このあたりを分解していく。カウンターシャフトのベアリングは抜きかけ。
■ メインシャフトとカウンターシャフト
メインシャフトとカウンターシャフトは、中央部のベアリングに対して前側に抜く形になるので、そのためにまず後ろ側に位置する歯車やハブを外さなければなりません。これらのシャフト上には、いろいろな直径の歯車やハブが相互に食い込むように並んでいるため、それぞれのシャフトから適切な順序で部品を外していく必要があります。
メインシャフトにはベアリング、クラッチハブ、各段のギヤなどが取り付けられています。軸に固定されたハブと回転できるギヤ、さらにその間のシンクロメッシュ機構やスリーブなども関与するので、メインシャフトはかなり複雑な構造です。
カウンターシャフトは、中央部のベアリングハウジングの前と後ろで構成が違います。シャフトを抜き取れるように、中央のベアリングより後ろの歯車ははずせるようになっていますが、前側の歯車、つまり最前部のドライブギヤ、5速、2速、1速ギヤはシャフトと一体成型されており、分離できません。カウンターシャフトの歯車はすべてシャフトに固定されており、シャフトといっしょにまわります。そのため取外し可能な後ろ側の歯車類はすべてセレーション嵌合になっています。分解の際、固くはまっていたらプーラーで抜き取る必要があります。
カウンターシャフト後端に取り付けられた後退ギヤは、カシメて止めるロックナットで固定されています。このギヤはベアリングの直径より小さいため、抜き取らなくてもインターメディエイトハウジングをはずことができます。しかし後退ギヤを止めているナットは、ハウジングがある状態のほうが外しやすいので、前に説明したように、あらかじめインパクトレンチで緩めておきました。
■ シャフトの後ろ半分の分解
これから2本のシャフトを後ろ側から分解していきます。メインシャフトとカウンターシャフトの後ろ側から適宜ベアリング、歯車などを外していくのですが、これらの歯車やクラッチハブは互いに干渉するので、適切な順序で行います。単に部品の配置を考えるだけでなく、プーラーがうまくセットできるかなども考えなければなりません。SSTがすべて揃っていれば整備書に記載された手順でいいのですが、ツールが違う場合は多少の工夫が必要な場合もあります。以下の手順は、筆者が行った方法を示しています。
1. カウンターシャフトの後退ギヤ
後退ギヤのロックナットは、前に緩めました。後退ギヤはセレーション嵌合で、軽くは抜けず、ちょっと力をかけて引かなければ抜けませんでした。この部分は後ろに伸びる軸が短いので、爪の薄いパイロットベアリングプーラーで抜き取りました。
カウンターシャフトの後退ギヤは、後退ギヤ全体の分解時に取りはずした。写真は後退ギヤを取りはずす前のもの。
2. カウンターシャフトのベアリング
カウンターシャフト後端のベアリングは圧入で、ほかの歯車はセレーション嵌合です。ここのベアリングは軸の飛び出し量が大きくないので、汎用のプーラーで抜き取れます。このベアリングは、普通のアマチュアベアリングプーラーで抜き取ることができるのですが、抜き取りではなるべくアウターレースに力を掛けたくないので、3速カウンターギヤにギヤプーラーをかけて抜きました。ギヤごと抜くとベアリングのインナーレースに力がかかるので、ボール部に余計なスラスト荷重を掛けずに済みます。
ただしギヤのほうは、メインシャフトのベアリングに干渉するので最後までは抜けません。そのためギヤがベアリングに当たりそうになったら、ギヤにかけていたギヤプーラーを外し、アマチュアベアリングプーラーをベアリングのアウターレースにかけ、ベアリングだけ外します。この段階ではかなり抜けているので、あとは軽い力で抜け、ベアリングに大きな負担はかかりません。
カウンターシャフトに取り付けられた4速、3速ギヤとベアリング。2個の歯車の間にスペーサーが挟まれている。
3速カウンターギヤにギヤプーラーをかけ、ベアリングと共に抜き取る。
ちょっと抜き取ると、歯車がメインシャフトのベアリングにあたる。
最後はベアリングだけをアマチュアベアリングプーラーで抜き取る。
3. メインシャフトのベアリング
後退ギヤセットはインターメディエイトハウジングをはずす前に取りはずしているので、現時点でメインシャフト最後端にあるのは、インターメディエイトハウジング用のベアリングです。これは圧入されているので、プーラーで抜き取ります。
プーラーのネジをメインシャフト後端にかけるのですが、このシャフトは長いので、プーラーを延長する必要があります。ベアリングのすぐ前に3速ギヤがあり、隙間が狭いので、まず薄爪タイプのアマチュアプーラーで抜くことを考えました。股下の足りない分はステンレス寸切りボルトで延長しました。爪がベアリングから外れないように、爪でベアリングを挟むようにして木工用クランプで固定しました。
アマチュアベアリングプーラーの爪をかけ、クランプで押さえる。
寸切りボルトで延長して引っ張ってみる。
これで抜けるかと思ったのですが意外と手強く、ネジをまわすラチェットにかなりの力を込めても動きません。寸切りボルトがたわみ、破断しそうだったので諦めました。ここで使った寸切りボルトは、プーラー爪のネジ穴の関係で6mmだったのが不幸でした。もう少し太ければ抜けたと思うのですが。
次に考えたのはセパレートタイプのベアリングリムーバーをプーラーで引く方法です。股下が足りないので、付属の延長ボルトではなく、3/8インチの寸切りボルトを適当な長さに切って使いました。
このプーラーのセットでは、ベアリングにピッタリのサイズのセパレーターは、3速ギヤにボルトが干渉してセットできません。1つ上のサイズだと干渉せずにセットできるのですが、今度はボルトがカウンターギヤに当たるため、ベアリング中央からちょっとずれた位置になってしまいます。斜めに力をかけて抜くと軸やインナーレースに無理がかかるので、ちょっと考えます(これがあるので、最初の方法を試したのでした)。
通常このような作業は、ギヤを二重噛合にして軸が回らないようにセットして作業するのですが、あえてロックせず回転するようにします。これでプーラーのボルトを回すと、シャフトも一緒に回ります。抜くのはベアリングなので、回転しても問題ありません。このようにすることで、ベアリングにかかる力はちょっと斜めになってしまうものの、軸上で力のかかる向きが回転に伴い徐々にずれていくので、トータルではさほど無理はかからないと考えました。
ベアリングはこのやり方でどうにか抜けました。ただしそれまでのいろいろな試行錯誤や斜めに力をかけたことのせいか、ベアリングにガタが出てしまいました。組み立て時には交換しなければなりません。
セパレータータイプのプーラーをセット。部品の干渉によりちょっとセンターがずれている。
寸切りボルトで延長してプーラーをシャフト後端にセットする。プーラーのネジのシャフト側への飛び出しが多くなると、そこでプーラーが傾くので、なるべく写真のような位置で圧力をかける。ちょっと動いたら、寸切りネジのナットの位置を調整し、飛び出し量が過大にならないようにする。
4. カウンターシャフトの3速カウンターギヤとスペーサー
メインシャフトのベアリングをはずすと、それが支障していた3速カウンターギヤを抜き取ることができます。
このギヤのセレーション嵌合はさほどきつくなく、しかも最初のベアリング取りはずしの段階で位置をずらしているので、あっさりと抜けます。3速ギヤと4速ギヤの間のスペーサーもこの段階で抜き取れます。4速ギヤはメインシャフト上のギヤ類と干渉するので、まだはずせません。
メインシャフトのベアリングが抜けると、カウンターシャフトの3速ギヤ、スペーサーを抜き取れる。
3速ギヤとスペーサーを取りはずしたカウンターシャフト。
取りはずした2個のベアリングとカウンターシャフトの3速ギヤ、スペーサー。
5. メインシャフトの3速ギヤのワッシャー
次にメインシャフトの3速ギヤをはずします。3速ギヤの後ろ側にCワッシャーがはまっているので、取り外します。これはかなり厚手のもので、スナップリングプライヤーで外すにはちょっと硬すぎます。整備書ではこれはマイナスドライバー2本を当てて同時に叩くという方法が指示されています。
ベアリングを取りはずした状態。Cワッシャーが見える。
Cワッシャーに2本のドライバーを当て、ハンマーで叩いて抜き取る。ベアリングや軸になるべく衝撃を与えないように、軸に木材の枕を当てている。
筆者もドライバー2本を使って外しました。強力なスナップリングなので、外れると勢いよく飛んでいきます。再使用不可部品なので、紛失しても組み立ては困らないのですが、あらぬところに入り込むとそれはそれで問題です。うまくウエスをかますなどして、旅立たないように工夫します。筆者はこれを怠ったため、捜索にかなりの時間を費やすことになりました。
こんな感じで抜き取る。
このスナップリングを外すと、3速ギヤ側にあるワッシャーを外せます。これは位置決めのために、厚さを選択できる部品です。
スラストワッシャーの内側に半円形の切り込みがあり、そこにボールがはまっている。
このワッシャーは、その前にある3速ギヤを位置決めするためのものです。機能としてはスラストワッシャー(軸上でスラスト力を受けるワッシャー)となり、そのためギヤとの接触面には油溝があります。このワッシャーは動力伝達には関与しませんが、メインシャフト上で回転しないように取り付けられています。この廻り止めはほかのハブや歯車類とは異なり、セレーション嵌合ではなく、位置決めボールが使われています。軸上のワッシャーの位置に半球の穴があり、ここに金属ボールがはまっています。軸表面から飛び出す半球部にちょうど噛み合うように、ワッシャーの軸穴に半円の刻みがあり、ここがはまることで、ワッシャーは軸に対して回転しません。ワッシャーを外した後で、このボールも外しておきます。ボールはオイルで張り付いているので、マグネットで持ち上げるといいでしょう。これを外さないと、それより前にある3速ギヤを抜き取れません。
ワッシャーをはずすと、軸にはめ込まれたボールが見える。
取りはずしたCリング、スラストワッシャー、金属ボール。スラストワッシャーの歯車との接触面には油溝がある。
6. メインシャフトの3速ギヤ、シンクロ、スリーブ
ここまではずせば、メインシャフトの3速ギヤを抜き取ることができます。後退ギヤはニードルローラーベアリングを使っていましたが、このギヤにはころがりベアリング部品はなく、メインシャフトに対して直接触れて回転します。そのため軸側に、潤滑のための油溝があります。
取りはずした3速ギヤ。写真はクラッチハブ側。円環状の突起は、外周部にシンクロナイザーのインナーコーンが接触する。並んだ丸穴にはダブルコーンの突起が噛み合う。
3速ギヤとクラッチハブの間に、シンクロナイザーリングがあります。3速用はトリプルコーンシンクロとなっており、リングは3つのリング状の部品から構成されており、ハブから外すと3つに分離できます。一番内側の真鍮色の部品がインナーコーンで、ギヤのコーン部と摩擦接触します。2個の真鍮色のリングに挟まれた鉄色の部品がダブルコーンで、これは突起部分がギヤの穴と噛み合い、ギヤと共に回転します。
シンクロの働きについては、後でまとめて解説します。
クラッチハブの外周にはクラッチスリーブがあり、ハブと3速ギヤの間ににシンクロナイザーがはまっている。そのためこの写真では、クラッチハブは中心部しか見えない。
取りはずしたシンクロナイザーリング。
シンクロをはずすと、クラッチハブとクラッチスリーブの関係がよくわかる。3箇所にシンクロナイザーキーがはまっている。
シンクロナイザーリングを外すと、クラッチスリーブを後ろ側にスライドして抜き取ることができます。スリーブの内面にはシンクロナイザーキーがはまっていますが、力を入れて動かすとはずすことができます。スリーブをはずすと、ハブ側に取り付けられていた3個のキーもはずれるので、なくさないように回収しておきます。スリーブには向きがあるので、事前に確認しておきます(ポンチマークがあるほうが後ろ側になります)
クラッチスリーブを取りはずす。ハブ外周の3ヶ所の溝の部分にシンクロナイザーキーが収まる。
シンクロナイザーキー。
シンクロナイザーリングは3速ギヤにこのようにはまる。
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長くなったので今回はここまでにします。現状、ここまで分解できました。
ベアリングハウジングより後ろ側には何も残っていない。
次回はクラッチハブの取りはずしから行います。