シフトレバーはミッションの最後部に取り付けられている。
■ シフトレバー取付部
シフト機構のうち、シフトレバー周辺はエクステンションハウジングに組み込まれているので、これを見ていきます。
ミッションのエクステンションハウジングの最後部にシフトレバーが取り付けれています。ミッションを車両から降ろす際は、作業の都合上、事前にシフトレバーを取り外すのですが、ここでは動きを見るために、元通りにボルトで止めてあります。
ハウジングの最後部の上側に、シフトレバーをセットするベースとなるコントロールケースという部品が取り付けられています。そしてケース上部には、取り付けられたシフトレバーを固定する押さえ板がボルト止めされています。
コントロールケースとシフトレバー。
ミッションが車載されている状態では、シフトレバーだけが車内に位置するので、この部分には防水、防塵などのために2つのゴム部品が取り付けられます。
車内外を仕切るゴム部品
1つめの部品はコントロールケースにはめ込むこもので、この位置でミッションとボディの間をシールし、床下から水やホコリが車内に侵入するのを防ぎます。ミッションは走行負荷により左右に傾くので、中央部は蛇腹になっており、多少の前後左右の動きを吸収できるようになっています。
コントロールケースでシールするゴム部品。
もう1つのゴム部品は、シフトレバーの付け根でシールするシフトブーツです。これはシフトレバーとボディの間をシールします。シフトレバーは大きく動くので、ブーツ部分の蛇腹は大きな動きに追従できる構造になっています。このブーツは、車内から異物がシフトレバー周辺に入るのを防ぎます。またコントロールケースとシフトレバーの取付部は、特別なシール構造にはなっていないので、内部のオイルの臭いなどが多少漏れますが、このゴムブーツにより車内に臭いが侵入するのを防ぎます。
シフトレバーのブーツ。
実際の車内の内装は、このゴムブーツの上に、さらに革や布の素材のシフトブーツが取り付けられ、先端のネジ部にシフトノブが取り付けられます。
■ シフトレバーの動き
前に触れたように、通常はミッションを降ろす時点でシフトレバーとゴムシール部品は取り外されています(組付け時は、ミッションを固定した後、これらの部品をもとに戻します)。しかしレバーを取り付けるためのコントロールケースは、ミッションに取り付けたままです。
コントロールケース上部にボールマウントの台座があり、ここにシフトレバー下部のボール部(大きい方)がはまります。そしてその上に、ボールマウントの上側となる押さえ板をボルト止めします。このように組み立てることで、シフトレバーが自由に動ける状態で、コントロールケースに取り付けられます。
NDのマニュアルミッションは前進6速+後退1速で、レバーの3列の前後の動きで、1−2、3−4、5−6を選択します。後退は1−2列のさらに左にあり、レバーを押し込むことで1−2列より左にレバーが倒れ、その状態で前に倒します。
どれかのギヤに入れればレバーはそのポジションを維持しますが、ニュートラルの時は、手を離すとスプリングの働きで3-4列の中立位置に戻ります。
シフトレバーの動き。付け根の部分を見ると、押し込むとRに入れられる仕組みがわかる。
シフトレバーは前後左右に傾けられるように、レバーの支点部分は球体になっていて、これがケース側の球面で支えられます。上側のレバー押さえ板にも同じような球面があり、レバーの球体がこれに挟まれることで、前後左右へ倒す動きができます。単なるボールマウントだと、このような動きに加えて、レバーが自由に回転できてしまいますが、これは不要な動きです。シフトレバーを支えるボールマウントは、ケース側の左右からピンが飛び出していて、これがレバー側のボールの溝にはまります。これにより、レバーは前後左右に動きますが、ねじれるような回転の動きはできなくなっています。
シフトレバーと押さえ板。
レバーと押さえ板のボールマウント部。押さえ板の下側はボールマウントの上側を構成する。ボールの回転止めの溝も見える。
レバーと押さえ板を外した状態のコントロールケース。
コントロールケースのボールマウント。回転止めのピンが見える。
シフトレバーをボールマウント部に固定する押さえ板は、レバーが動く範囲を制約するリミッターの役割があります。前の動画を見てもわかりますが、この押さえ板の枠部分に、レバーの付け根にある八角形の部品が当たることで、前後方向、1-2列の左方向、5-6列の右方向の限界位置を定めます。NDは後退に入れる際にシフトレバーを押し込み、1-2列よりもさらに左に動かしますが、これもこの八角形の部品が関係しています。通常は1-2位置でレバー基部の左端が押さえ板の枠に接触しますが、レバーを押し込むことでこの接触部分が枠の下に下がり、レバーをさらに左に倒せるようになります。
押さえ板の枠とレバーの付け根の八角形の部品で、レバーの動作範囲が制限される。
1-2列で、八角形の部品が枠の左側に当たる。
レバーを押し込むと、八角形の部分の上側の細い部分が枠に当たる。その差の分、レバーは大きく傾く。
忘れがちですが、レバーを押した状態で前後や5-6列側に倒すこともできます。レバーを右側に倒した時に当たる枠部分は、1-2列側よりも厚くなっており、レバーを押した状態で倒しても、八角形の部品が枠に当たるようになっています。これにより、5-6列より右側に倒れることはありません。
またレーバーの前後についても、枠側が厚くなっており、押す押さないに関わらず、八角形の部品が枠に当たるようになっています。
5-6列、前後側は枠が厚いので、レバーを押していても八角形の部品が枠に当たるので、傾く角度は変わらない。
コントロールケースを取り付けているボルトを外せば、ケースをエクステンションハウジングから取り外すことができます。コントロールケース内部は、ミッションと同じギヤオイルを溜めて潤滑しています。今回は抜き取り済でしたが、車両から降ろした状態であれば、ここに300ccほどオイルがあるはずなので、分解の前に抜き取っておきます。オイルを溜める構造なので、コントロールケースもほかの部分と同じく、液体ガスケットでシールされており、ボルトを抜いた後、ちょっとこじって外します。
取り外したコントロールケース。
■ コントロールロッドエンド
シフトレバーのボールマウント部の下には短い棒が伸びており、その先は小さな球状になっています。この球状部分がコントロールケースの内部で、シフト操作のためのコントロールロッドという部品を動かします。
コントロールケースに取り付けられたシフトレバーの下端には、小さなボールがある。
コントロールケースを外すと、シフトレバー下端の小さなボールがはまるコントロールロッドエンドという部品が現れます。これはエクステンションハウジング内部に取り付けられたコントロールロッドという丸棒の後側に取り付けられています。コントロールロッドとロッドエンドは、ハウジングの中で前後と回転の動きができます。
コントロールロッドエンド
ロッドエンドにシフトレバー先端のボール部がはまる。
シフトレバーを動かすと、ボールマウント部を支点にして、レバーの動きと反対向きに下部のボール部が動きます。このボール部はコントロールロッドエンドの穴にはまっているので、ボールの動きに合わせてエンド部品とロッドが動くことになります。シフトレバーを前−後に動かすと、その向きと逆に下端のボールが動くので、エンド部品(及びロッド)は後−前に動きます。レバーの左−右の動きはボールの右−左の動きとなり、これによりロッドエンド部品は、ロッドを軸として左右に回転します。以下の写真は分解後に撮影したものなので、ロッドエンドがスプリングピンではなく、ビスで仮止めされています。
レバーを5-6列方向に倒した時のロッドエンドの状態(写真の上が前側)。
レバーを1-2列方向に倒した時のロッドエンドの状態。
レバーを前側に倒した時。
レバーを前側に倒した時。
実際にコントロールロッドエンドを動かしてみる。
このコントロールロッドの前後と回転の動きで、全部で4本あるシフトロッドを個別に動かし、シフトフォークを動かしてギヤの切り替えを行います。
コントロールロッドエンドの周辺には、シフトレバーの動きをサポートするための部品がいくつかあります。
シフトレバーはR列、1-2列、3-4列、5-6列の4列で前後に動きますが、ニュートラル状態で手を離すと3-4列に位置します。これはコントロールロッドエンドを両側からスプリングで押すことで実現しています。ロッドエンドの左右の張り出し部分の下に、スプリングが組み込まれたピンが斜めに取り付けられています。ロッドエンドが回転すると張り出し部分がこのピンを押すので、スプリングの力がロッドエンドを元の位置に戻そうとします。前の写真や動画を見ると、倒された側のスプリングが縮んでいるのがわかります。これが左右にあり、レバーが3-4列の位置にある時は、どちらのピンも伸び切った状態となり、押されません。これにような仕組みにより、レバーに力がかかっていないときは、3-4列に戻るのです。
レバーを右に倒すときは5-6列だけですが、左方向は1-2列とR列があり、左右で倒れる最大量が異なります。そのため1-2列とR列から戻すための右側のピンのほうが、ストロークが長くなっています。
コントロールケース上の押さえ板の枠とは別に、コントロールロッドエンド下部にも移動を制限する部品があります。コントロールケースの底の部分にボルトで取り付けられた鉄板の部品も規制用の部品です。エンドが5-6列側に倒れた時に、エンドの下側にある突起がこの部品に当たります。
底部に取り付けられた黒い鉄板は、コントロールロッドエンドの傾きを規制する部品(分解後に撮影)。
コントロールロッドエンドはロッドに差し込まれて固定されていますが、一緒にちょっと開いたコの字型の鉄板(次の写真の左側)がロッドに取り付けられています。これはロッドエンドが前後に動き、ケース内壁に当たる時の衝撃を緩和するためのクッションスプリングとして働くものと思われます。レバーを前後に動かした時、限界位置に達する直前に、このスプリングが作用してロッドエンドが壁に当たる衝撃を緩和します。つまりシフト操作時のフィーリングを改善するための部品でしょう。
コントロールロッドエンドと衝撃緩和用のスプリング。
■ エクステンションハウジング分離の準備
コントロールロッドの前側のロッドエンドは、エクステンションハウジング内でシフトロッドと噛み合っており、ここが引っかかったままだとハウジングを外せません。そのためエクステンションハウジングを外す前に、シフトレバー側のロッドエンドとコントロールロッドの結合を切り離しておきます。これでエクステンションハウジングを外す際にコントロールケース部分からロッドが抜けるので、支障になりません。
コントロールロッドエンドはスプリングピンという部品でコントロールロッドに取り付けられています(写真の赤丸部分)。ピンポンチを使い、ハンマーで叩いて抜き取ります。
エンド部品とロッドを貫通するようにスプリングピンを打ち込んで固定してある。
なおここまでの写真の一部は、分解後に撮影したため、スプリングピンではなくネジで仮止めしてあるものがあります。
■ スプリングピンとピンポンチ
スプリングピンは、バネ鋼の板材を丸めた筒状の部品で、合わせ目に隙間があるので、ピン外形より小さな穴に押し縮めて差し込むことができます。差し込まれたピンは弾性で広がろうとするので、その力によりその位置に留まり、部品を固定することができます。これは弾性と摩擦だけで止まっているので、穴径よりちょっと細いピンポンチという丸棒を当て、ハンマーで叩いいて抜き取ることができます。
ピンの打ち込み、抜き取りはハンマーで行いますが、このサイズのものであれば、釘を打つくらいの力で抜き差しを行えます。スプリングピンは弾性部品なので、再使用は不可で、組み立て時には新品に交換します。
スプリングピン
ピンポンチ
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次回は、ミッションの後ろ側のエクステンションハウジングを見ていきます。