2020年09月14日

ミッションをばらす その10 −− シフトフォークの分解

 前回、シフトロッドに関する機構を説明しました。今回はシフトロッドの抜き取りとシフトフォークの取り外しを行います。

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 1-2速、5-6速のシフトロッドとシフトフォーク。


■ シフトフォークの分離

 シャフトのギヤ類を分解する前に、まずシフトフォークをはずす必要があります。シフトフォークはシフトロッドにスプリングピンで固定されているので、これをピンポンチで抜き取ります。ロッドとフォークが自由に動くようになれば、ロッドを抜いてシフトフォークをクラッチスリーブから外すことができます。

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 シフトロッドとシフトフォークはスプリングピンで固定されている。


 ピンポンチでスプリングピンを抜き取る時には注意が必要です。現時点でロッドは中央のガイド穴とクラッチスリーブで支えられているだけです。この状態でおかしな方向にフォークに衝撃を与えると、ロッドが曲がったりスライド穴が痛む可能性があります。それを防ぐために、打撃時の衝撃がなるべくロッドに伝わらないように、フォークをうまく木の台の上に置くなどして抜き取るほうがいいでしょう。写真では直接ピンポンチを当てていますが、実際の抜き取りは、ミッションを転がしてシフトフォークを木材の台で支えるなどして行います。


■ シフトロッドの抜き取り

 シフトフォークとロッドを固定するスプリングピンを抜けば、フォークをスリーブの位置に残したままロッドを抜き取ることができます。ロッドが抜ければ、フォークをスリーブからはずせます。
 注意しなければならないのは、ディテントとインターロックのための部品です。前に説明したように、ディテントはロッドの動きにクリック感を与えるためのスプリングやボールを、インターロック機構は、複数のロッドが同時に動くことを防ぐための小さなピンを使っています。これらの部品の取り外しの順序を誤ると、作業がとてもやりにくくなります。ロッドの抜き取りが、インターロック機構により妨げられてしまうのです。
 いずれかのロッドが中立位置から動いていると、インターロック機構により、ほかのロッドは動かなくなります。そのためロッドを抜く際は、ほかのロッドは中立位置になければなりません。インターロック機構はかなり精密にできていて、ロッドがちょっとでも中立位置からずれていると、ほかのロッドが動かなくなります。もし先にディテント部品を外してしまうと、ロッドにクリック感がなくなり、自由に動いてしまいます。そのためすぐにロッドがずれてロックしてしまい、抜き取りに難儀します。
 これを防ぐために、ディテントスプリングを押さえるボルトは、抜き取るロッドのもののみを取りはずします。それ以外のロッドについてはディテントを有効にし、中立位置を保つようにします。ロッドの動きが硬いと思ったら、軽く緩める程度にしておきます。これによりロッドがずれることを防げます。
 ロッドの取り外し順序は以下のようになります。


1. 後退用シフトロッド

 後退用のシフトフォークは、インターメディエイトハウジングを分離する前に、後退ギヤといっしょに外しました。ロッドもこの時にいっしょに外せますが、一応ここで手順を示しておきます。
 まず、後退スイッチを外します。内部にピンがあるので、無くさないように一緒に取り出しておきます。次にベアリングハウジング側面にある後退用のディテント用ボルト(1個だけ独立したもの)と金属ボールをはずします。これはボルトの内部にスプリングが組み込まれており、その奥にスチールボールがあります。これらを取り出します。これにより、後退ロッドのクリック感がなくなります。

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 後退用スイッチと作動用ピン。

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 後退ロッドのディテント用のボルトとボール(前掲)。


 前進用の3本のロッドが中立位置であれば、この状態で抵抗なく後退用ロッドを後ろ側に抜き取ることができます。ロッドを抜き取ると、ベアリングハウジング内のロッド間の穴の中にインターロック用のピンがあります。ディテントボルトの穴からマグネットなどを差し込み、インターロック用のロッド間ピン(太くて短い)と1-2速ロッド用のピン(細くて長い)を取り出します。これらのピンは小さい部品で、ミッションを動かしたりするといつの間にか抜け落ちたりするので、はずせるようになったらすぐに回収しておくべきです。

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 インターロック用のピン。


2. 1-2速用シフトロッド

 後退用ロッドの1本となりの1-2速ロッドを外します。まずこのロッド用のディテントボルトを外し、中からスプリング、スプリングシート、スチールボールを取り出します。残り2本のロッドが中立位置なら、これでフォークをスリーブ上に残したまま、このロッドを抜き取れます。ロッドを抜けばフォークもはずせます。

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 ディテントボルトをはずし、1-2速ロッドを抜き取っているところ。ディテント用の刻みが見える。

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 取りはずした1-2速ロッドとシフトフォーク。各ロッドは長さ、スプリングピンの穴位置などが異なる。


 ロッドを抜いた後、後退ロッド用のディテントボルト穴、あるいはこのロッド用の穴を使い、ロッド間ピン(太くて長い)とロッド用ピン(細くて短い)を1個ずつ取り出します。


3. 3-4速用シフトロッド

 1-2速用と同じ手順です。ディテント部品を外し、残り1本のロッドを中立にすればロッドを抜き取り、フォークをはずせます。抜き取った後に、ロッド間ピン(太くて長い)を1個取り出します。

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 抜き取る前の3-4速ロッド。3-4速はベアリングハウジングより後ろなので、ロッドは短く、前側には伸びていない。

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 ロッドを抜き取り中。

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 3-4速用ロッドは短い。


4. 5-6速用シフトロッド

 この段階ではインターロック用のピンは残っていないはずなので、最後の1本のロッドは、ディテント部品を外せば抜き取れます。5-6速ロッドには、ほかのロッドにはない部品が途中に取り付けられています。これは3-4速ロッドを支えるような部品で、ストッパブロックという名称なので、一部のロッドの動きを制約するものでしょう。機能を確認する前に分解してしまったので、現時点では機能はよくわかりません。

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 5-6速ロッドにはシフトフォークと別に、ストッパブロックという部品が付いている。

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 ストッパブロックの形状。


■ ベアリングハウジング

 ここではディテント部品を外してからロッドを抜きましたす。ディテント部品を外さなくてもロッドは抜けるのですが、抜いた途端にスチールボールが飛び出すので、紛失防止のため、先に外しておいたほうがいいでしょう。

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 ロッドとフォークをすべてはずした状態。


 ロッド類をすべて外したベアリングハウジングを見てみます。
 ディテント機構は各ロッドごとに必要なため、3本並んだ前進用のロッドについては、ミッション側面からボールを押し付けるようにボルト穴があります。
 後退用を含む各ロッド用のスライド穴を貫くように空いているインターロック用の穴の延長上に、後退用のボルト穴があります。この位置に何らかの穴がないと、ハウジングのインターロック用の穴加工や組み立て/分解が困難です。そのため後退用ディテントボルトのみ、この位置にあります。この位置関係により、前進用のロッドはディテント用の刻みとインターロック用の凹部は90度の角度で加工されていますが、後退用ロッドは、ボルト穴の位置が異なるため、180度の角度になっています。

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 ベアリングハウジングを貫通するロッド用のスライド穴と、ディテントボルト用のネジ穴。後退用ディテントボルト穴は、インターロック用の穴のために、側方に配置されている。

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 ロッドのスライド穴の中に、インターロック用の貫通穴が見える。


 ロッドを抜けばシフトフォークをはずせるので、この段階ではクラッチスリーブはそれぞれを自由に動かすことができ(インターロックされない)、二重噛み合わせにできます。つまり複数のギヤを同時に噛み合わせることです。こうするとメインシャフトはまったく回転できなくなります。後でメインシャフトのナットを緩める際に、この二重噛み合わせを利用します。


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 次回はいよいよメインシャフト、カウンターシャフトの歯車類を取り外していきます。
posted by masa at 03:13| 自動車整備