2020年08月22日

ミッションをばらす その2 −− クラッチの構造

 NDロードスターの6速マニュアルミッションの話の続きで、まずは全体像について説明します。今回入手したミッションは、クラッチの部品も一部含まれていたので、ミッションからはちょっと離れますが、クラッチ部分についても解説します。


■ 入手したミッション

 これはNDのオーナーや中古部品屋さんから直接入手したものではなく、個人売買です。別車種の改造用に入手したものの、うまく合わなかったために手放したということです。そのため部品の経歴(事故車取り外しとか部品として購入とか)はわかりません。パーツリストがないので正確なことはわからないのですが、貼り付けられているラベルの番号を見ると、かなり初期のもののような気がします。入手した時点では外装はかなりきれいで、またオイル類はすべて抜き取られた状態でした。
 車両からミッションを下ろす際に、最初にシフトレバーやクラッチレリーズシリンダーを外すので、中古部品として流通する際には、シフトレバー、クラッチ部品などは含まれていないことが多いのですが、今回入手したものは、MT本体に加えて、クラッチディスクとクラッチカバー、プロペラシャフト部のキャップ、シフトレバー(ノブなし)、シフトレバー部用のゴムブーツ2つが付属していました。

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 運搬中(後ろ側)

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 運搬中(前側)


■ ミッションの外観と全体構成

 FR車用のMTは、複数種類のエンジンに対応するために、エンジンと結合するクラッチ周辺部品(クラッチハウジング、クラッチベル)をミッション本体と別体化しているものもあるのですが、このミッションはベル部も一体化されています。そのため、接続部での明確な形状変化はなく、ベル形状が細長く伸び、ミッションケースの途中で滑らかに一体化しています。

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 ミッション全体

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 クラッチハウジングとミッションケース前側


 前側のクラッチベルとミッションケースが一体化した部品の後ろには、ミッションの内部で軸を支えるベアリングが組み込まれたベアリングハウジングがあります。これは薄い部品で、その後ろにインターメディエイトハウジングという中間部のケースがあり、さらに最後部にエクステンションハウジングが取り付けられます。メインドライブシャフト、メインシャフト、カウンターシャフトは、トランスミッションケース、ベアリングハウジング、インターメディエイトハウジングの3箇所のベアリングで支えられています。
 トランスミッションの構成は、前側から以下のようになっています。

・トランスミッションケース
 クラッチ、5-6速ギヤ、1-2速ギヤを収めています。メインドライブシャフト用ベアリングとカウンターシャフトの前側ベアリングが取り付けられています。

・ベアリングハウジング
 メインシャフト、カウンターシャフトの中間ベアリングが組み込まれています。シフトロッドのディテント(クリック感)、インターロック機構もここに組み込まれます。

・インターメディエイトハウジング
 3-4速ギヤを収めています。後端にメインシャフト用、カウンターシャフト用のベアリングが取り付けられています。

・エクステンションハウジング
 後退ギヤを収めています。最後部にはプロペラシャフトが挿入されます。後端上部にシフトレバーのマウント部があり、ケース上側にはシフト用のコントロールロッド類があります。また下側には、デフケースとつながるパワープラントフレームの取付部があります。


 これらのハウジングは、後ろに位置するエクステンションハウジング側から長いボルトによって、まとめて固定されています。つまり長ボルトはエクステンション、インターメディエイト、ベアリングハウジングを貫通し、トランスミッションケースのネジ穴と噛み合うという形です。ただしこのボルトを外してもすべてのケースがばらばらになる訳ではなく、位置決めピンやギヤ類の抜き取り作業が必要です。

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 ミッションの断面図


 各部の写真と簡単な説明を以下に示します。

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 ミッションの識別シール

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 シフトレバー取付部

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 ニュートラルスイッチ。反対側のボルトはもう1つのニュートラルスイッチ取り付け穴の栓。

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 後退スイッチ

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 ブリーザー


 ブリーザーは、ケース内外の温度差などにより圧力差が発生した時に、空気を通す部品です。水などが浸入しにくい構造になっています。


■ クラッチ

 ミッション内部に触れる前に、まず最前部にあるクラッチについて説明します。
 クラッチは普通の乾燥単板ダイヤフラムスプリング式で、ペダル操作により油圧で作動します。今回入手したミッションには、クラッチディスクとクラッチカバーが付属していました。レリーズシリンダーはありません。
 クラッチの構造を簡単に紹介します。

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 クラッチディスク

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 クラッチカバー(レリーズベアリング側)

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 クラッチカバー(プレッシャープレート側)


 エンジンのクランクシャフト最後部には回転を安定させるフライホイールがあり、クラッチ機構はフライホイールに取り付けられます。フライホイールにはクラッチカバーがボルトで取り付けられており、フライホイールと一体で回転します。ミッションの入力軸(メインドライブシャフト)に取り付けられたクラッチディスクは、フライホイールとクラッチカバーに挟まれる位置に置かれます。このような構造から、車両からミッションを取り外した時、クラッチ機構はエンジン側に残った状態で分離されます。つまりクラッチディスクとクラッチカバーはフライホイールに取り付けられたまま、ミッションのメインドライブシャフトを抜き取るという形になります。クラッチを作動させるレリーズカラーとレリーズフォークはミッション側に残ります。
 クラッチカバー内部で、クラッチディスクに接触するのは、プレッシャープレートという部品です。これはストラッププレートという板状の弾性部品でクラッチカバーに取り付けられており、クラッチカバー内で前後に移動できます。クラッチカバーとプレッシャープレートの間にはダイヤフラムスプリングという菊の花のような形状のスプリングがあります。このスプリングによりプレッシャープレートをフライホイール側に押し付ける圧力がかかり、結果としてフライホイールとプレッシャープレートでクラッチディスクを強く挟む形になります。この状態ではエンジン、つまりフライホイールの回転は摩擦力によってクラッチディスクに伝わります。

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 カバーとプレッシャープレートはストラッププレートでつながっている。


 フライホイールとプレッシャープレートは金属製、クラッチディスクは両側の表面にフェーシング材(摩擦材)が貼られています。両面のフェーシング材の間には、クッション機能を持つ部品があり、クラッチ接続時の衝撃を緩和します。
 ダイヤフラムスプリングは、クラッチカバー内の支点でカバーに固定されており、その支点よりも外側でプレッシャープレートを押しています。そしてダイヤフラムスプリングの中心部をフライホイール側に押さえ付けると、反対側がプレッシャープレートから離れ、プレッシャープレートにかかっている圧力が抜けます。

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 ダイヤフラムスプリングは固定用の支点で取り付けられている。


 クラッチディスクは、ミッション側のメインドライブシャフトとスプラインではまっているので前後動できます。そのためプレッシャープレートの圧力が抜けるとクラッチディスク自体も少し後ろにずれ、プレッシャープレートともフライホイールとも、接触圧力はなくなります。これにより動力の伝達が断たれ、フライホイールが回転してもクラッチディスクに回転は伝わりません。これがクラッチが切れた状態です。

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 クラッチディスクはスプラインでメインドライブシャフトにはまる。


 エンジン側のクランクシャフト/フライホイールとミッションのメインドライブシャフトは独立して回転でき、なおかつ同心状態を維持しなければならないので、フライホイール中心には、メインドライブシャフト先端が挿入されるパイロットベアリングが組み込まれています。
 プレッシャープレートがクラッチディスクに押し付けられている状態ではクラッチディスクはフライホイール、クラッチカバーと一体になって回転します。これがクラッチがつながっている状態です。

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 クラッチの構造


 クラッチディスクのハブ部分にコイルスプリングが見えますが、これは接続時の衝撃を緩和するためのものです。クラッチフェーシングを取り付けたプレートと中心のハブは別の部品であり、このスプリングを介して回転の力を伝えます。回転速度差が大きい状態での急な接続は大きなショックが発生しますが、そのような時に、このスプリングが縮むことで、回転方向の衝撃を緩和します。


■ 無駄話 −− コイルスプリングを使ったクラッチカバー

 乗用車のクラッチカバーはダイヤフラムスプリングを使っており、スプリングやプレッシャープレートは非分解構造なので、スプリング劣化やプレート摩耗などの場合はカバー全体を交換します。古い車や大型車両ではダイヤフラムスプリングではなく、コイルスプリングを使ったクラッチカバーもあります。以前乗っていたJeep J-58はコイルスプリングタイプでした。これは分解可能な構造で、使用部品もかなり多く、調整箇所もありました。

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 コイルスプリングを使ったクラッチ

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 クラッチカバーの構成


■ レリーズ機構

 ダイヤフラムスプリングはフライホイールと一体で回っており、中心部を押し込むことでクラッチが切れます。そのためのレリーズ機構はミッション側に組み込まれています。スプリング側は回転しているので、中心部を押し込むためにベアリングが使われます。ミッションのメインドライブシャフトを覆う形状のパイプ上を前後に摺動するレリーズカラーという部品があり、その先端にレリーズベアリングが取り付けられています。レリーズカラーが前側に動くとレリーズベアリングがダイヤフラムスプリングを押し込みます。レリーズベアリングは軸方向に力がかかるので、スラスト(アンギュラー)ベアリングが使われています。

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 レリーズカラー/ベアリングは前後に摺動する。

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 レリーズベアリングのダイヤフラムスプリング接触側。


 レリーズカラーの摺動は、レリーズフォークという部品で行います。これはミッションケース外側に取り付けられたクラッチレリーズシリンダーが押す力をテコの原理で向きを変え、レリーズカラーを強い力で前側に押します。ミッションケース内にはボール状の支点があります。ボールマウントなのでここはぐらぐらしてしまいますが、レリーズカラーに当たる部分が二股に別れて2箇所で接触するので、フォークに力が掛かっている間はちゃんと安定します。

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 レリーズフォーク

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 レリーズカラーのレリーズフォーク接触側。

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 フォークの支点のボール部。

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 取り外したレリーズフォーク。

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 レリーズフォークとレリーズカラー


 レリーズフォークはボールマウントに対して、クリップで取り付けられています。フォーク先端はカラーの金具に引っかかっているだけです。またミッション外部に飛び出す部分は、防水防塵のためにゴムブーツがはめられています。これらは簡単にはまっているだけなので、工具を使わずにすべて取り外すことができます。
 ボールマウントは、ディープソケットがあれば前から外せますが、ない場合は、レリーズフォークのための側面の開口部からストレートメガネを差し込んで緩めることができます。この部品はケースの固定には関与していないので、交換するのでなければ、はずす必要はありません。

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 ボールマウントの取り外し

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 レリーズフォークとボールマウント


 レリーズカラーとレリーズフォークの動く様子の動画です。



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 次回はミッションの前半分のケースを取り外します。



posted by masa at 11:24| 自動車整備