2020年08月23日

ミッションをばらす その3 −− ミッションケースの分離

 これからNDロードスターの6速ミッションの本体部分を分解していきます。修理のために降ろしたものではなく、オークションで入手したものなので、内部の状態は不明です。見た目は割ときれいで、各ギヤへのシフトは普通に行なえます。また手でメインドライブシャフトを回した限りでは、特に問題は見当たらないという状態です。
 今回はミッションの前半分を収めるミッションケースを分離します。

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 ミッションケース(赤丸の部分)は、クラッチハウジング、ミッションのギヤトレーンの前半分を収める。


■ 分解の準備

 まずミッション後端下部にある2本のスタッドボルトを取り外します。これはデフと結合するパワープラントフレームを取り付けるためのボルトなのですが、下に飛び出していて邪魔なので外します。十分な長さがあるので、ナットを2個取り付け、ダブルナットにしてレンチで外します。

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 ダブルナットでスタッドボルトを取り外し

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 スタッドボルト


 次にオイルを抜きます。ケース内のオイルはドレーンとフィラーのボルトを外して抜きます。シフトレバーのケース部分のオイルは、ドレーンボルトがないのでシリンジなどで抜きます。
 いざ抜こうとフィラーとドレーンのボルトを外したところ、オイルはすでに抜かれた状態でした。ドレーンボルトの先端にはマグネットが組み込まれており、摩耗した鉄粉などを集めるのですが、これもほぼきれいに清掃された状態でした。なので、オイルからは以前の状態はわかりませんでした。ただ、ケースを外した後の内部、わずかに残ったオイルを見た限りでは、ほとんど汚れていませんでした。

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 ドレーンボルトにはマグネットが組み込まれている。


 このMTは、メインドライブシャフト、メインシャフト、カウンターシャフトが組み合わされた状態で、中間に位置するベアリングハウジングに取り付けられています。その状態から前側のミッションケース、後ろ側のエクステンションハウジング、インターメディエイトハウジングを外すという手順になります。その途中で、分解の支障になる後退ギヤ、シフトフォークなどの部品を外していきます。
 ハウジング類を外したら、ギヤ、ハブ、シンクロなどをシャフトから外します。一部の作業に特殊工具やプレスの使用が指定されていますが、とりあえずできるところまでやってみます。
 組み立てる際には、再使用不可部品を新品にする、シール材(液体ガスケット)の使用、寸法調整などが必要になります。まぁこのあたりはいきあたりばったりで考えます。修理のための分解組み立てでないので気が楽です。
 ケースの分離は、整備書の手順では、前側のミッションケース、次に後ろ側のエクステンションハウジング、最後にインターメディエイトハウジングをはずしていくことになっていますが、この順序でなければならないという訳ではありません。自分でやった時は、ボルトを外した後、先にエクステンション側からオイルが漏れ始めたので、そちらを先に外しました。ここでは一応整備書の順序に従って解説していきますが、写真の内容は順序に違いがある場合もあります。
 3つのハウジングとベアリングハウジングは、共通のボルトで共締めされています。エクステンションハウジングとインターメディエイトハウジングの接続部にある長ボルトを抜き取ると、すべてのハウジングの結合が外れます。ただし内部で噛み合っている部品もあるため、これだけでハウジングを分離できるわけではありません。また各ハウジングの間は液体ガスケットでシールされており、これがけっこうしっかりと固着していること、ハウジング間の位置決めのためのピンの嵌合があるため、ボルトを抜いただけでバラバラになるわけではありません。プラハンマーで叩いたり、突起をバールでこじったりする必要があります。


■ フロントカバーの取り外し

 前側のハウジングはミッションケースという名称です。
 クラッチハウジングと一体になったミッションケースを分離するには、まずクラッチまわりの部品を取り外します。前回取り外したレリーズカラーとレリーズフォークはフロントカバーという部品に取り付けられています。フロントカバーは、カラーが摺動するパイプ部分と、ミッション前側のベアリングのカバーが一体化したものです。ベアリング部分はミッション内の潤滑領域なので、この部品でオイルをシールしています。またメインドライブシャフトをシールするためのオイルシールは、フロントカバー内部に取り付けられています。
 カラーとフォークを外すと、フロントカバーを外すことができます。これは6本のボルトで固定されているので、これを抜き取ります。このボルトのためのネジ穴は、オイルで潤滑されるミッション内部に貫通しているので、取り付けボルトのネジ部にシール材が塗布されています。シール材がないと、ボルト穴からオイルが漏れ出る可能性があります。フロントカバーはオイルをシールする部品なので、ミッションケースへの取付面に液体ガスケットが使われています。かなり強く貼り付いているので、こじって外します。ちゃんとバールを引っ掛けられるように突起が付いています。

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 フロントカバー。まだクラッチ部品が残っている状態。

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 フロントカバーからクラッチ部品、ボルトを外す。

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 取り外したフロントカバー。オイルシールが組み込まれている。

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 ボルトのネジ部にはシール材が塗布されている。


 カバーを外すと2個のベアリングが現れます。ここで使われているベアリングはゴムシールタイプでした。内部はグリース潤滑されていて、グリースが外に漏れないように、そして外部から液体や個体の異物が入らないように、ボール部がカバーされています。汎用ベアリングのカバーのタイプには、金属製で僅かな隙間があるもの、ゴムが接触して完全に密封されているものなどがあり、ここで使われているのは密封タイプでした。つまりベアリング内部には、ミッションオイルは浸入しないということです。ミッション内部はオイル潤滑なので、シールドのないオープンタイプが当たり前と思っていたので意外でした。ギヤなどの摩耗粉によるベアリング消耗を防ぐという話をネットで見かけたのですが、真実は不明です。
 この部分の2個のベアリングは、軸に圧入、ケースにはしっくり嵌めです。つまり軸からベアリングを抜くにはプーラー等が必要ですが、ケースからは力をかけずに抜くことができます。これらのベアリングのインナーの軸には位置決め用のスナップリングが取り付けられているので、ベアリングを抜き取るなら、これを外しておきます。
 ハウジングを固定しているボルトを外し、メインドライブシャフトベアリング外周のスナップリング(このスナップリングについては、少し後で説明します)を外してからてケースを前に引っ張れば、ケースを外すことができます。この場合、ベアリングは軸側に残せるので、軸のスナップリングを外す必要はありません。写真では軸のスナップリングを外しましたが、筆者が行った手順では、外す必要はありませんでした。つまりベアリング交換をしない限り、軸側のスナップリングを外す必要はありません。

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 軸から外したスナップリング


 ミッションケースの分離の作業用に、専用工具が用意されています。専用工具をフロントカバー用のネジ穴を使ってミッションケースにボルトで固定し、メインドライブシャフトをネジで押して使うというものです。整備書によれば、この段階でミッションケースとメインドライブシャフトのベアリングを引っ張り、メインドライブシャフトをギヤトレーン側に残したまま、ケースを外し、同時にメインドライブシャフトベアリングを抜き取るようです。ベアリングのアウターレースの外周部にはスナップリングがはめられており、これによりケースを引っ張るとベアリングもそれとともに引っ張られ、ベアリングがメインドライブシャフトから抜き取られるのです。このやり方をする場合は、メインドライブシャフト上のスナップリングを取り外しておく必要があります。

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 ベアリング外周にはまっているスナップリング

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 スナップリングを外す


 メインドライブシャフトのベアリングをはずす必要がない場合は、軸のスナップリングは外さず、ベアリング外周のクリップをあらかじめはずした状態でケースを引っ張れば、ベアリングをシャフトに残した状態でケースを抜き取ることができます。メインドライブシャフトベアリングとカウンターシャフトベアリングは、共にミッションケースに対してはしっくり嵌めなので、まっすぐ引けば、分離することができます。
 ここでちょっと問題が。。。ベアリングのアウターレースにはめられていたスナップリングは、おそらく再使用不可部品です。整備書ではベアリング外周のスナップリングの取り外しには記載がなく、パーツ単品では入手できない可能性があります。その場合はパーツはベアリングとセットになるため、結局ベアリングごと交換するか、あるいはスナップリングを再使用することになります。


■ ベアリングの圧入嵌めとしっくり嵌め

 ベアリングをケースや軸に取り付ける場合、圧入としっくり嵌めがあります。
 圧入は小さい穴に少し太い部品を、圧力をかけて、あるいは熱膨張を使うなどして取り付ける方法です。軸の場合は、ベアリングのインナーレース内径よりも軸の外形が太くなります。ケースへの取り付けの場合は、ベアリングアウターレース外形が取り付け穴よりも少し大きくなります。
 しっくり嵌めは逆で、穴よりも軸あるいはアウターレース径が小さくなります。わずかな隙間があるため、大きな力をかけずにはめることができます。
 ベアリングを介して軸をケースに取り付ける際は、通常はどちらかを圧入します。つまり軸に圧入して、ケースにはしっくり嵌めするか、あるいはケースに圧入して軸をしっくり嵌めにします。用途によっては両方とも圧入します。両方ともしっくり嵌めというのは、大きな力がかかる部分ではあまりありません。
 ベアリングを圧入嵌めするとき、そして外す時は、圧入されているインナーレースかアウターレースに力をかけるというのが基本です。軸に圧入ならインナーレースに力をかけ、ケースに圧入ならアウターレースに力をかけます。これはボールやローラー部分に過大なスラスト方向の圧力や衝撃を加えないためです。過度な圧力はベアリング内部の変形や傷の原因になります。
 組み立てはこれでいいのですが、分解は必ずしもこれが可能とは限りません。軸に圧入されたベアリングを抜く場合、プーラーはアウターレースにかけるこのが普通ですし、ケースに圧入されたベアリングをパイロットベアリングプーラーで抜く場合は、インナーレースに力がかかります。
 ベアリングメーカーは、内部のボール列などにこのような抜き差しの力が加わることを避けるように求めています。もし規定以上の力がかかるようなら、新品に交換することが推奨されています。
 ミッションなどの整備で分解する場合、ベアリングそのものの劣化が原因で取り外すなら、新品交換でなんの問題もないのですが、分解の都合上、不具合のないベアリングを外さなければならないこともしばしばあります。このような時も、理想的にはベアリングを新品にするのがいいのでしょうが、現実問題としては微妙なところです。手で回してみて、ガタや引っかかりがなければ再使用可能となっているのですが、実際は予防的に新品交換といったところでしょうか。
 この種の深溝ベアリングのガタを調べるときは、片手でアウターレースでつかみ、反対側の手の指でインナーレースにを広げるように支えます。そしてベアリングを回したりこじるように動かし、ガタを手で感じ取ります。この時、開放型ベアリングなら油分を落として調べられるのでわかりやすいのですが、グリース封入タイプだと、グリースの粘りによりガタがわかりにくいのです。NDのミッションはすべてグリース封入タイプが使われているので、慎重に見極める必要があります。実際問題としては、ミッション分解の手間とベアリングの価格を考えれば、安全のためにベアリング交換しておくのがいいでしょう。


■ ミッションケースの分離

 ここまで準備すれば、前側のミッションケースを外すことができます。今回はメインドライブシャフトのベアリングのアウターレースのスナップリングを外し、ベアリングをシャフト側に残すという形(整備書とは違う方法)で行いました。
 まずエクステンションハウジング側からボルトを抜き取ります。実際のケース分離ですが、液体ガスケットの貼り付きと位置決めピンの嵌合がかなり固く、また部品自体が大物だったので、プラハンマーではうまく隙間があきませんでした(先に後ろ側が外れてしまいました)。そのため、メーカー純正の抜き取りSSTを真似て、メインドライブシャフトに圧力をかけて外すことにしました。フロントカバー取り付けボルトのネジ穴に寸切りボルトをねじ込み、メインドライブシャフト先端を支点にして、この寸切りボルトをプーラーで引っ張る形で外しました。手間はかかりましたが、あっさりと外すことができました。

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 各ハウジングを固定しているボルトを外す。

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 抜き取ったボルト。

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 寸切りボルトをねじ込む。

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 プーラーをセット。

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 隙間ができた。

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 隙間ができた。

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 取り外したミッションケース。


■ ミッションケース内のギヤ

 このケースをはずすと、メインドライブシャフト、カウンターシャフトとメインシャフトの前半分がむき出しになります。メインシャフトには2組のシフトフォークも組み合わされています。

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 ミッションケースを外した状態。作業の都合で、エクステンションハウジングも外れている。

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 上側がメインドライブシャフトとメインシャフト、下側がカウンターシャフト。シフトフォークがスリーブを前後に動かし、ギヤを選択する。

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 右側からメインドライブギヤ、5速ギヤ、2速ギヤ、1速ギヤ。シフトフォークは5-6速用と1-2速用。


・メインドライブシャフト
 クラッチディスクが取り付けられていた軸がメインドライブシャフトです。これは、ケース前側のベアリングで支えられ、さらに同心に位置するメインシャフトと接する部分にもニードルローラーベアリングが組み込まれています。メインドライブシャフトのギヤ(メインドライブギヤ)は、下側にあるカウンターシャフトを駆動します。またこのギヤの後ろ側には、直結の6速用のクラッチのスプラインがあります。
 ケースを外した段階で、メインドライブシャフトはどこにも固定されていないのですが、6速用クラッチがカウンターシャフトのギヤと干渉するため、現時点ではメインシャフトから取り外すことはできません。

・カウンターシャフト
 メインドライブギヤで減速され、回転する軸です。前端はケースのベアリングで支えられています。この軸には、1速から5速、後退用のギヤが取り付けられています。ケースを外した状態では、シャフトの駆動ギヤと5速、2速、1速のギヤが見えます。

・メインシャフト
 ミッションの出力軸で、後端部でプロペラシャフトに接続します。ケースを外した露出部分の前端には6速(直結)と5速ギヤと結合するためのクラッチ機構一式があります。クラッチスリーブを動かすためのシフトフォークも見えます。
 その後ろには2速と1速用のギヤ、クラッチ機構一式があります。つまりこの部分では、メインシャフトにはクラッチハブが2セット、5速、2速、1速の3組のギヤが取り付けられていることになります。


 シフトフォークを動かすと、ギヤシフトの様子がわかりますが、遊ぶのはもう少し後にします。


■ ミッションケースの内側

 ミッションケースはクラッチ機構をカバーし、そしてミッションの前半分のギアセットを内部に収めます。各部を見てみます。

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 クラッチハウジング側。ギヤ部分のハウジングとクラッチハウジングの間に補強用リブがある。シール材が塗布されているのは、シフトロッド用のブッシュの取り付け穴。向かって右側の膨らみはスターターモーターのピニオンギヤ部。

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 ギヤケース側。シフトロッドがスライドするためのブッシュが取り付けられている。側面にオイルフィラーボルトの穴が見える。

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 次回はシフトレバー周辺を分解します。





posted by masa at 12:03| 自動車整備