ここまで分解済。
■ シャフトの後ろ部分の分解を続ける
前回、3速ギヤとシンクロ、クラッチスリーブまではずしました。次はクラッチハブを外します。
7. メインシャフトの3-4速クラッチハブ
3-4速クラッチハブはメインシャフトに38mmのロックナットで締め付けられています。これはカウンターシャフトのロックナットと同様に、軸のキー溝のような部分に、ナットの一部を食い込ませることで、緩みを防止しています。緩める前に、この食い込み部分をマイナスドライバーやバールを使って起こしておきます。
ハブを固定しているロックナット。
カウンターシャフトは軸端のナットだったのでインパクトレンチで緩めることができましたが、このハブのナットは軸の中央部にあり、ソケットレンチは使えません。またハブは外周部に対して内側がへこんでおり、ナットはその部分にあるので、モンキーレンチのようなフラットなツールは使えません。整備書では専用ツールの使用が指示されていますが、ここはオフセットメガネレンチか角度のついたコンビネーションレンチを使ってみます。
ハンドツールでナットを外すとなると、ナットがはまっている軸の固定が必要です。まず回転を押さえる必要があります。これは前側にある5-6速、1-2速のクラッチを利用します。前側のスリーブをスライドさせ5速に噛み合せます。この状態でもう一方の1-2速スリーブを動かし、1速か2速に噛み合せます。これで二重噛合状態になり、軸は回転しなくなります。ミッションの二重噛合を防ぐインターロック機構はシフトロッドに作用するので、今の状態なら手でスリーブを動かして二重噛合にできるのです。
スリーブを5速と2速に噛み合わせ、シャフトの回転のロックする。
ナットを緩めるには、軸の回転の固定に加え、全体の固定も必要です。ナットは200Nm以上のトルクで締められているはずなので、約500mmの長さのツールであっても、40kg以上の力をかけねばならず、それに耐える状態で固定しなければなりません。今回は、角材をハブ部分に枕のように置き、紐で何重にも縛りました。
使用した38mmコンビレンチ
ミッション軸を角材に紐でしばりつけて固定する。
このようにレンチをかけてみたのだけれど。
ここまで準備したのですが、コンビレンチによる方法は失敗に終わりました。このロックナットは径の割には薄くてレンチとのかかりが浅く、力をかけると外れてしまうのでした。レンチをかけてハンマーで叩くなど、いろいろな方法を試してみたのですが、緩む前にレンチが外れ、しかも外れたときに角をなめて、ますます外れやすくなるという状態になり、結局、ハンドツールの使用は諦めました。
このロックナットは変形させる部分があるので再使用不可部品です。なので破壊しても構いません。そこで、タガネとハンマーで外すことにしました。タガネは鉄の棒の先を平らな刃にした道具です。この刃をナットの外周部に斜めに当て、それをハンマーで叩きます。刃がナット外周部に食い込み、ハンマーの衝撃はナットを回転させる力になります。タガネの刃をハブや軸に当てないように気をつけながら、ハンマーで(割と力を入れて)叩くことで、ナットが少しずつ回り、緩めることができます。
タガネとハンマーでナットを回して外した。
ナットの外周部にタガネの食い込んだ傷が見える。
ロックナットを外せばハブは抜けるのですが、強く締め付けられていたこともあり、この部分のセレーション嵌合はかなり固く、手では取り外せませんでした。そのためプーラーを使うのですが、ハブ、シンクロナイザーリング、4速ギヤの間の隙間は狭いため、プーラーは4速ギヤに掛けます。この嵌合はベアリングの圧入ほどの硬さではないので、薄爪タイプのアマチュアベアリングプーラーを寸切りボルトで延長して抜き取りました。爪の外れ止めには、木工用クランプを使っています。これは前にベアリングの抜き取りに失敗した構成です。
アマチュアベアリングプーラーを寸切りボルトで延長して使う。
プーラーの爪は4速ギヤのクラッチ部にかける。
嵌合が外れれば、クラッチハブとシンクロナイザーを取り外すことができます。シンクロナイザーは3速用と同じ構成です。
ギヤ、ハブなどがまとめて抜ける。
ギヤとハブの間に、トリプルコーンシンクロがはさまっている。
クラッチハブの外周のスプライン部の内側には、シンクロナイザーキーを外側に押し出すためのシンクロナイザーキースプリングが取り付けられています。これはハブの前後に2本組み込まれています。
シンクロナイザーキースプリング。先端の曲がった部分がハブの内側の穴にはまっているのがわかる。
8. メインシャフトの4速ギヤ
クラッチハブを外せば、4速ギヤは抜き取るだけです。
4速ギヤ、トリプルコーンシンクロ、クラッチハブの表と裏。
4速ギヤもニードルローラーベアリングは使われていません。しかしメインシャフトに直接接するのではなく、スリーブを介しています。このスリーブはクラッチハブと共にロックナットで締め付けられており、セレーション嵌合ではありませんが、実質的にメインシャフトに固定されています。そのため4速ギヤは、このスリーブに対して回転することになるので、スリーブ表面には油溝があります。またスリーブの前側(ベアリングハウジング側)には、後退アイドラーギヤと同じようなフリクションダンパーが取り付けられています。これは内周部の金属部品が爪でスリーブに噛合、外周部のゴム部品が4速ギヤに接触しており、ギヤの回転に対して抵抗となります。
分解時には、スリーブ、フリクションダンパー、4速ギヤをまとめてメインシャフトから外します。
スリーブ、フリクションダンパー、スラストワッシャー。
フリクションダンパーとスリーブを組み合わせた状態。
9. カウンターシャフトの4速カウンターギヤ
メインシャフトの3速のギヤ、クラッチハブ、4速ギヤを外せば、4速カウンターギヤを抜き取れます。このギヤはセレーション嵌合ですが、軽く抜けました。
4速カウンターギヤをカウンターシャフトからずらして抜き取る。
取りはずした4速カウンターギヤ。
−−−−
ここまでギヤやベアリングを取り外せば、ベアリングハウジングより後ろ側の要素がなくなり、メインとカウンターの2本のシャフトをベアリングハウジングから取りはずすことができます。
■ シャフトの抜き取り
メインシャフトとカウンターシャフトで、ベアリングハウジングより後ろの要素をすべて取りはずしたら、この2本のシャフトをベアリングハウジングから抜き取ることができます。
ベアリングハウジングより後ろ側の部品をすべてはずした。
整備書では、プレス台にベアリングハウジングを置き、メインシャフト後端をプレスで押し、少し動いたら、カウンターシャフトのギヤが干渉しないようにカウンターシャフトをプラハンマーで叩いて押し出し、2本のシャフトを並行して抜き取るように指示されています。このとき、2本のシャフトがバラけないように、紐で縛っておきます。
2本のシャフトの歯車類が相互に干渉するので、2本を同時に抜き取る必要がある。
我が家にはプレスがないので、別の方法を考えます。ベアリングハウジングには、前後のハウジングを取り付けるボルトのための貫通穴や、オイルを流すための開口部があります。ここに寸切りボルトを通してナットで止め、メインシャフト後端にプーラーを取り付け、ハウジングに対してシャフトを押すという方法を試してみます。ハウジングにボルトを取り付けるナットは、ハウジングとの接触面を傷つけないように、ワッシャーをかまします。
ベアリングハウジングに寸切りボルトをセットし、メインシャフトにプーラーをセットして引く。
メインシャフトとカウンターシャフトの両方を少しずつ抜かないといけないので、カウンターシャフト用にも2本の寸切りボルトを取り付け、1つのプーラーを入れ替えながら作業を行いました。1回に数ミリずつしか押し出せないので、手間と時間のかかる作業でした。プーラーが2個あれば楽だったのですが。
カウンターシャフトも、同じように2本の寸切りボルトをセットして引く。
本来であれば、2本のボルトとシャフトはまっすぐに並んでいなければならないのですが、既存の穴を使うため、ちょっとずれています。そのためプーラーのボルトを強く締め込んでいくと、プーラーが傾き、ボルトが曲がることがあります。そのへんに気をつけながら、そして前のベアリング抜き取りの時と同じようにシャフトを回しながら、慎重に、しかしそれなりの力を加えてベアリングからシャフトを抜いていきます。メインシャフトのベアリングは、シャフトの径がかなり太いということもあり、圧入はかなり固いものでしたが、力を掛けたり抜いたり、曲がったボルトを修正したりしながら、どうにか抜きました。カウンターシャフトのほうはさほど大きなベアリングではなかったので、簡単に抜けました。
2本ともベアリングから抜き取った。
抜き取った2本のシャフト。
■ ベアリングハウジング
シャフトを抜き取った後、ベアリングハウジングには2個のベアリングが残されています。これはリテーナーの板で押さえられており、ボルトを抜いてリテーナーを外せば、ベアリングを外すことができます。
シャフトを抜いた後のベアリングハウジング(前側)。
ベアリングハウジング(後ろ側)。
リテーナーをはずせば、ベアリングを(プレスなどで)抜き取れる。この取り付けボルトは、ネジ部に液体ガスケットが塗布されていた。
ミッションケース、エクステンションハウジングのベアリングはしっくり嵌めでしたが、この部分は圧入になっています。つまりこの部分のベアリングは、インナーレースもアウターレースも圧入ということです。ベアリングはハウジング後面と面一になるようにセットしなければならないので、リテーナーのない側に位置調整用のシムをセットして取り付けることになっています。
現時点ではこのベアリングは抜き取っていませんが、組み立ての際にはベアリングを交換することになるかもしれません。整備書によれば、このベアリングの抜き取りと挿入はプレスを使うことになっています。
−−−−
次回は、シャフトの前半分の分解を行います。