■ 古い発電機
家に古い発電機があります。購入したのは25年くらい前、買ってから数年間で10時間使ったかどうか。しばらく放置した後、ガソリンを抜いて物置へ。20年近く触っていなかったものです。
発掘直後の状態(エンジン操作側)
発掘直後の状態(発電機側)
今回、各部をきちんと整備/補修し、これの復活を試みます。要点は以下の2つです。
・エンジンを動かす
・発電機の機能の確認
さて、どうなることか? だめなら、また物置行きかな。
■ 発電機の構成
この発電機はホンダの1990年代のモデル、EG-1200Xというもので、120ccの4サイクルエンジン、単相100V、50Hzで1kVA、60Hzで1.2kVAの出力です。50Hzと60Hzは出荷時に設定されており、うちのは50Hzモデルです。インバータなどは搭載しておらず、エンジンを定速回転させて同期発電機を駆動し、一定の周波数の交流を発生させるというものです。
銘板
オルタネーターの記事でも説明しましたが、同期発電機は回転速度で出力周波数が決まります。出力電圧は回転速度と励磁電流が支配的な要素ですが、負荷電流により変動するので、回転子に供給する励磁電流を調整して一定電圧に制御します。出力負荷の変動は駆動軸トルクの変化という形で現れます。つまり出力電流が増えると、必要な駆動トルクが大きくなります。したがってエンジンで同期発電機を駆動する場合は、負荷(軸トルク)の大きさに関わらず、エンジンを一定速度で運転するという制御になります。もし出力に対して軸トルクが不足する、つまりエンジン出力に対して負荷が大きい場合は、エンジンの回転が下がり、出力周波数と電圧が低下します。
出力電圧は、発電機に備えられたレギュレーターで回転子の励磁電流を調整して安定させます。出力電流が増えると回転数低下や内部抵抗などにより出力電圧が低下します。すると励磁電流が増え、出力電圧を高める、つまり回復しようとしますが、励磁電流が最大になったら、以後は電圧も降下していきます。通常はこのような状態に至る前に、過電流遮断器により出力がカットされます。

発電機の構成
この発電機は、エンジンに組み込まれた遠心ガバナーとキャブレターのスロットルを連携させることで、一定速度での運転を実現しています。つまり負荷が大きくなって回転速度が低下するとガバナーのレバーが動き、それによってスロットルが開き、回転が上昇するという仕組みです。結果として負荷の大きさに関わらず、エンジン回転は一定になります。このやり方は負荷変動に対するタイムラグが大きいため、急激な負荷変動の時に周波数変化が起こりやすいという欠点がありますが、電球や熱器具、小出力モーターなどなら、問題なく使えます。電子機器は原則として使用禁止となっています(これについては後で触れます)。また大きなモーターなど、突入電流が大きいものの場合は、使用可能な電力が定格よりかなり小さいものに制限されます。
■ エンジンの仕様
使っているエンジンはGX120というホンダ製の汎用エンジンで、農機具、工事用機器などに組み込んで使うためのものです。この発電機は25年も前のものですが、GX120エンジン自体は、仕様変更などはあるものの今も現役のモデルです。
おおよその仕様は以下のとおりです(現行モデルのデータ)。
・空冷4サイクルOHVガソリンエンジン
・排気量118cc(ボア60mm、ストローク42mm)1気筒、圧縮比8.5
・シングルバレル、バタフライバルブキャブレター(ガバナー連動)、チョークバルブあり
・回転数調整レバー(ガバナーにより一定の回転数が維持される)
・最大出力2.6kW(3600RPM)、定格出力2.1kW(3600RPM)
・トルク7N/m(2000RPMから3600RPM)
・トランジスタマグネトー点火
・強制飛沫潤滑、潤滑油約0.6L
・重量13kg
エンジンのシリンダヘッド側
製品には出力の形態でいくつかバリエーションがあり、クランク軸でそのまま出力、減速機構が組み込まれたものなどがあります。EG-1200Xに使われているものは、クランク軸が発電機に直結で、クランクケース部品が発電機のハウジングの一部を兼用する構造になっています。つまり発電機専用エンジンとなります。50Hzモデルは3000RPM、60Hzモデルは3600RPMで、回転数調整レバーは半固定状態で、ユーザーが自由に回転数を変えることはできません。
■ 資料
発電機としての資料は製品に付属していた説明書しかありませんでしたが、ネットで現行GX120エンジンのパーツリスト(日本語版)を拾えたので、必要な部品の番号がわかります。ただし何度か仕様変更はされているようなので、部品によっては合わないかもしれません。また海外サイトで、サービスデータ資料(英語版)も拾えました。
その後、ホンダの国内サイトでもパーツリストなどが入手できました。
■ 整備を始める
燃料が抜いてあったものの、20年近く放置したエンジンがまともとも思えず、試運転の前にまずは一通りの点検整備をします。ガソリンエンジンの運転条件は、良好な混合気、圧縮、火花なので、まずは各部点検です。
パイプフレームの上半分を外します。エンジンのクランクケース上部に燃料タンク、シリンダ上にマフラーがあります。そしてシリンダーの向かって右側にキャブがあり、その上にエアクリーナーケースがあります。エンジンの向かって左側にあるのが発電機本体で、その上の赤いボックスにはコンセントと遮断器があり、内部にレギュレーターがあります。
発電機全景
■ エアクリーナー
本体のサビなどはおいておき、まずはエアクリーナーを見ました。長円形の金属枠の中に濾過紙が折り畳まれているエレメントの回りに、油(エンジンオイル)を浸したスポンジを巻きつけるという構造なのですが、25年の歳月により、スポンジはボロボロに風化していました。ペーパーのほうはまだ大丈夫そうなので、しばらくはこれだけを使います。
エアクリーナーケースのカバーを外した状態
エアクリーナーエレメント
■ タンク清掃
燃料タンクは、ガソリンを抜いて保存しておいたので、外観の多少のサビ以外は問題なく、内部はきれいなものでした。僅かに残っていた腐れガソリンをパーツクリーナーできれいにしておしまいです。ただしキャブにつながる燃料ホースは多少劣化が見られるので交換します。
燃料タンク
■ 圧縮
このエンジンはリコイルスタートなので、ロープを引っ張ればエンジンがまわります。とりあえずロープを引いてみて、固着していないこと、ガリガリした引っかかりなどがないことを確認しました。また適当な周期で圧縮抵抗がある、マフラー側からプシュッという排気があるので、とりあえずバルブの動作と圧縮はOKとして、作業を勧めます。ただエンジンオイルは20世紀のもの(新品時に入れたもの)なので、エンジンテストの前に交換します。
■ 点火系
このエンジンはマグネトー点火なので、外付けバッテリーがなくてもプラグに火花が飛びます。
プラグを外し、エンジンスイッチをONにしてリコイルを勢いよく引くと、一応プラグに火花が飛ぶことが確認できました。ただプラグ先端がだいぶ黒く煤けているので、新品のプラグを用意しました(BPR6ES)。新品のほうがきれいに火花が飛ぶような気がします。
プラグ
プラグコードの被覆のゴムがかなり劣化している感じですが、部品を変えると高いので、とりあえずこのまま使います。
次回はキャブ清掃を行います。