2020年09月10日

ミッションをばらす その7 −− 後退ギヤの分解

 後退ギヤの構成については、前回紹介しました。今回は後退ギヤを分解します。これによりインターメディエイトハウジングを分離することができます。


■ 後退ギヤの分解

 メインシャフト上には、インターメディエイトハウジングのベアリングの直後に、後退ギヤがあります。これはアイドラーギヤを介してカウンターギヤにより回転します。この後退ギヤとメインシャフトの間には、ニードルローラーベアリングが置かれています。後退ギヤの後ろ側はクラッチ用のスプラインになっていて、シンクロナイザーリングをはさんで、メインシャフトに固定されたクラッチハブがあります。そのためこのクラッチハブを外さないと、後退ギヤとクラッチスリーブ、シフトフォークなどを抜き取れません。
 アイドラーギヤは軸に差し込まれているだけですが、これもメインシャフトの後退ギヤの部品が干渉するため、これらを外した後でないと抜き取れません。
 カウンターシャフトの後退ギヤは、カウンターシャフトベアリングの外形より小さいため、外さなくても分解を進められます。整備書ではシャフトの分解の段階ではずすことになっていますが、作業がやりやすいので、この段階で外しておきます。


■ クラッチハブの固定ワッシャー類の取り外し。

 まず後退用クラッチハブをはずすために、ハブの後端にあるスナップリングを外します。これでその前にあるワッシャーを外すことができます。ワッシャーをはずすと、半円弧のCワッシャーが2個現れます。これがシャフトの溝部にはまり、ハブがずれないように固定しています。最初に外した厚手のワッシャーは、Cワッシャー側に段差があり、Cワッシャーはこのワッシャーの内部にはまる形になります。つまりCワッシャーは、厚手の段付きワッシャーによりメインシャフト上に固定され、そしてこのワッシャーは、スナップリングにより動かないようになっているという形です。

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 クラッチハブの後ろにワッシャーとスナップリングがある。

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 ワッシャーを外すと2個のCワッシャーがはまっている。ワッシャーの裏側は、Cワッシャーがはまるようになっている。

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 2個のCワッシャーは軸の溝部にはまっている。


 2個のCワッシャーはクラッチハブを固定する際の厚さ調整部品なので、組み立て時には厚みを調べて適当な部品を選択する必要があります。


■ クラッチハブの取り外し

 クラッチハブはセレーション嵌合なので、メインシャフトに固くはまっている場合はプーラーを使って抜き取ります。

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 ワッシャー類を取り外した状態。


 ワッシャー類を外し、拘束する部品がなくなったら、プーラーをセットします。クラッチハブにはうまくプーラーを掛けられる場所がないので、整備書では、プーラーをシフトフォークにかけ、シフトフォーク、クラッチスリーブ、シンクロナイザーリング、クラッチハブをまとめてはずすように指定されています。プーラーはメインシャフト後端にネジ部をセットするので、ここから後退ギヤの位置まで、非常に長い爪が必要です。SST(専用工具)があるのですがわざわざ購入するのもなんなので、別の方法を考えます。
 後退ギヤ周辺にはほかの部品もいろいろあるので、二つ割りタイプのベアリングセパレーターは取り付けられません。使えるのは薄爪タイプのものだけです。そこでネジで固定するタイプのプーラー爪を寸切りボルトで延長して使うことにしました。ただしこのやり方だと、爪を押さえつけるための部材がないので、引っ張ったらはずれてしまいます。そのため、シフトフォークを挟む部分を木工用クランプで挟んで固定することを考えました。

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 整備書によるプーラーセット位置。


 いろいろ考え、ツールも用意したのですがの、実際の分解では、後退用のクラッチスリーブを何回かガツンガツン当てたらあっさりと嵌合が外れ、抜き取ることができました。そのためこの方法は試していません。
 クラッチハブは、前進用のものと異なり、スリーブがギヤ側にあるので、ハブには付加的な部品はありません。クラッチスリーブと噛み合うスプラインは全周ではなく、一部が平らになっています。

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 取り外したスナップリング、ワッシャー、クラッチハブ。

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 クラッチハブの後退ギヤ側には油溝がある。Cワッシャーは厚手のワッシャーの段差内にこのようにはまる。


■ ギヤ類の取り外し

 クラッチハブのセレーション嵌合がはずれてしまえば、あとははまっているだけなので、順に取りはずしていきます。
 クラッチハブを抜き取ると、シンクロナイザーリングが現れます。シンクロの動作を伴う具体的な動きについては、前に触れたように、前進のシンクロといっしょに説明します。

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 写真ではクラッチスリーブがシンクロナイザーリングの位置までスライドしている。


 シンクロナイザーリング、クラッチスリーブ、シフトフォークをまとめて外すと、後退ギヤが現れます。後退ギヤはメインシャフト上で自由に回転できるので、ニードルローラーベアリングが使われています。ギヤ部とクラッチ部のスプラインは一体になっています。このギヤはスリーブがギヤ側にはまっているので、スプライン部が前進用のクラッチハブと同じくらいの厚みになっています。またクラッチスリーブはここにはまっているので、スプラインの端部にチャンファ加工はされていません。

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 後退ギヤ。中心部にニードルローラーベアリングが見える。


 ギヤを抜き取るとニードルローラーベアリングがあります。メインシャフト軸部にはセレーション加工などがあるので、ベアリングとシャフトの間にインナーレースとなるスリーブを置いています。ギヤと前側のベアリングの間にはスラストワッシャーが挟まれています。

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 後退ギヤは、ニードルローラーベアリングを介している。

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 ニードルローラーベアリングの下にスリーブ、スラストワッシャーがある。

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 すべて外した状態。


■ クラッチスリーブ、シンクロナイザーなど

 クラッチスリーブとシンクロナイザーリングをいっしょにはずしましたが、これをちょっと見てみます。動作の詳細は前進用のシンクロ機構のところでいっしょに説明します。
 後退用のシンクロナイザーは略式なシングルコーンタイプです。シンクロナイザーリングは後退ギヤといっしょに回転しますが、この連動にはシンクロナイザーキーを使っておらず、ハブ側の刻みとリング側の突起の噛み合いで行われます。シンクロナイザーキーには、リングに圧力をかける働きがありますが、後退ギヤではキーがないため、代わりにリング状のスプリングを使っています。

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 取り外したクラッチスリーブとシンクロナイザーリング。

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 シンクロナイザーリングには、リング状のスプリングがはまっている。。突起部分が後退ギヤのスプライン部の刻みにはまる。


 後退ギヤには厚めのスプライン部があり、ここにクラッチスリーブがはまります。クラッチスリーブと後退ギヤのスプラインは、リング状のキースプリングとの兼ね合いで、歯の一部の形状が異なるため、一定の角度でしか組み合わせることができません。このあたりの詳細については後で説明します。

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 後退ギヤ。クラッチスリーブがはまる構造になっているのがわかる。3箇所の刻みはシンクロナイザーリングと噛み合う部分。

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 ベアリング側(スラストワッシャーがはさまる)には油溝がある。


 スリーブをスライドさせるシフトフォークは、ロッドエンドと一体になっています。これによりスリーブが後ろ側に移動し、後退ギヤがクラッチハブに噛み合います。

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 後退ギヤ用シフトフォークは、ロッドエンドと一体になっている。


■ アイドラーギヤ

 インターメディエイトハウジングの取り外しに関して、アイドラーギヤは支障にならないのですが、これは単に軸にはまっているだけなので、この時点で外しておきます(後退ギヤが付いている状態では、クラッチハブに干渉して外すことができません)。
 シャフトにニードルローラーベアリングが組み込まれ、ギヤの前後にスラストワッシャーがあります。前に触れたように、ギヤの片側(後ろ側)に、ゴム製のフリクションダンパーが組み込まれています。今回のMTでは、このゴムが破損していました。いつ破損したのか、原因などは不明です。

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 アイドラーギヤとカウンターシャフトの後退ギヤ。カウンターシャフトのロックナットははずされている。

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 アイドラーギヤを外すとニードルローラーベアリングが見える。

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 ベアリングとスラストワッシャーを外した状態。


■ カウンターシャフト

 カウンターシャフトの後退ギヤは、ベアリング外径よりも小さいので、外さなくてもインターメディエイトハウジングを分離することができます。しかしケースに収められている時のほうが作業を行いやすいので、筆者はこの段階でロックナットを緩めておきました。
 このギヤは、ロックナットでカウンターシャフトに固定されています。このロックナットはシャフト上にあるキー溝のような部分で、ナットの一部を変形させて食い込ませることで、緩まないようにしてあります。まずこの食い込み部分をドライバーなどで起こして回転に支障がないようにし、その後に緩めます。とはいっても完全に起こすのは難しく、ある程度変形させたら、あとは力づくで緩める感じでした。

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 カシメられたロックナット。

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 きれいにはできない。


 普通にレンチで緩めると軸が回ってしまうので、インパクトレンチで緩めました。ハンドツールで緩める場合は、シャフトが回転してしまうので、それを防ぐために前側にある前進ギヤを2つ以上同時に噛み合わせて、シャフトが回転しないようにロックします。そのためこの作業は、ハウジングを外した後でなければおこなえません。インパクトレンチを使えば、軸をロックしなくてもナットを外せます。整備書の手順では、ハウジングを外したあと、後で説明する二重噛合状態にして軸をロックして緩めることになっています。

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 はずしたロックナット。


 歯車自体はセレーション嵌合で取り付けられています。硬ければ薄爪タイプの汎用アマチュアベアリングベアリングプーラーなどを使って外すことができます。

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 次回は、エクステンションハウジングを取りはずし、ギヤトレーン全体の構成を説明します。

posted by masa at 09:46| 自動車整備