問題ない余計な部分をバラすというのは、大抵の場合、不幸の始まりなのですが、そんなことは気にしません。もともと使えなかったものなのですから。ただしクランクケースやシリンダヘッドは、ガスケット交換が伴うので(問題が見つからない限り)開けません。
■ 排気系
シリンダ上部に小さなマフラーが付いています。この大きさなので消音効果はたかが知れていて、はっきり言ってうるさいです。安全のために遮熱カバーで覆われていますが、それを外すと内部のマフラーが見えます。
シリンダー上部にマフラーがある(燃料タンクは取り外し済)
遮熱カバーを外したマフラー
■ ガバナーとスロットル
GX120エンジンにはクランクシャフトの回転で動作する遠心錘式のガバナーが装備されており、回転速度の上昇に伴って動くレバーがエンジン外部に備えられています。このレバーはリンクを介してキャブのスロットルレバーに繋がっています。このリンクにより、キャブのスロットル調整はガバナーレバーにより行われるようになります。
ガバナーレバーが動く様子
ガバナーレバーはエンジン回転の上昇により角度が変化しますが、この変化量を制御するためのスプリングが取り付けられています。回転数が上がるとエンジン上部にあるガバナーレバーが動きます。このレバーはスプリングで引っ張られており、このスプリングの力と遠心力によるガバナーレバーを動かす力が釣り合った位置で、ガバナーレバー角度が安定します。スプリングの力が弱ければレバーは大きく動き、強くするとレバーの動きは小さくなります。つまりスプリングが強く引いている時は、エンジン回転数が高くならないとレバーが動きません。エンジンの回転速度調整レバーは、このスプリングの力を調整します。 ガバナーレバーの動きはリンクでキャブレターのスロットルバルブにつながっています。エンジン回転数が変化すると遠心力が変化するのでガバナーレバー角度が変わりますが、これによりキャブレターのスロットルが制御されます。スロットルレバーは、回転数が下がるとスロットルがより開き、回転数が上がると閉じる方向に動作します。これにより負荷変動で回転数が変化した時にスロットル開度が変わり、回転速度が回復する方向に動作します。そして元の回転数に達した時点では、ガバナーレバーの角度とスロットル開度がバランスした状態になり、回転速度が維持されます。
このバランスする位置は、回転速度調整レバーにつながったバネの強さによって決まります。つまり回転速度調整レバーによって、エンジンは負荷状態に関わらず、レバー位置に応じた一定の回転速度を維持することになります。このあたりが、キャブのスロットルを直接操作するバイクや車のエンジンと違うところです。

出力調整レバー、ガバナーレバー、スロットルレバー
ガバナーとスロットルの連携
一般的な汎用エンジンでは、出力調整レバーをユーザーが操作できる構造になっていますが、発電機用エンジンではレバーに手で操作する部分がなく、調整ネジでポジションを固定するようになっています。つまりドライバーで調整ネジを回して、エンジン回転数を決めるのです。このエンジンは50Hz用、つまり3000RPMに調整済ですが、調整ネジを回すことで例えば60Hz用の3600RPMに変えることができます(発電機側に50Hz/60Hzの仕様があるのかどうかはわかりません)。
■ リコイルスターター
このエンジンは、リコイルスターターを手で勢いよく引くことで始動します。昔のロープを巻き付けて引っ張るタイプに比べるとお手軽です。
リコイルスターターのロープのリールにはゼンマイバネが内蔵されており、ロープを引き出した力を緩めると自動的にロープが巻取られます。
リコイルスターターの裏側
ロープを手で引いてリールが少し回転すると、回転するハブから爪が飛び出し、これがエンジンのフライホイールに取り付けられたカップリングの内部に引っかかり、エンジンが回転します。この引っかかりは方向性があり、リコイルスターター側の正回転はエンジンに伝わりますが、逆回転は伝わりません。またエンジンが回転してもリコイルスターター側に回転は伝わりません。従ってエンジンが始動した後は、フライホイールのカップリングだけが回転し、スターターのハブは回転しません。そしてロープを巻き戻すと爪が引っ込むので、スターターとエンジンの接触は完全に断たれます。
■ フライホイールと電気系
リコイルスターターを外すと、スターター用のカップリング、強制空冷用のファンが取り付けられたフライホイールが見えます。冷却風を誘導するシュラウドを外すと、フライホイール全体が見えます。
フライホイールカバーにリコイルスターターとエンジンスイッチがある
カバーを外したところ
ファンの中央部分にあるカップ状のものは、リコイルスターターの爪が噛み合うカップリング部品です。
フライホイールの外側(写真では左側)には、点火プラグ用の高圧パルスを発生させるマグネトーがあります。マグネトーは鉄芯入りのコイルで、フライホイール外周の1箇所に取り付けられたマグネットによって、1回転に1回、電気パルスが発生します。
フライホイール内側には、外部に電力を供給するための発電用コイルが取り付けられており、フライホイール内側のマグネットによって交流電流を発電します。このエンジンでは、フライホイールが1回転すると2サイクル分の交流が発生します(アナログテスターをつなぎ、フライホイールを手で回して電圧の振れを調べました)。ここで発生する交流の周波数を測定すれば、回転計がなくてもエンジン回転数を調べることができます。
マグネトーも発電用コイルも、フライホイールに取り付けられたマグネットがコイルの鉄芯近辺を通過することで、誘導起電力が発生します。
フライホイールはクランクシャフトにナットで固定されています。軸にはキーがはめ込まれているので、クランク位相とマグネトー用のマグネット位置は正しく維持されます。
■ 点火系
小型のバイク用エンジン、この種の汎用エンジン、航空機用エンジンなどは、外部電源を使わずに点火プラグ用の高圧パルスを生成できるマグネトーがしばしば使われます。エンジンの運転に外部電気回路が不要なので、運用が手軽になる、信頼性が高いというメリットがあります。
フライホイールの横に取り付けられているイグニションユニットは、イグニッションコイルが一体に組み込まれています。イグニッションコイルの1次側では、フライホイールのマグネットによってクランクシャフト1回転につき1回、電圧が発生します。これにより、巻数比の大きい2次側コイルに高圧が発生し、プラグコードを介してプラグ先端のギャップ部分で放電することで、シリンダ内の混合気に点火します。
4サイクルエンジンの場合は圧縮工程の最後に点火するので、クランクシャフトの2回転に1度、電圧を発生すればいいのですが、この構造では1回転ごとに火花が飛ぶことになります。つまり排気が終わり、吸気が始まるところでも火花が飛ぶということです。
エンジンスイッチ
エンジンにはエンジンON/OFFスイッチがあり、ONポジションでエンジンが始動可能で、動作中にOFFにするとエンジンが停止します。これはイグニッションコイルの1次側を接地するスイッチになっています。コイルの1次側が接地すると電圧が発生しないのでプラグで火花が飛ばず、エンジンが停止します。つまり普通のスイッチと逆で、接点が開いているとエンジンが運転できるということです。したがってこのスイッチの配線が外れたり、スイッチが壊れるとエンジンが止まらなくなります。セーフティ的にどうよと思いますが、構造を単純化することを優先しているのでしょう。バイクのエンジンスイッチもこのような構造のものがあります。ただバイクは人間の操作でエンジンを止められますが、発電機の場合、燃料カットしてしばらく待つか、プラグコードを抜くしかありません(感電するかも)。
またこのエンジンにはオイルアラートスイッチが組み込まれており、エンジンオイル液面が低下すると保護のためにエンジンが止まります。このスイッチも液面低下で接点が閉じるスイッチで、エンジンスイッチと並列に接続されており、アラート時に点火系を地絡して停止させます。
■ エンジンの発電コイル
写真はありませんが、フライホイールの内側には、発電用のコイルが置かれています。自動車の場合は、エンジンとは別体のオルタネーターをベルトで駆動しますが、小型エンジンの場合はフライホイール部分に一体で組み込まれることが多いのです。バイクや農機具用の汎用エンジンでは、ライトや保安部品などに電力を供給するために使われます。またスターターモーター付きの高級な製品の場合は、バッテリー充電にも使われます。
発電コイルからの配線には生の交流が出力されており、回転数によって電圧と周波数が変化します。そのため直流が必要な場合はレクチファイヤで整流する必要があり、ライトの点灯などを行うには、電圧を安定化するレギュレーターが必要です。
発電機用エンジンの場合は、安定化されていない交流のまま、発電機用のレギュレーターに接続されます。発電機のレギュレーターは、発電を始めるために回転子に励磁電流を供給しなければなりませんが、そのための電力をエンジン側からもらっているのでしょう。
GX120は、出力電圧が6V、12V、電力が25W、50Wが選べるようです。この発電機用エンジンでは、アイドル回転時15V程度出力されていたので、たぶん12V仕様でしょう。ワット数はわかりません。
次回は発電機側を見ていきます。