今回は発電機側を見ていきます。
■ 発電機
発電機は単相同期発電機で、回転子(界磁)、電機子とも2極なので、1回転で交流1サイクルが出力されます。つまりエンジン回転数が3000RPMで50Hz、3600RPMで60Hzとなります。周波数は前に触れたようにエンジン回転数のガバナー制御で安定化されます。
回転子は直流励磁タイプで、2組のスリップリングで励磁電流を供給します。出力電圧の制御は励磁電流の調整で行われ、電機子の主巻線はそのまま交流出力としてコンセントに接続されます。交流出力には、出力主回路の開閉、過電流保護のためのサーキットブレーカー(過電流遮断器)が組み込まれています。
発電機側
カバーを外したところ。左側にあるのが電機子巻線
電機子巻線には2系統の出力がある
回転子のスリップリング
回転子とファンの取り付けボルト
発電機の各要素について、以下にまとめておきます。
・主巻線
主巻線は発電電力を生成する固定側電機子巻線で、白、赤、薄緑の3本の配線が出ています。白と赤の2本は100V出力用で、もう1本の薄緑(たぶん電圧検出用)と白がレギュレーターに接続されます。
この巻線はフレームに接地されていません。測定値は以下のとおりです。
白−赤 0.3Ω、43mH
白−緑 0.4Ω、73mH
赤−緑 0.1Ω、4mH
・補助巻線
補助巻線はもう1組の固定側電機子巻線で、2本の配線(白地に黒)が出ています。主巻線より細い銅線が使われており、巻数も少ないようです。この巻線は主巻線とは接続しておらず、また接地もされていません。この巻線の2本の出力はレギュレーターに接続されます。
この巻線の測定値は以下の通りです。
0.6Ω、1.2mH
・回転子
ブラシとスリップリングを介して回転子に励磁電流が送られます。この配線は薄緑黒と薄緑白です。この巻線も接地されていません。測定値は以下の通りです。
92Ω、3.53H
・接地線
発電機のケースとレギュレーターを収めるボックスの金属ケースを電気的に接続しています。
発電機のエンジン側でないほうの軸端に回転子のスリップリングがあり、ベアリングから飛び出した軸端に発電機冷却用のファンが取り付けられています。回転によって外部から取り込まれた空気は回転子や電機子周辺を通り、発電機を冷却します。カバーを外した状態だとこの風が送り込まれないので、冷却不足になる可能性があります。特にエンジン側の発電機ケースはクランクケースと兼用なので、エンジンの熱が直接来ています。そのため発電機負荷が小さくてもケースが高温になるため、冷却は不可欠です。
ファンを止めている中央のボルトは長いもので、回転子をエンジン出力軸に固定する役割も担っているようです。
■ レギュレーター
発電機上部に取り付けられたボックスには、ブレーカーと出力用のコンセントが2口、接地用ターミナルが備えらています。
ボックス内部
コンセントとブレーカー
内部にはレギュレーター回路があり、発電機の出力電圧を制御しています。出力周波数はエンジン回転数制御で行われ、これはエンジン側の遠心ガバナーとキャブのスロットルを連携させることで実現されているので、レギュレーター側は何も関与しません。
レギュレーターとアース端子
ボックス中に置かれたレギュレーターには、以下の配線が接続されています。
・エンジンの発電コイル出力 2本
エンジンのフライホイール内側に設置されたコイルによって発電された交流電圧が接続されています。起動時の励磁電力供給に使われているものと思われます。
この発電コイルの配線の色は水色で、接地されていません。測定値は以下の通りです。
2.2Ω、11.3mH
・励磁電流 2本
スリップリングを介して、回転子に直流の励磁電流を送ります。これも接地されていません。
・補助巻線 2本
発電機の電機子には出力用の主巻線とは別に補助巻線があり、レギュレーターに接続されています。発電機運転中の励磁電力供給に使われているのではないかと思います。
・主巻線 3本
主巻線には中間タップがあり、全部で3本の線が出ています。このうちの白と薄緑の2本がレギュレーターに接続されています。白と赤は100V出力のタップです。
レギュレーター

発電機の全体構成
レギュレーターは樹脂封止されているので、内部の回路やどのような部品が使われているのかはわかりませんが、基本的な機能は、出力電流に関わらず、出力電圧を一定に維持するために励磁電流を調整することです。
発電機が始動した時点では、励磁電流はエンジン側の発電コイルからの電力を使っているものと思われます。この時点では発電機は回転しているものの、発電を開始していないからです。エンジン側からの電力で回転子を励磁すれば、発電機は電力を生成できます。すると補助巻線にも電圧が発生します。
また主巻線のタップもレギュレーターに接続されています。
内部構成がわからないのでなんとも言えないのですが、主巻線からレギュレーターへの接続は、出力電圧を監視するためのものと考えられます。この電圧の変動に応じて励磁電流を調整し、主巻線電圧を一定に維持しているのでしょう。
補助巻線からの電力は、運転中の励磁電流源かなと思いますが、確証はありません。エンジン側からの電力と自身の補助巻線の電力がどのように扱われているかの真相は、レギュレーターの樹脂の中です。
レギュレーターの内部構成は不明ですが、やっていることは明らかで、回転子の励磁電流の制御です。励磁電流が増えれば出力電圧が上昇し、少なくなれば電圧が低下します。この電流をうまく制御することで、発電機の出力電圧をほぼ一定に維持します。
■ 発電機として動かす
この発電機の出力は、50Hzモデルで1kVA(1000VA)、60Hzモデルで1.2kVA(1200VA)となっています。電気機器の消費電力などは一般にWで示されますが、発電機や変圧器などはしばしばWではなくVA(ボルトアンペア)で規定されています。これを皮相電力といいます。
Wは実際の消費電力で、有効電力といいます。VAは負荷電圧と負荷電流を掛けたものです。直流ならこれらは同じものなのですが、交流の場合は、誘導負荷(モーターなど)や容量負荷の場合に、話が変わってきます。抵抗負荷以外では電圧位相と電流位相がずれるため、電流が流れているにも関わらず、エネルギーとしては利用されないという場合があるのです。例えば100Vで5A流れているにも関わらず、電力値は100Wといった感じです。この場合、有効電力は100Wですが、皮相電力は500VAとなります。その差の400Wは無効電力となります。また有効電力の割合を力率といいます。
発電機の電流出力能力が例えば10Aの場合、100V×10Aで最大1000Wの電力を供給できますが、これは皮相電力となります。力率が1の機器であれば1000Wまで接続できますが、力率が0.5なら、消費電力が500Wの機器であっても電流は10A流れ、発電機の限界値になります。
またモーターのような突入電流が大きい機器では、突入電流が発電機の定格値を超える場合があるので、使用可能なW数はさらに小さくなります。まぁ実際には、突入で落ちなければそこそこ使えるのですが。
さて、組み上げた発電機が実際に機能するかどうかを確かめてみました。巻線類は事前のチェックで問題なさそうだったので、あとはレギュレーターが経年劣化で壊れていない限り、問題なく動くはずです。これは樹脂モールドされているので、実際につないで動かしてみる以外、調べる方法がありません。で、配線を接続し、エンジンを動かしてみました。結果は問題なし、あっさり動きました。
■ 仕上げ
発電機側の動作確認の後、フレームまで分解して、フレームなどの塗装をして作業は完了です。ガソリンを抜いて、再び物置にしまわれたのでした。
フレームを塗装
■ 電気が汚い
このクラスの発電機(数百VAから数kVA)の注意書きには、接続できる機器種別や消費電力が示されています。その中には、電子機器が接続できる、できないという項目があります。一般にインバータータイプの発電機は電子機器も含めてどんな機器でも接続できるのに対して、非インバーターの一般モデルは電子機器への給電を避けるように指定されています。これはどういうことなのでしょうか?
このクラスの発電機の発電出力にはいくつかの構成があり、それに応じた使用上の注意が示されています。
インバータータイプは、発電機で生み出した電力をCVCF(Constant Voltage Constant Frequency)という機器に送り、その出力が負荷に供給されます。CVCFは一定の周波数、一定の電圧を生成するインバーター電源装置のことです。つまり入力電力の電圧や周波数が変動しても、安定した出力が得られるというものです。CVCFはインバーターの一種です。インバーターには可変電圧、可変周波数のVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)というものもあり、モーター制御などに使われます。このBlogで以前に触れた(途中で止まってる)モーター用のインバーターは、VVVF装置です。
ちなみにインバーターとは、交流を出力する装置のことです。狭義では直流を交流に変換する装置ですが、一般の製品では交流入力のものも含めてインバーターと呼ぶことが多いようです。これは内部で一度直流に変換しています。インバーターに対して、交流を直流に変換する装置はコンバーターと言います。
インバータータイプの発電機の出力は、CVCFのおかげで電力会社から供給されるのと同等な正弦波で、負荷変動などがあっても電圧、周波数が安定しています。つまり商用電源と同等のクオリティが得られるということです。当然、使用する機器の制限はなく、電子機器でも問題なく使用できます。ただしインバーター回路の分、価格は高くなります。
ではCVCFを使っていない、つまりインバータータイプではない発電機は、どのような電気出力なのでしょうか? なぜ電子機器を接続してはいけないのでしょうか?
この疑問に正直に答えているサイトなどは意外とみつからず、誤動作したり最悪故障するとは書いてあっても、それがなぜなのかに触れていません。
前にも書きましたが、ガバナーによるエンジン制御は、負荷変動に対する応答性の悪さ(遅さ)という欠点があります。負荷が変化したことによるエンジン回転数の変動が物理的なガバナーとスロットルによって行われるので、回復に数百ミリ秒の時間がかかります。これは周波数の変動という形で現れます。
負荷変動に対する励磁電流の変化は、電子回路で行われているので周波数の回復よりは時間がかかりませんが、それでも交流のサイクルのオーダーでの回復時間は必要でしょう。これは電圧変動という形で現れます。
これらの変動は、通常の商用電源だったら事故とみなされるレベルのものです。そのため、電源系のノイズに弱い機器の誤動作が起こりえます。故障にまで至るかどうかはわかりませんが、頻繁に発生したら使い物になりません。
もうひとつ考えられることは、出力波形です。励磁電流制御レギュレータータイプの多くは、励磁制御が直流電流を変化させるのではなく、パルス幅変調(PWM)を行っています。回転子の巻線により多少の平滑化は行われるものの、磁力が変動することになるので、出力波形は正弦波ではなく、歪んだ形になってしまいます。これは出力電圧に周波数の高いノイズが乗っていることになるので、負荷によっては問題が起こる可能性があります。
今回は調べていませんが、以前、オルタネーターの交流出力の波形を調べた時は、励磁電流のPWM制御の影響と考えられる波形歪が見られました。
ほかにサイクロコンバータ式というものもあり、中間程度の性能です。