2017年08月30日

オルタネーターで遊ぶ その1


 ふと、三相同期発電機をいじくりたくなったのです。
 一般人の日常生活で、もっとも身近な三相同期発電機は(というかほとんど唯一の選択肢は)、自動車のオルタネーターでしょう。という訳で、自動車用オルタネーターで遊んでみます。

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■自動車のオルタネーター

 自動車用のオルタネーターは、自動車で消費する電力を供給し、さらにバッテリーに充電するために、12Vか24Vの直流電力を発電します。実際には12V(24V)バッテリーに充電するために、14V(28V)程度の出力電圧になります。
 オルタネーターは交流発電機のことですが、自動車用のオルタネーターは直流出力です。これは、オルタネーター内部に整流/出力調整機能を持っているからです。オルタネーターは、ベルトを介してエンジンによって回転し、三相交流電力を発電します。そして三相全波整流器(レクチファイア)によって直流に変換します。
 エンジンの回転数は10倍近い範囲で変動するので、それに応じてオルタネーターの発電電圧も変わりますが、出力電圧が過剰にならないように、レギュレーターによって調整します。これにより、回転数が変わっても出力電圧が一定値を超えることはなく、自動車の電装品とバッテリーに安定した電圧で電力を供給できます。


■実験用オルタネーターを入手

 ネットオークションで適当なオルタネーターを仕入れました。条件はVベルトプーリー駆動であること。今時の車はたいていリブベルトを使っているのですが、プーリー入手がちと面倒そうです。Vベルトならプーリーもベルトも標準部品を簡単に入手できます。
 入手したのは、スズキキャリイ(軽トラ)用の、12V45A出力のものです。レクチファイアとレギュレーターは内蔵されており、電気的には以下の端子があります。

・アース(ボディ)
 マイナス極です。

・バッテリー(B)端子
 ケース背面にネジ止め端子で、オルタネーターの直流出力端子です。バッテリーと電装系の+母線に接続します。ここにはバッテリーによって常時12Vが加わります。

・制御電源(R)端子
 イグニッションキーにより12Vが供給される端子です。この電源によりレギュレーターの制御回路が機能し、オルタネーターのローターに励磁電流が流れます。つまりこの端子に12Vを加えないと、オルタネーターは(たとえ回転していても)発電しないということです。エンジン始動時はこの12Vはバッテリーから供給されますが、始動後は自身が発電した電力が使われます。
 この端子の名称はメーカーによっても変わるようです。

・チャージランプ(L)端子
 チャージランプ端子です。これは、オルタネーターに制御電源が供給されている(イグニッションキーがON)で、発電出力が発生していないときに、警告ランプを点灯させるための端子です。具体的には、発電出力がない時にグラウンドに落ちます。

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■分解

 オルタネーターを三相発電機として使うためには、電機子コイルの出力から配線を引き出す必要があります。またレクチファイアは必要ありません。ローターへの励磁電流も、外部から供給できるようにします。ローター用のスリップリング/ブラシ部はレギュレーターと一体になっているので、ブラシの電線だけ切り離し、ビニール線でブラシ配線を引き出します。また実験のために、レギュレーターの各端子への配線も引き出しておきます。
 オルタネーターの分解は、ネットで調べれば手順がいくらでも出てきます。ちょっと難しいのは、最初にプーリーの固定ナットを外すことです。ローターの回転を押さえなければならず、エンジンに取り付けられていればどうにかなりますが、オルタネーター単体だとうまく押さえられません。インパクトレンチを使えば簡単に外せます。

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 あとはケースのボルトを外し、軸をプラハンマーなどで叩けば、ケースを前後に分解し、ローターを抜き取ることができます。

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 電機子コイルからの配線はレクチファイアにハンダ付けされているので、これを外して電機子、レクチファイア/レギュレーターを外します。レクチファイアの直流出力がレギュレーターにハンダ付けされているので、これも外します。スリップリングのブラシもレギュレーターにハンダ付けされているので、外します。

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 一般にオルタネーターの分解は、ベアリングやブラシの交換のために行うのですが、今回は、配線を変えるのが目的なので、その辺は手を加えません。


■オルタネーターの内部構成

 オルタネーターは以下の部品で構成されています。

・電機子コイル
 オルタネーターケースの内側の固定巻線で、三相Y結線になっています。この出力をレクチファイアで三相全波整流することで、直流出力を得ています。今回の入手したものは中性線を使わない構成でしたが、3本の巻線を接続している部分を露出させ、中性線を引きだしました。

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・ローター(界磁)コイル
 回転するローターは直流で励磁される電磁石です。励磁電力はスリップリングで供給されます。レギュレーターはこの励磁電流を制御することで、オルタネーターの出力を制御します。今回入手したものは、12極ローターです。
 軸端に厚みのあるベアリングがあり、それとローターの間にほぼ同径のスリップリングが2組あります。

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・レギュレーター
 R端子に12Vが与えられると動作します。レギュレーターは、ブラシとスリップリングを介してローターコイルに励磁電流を供給します。B端子の電圧が規定以下の場合(回転していない、あるいは回転しているが出力電圧が低い)、レギュレーターはローターコイルに励磁電流を供給します。回転数が上がって電圧が上昇し、規定電圧(約14V)以上になると励磁電流をカットし、電圧上昇を抑えます。ローター電流の断切を高速に繰り返すことで、母線電圧を規定電圧に保ちます。制御は断続的ですが、バッテリーが平滑回路として働き、母線では滑らかな直流となります。
 チャージランプは、R端子に12Vが加えらており、オルタネーターが十分な電圧を発生していない場合に点灯します。つまり回転していないか、出力電圧が下限値以下である時に、トランジスタを介してL端子が接地します。自動車の場合、キーをONにすると点灯し、エンジンが始動し、回転が安定して発電を開始すると消灯することになります。
 写真は、レギュレーターとレクチファイアが接続された状態のものです。ハンダ付けを外せば分離できます。

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・レクチファイア
 6個のダイオードで三相全波整流します。+出力はB端子、−出力はケースにアースされます。またこの+出力は、レギュレーターの電圧検知端子(オルタネーター内部の接続)にも送られます。ノイズ防止用に、プラス極とマイナス極の間にコンデンサが接続されています。(間違ってました。今度訂正します。)
 写真では、絶縁用のプラスチック部品が割れてしまっていますが、これを再度組み付けることはないので気にしません。

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posted by masa at 18:18| 電気機械