■ ソフトトップ
(少なくとも自分にとっては)NDの最大の特徴はソフトトップ、つまり幌車であるということです。
NDでは以前のモデルに比べ、幌の開閉が格段に容易になりました(らしいです。自分ではNC以前の幌に触ったことがないので)。ロックはセンターに1ヶ所のみ。幌側にロック付きのレバーがあり、それを起こせばフックが外れます。そのままルーフ部を後ろ側に動かし、シート後部の空間に収め、上から押せばロックされます。収納時はルーフ上面がそのまま上に来て、幌骨などはすべて幌の内部に隠れるので、トノカバーで覆うことなく、きれいに収納されます。
レバーの裏側にロック用のフックがある。
閉じる時は左右のシートの間にあるリリースレバーを操作すると、畳まれていた幌が15cmほど持ち上がります。それをそのまま引き起こし、ロック用のフックを引っ掛けてロックレバーを戻すだけです。電動開閉などのギミックはありませんが、開閉とも5秒程度で行えるので、はっきりいって電動より便利です。
NDロードスターというと、ハードトップのRFの電動開閉ギミックがよく話題に登りますが、手動開閉のソフトトップも十分に興味深い構造になっています。幌についてのマツダの技術解説としては、こんなのがあります。
■ 幌骨
幌はいくつかの幌骨、ルーフパネル、リンクなどで支えられています。構成する部品はおおよそ以下のものです。なお、各部品の名称は、ルーフパネルとメインリンク以外はここで勝手につけたものです。パーツリストでも見れば正式名称がわかるかもしれませんが。。
閉じた状態でのリンク類のおおよその配置
・ルーフパネル(屋根前半分) −−図の灰色の部分
屋根の前半分の部分には、幌生地の下にアルミ材のフレームと板状の屋根材が入っています。前縁フレームの中央にロック機構、両側に位置合わせのための突起があります。ドアガラスの上部前半分はこのルーフパネルの側縁部に接触する形になります。前縁部の水密のためのウェザーストリップは、フロントウィンドウフレーム側に取り付けられています。
・メインリンク(ルーフパネル用幌骨) −−図の緑の部分
横から見てルーフパネルの中央部付近に、大きく曲がった太い幌骨であるメインリンクが繋がっています。これはドア枠の一部、Bピラー相当の部材となります。そのためメインリンクのドアガラスと接触する部分、つまりドアガラス上側の後ろ側半分と後縁に接触する部分には、水密のためのストリップが取り付けられています。
メインリンクは左右で独立しています。メインリンクの上端はルーフパネルに、下端はボディ側に、どちらも回転するピンで取り付けられています。メインリンクのボディ側支点にはスプリングが組み込まれていて、重量のバランスを取っています。畳んだ状態でロックを解除すると、このスプリングの働きで幌がちょっと持ち上がり、シートからウインドデフレクター越しに手をかけることができ、閉じるのが容易になっています。
・角度調整リンク(ルーフパネルの角度拘束用) −−図の赤い棒
正式な名称はわからないので、ここでは角度調整リンクと呼ぶことにします。
ルーフパネルはメインリンクとピンで接続されていますが、これだけではメインリンクに対してぶらぶらと動いてしまいます。そこでルーフパネルの動きを規制するために、メインリンクとは別に、もう1本のパイプ状のリンク部品でボディ側とルーフパネルをつないでいます。これも左右に2セットあります。上端のピンの位置はルーフパネルの後ろ側です。ボディ側はちょっと複雑になっていて、これについては後で説明します。
メインリンクの動きとこの調整用リンクの働きにより、ルーフパネルを後ろに畳んでいくと、ルーフパネルは最初の水平状態から前縁を持ち上げた状態になり、さらに畳んでいき、収納部にロックする際には再び水平になります。
左側がルーフパネル、中央のピンでメインリンクがつながっている。手前側の右に伸びている棒が角度調整リンク
リンク部分のアップ
リンク部分の構造図
・幌骨A(ルーフ後端) −−図の黄色い棒
ルーフパネルより後ろの屋根は幌生地のみとなります。屋根が水平から後ろに傾き始める位置に、パイプを曲げた構造の幌骨A(これもここでの呼び方)があります。この幌骨Aは下側がピンで回転するようになっていて、上側は幌生地の内側(幌の側面上部)に固定されています。幌骨Aはメインリンクと連動して後ろに倒れる構造になっています。
・幌骨B(リアウィンドウ上部) −−図のオレンジ色の棒
屋根後端の幌骨Aから後ろに下がり、リアウィンドウのとの中間あたりに、もう1本の幌骨Bがあります。この幌骨Bも左右がつながったパイプ構造で、上側は幌生地に取り付けられています。下側の支点のピンはボディではなく、幌骨Aの途中に位置します。また幌骨Bとルーフパネルは幅広のベルト(シートベルトと同等のもの)で繋がれています。これは幌を閉じた状態で位置を正しく定め、幌生地をきちんと張るためのものです。
メインリンクの後ろ側に幌骨Aがあり、その途中に幌骨Bが取り付けられている。
幌骨Aはメインリンクに連動して倒れ、幌骨Bは成り行きで倒れていく。
・連動リンク −−図の濃い灰色の棒
メインリンクと幌骨Aの動きは連動しています。これはメインリンク、幌骨Aのそれぞれの支点からちょっと離れた位置で、連動リンクによって繋がれているためです。これによりメインリンクが後ろに倒れていくと、連動して幌骨Aも倒れていきます。
連動リンクの中間位置あたりに、角度調整リンクの支点があります。つまり角度調整リンクの支点位置は固定ではなく、メインリンクと幌骨Aの位置に応じて移動していくことになります。
・リアウィンドウ
リアウィンドウはガラス製で、熱線ヒーターも内蔵されています。このウィンドウは幌生地に取り付けられていて、幌を畳んでいくと、収納部の底の位置に沈んでいきます。ガラス製ウィンドウのありがたさは、ビニールウィンドウの幌車に乗ったことのある人しかわからないでしょう。
・幌
屋根の前半分は内部に金属製のルーフパネルが入っていますが、そこより後ろと側面は幌生地だけです。上位グレードでは防音などのための内張りがあるらしいですが、S、SSPグレードにはありません。
幌の裾の部分は、ボディの幌収納部の内側に取り付けられています。ボディと当たる部分にはゴム部品があり、水が侵入しにくい(しないわけではない)構造になっています。
幌とボディの当たる位置はゴムのストリップが取り付けられている。
■ 幌の畳み込み
幌を開いて畳むと、シート後ろの収納部に、下からリアウィンドウガラス、ウィンドウガラスとルーフパネルの間の幌生地、ルーフパネルという順に畳み込まれます。左横から見ると幌生地はZ字上に畳まれます。
幌の開閉の際のリンクの位置や動きを見てみます。興味深いのは、ルーフパネルの角度調整リンクのボディ側支点、幌骨Aの動きの連携です。メインリンクと幌骨Bは、それぞれのボディ側支点の近くで連動リンクでつながっています。つまりメインリンクを畳む方向に動かすと、幌骨Aも連動して収納部側に畳み込まれていきます。また調整リンクのボディ側支点は、この連動リンク上に位置します。つまりメインリンクの位置に応じて調整リンクの支点位置が変化し、そしてルーフパネルの角度は、メインリンクの角度とそれによって決まる調整リンクの支点位置で決まるということです。
幌の開閉時のそれぞれの状態を見てみます。
閉じている状態。
ロックを外して後ろに動かすと、ルーフパネル前縁が持ち上がる。
さらに動かすと、リアウィンドウが収納されていく。
ルーフパネルが水平に戻り、すべて収納される。
・閉じた状態
幌を閉じてロックされた状態では、ルーフパネルがフロントウィンドウフレームに結合し、ほぼ水平な状態です。メインリンクはドアウィンドウ上縁部に接する部分がルーフパネルと滑らかにつながる角度になり、ルーフパネルとメインリンクでドアガラスが接触するボディ側フレームを構成します。角度調整リンクは、ルーフパネルが正しく水平になる位置にあります。
幌骨Aはメインリンクと繋がっており、また幌内部にも固定されているので、屋根の後縁を形作るちょうどいい位置にあります。幌骨Bは連動機構はありませんが、幌内側に固定されており、またルーフパネル側にベルトで引っ張られているので、幌とベルトがピンっと張る位置にきます。これにより、幌骨AとBで幌の後ろ側部分は正しい形になります。
・開きはじめ
ロックを外してルーフパネルを後ろ側に動かすと、それに押されてメインリンクが後ろに倒れていきます。ルーフパネルの角度は、メインリンクの角度、調整リンクの支点位置によって決まりますが、閉じていく過程では、ルーフパネルは徐々に前縁が持ち上がっていきます。
畳み始めは、リアウィンドウ側がたるみ、ルーフパネル前縁が持ち上がる。
この状態でのルーフパネル、メインリンク、角度調整リンクの状態。たるんだベルトは、ルーフパネルと幌骨Bをつないでいる。
リンク類の支点部分はカバーの内部に隠れている。
かなり収納された。メインリンクの中間部も幌生地に固定された場所がある。
前のほうから見たところ。中央部分に固定用フックが見える。
リンク類はすべて内部に収まる。
・リアウィンドウの収納
メインリンクが後ろに倒れると、連動して幌骨Aとそれにつながっている幌骨Bも後ろに倒れます。幌骨Bのベルトも緩み、後ろ側の幌生地全体がたるみます。するとリアウィンドウ下側の幌生地が緩んで下にさがり、幌骨Bによってウィンドウが斜め後ろ方向に押し込まれます。そして最終的に、幌収納部の最下部にほぼ水平に畳み込まれます。
リアウィンドウが内部に落ち込む。
・幌生地の畳み込み
幌骨Bは幌骨Aの途中の部分にピンで止められているので、リアウィンドウが十分に下に下がり、幌骨Bも収納部の底に近づくと、もうそれ以上は下がらず、以後、幌骨Aだけが収納部に倒れ込んでいきます。結果として幌骨A、Bは、ほぼくっついた状態で収納位置に収まります。どちらの幌骨も幌生地の内側に固定されているので、屋根後半部からリアウィンドウ上縁部までの幌生地は、幌骨の位置に応じてリアウィンドウ上部に畳み込まれます。
・収納してロック
ルーフパネルを後ろに下げ、メインリンクの大半が収納部に収まるくらいになると、調整リンクの支点位置の関係から、ルーフパネルは水平に近づきます。この状態でルーフパネルの前縁を押さえると、収納部に水平に収まり、ロックがかかります。この状態では、リアウィンドウ、後ろ半分の幌生地、ルーフパネルという形で重なっています。
すべて収納された。
幌を閉じる動作はこの逆になります。シートの間のロックレバーを操作するとロックがはずれ、スプリングの力でルーフ前縁が15cmほど持ち上がります。このスプリングも工夫されています。スプリングはメインリンクを起こす方法に働き、ルーフ収納時の幌の重量を支えること、そして収納状態から閉じ操作を始める時にポップアップさせる力を発生させます。この力をバランスよく生み出すために、単にメインリンクのピンのまわりにねじりスプリングを収めるのではなく、ピンから離れた位置にスプリングを配置し、そこからスプリングのねじれの力をリンク機構でメインリンクに伝えています。これにより、メインリンクの角度に応じて、スプリングのアシスト力がちょうどよく変化するようになっています。
アシストスプリング
■ウェザーストリップ
幌の畳み込みのために、幌とドアガラス、ボディが当たる部分のゴム製のウェザーストリップはいくつかに分割されています。合わせ目の部分は薄いゴムシートが重なるなどして、水が滲みないようになっているのですが、これらのゴムが経年劣化で固くなると水密が低下し、雨漏りなどの原因になるのではないかと思います。まぁ幌は基本的に消耗品なので、ある程度の年数が経過したら、交換することになるでしょう。
フロントウィンドウフレームと幌の合わせ目
ルーフパネルとメインリンクのつながる部分のウェザーストリップ
ボディとメインリンクの合わせ目のウェザーストリップ
NDの幌のウェザーストリップとドアのガラスの合わせ目はちょっと工夫されていて、ウェザーストリップ側の溝にガラスがはまり込むようになっています。単にゴムとガラスが当たるだけという構造に比べ、格段に水密性が向上していると思われます。この構造を実現するために、ドア開閉時にパワーウィンドウでガラスが自動的に上下するようになっています。
窓がしまっている状態でドアノブを引くと、ドアが開く直前にガラスが1cmほど下がり、溝との噛合がはずれます。そしてドアを閉めると、その直後にガラスが上昇し、溝にはまります。つまりドア開閉ごとにパワーウィンドウがちょこっと上下するのです。
耐久性に不安を感じる構造ですが、現行モデルの発売から4年で、特に問題になっていないようなので、大丈夫なのでしょう。しかし長く乗っていると、問題になりそうな気はします。
ガラスは、幌の開閉時にも自動的に下がります。窓ガラスと幌が閉じている状態でロックレバーを解除すると、ガラスが10cmほど下がり、幌のウェザーストリップから離れます。また幌を畳み、ガラスが一番上まで上がっている時に、幌を閉じる操作を始めると、やはり途中でガラスが10cmほど下がります。幌の開閉に伴う動作はガラスの下降だけで、元の位置に自動的に上昇するという機能はないようです。
幌生地のボディ側への固定は、ボディの内側部分で行われます。そしてボディ表面で幌に接する部分はゴムのストリップになっていて、内部に水が浸入しないようになっています。しかしこの部分はそんなに強力な防水構造にはなっておらず、多少の水は内部に漏れます。漏れた水は幌布の縁の部分を通って流れ、ドア開口部付近に達します。ここには床下に続く排水管があり、水は下に流れます。排水口部分にはトラップがあり、葉っぱなどの固形物で管が詰まらないようになっています。
このトラップ部は定期的に掃除しなければいけません。説明書によると年に1回程度となっています。幌を閉めた状態でシートの後ろに手を入れ、手探りで外さなければならないので、結構大変です。トラップ部は、プラスチックの目の荒いメッシュと、その上のスポンジ状のフィルターから構成されています。
トラップ部品
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