エクステンションハウジング(赤丸)を分離する。
実際の作業では、前側のミッションケースより先にエクステンションハウジングを分離しました。最初に前側のミッションケースを外そうとしたのですが、先に後ろ側の嵌合が外れてしまい、残っていたオイルが垂れてきたため、急遽外したのでした。そのため、写真がうまく整合していない部分があります。
■ エクステンションハウジング
ミッション最後部のエクステンションハウジングは、以下の役割を担っています。
・プロペラシャフトの接続
プロペラシャフトは、ミッションのメインシャフト後端のスプラインに取り付けられます。メインシャフト側はミッションケース内の潤滑領域なので、オイルが外部に漏れないように、プロペラシャフトを差し込む部分はオイルシールで密封されます。
・パワープラントフレームの取り付け
ミッションとデフは、パワープラントフレームという構造材で剛的に接続されますが、その取付部はこのハウジングの後部となります。最初に取り外したケース下面に飛び出しているスタッドボルトは、この取付けボルトです。
・後退ギヤ
後退ギヤ関連の軸受は前側のインターメディエイトハウジングに組み込まれていますが、ギヤやシフトフォークなどはこのハウジングの中に収められます。
・シフトレバーとコントロールロッド/シフトロッド
前回説明したように、ハウジング後部上側にシフトレバーが取り付けられます。シフトレバーはハウジング内のコントロールロッドを回転、前後動させ、シフト操作を行います。そしてこのハウジング内で、ミッション内部でギヤの断切を行う4本のシフトロッドと噛み合い、そのうちの1本を動かします。
■ スイッチ類の取り外し
エクステンションハウジングを分離する前に、邪魔になるニュートラルスイッチ(エクステンションハウジング)とバックスイッチ(インターメディエイトハウジング)を外します。
ニュートラルスイッチは、エンジン制御などで使用されます。走行中は速度計に現在のギヤ段が表示されますが、これはクラッチがつながっている、かつミッションがニュートラルでない時に、エンジン回転数と車速から計算されるものです。ミッション自体に各ギヤポジションを認識するスイッチ類があるわけではありません。
またアイドリングストップのオプションを装備している場合もギヤのN状態を検知しますが、これには反対側の位置に専用のニュートラル検知スイッチをもう1個取り付けて使用します。このオプションを装備していないミッションでは、この取り付け穴はボルトで塞がれています。
ニュートラルスイッチはロッド上の刻みにより、コントロールロッドが前後方向の中立位置にあることを検出します。つまりシフトレバーの前後の動きが中間位置にある時に、ニュートラルと判断されます。
ニュートラルスイッチ
後退スイッチは、バックランプの点灯、後方センサー、リアビューカメラの制御などに使用されます。今回はコネクタのブラケットを取り付けたまま、モンキーレンチで外しましたが、コネクタのブラケットは爪で止まっているので外すことができます。これを外すとめがねレンチを使うことができます。
バックスイッチの取り付け穴は、内部にピンが入っているので、なくさないようにちゃんと抜いておきます。後退スイッチは、後退ギヤ用シフトフォークを取り付けたシフトロッドの途中にある刻み部分にこのピンが接触し、そのピンがスイッチの作動部が押して動作します。
後退スイッチ
可能ならブリーザーも外しておきます。ブリーザーは爪で止まっているのですが、このミッションのブリーザーは爪が折れており、すぐに取れる状態でした。爪できちんと固定されている場合、引っ張って抜けるのかどうかわかりません。抜けない場合は、ハウジング分解後に、内側で爪を押さえて抜く必要があるでしょう。
取り外したブリーザー。爪が折れている。
■ エクステンションハウジングの分離
ここまで準備すれば、エクステンションハウジングを外すことができます。以後の作業は、ミッションを立てて行ったほうが楽です。もし前側のミッションケースを外した後なら、いちど嵌めてしまうとよいでしょう。1回外した後なら、簡単に脱着ができます。
ボルトを外しても液体ガスケットが貼り付いているので、プラハンマーで突起などをうまく叩いて隙間をつくります。ケースの合わせ目には位置決めのピンがけっこう固めにはまっているので、あまりこじったりせず、慎重に隙間を広げていきます。
ピンが抜け、ハウジングを後ろにスライドさせると、コントロールロッドが本体側に残る形でハウジングを取り外せます。実際には少し引っ張ったところでロッドどうしの噛み合いをはずせます。またエクステンションハウジングに取り付けられたオイルガイドという細長い部品がミッション本体の内部に挿入されているので、それを曲げたりしないように注意します。
エクステンションハウジングを分離。
位置決めピンが見える。
エクステンションハウジングを取り外した状態。
取り外したエクステンションハウジング。
■ プロペラシャフト取付部
エクステンションハウジングの最後部には、プロペラシャフトが取り付けられます。これはボルトなどで固定するのではなく、単に差し込むだけです。トランスミッション内のメインシャフトの後端はスプラインになっていて、プロペラシャフトのユニバーサルジョイントがここに差し込まれます。プロペラシャフトは走行中に多少伸縮ができなければならないので、このスプラインは硬いはめこみではなく、前後に摺動できます。
プロペラシャフトの結合はこのスプライン部だけではなく、プロペラシャフトのジョイントの外周部とエクステンションハウジングも接触しています。プロペラシャフトを差し込む穴の内側はメタルベアリングになっており、プロペラシャフトのジョイント部はこのベアリングに接触しながら回転、摺動します。ここはメタルのプレーンベアリングなので給油が必要です。これはミッション内のギヤオイルで行われます。ギヤ類は下側がオイルに浸っており、回転によって巻き上げられたオイルで各部が潤滑されますが、プロペラシャフトのメタル部はギヤ類からはかなり離れた位置にあるので、オイルは十分に回ってきません。そのためギヤ周辺部からメタル部まで、オイルガイドという雨樋のような部品が取り付けられています。ケース内で飛散したオイルがこの雨樋によって後ろまで流れ、メタル部を潤滑します。メタルには、雨樋から流入するオイルを接触面に供給するための油穴と油溝があります。
プロペラシャフト取付部(ハウジング取り外し前)。
プロペラシャフト用のメタルベアリング。
メタルにオイルを導くオイルガイド。
ガイドはメタルの油穴まで続いている。
プロペラシャフト取付部は、オイルが外に漏れないように、そして外部から水やホコリがはいらないように、オイルシールが取り付けられています。オイルシールのゴムのリップ部がジョイント外周に接触し、シールしています。リップ部は2層あり、シール効果を高めています。2層の間の部分はグリース充填するようです。
オイルシールの外側には、さらに樹脂製のダストカバーがあります。プロペラシャフトが手元にないので正確なことはわからないのですが、ダストカバーはジョイント部とは接触せず、わずかな隙間があるようです。そのため完全な水密ではありませんが、走行中にシール部に到達する水や泥などを減らす効果があります。プロペラシャフトが回転している間は、この隙間部分に水分や土や砂などの固形物が来ても回転により跳ね飛ばされ、浸入しにくいのです。これによりオイルシール部に到達する異物が減り、シールの寿命を長くできます。とはいっても、この部分は隙間があるので、水分などの完全な阻止はできません。わずかに浸入した水分や細かいホコリを排出するための穴が、カバー下部にあります。
樹脂製のダストカバー。下側に水抜き穴がある。
■ コントロールロッド
エクステンションハウジングを切り離したところで、もう一度、コントロールロッドについて説明します。ハウジング分離のためコントロールケース内で、コントロールロッドとロッドエンドを切り離しました。これにより、エクステンションハウジングを抜き取ると、コントロールロッドがシフトロッドと噛み合った状態で本体側に残ります。
コントロールロッドはシフトロッドと噛み合っている。
コントロールロッドの先端には、シフトロッドエンドと噛み合うための突起がある。ロッド中間の刻みはニュートラルスイッチのためのもの。後ろ側の刻みは、シフトレバー下端の球状部の逃げ。
コントロールロッドの先端には突起があり、これがロッドの前後動、回転に応じて動き、4本のシフトロッドのうちの1本を動かします。まずこの動きを見てみます。
取り外したエクステンションハウジングに、コントロールロッド、ロッドエンド、コントロールケース、シフトレバーなどを取り付け、もとの状態に戻します。オイルガイドは曲げてしまいそうなので外しておきます。
エクステンションハウジングを組み立てる。オイルガイドははずしてある。
このように組み立てると、シフトレバーとコントロールロッドの動きを目で見ることができます。シフトレバーはコントロールロッドエンドの前後、回転の動きとなりますが、実際にそれを見てみます。
シフトレバーの動きとコントロールロッド先端の突起の動き。クリック感はシフトロッド側の機能なので、この状態ではレバーはぐにゃぐにゃ動く。
コントロールロッドの前側には突起がついています。シフトレバーの操作でこれが動きます。レバーの前−後の動きは、この突起の後−前の動きになります。左右への動きは逆向きの回転となります。
コントロールロッド先端の突起部分。
突起の回転。
先端の前後の動き。
この部分が、4本あるシフトロッドのうちの1本を動かすことで、実際のシフト操作が行われます。左右の回転で4本のうちの1本を選択し、そして前後の動きでそのロッドを前後に動かすのです。コントロールロッドのこのような動きに合わせるために、4本のシフトロッドの後端にあるロッドエンド(後退用はロッドエンドとシフトフォークが一体部品)は、それぞれにこの突起と噛み合うための刻みがあります。4個のロッドエンドは、突起の回転にうまく噛み合うように、刻みが扇形に並ぶような形状になっています。
ロッドエンドの刻みは扇型に並んでいる。
各ロッドエンドは4本のロッドに取り付けられている。
コントロールロッドエンドの突起は、この部分に写真に示したように噛み合います。これを見れば、コントロールロッドの回転で特定のシフトロッドエンドと噛み合うことがわかるでしょう。そしてコントロールロッドが前後に動くと、噛み合ったシフトロッドが前後に動きます。
コントロールロッドの突起とシフトロッドエンドの噛み合い。
コントロールロッドの前後動で、シフトロッドが前後に動く。中立位置から動くと、左右のロッドエンドに当たるため、コントロールロッドは回転できなくなる。
コントロールロッドによるシフトロッドの動き
シフトレバーは前後の中間位置でのみ左右に倒すことができ、そしてある位置で前後に動かした後は、中間に戻さない限り左右に動かないという動きは、このコントロールロッドと4本のシフトロッドの噛み合いによって行われます。各シフトロッドエンドは、コントロールロッドの突起と噛み合って前後に動きます。4本のロッドがすべて中立位置だと、突起が噛み合う刻み位置がすべて揃うので、ロッドは回転することができます。これが中立位置でレバーを左右に動かせる状態です。
ある位置でレバーを前か後に動かすと、噛み合っているシフトロッドエンドだけが前後に動くため、そのロッドだけ刻み位置がずれます。この状態では左右のシフトロッドエンドの刻みでない部分が、コントロールロッドの突起の左右の動きを阻害します。そのため何らかのギヤ位置に入っている時は、コントロールロッドは回転することができず、結果としてシフトレバーは左右に動けません。
レバーの動きが、コントロールロッドとシフトロッドの噛み合い部分で規制されるということは、ミッション本体と組み合わされていない状態で組み立てられたエクステンションハウジングのシフトレバーは、この規制がないということです。実際、レバーは自由自在に前後左右に動かすことができます。いわばグニャグニャな状態です。
■ 本当のダイレクトシフト
一般的なFR乗用車のマニュアルミッションは、配置の都合から、ミッションのプロペラシャフト側をちょっと後ろに伸ばし、その後端部にシフトレバーを取り付けるという構成が一般的です。そのため、シフトそのものはダイレクトに行われるものの、ロッドはかなり長くなります。NDのMTは、実は本当のダイレクトではなく、シフトレバー基部は1本のコントロールロッドを回転/前後動させ、そのロッドの先端で、各ギヤのための4本のシフトロッドを動かすという形になっています。つまり機構としては2段階になっています。FF車など、ワイヤー伝達しているものに比べればダイレクト感がありますが、シフトレバーが直接シフトフォークを動かすという意味では、ダイレクトではありません。
ミッションケースの真上にシフトレバーが生えているという構成のミッション、あるいはレバーが後ろ側でも、すべてのシフトロッドがレバー位置まで伸びている構造なら、本当のダイレクトシフトが可能になります。以前乗っていたJeepのMTはこのような構造で、シフトレバーの基部が、直接3本のシフトロッドを前後させる構造でした。
シフトレバーが直接シフトロッドを動かしている。
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次回は、エクステンションハウジングの取り外しにより露出した後退ギヤについて説明します。