なプルアップ抵抗が必要です。

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 回転パルスのためのフォトインタラプタはヒステリシス特性を持つシュミット回路になっており、境界付近での振動を避けるようになっています。モード切替とセンターのほうは単純に出力をデジタル化しているだけです。
 配線の色は筆者の入手した部品のものです。ほかのものが同じである保証はありません(コネクタは筆者が交換したものです)。

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 1. 赤 +5V
 2. オレンジ 回転でH/L
 3. 黄 回転でH/L
 4. 青 シャトル時: センターでH、それ以外でL ジョグ時: 常時H
 5. 紫 ジョグ時にH、シャトル時にL
 6. 茶 Gnd

 SONYのこのコントローラは、業務/放送用VTR、編集機に広く使われました。慣れるととても便利に使えます。今では、テープ編集はほとんど行われないため、当時の機材がオークションなどで安く放出されており、うまく探せば、1個1000円程度で入手することができます。例えば1980年代後半から1990年ごろまでの代表的な編集機であるSONY RM-450は、このコントローラを2基備えていますが、1000円から2000円で落札することができます(今回使った部品は、2台のRM-450から取り外したものです)。多くは25年くらい前のものですが、放送用品質のおかげか、今でもほとんど問題なく使うことができます。
 これより新しいものだと、ジョグ/シャトルの切り替えが機械式ではなく電磁式になったようです。このタイプは、ツマミのそばにあるプッシュスイッチでモードを決めるようで、自分で遊ぶにはさらに解析やら付加回路やらが必要そうです。

 次回は、ドライバプログラムについて説明します。
posted by masa at 14:41| 電子工作