2020年11月25日

自動車の発電系とか電圧/電流計とか −− その1

 車のバッテリーについては、よく自動車関連メディアで話題になります。例えば雨の日の夜の渋滞は車の電力消費が増えるのでバッテリーに負担がかかるなんて話はよく聞きます。でもなぜ渋滞だと負担がかかるのか? そもそも本当に負担がかかってるんでしょうか?
 今回は、車の電力事情についていろいろ考えてみます。ただし取り上げるのは昔ながらの構成のもので、ハイブリッド車には触れません。充電制御やアイドリングストップについては、最後にちょっと触れるかもしれません。


■ 車と電力

 今の電子制御バリバリの車は、電力がなければ走ることはできません。しかし昔の車やバイクはそうでもありませんでした。電気と縁の薄いものについて、以下に簡単にまとめておきます。


・ディーゼルエンジン車

 ガソリンエンジンは点火プラグにスパークを飛ばすのに電力が必要ですが、ディーゼルエンジンは空気の断熱圧縮の熱で燃料に点火するので、点火プラグはありません。昔ながらの機械式燃料噴射なら、クランクシャフトの回転を動力として燃料を噴射するので、始動さえしてしまえばエンジンの回転の持続に電力は必要ありませんでした。
 ただし、寒冷時の始動を容易にするため、燃焼室の温度を高める電気ヒーター(グロープラグ)を使うものもあります。もちろん、始動のためのスターターは外部電力を必要とします。
 現在のディーゼルエンジンは燃料噴射の制御が電子化されているので、電力なしでは運転できません。


・小型ガソリンエンジン

 小排気量のバイクや船舶エンジン、発電機や農機具用の汎用エンジンの多くは、プラグの点火のために外部電力を必要としません。フライホイールに組み込んだマグネットによりコイルに電流を発生させ、プラグにスパークを飛ばします。そのため外部のオルタネーターやバッテリーを必要とせず、エンジン単体で運転を続けることができます。
 航空機用ガソリンエンジンも、信頼性の点からこのような点火機構を使ったものが多くあります。
 最近は排ガス規制がきびしくなり、小型のバイクや産業用機器のエンジンも電子制御が導入されつつあります。


・普通の(旧式な)ガソリンエンジン

 電子制御が導入されていない自動車用エンジンなどは、点火系のみに外部電力を必要とし、それ以外には必要ないものが多くありました。キャブでガソリンを供給し、燃料ポンプが機械式(エンジンの回転でポンプを駆動するもの)なら、点火系以外の電力は必要ありませんでした。このようなエンジンは、1980年代まで使われていたので、さほど古くない旧車でもこのようなものがあります。


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 今日の車は、プラグの点火だけでなく、ディーゼルエンジンも含めてさまざまな制御が電子回路により行われているので、電力なしにエンジンを運転することはできません。
 またオートマチックトランスミッションの制御、ライト類やワイパー、ABSのなどの安全装備、ウィンドウやドアなどの電動化、エアコンやオーディオなどの快適装備のために多くの電力が必要です。


■ 電力源

 車の電力源は2つあります。1つはバッテリー、もう1つはエンジンで駆動される発電機です。この発電機は内部では交流発電しているので、オルタネーターと呼ばれます。発生した交流は内部で整流されるので、出力端子に出ているのは直流です。

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 自動車用鉛バッテリー(135D31L)。

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 オルタネーター(Y61サファリのもの)。


 オルタネーターの内部構造については、このあたりでも解説しています。未完ですが。
 エンジンが動いている間の電力は、基本的にオルタネーターによって供給されます。オルタネーターには通常の電力使用量以上の発電能力があります。装備のシンプルな軽トラなどでも12V50A程度、一般的な乗用車なら12V 100A以上の出力が可能です。オルタネーターはエンジンで駆動されるので、当然、エンジンが動いているときしか電力を生み出しません。そのためエンジン停止時の電力負荷やエンジン始動時には、バッテリーを使用します。
 バッテリーは鉛タイプ(リチウムタイプなどもあるみたいです)で、鉛化合物の電極と硫酸の電解液の組み合わせで働く充電式電池です。鉛バッテリーは内部抵抗が小さく、大電流を放電できる(大電流を放電しても電圧降下や発熱が少ない)という特徴があります。
 バッテリーの主要な用途は、エンジンが停止している時の電力供給です。エンジン停止時はオルタネーターが機能していないので、電力源はバッテリーしかありません。まず思い浮かぶのはエンジン始動用のスターターモーターやエンジン始動前から稼働していなければならない点火系統や制御回路類への電力供給です。またオーディオや照明類など、エンジン停止時にも使用できる電力負荷があります。
 それ以外にも、エンジン停止時にさまざまな用途のための電力供給を担っています。各種の制御系回路は、内部データのバックアップの電源を必要とし、またエンジンの停止時に動作しているセキュリティ系システムがあります。正当な鍵を使わないとエンジンを始動できないイモビライザー、リモコンドアロックの受信機や動作回路などです。またハザードやライト系統、ブレーキランプ、クラクションなどは、キーやエンジンスイッチのポジションに関わらず動作します。これらはすべてバッテリーを電力源としています。もちろんエンジン始動後は、オルタネーターからの電力を使います。
 またエンジン運転中でも、何らかの理由によりオルタネーターの発電量が不足した時には、バッテリーからも電力が供給されます。
 鉛バッテリーは充電式電池で、エンジン停止時に放電した分の電力は、エンジン始動後にオルタネーターが発電した電力で充電されます。一般的な使用形態であれば、エンジンを始動して数分で、それまでに放電した電力をほぼ充電できます。

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 停止時とエンジン運転時の電力の供給。


■ 車の電源系統

 まず車の電源系統を簡単に説明します。ここで説明するのはハイブリッドや充電制御などに対応していない、昔ながらの構成のものです。電装電圧は12Vでバッテリーは1個とします。

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 車の基本的な電力系統。On、Accなどの系統は簡略化してある。


 車の12V系プラス母線にバッテリーの+端子とオルタネーターのB端子がつながっています。赤い線はすべてこの母線か、母線に接続している配線です。マイナス側はボディアースです。
 車の電装系は、常時給電(キーやスイッチのポジションに関係なく給電)、Acc系給電(Acc位置とON位置で給電)、ON系給電(ON位置とスタート位置で給電)があります。ON系はIGNやIGとして示されることもあります。この表記はエンジンのイグニッション(点火)系、つまりエンジンを運転するために必要な電源という意味です。現在では点火系以外にも多くの機器がエンジン運転のために必要です。キーのST(始動)位置はON系がオンでスターターを回転させる位置ですが、この位置ではAcc系がオフになる車種もあります。また図には示していませんが、On系でもST位置ではオフになる系統が別れているものもあります。ワイパーやエアコンなど、運転中に使うが、始動時には必要ないものがこの系統に接続されます。
 これらの電力の用途に応じた系統ごとに、過電流保護用のヒューズやヒュージブルリンクを介して、母線から分岐します。それぞれの系統は、さらにヒューズやスイッチを介して目的の電気負荷につながります。大電流を必要とするスターターモーターや4WD車のウインチなどは、バッテリーの+端子から直接モーターにつながっており、ヒューズなどは入っていません。
 オルタネーターのB端子は、発電電力を出力する端子です。稼働していない時は電圧は発生していません。この時、この端子に電圧を掛けても電流は流れないので、リレーなどを介することなく、バッテリーの+端子に直接つながっています。エンジンが始動し、オルタネーターが回転すると、この端子に発電した電圧が出力されます。バッテリーの端子電圧は定格で約12V、満充電で13V程度ですが、オルタネーターの出力電圧は14.4V程度になります。
 オルタネーターが発電を開始し、母線電圧が14V以上になり、バッテリーの電圧を超えると、前の図に示したようにオルタネーターからの電力はバッテリーに流入し、バッテリーを充電します。運転開始直後は、スターターによる放電、止まっていた間の放電分を充電します。
 満充電状態でない鉛バッテリーは、端子にかかっている電圧がバッテリー自身の電圧よりちょっとでも高いと、端子から電流が流入し、充電が行われます。乗用車クラスの容量のものなら、開放電圧が12V程度で、これに14Vかければ最大で50Aから100Aの充電電流が流れます。満充電に近づくと徐々に流れる電流が小さくなり、完全に充電されると数アンペア以下まで充電電流が減ります。
 鉛バッテリーは複雑な充電制御は必要ありません。単にプラス母線につないでおくだけで、放電と充電ができます。


■ 大電力負荷時の挙動

 オルタネーターの発電能力は回転数によりある程度変動します。アイドル時の回転数では、定格電流を出力することはできませんが、回転数をちょっと上げれば(一般的な乗用車なら2000 RPM程度)、オルタネーターは最大出力電流を発生することができます。車の通常の運転状態では、アイドル時も含めて、車で消費する電力をオルタネーターで供給することができます。では通常状態を超える大負荷の場合はどうなるのでしょうか?
 オルタネーター出力電圧は、エンジンのアイドル回転数以上なら無負荷で14V以上で、バッテリー充電や大負荷がなければ、14.4Vくらいになります。出力電流が増えるほど電圧は低下しますが、定格の範囲内で、ある程度の回転数であれば12V以上の出力が可能です。この電圧はバッテリー電圧より高いので、バッテリーが放電することはありません。負荷が増え、定格電流以上の電流が求められる場合は、オルタネーターの出力電流は増えず、出力電圧がさらに低下します。この電圧がバッテリー端子の開放電圧より下がるとバッテリーの放電が始まり、以後バッテリーが放電可能な間は、母線電圧はバッテリー電圧となります。この状態では、オルタネーターの最大出力電流とバッテリーの放電電流が母線に供給されます。それでも負荷電流が賄えない場合は、母線電圧がさらに低下します。もちろん、バッテリーが上がってしまっても、電圧は低下します。

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 大負荷時の電流の流れ。オルタネーターとバッテリーの両方から電流が供給される。


■ 電圧と電流を観測する

 バッテリーやオルタネーター、電力負荷の状況を見るために、電圧計と電流計を使うことができます。現在の車では、運転計器として電圧計や電流計を備えているものは殆どありませんが、エンジン制御コンピュータは、電圧や電流の値をセンサーで取得しているものがあります。
 以下の図は、電圧計と電流計を接続する位置を示しています。スターターモーターの接続は省略してあります。

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 バッテリー、オルタネーター、電力負荷と電圧計/電流計の位置。


 電圧計は、バッテリー母線電圧を観測します。できればエンジンの運転やキースイッチの状態に関わらず、母線の電圧がわかるということが求められます。
 母線電圧を測定することで、エンジン停止時のバッテリー電圧、エンジン運転時のオルタネーター出力電圧がわかります。例えば停止時に電圧が11V以下だったら、バッテリーが相当弱っていると判断できます。運転を終えた後に12Vあっても、翌日見たら電圧が下がってるといった場合、バッテリーの劣化がかなり進んでいると判断できるでしょう(極寒状況でも電圧が下がります)。あるいはエンジン運転時に、電圧が14Vに満たないとなったら、車で多くの電力負荷が使われている、あるいはオルタネーターの出力が低下しているか、もしかするとどこかに異常があって過負荷で大電流が流れている可能性があります。
 電圧計で母線電圧を観測することで、このようにバッテリー劣化やオルタネーター故障を早い段階で検知することができます。
 電流計は、オルタネーターとバッテリーの間に入れます。この位置の電流値が何を示すかと言うと、バッテリーの充電と放電です。そのため電流計は、プラスとマイナスの両方を示せるセンターゼロタイプを使います。電流の向きは、プラス指示がバッテリーに充電、つまりオルタネーターからバッテリーに電流が流れている状態です。マイナス指示はバッテリーの放電で、バッテリーから車両側に電流が流れている状態を示します。電流の測定上限は、余裕を持ってオルタネーターの最大発電電流程度とし、だいたい50Aから200Aくらいになります。

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 電流計の指示値と電流の向き。


 電流計の指示値の解釈は、車の電装系の構成を理解していれば難しいことはありませんが、以下に簡単にまとめておきます。


・エンジン停止時

 エンジン停止時はオルタネーターが動作していないので、すべての電力はバッテリーから供給されます。したがって電流計はバッテリーから自動車の負荷回路への放電電流を示します。オルタネーターが動いていないので、充電を示すプラス側に振れることはありません。
 エンジン停止中にオーディオなどのアクセサリやライト類を使っていれば、その消費電流が電流計に示されます。

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 エンジン停止時の電流の流れ。


・エンジン運転時

 エンジンが動き、オルタネーターが発電している状態では、車の電力負荷への供給は基本的にオルタネーターからなされます。エンジン始動直後は、バッテリーがある程度放電しているので、オルタネーターの余剰電力でバッテリーが充電されます。この時、電流計はプラス側に振れて、充電電流値を示します。充電電流は最初大きく、その後徐々に小さくなり、満充電になればほぼゼロになります。したがって通常の運転時は、始動直後を除いて、電流計はほぼゼロ表示ということになります。
 エンジン運転時にマイナス側に振れた場合、バッテリーが放電していることを示します。この場合、オルタネーターの電力供給量が不足しており、バッテリーからも供給されていることを示します。この時電圧計も見れば、通常時の約14Vよりも低下し、12V程度かそれ以下になっているはずです。普通の使用状況では、このようになることはほとんどありません。どちらかというと、オルタネーターの機能が著しく低下している可能性があります。

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 エンジン運転中の電流の流れ。


 通常の運転状態では、一時的にわずかに放電することはありますが、放電状態がずっと続くというのは異常です。オルタネーター故障か、異常な電気機器の過負荷でこの状態になり、バッテリーがあがるとエンジンは止まってしまいます。電気機器側に問題がある場合は、異常な発熱や発火に至る可能性もあります。
 自動車関連の記事で、バッテリーの負担についてよく言われるのがこの状態のことです。雨の日の夜の渋滞というのがこのパターンです。ライト類が点灯し、エアコンがオン、オーディオなども使い、そして渋滞なのでアイドルの時間が多く、オルタネーター出力が低下するため、バッテリーからの持ち出しが増えるという理屈です。実際にその状態でバッテリーからの持ち出しになっているのかどうかは、電流計を見れば一目瞭然です。


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 以下の写真は、自分のY61サファリに取り付けた電圧計と電流計です。エンジン始動直後の状態なので、電圧はオルタネーター出力電圧で、バッテリーに充電している電流値が示されています。

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 Y61サファリに後付した電圧計と電流計。

  次回は、エンジン停止から始動、定常運転状態に至るまで、電流の流れを細かく説明していきます。

posted by masa at 09:22| 自動車