2020年07月13日

古いエンジン発電機 EG1200X を復活させる −− その4

 このEG-1200X発電機はホンダ製で、このGX120エンジンは発電機専用のものが使われています。速度調整レバーが半固定であることに加えて、クランクケースの出力側カバー部品が専用のものになっています。このカバー部品には、クランクシャフトベアリング、オイルフィラーキャップなどが組み付けられているのですが、同時に発電機のエンジン側ハウジングも兼ねた構造になっているため、エンジンと発電機を独立した形で分離することはできません。
 今回は発電機側を見ていきます。

■ 発電機

 発電機は単相同期発電機で、回転子(界磁)、電機子とも2極なので、1回転で交流1サイクルが出力されます。つまりエンジン回転数が3000RPMで50Hz、3600RPMで60Hzとなります。周波数は前に触れたようにエンジン回転数のガバナー制御で安定化されます。
 回転子は直流励磁タイプで、2組のスリップリングで励磁電流を供給します。出力電圧の制御は励磁電流の調整で行われ、電機子の主巻線はそのまま交流出力としてコンセントに接続されます。交流出力には、出力主回路の開閉、過電流保護のためのサーキットブレーカー(過電流遮断器)が組み込まれています。

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  発電機側

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  カバーを外したところ。左側にあるのが電機子巻線

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  電機子巻線には2系統の出力がある

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  回転子のスリップリング

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  回転子とファンの取り付けボルト


 発電機の各要素について、以下にまとめておきます。

・主巻線
 主巻線は発電電力を生成する固定側電機子巻線で、白、赤、薄緑の3本の配線が出ています。白と赤の2本は100V出力用で、もう1本の薄緑(たぶん電圧検出用)と白がレギュレーターに接続されます。
 この巻線はフレームに接地されていません。測定値は以下のとおりです。

 白−赤 0.3Ω、43mH
 白−緑 0.4Ω、73mH
 赤−緑 0.1Ω、4mH

・補助巻線
 補助巻線はもう1組の固定側電機子巻線で、2本の配線(白地に黒)が出ています。主巻線より細い銅線が使われており、巻数も少ないようです。この巻線は主巻線とは接続しておらず、また接地もされていません。この巻線の2本の出力はレギュレーターに接続されます。
 この巻線の測定値は以下の通りです。

 0.6Ω、1.2mH

・回転子
 ブラシとスリップリングを介して回転子に励磁電流が送られます。この配線は薄緑黒と薄緑白です。この巻線も接地されていません。測定値は以下の通りです。

 92Ω、3.53H

・接地線
 発電機のケースとレギュレーターを収めるボックスの金属ケースを電気的に接続しています。


 発電機のエンジン側でないほうの軸端に回転子のスリップリングがあり、ベアリングから飛び出した軸端に発電機冷却用のファンが取り付けられています。回転によって外部から取り込まれた空気は回転子や電機子周辺を通り、発電機を冷却します。カバーを外した状態だとこの風が送り込まれないので、冷却不足になる可能性があります。特にエンジン側の発電機ケースはクランクケースと兼用なので、エンジンの熱が直接来ています。そのため発電機負荷が小さくてもケースが高温になるため、冷却は不可欠です。
 ファンを止めている中央のボルトは長いもので、回転子をエンジン出力軸に固定する役割も担っているようです。


■ レギュレーター

 発電機上部に取り付けられたボックスには、ブレーカーと出力用のコンセントが2口、接地用ターミナルが備えらています。

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  ボックス内部

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  コンセントとブレーカー


 内部にはレギュレーター回路があり、発電機の出力電圧を制御しています。出力周波数はエンジン回転数制御で行われ、これはエンジン側の遠心ガバナーとキャブのスロットルを連携させることで実現されているので、レギュレーター側は何も関与しません。

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  レギュレーターとアース端子


 ボックス中に置かれたレギュレーターには、以下の配線が接続されています。

・エンジンの発電コイル出力 2本
 エンジンのフライホイール内側に設置されたコイルによって発電された交流電圧が接続されています。起動時の励磁電力供給に使われているものと思われます。
 この発電コイルの配線の色は水色で、接地されていません。測定値は以下の通りです。

 2.2Ω、11.3mH

・励磁電流 2本
 スリップリングを介して、回転子に直流の励磁電流を送ります。これも接地されていません。

・補助巻線 2本
 発電機の電機子には出力用の主巻線とは別に補助巻線があり、レギュレーターに接続されています。発電機運転中の励磁電力供給に使われているのではないかと思います。

・主巻線 3本
 主巻線には中間タップがあり、全部で3本の線が出ています。このうちの白と薄緑の2本がレギュレーターに接続されています。白と赤は100V出力のタップです。

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 レギュレーター

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 発電機の全体構成


 レギュレーターは樹脂封止されているので、内部の回路やどのような部品が使われているのかはわかりませんが、基本的な機能は、出力電流に関わらず、出力電圧を一定に維持するために励磁電流を調整することです。
 発電機が始動した時点では、励磁電流はエンジン側の発電コイルからの電力を使っているものと思われます。この時点では発電機は回転しているものの、発電を開始していないからです。エンジン側からの電力で回転子を励磁すれば、発電機は電力を生成できます。すると補助巻線にも電圧が発生します。
 また主巻線のタップもレギュレーターに接続されています。
 内部構成がわからないのでなんとも言えないのですが、主巻線からレギュレーターへの接続は、出力電圧を監視するためのものと考えられます。この電圧の変動に応じて励磁電流を調整し、主巻線電圧を一定に維持しているのでしょう。
 補助巻線からの電力は、運転中の励磁電流源かなと思いますが、確証はありません。エンジン側からの電力と自身の補助巻線の電力がどのように扱われているかの真相は、レギュレーターの樹脂の中です。
 レギュレーターの内部構成は不明ですが、やっていることは明らかで、回転子の励磁電流の制御です。励磁電流が増えれば出力電圧が上昇し、少なくなれば電圧が低下します。この電流をうまく制御することで、発電機の出力電圧をほぼ一定に維持します。


■ 発電機として動かす

 この発電機の出力は、50Hzモデルで1kVA(1000VA)、60Hzモデルで1.2kVA(1200VA)となっています。電気機器の消費電力などは一般にWで示されますが、発電機や変圧器などはしばしばWではなくVA(ボルトアンペア)で規定されています。これを皮相電力といいます。
 Wは実際の消費電力で、有効電力といいます。VAは負荷電圧と負荷電流を掛けたものです。直流ならこれらは同じものなのですが、交流の場合は、誘導負荷(モーターなど)や容量負荷の場合に、話が変わってきます。抵抗負荷以外では電圧位相と電流位相がずれるため、電流が流れているにも関わらず、エネルギーとしては利用されないという場合があるのです。例えば100Vで5A流れているにも関わらず、電力値は100Wといった感じです。この場合、有効電力は100Wですが、皮相電力は500VAとなります。その差の400Wは無効電力となります。また有効電力の割合を力率といいます。
 発電機の電流出力能力が例えば10Aの場合、100V×10Aで最大1000Wの電力を供給できますが、これは皮相電力となります。力率が1の機器であれば1000Wまで接続できますが、力率が0.5なら、消費電力が500Wの機器であっても電流は10A流れ、発電機の限界値になります。
 またモーターのような突入電流が大きい機器では、突入電流が発電機の定格値を超える場合があるので、使用可能なW数はさらに小さくなります。まぁ実際には、突入で落ちなければそこそこ使えるのですが。

 さて、組み上げた発電機が実際に機能するかどうかを確かめてみました。巻線類は事前のチェックで問題なさそうだったので、あとはレギュレーターが経年劣化で壊れていない限り、問題なく動くはずです。これは樹脂モールドされているので、実際につないで動かしてみる以外、調べる方法がありません。で、配線を接続し、エンジンを動かしてみました。結果は問題なし、あっさり動きました。


■ 仕上げ

 発電機側の動作確認の後、フレームまで分解して、フレームなどの塗装をして作業は完了です。ガソリンを抜いて、再び物置にしまわれたのでした。

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  フレームを塗装


■ 電気が汚い

 このクラスの発電機(数百VAから数kVA)の注意書きには、接続できる機器種別や消費電力が示されています。その中には、電子機器が接続できる、できないという項目があります。一般にインバータータイプの発電機は電子機器も含めてどんな機器でも接続できるのに対して、非インバーターの一般モデルは電子機器への給電を避けるように指定されています。これはどういうことなのでしょうか?
 このクラスの発電機の発電出力にはいくつかの構成があり、それに応じた使用上の注意が示されています。
 インバータータイプは、発電機で生み出した電力をCVCF(Constant Voltage Constant Frequency)という機器に送り、その出力が負荷に供給されます。CVCFは一定の周波数、一定の電圧を生成するインバーター電源装置のことです。つまり入力電力の電圧や周波数が変動しても、安定した出力が得られるというものです。CVCFはインバーターの一種です。インバーターには可変電圧、可変周波数のVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)というものもあり、モーター制御などに使われます。このBlogで以前に触れた(途中で止まってる)モーター用のインバーターは、VVVF装置です。
 ちなみにインバーターとは、交流を出力する装置のことです。狭義では直流を交流に変換する装置ですが、一般の製品では交流入力のものも含めてインバーターと呼ぶことが多いようです。これは内部で一度直流に変換しています。インバーターに対して、交流を直流に変換する装置はコンバーターと言います。
 インバータータイプの発電機の出力は、CVCFのおかげで電力会社から供給されるのと同等な正弦波で、負荷変動などがあっても電圧、周波数が安定しています。つまり商用電源と同等のクオリティが得られるということです。当然、使用する機器の制限はなく、電子機器でも問題なく使用できます。ただしインバーター回路の分、価格は高くなります。
 ではCVCFを使っていない、つまりインバータータイプではない発電機は、どのような電気出力なのでしょうか? なぜ電子機器を接続してはいけないのでしょうか?
 この疑問に正直に答えているサイトなどは意外とみつからず、誤動作したり最悪故障するとは書いてあっても、それがなぜなのかに触れていません。
 前にも書きましたが、ガバナーによるエンジン制御は、負荷変動に対する応答性の悪さ(遅さ)という欠点があります。負荷が変化したことによるエンジン回転数の変動が物理的なガバナーとスロットルによって行われるので、回復に数百ミリ秒の時間がかかります。これは周波数の変動という形で現れます。
 負荷変動に対する励磁電流の変化は、電子回路で行われているので周波数の回復よりは時間がかかりませんが、それでも交流のサイクルのオーダーでの回復時間は必要でしょう。これは電圧変動という形で現れます。
 これらの変動は、通常の商用電源だったら事故とみなされるレベルのものです。そのため、電源系のノイズに弱い機器の誤動作が起こりえます。故障にまで至るかどうかはわかりませんが、頻繁に発生したら使い物になりません。
 もうひとつ考えられることは、出力波形です。励磁電流制御レギュレータータイプの多くは、励磁制御が直流電流を変化させるのではなく、パルス幅変調(PWM)を行っています。回転子の巻線により多少の平滑化は行われるものの、磁力が変動することになるので、出力波形は正弦波ではなく、歪んだ形になってしまいます。これは出力電圧に周波数の高いノイズが乗っていることになるので、負荷によっては問題が起こる可能性があります。
 今回は調べていませんが、以前、オルタネーターの交流出力の波形を調べた時は、励磁電流のPWM制御の影響と考えられる波形歪が見られました。
 ほかにサイクロコンバータ式というものもあり、中間程度の性能です。



posted by masa at 13:33| 電気機械

古いエンジン発電機 EG1200X を復活させる −− その3

 動作確認とは別に、発電機の各部を見てみます。ついでに、錆びた部分などを塗装してごまかします。
 問題ない余計な部分をバラすというのは、大抵の場合、不幸の始まりなのですが、そんなことは気にしません。もともと使えなかったものなのですから。ただしクランクケースやシリンダヘッドは、ガスケット交換が伴うので(問題が見つからない限り)開けません。


■ 排気系

 シリンダ上部に小さなマフラーが付いています。この大きさなので消音効果はたかが知れていて、はっきり言ってうるさいです。安全のために遮熱カバーで覆われていますが、それを外すと内部のマフラーが見えます。

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  シリンダー上部にマフラーがある(燃料タンクは取り外し済)

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 遮熱カバーを外したマフラー


■ ガバナーとスロットル

 GX120エンジンにはクランクシャフトの回転で動作する遠心錘式のガバナーが装備されており、回転速度の上昇に伴って動くレバーがエンジン外部に備えられています。このレバーはリンクを介してキャブのスロットルレバーに繋がっています。このリンクにより、キャブのスロットル調整はガバナーレバーにより行われるようになります。


  ガバナーレバーが動く様子


 ガバナーレバーはエンジン回転の上昇により角度が変化しますが、この変化量を制御するためのスプリングが取り付けられています。回転数が上がるとエンジン上部にあるガバナーレバーが動きます。このレバーはスプリングで引っ張られており、このスプリングの力と遠心力によるガバナーレバーを動かす力が釣り合った位置で、ガバナーレバー角度が安定します。スプリングの力が弱ければレバーは大きく動き、強くするとレバーの動きは小さくなります。つまりスプリングが強く引いている時は、エンジン回転数が高くならないとレバーが動きません。エンジンの回転速度調整レバーは、このスプリングの力を調整します。 ガバナーレバーの動きはリンクでキャブレターのスロットルバルブにつながっています。エンジン回転数が変化すると遠心力が変化するのでガバナーレバー角度が変わりますが、これによりキャブレターのスロットルが制御されます。スロットルレバーは、回転数が下がるとスロットルがより開き、回転数が上がると閉じる方向に動作します。これにより負荷変動で回転数が変化した時にスロットル開度が変わり、回転速度が回復する方向に動作します。そして元の回転数に達した時点では、ガバナーレバーの角度とスロットル開度がバランスした状態になり、回転速度が維持されます。
 このバランスする位置は、回転速度調整レバーにつながったバネの強さによって決まります。つまり回転速度調整レバーによって、エンジンは負荷状態に関わらず、レバー位置に応じた一定の回転速度を維持することになります。このあたりが、キャブのスロットルを直接操作するバイクや車のエンジンと違うところです。

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  出力調整レバー、ガバナーレバー、スロットルレバー

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  ガバナーとスロットルの連携


 一般的な汎用エンジンでは、出力調整レバーをユーザーが操作できる構造になっていますが、発電機用エンジンではレバーに手で操作する部分がなく、調整ネジでポジションを固定するようになっています。つまりドライバーで調整ネジを回して、エンジン回転数を決めるのです。このエンジンは50Hz用、つまり3000RPMに調整済ですが、調整ネジを回すことで例えば60Hz用の3600RPMに変えることができます(発電機側に50Hz/60Hzの仕様があるのかどうかはわかりません)。


■ リコイルスターター

 このエンジンは、リコイルスターターを手で勢いよく引くことで始動します。昔のロープを巻き付けて引っ張るタイプに比べるとお手軽です。
 リコイルスターターのロープのリールにはゼンマイバネが内蔵されており、ロープを引き出した力を緩めると自動的にロープが巻取られます。

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  リコイルスターターの裏側


 ロープを手で引いてリールが少し回転すると、回転するハブから爪が飛び出し、これがエンジンのフライホイールに取り付けられたカップリングの内部に引っかかり、エンジンが回転します。この引っかかりは方向性があり、リコイルスターター側の正回転はエンジンに伝わりますが、逆回転は伝わりません。またエンジンが回転してもリコイルスターター側に回転は伝わりません。従ってエンジンが始動した後は、フライホイールのカップリングだけが回転し、スターターのハブは回転しません。そしてロープを巻き戻すと爪が引っ込むので、スターターとエンジンの接触は完全に断たれます。


■ フライホイールと電気系

 リコイルスターターを外すと、スターター用のカップリング、強制空冷用のファンが取り付けられたフライホイールが見えます。冷却風を誘導するシュラウドを外すと、フライホイール全体が見えます。

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  フライホイールカバーにリコイルスターターとエンジンスイッチがある

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  カバーを外したところ


 ファンの中央部分にあるカップ状のものは、リコイルスターターの爪が噛み合うカップリング部品です。
 フライホイールの外側(写真では左側)には、点火プラグ用の高圧パルスを発生させるマグネトーがあります。マグネトーは鉄芯入りのコイルで、フライホイール外周の1箇所に取り付けられたマグネットによって、1回転に1回、電気パルスが発生します。
 フライホイール内側には、外部に電力を供給するための発電用コイルが取り付けられており、フライホイール内側のマグネットによって交流電流を発電します。このエンジンでは、フライホイールが1回転すると2サイクル分の交流が発生します(アナログテスターをつなぎ、フライホイールを手で回して電圧の振れを調べました)。ここで発生する交流の周波数を測定すれば、回転計がなくてもエンジン回転数を調べることができます。
 マグネトーも発電用コイルも、フライホイールに取り付けられたマグネットがコイルの鉄芯近辺を通過することで、誘導起電力が発生します。
 フライホイールはクランクシャフトにナットで固定されています。軸にはキーがはめ込まれているので、クランク位相とマグネトー用のマグネット位置は正しく維持されます。


■ 点火系

 小型のバイク用エンジン、この種の汎用エンジン、航空機用エンジンなどは、外部電源を使わずに点火プラグ用の高圧パルスを生成できるマグネトーがしばしば使われます。エンジンの運転に外部電気回路が不要なので、運用が手軽になる、信頼性が高いというメリットがあります。
 フライホイールの横に取り付けられているイグニションユニットは、イグニッションコイルが一体に組み込まれています。イグニッションコイルの1次側では、フライホイールのマグネットによってクランクシャフト1回転につき1回、電圧が発生します。これにより、巻数比の大きい2次側コイルに高圧が発生し、プラグコードを介してプラグ先端のギャップ部分で放電することで、シリンダ内の混合気に点火します。
 4サイクルエンジンの場合は圧縮工程の最後に点火するので、クランクシャフトの2回転に1度、電圧を発生すればいいのですが、この構造では1回転ごとに火花が飛ぶことになります。つまり排気が終わり、吸気が始まるところでも火花が飛ぶということです。

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  エンジンスイッチ


 エンジンにはエンジンON/OFFスイッチがあり、ONポジションでエンジンが始動可能で、動作中にOFFにするとエンジンが停止します。これはイグニッションコイルの1次側を接地するスイッチになっています。コイルの1次側が接地すると電圧が発生しないのでプラグで火花が飛ばず、エンジンが停止します。つまり普通のスイッチと逆で、接点が開いているとエンジンが運転できるということです。したがってこのスイッチの配線が外れたり、スイッチが壊れるとエンジンが止まらなくなります。セーフティ的にどうよと思いますが、構造を単純化することを優先しているのでしょう。バイクのエンジンスイッチもこのような構造のものがあります。ただバイクは人間の操作でエンジンを止められますが、発電機の場合、燃料カットしてしばらく待つか、プラグコードを抜くしかありません(感電するかも)。
 またこのエンジンにはオイルアラートスイッチが組み込まれており、エンジンオイル液面が低下すると保護のためにエンジンが止まります。このスイッチも液面低下で接点が閉じるスイッチで、エンジンスイッチと並列に接続されており、アラート時に点火系を地絡して停止させます。


■ エンジンの発電コイル

 写真はありませんが、フライホイールの内側には、発電用のコイルが置かれています。自動車の場合は、エンジンとは別体のオルタネーターをベルトで駆動しますが、小型エンジンの場合はフライホイール部分に一体で組み込まれることが多いのです。バイクや農機具用の汎用エンジンでは、ライトや保安部品などに電力を供給するために使われます。またスターターモーター付きの高級な製品の場合は、バッテリー充電にも使われます。
 発電コイルからの配線には生の交流が出力されており、回転数によって電圧と周波数が変化します。そのため直流が必要な場合はレクチファイヤで整流する必要があり、ライトの点灯などを行うには、電圧を安定化するレギュレーターが必要です。
 発電機用エンジンの場合は、安定化されていない交流のまま、発電機用のレギュレーターに接続されます。発電機のレギュレーターは、発電を始めるために回転子に励磁電流を供給しなければなりませんが、そのための電力をエンジン側からもらっているのでしょう。
 GX120は、出力電圧が6V、12V、電力が25W、50Wが選べるようです。この発電機用エンジンでは、アイドル回転時15V程度出力されていたので、たぶん12V仕様でしょう。ワット数はわかりません。

 次回は発電機側を見ていきます。

posted by masa at 12:27| 電気機械

古いエンジン発電機 EG1200X を復活させる −− その2

 圧縮と点火がどうにかなりそうなので、今回はキャブレター掃除をします。


■ キャブレター

 放置したエンジンはだいたいキャブの中の古いガソリンが劣化し、詰まりを起こしていることが多いので、キャプ整備はほぼ必須作業です。
 シリンダヘッドの吸気側に、キャブとエアクリーナーケースが2本の長いスタッドボルトで共締めされています。まずエアクリーナーを外し、ガバナーとスロットルレバーのリンクを外せば、キャブを取り外すことができます。ここでちょっとした問題が。キャブをはずす時、発電機のパイプフレームにキャブのチャンバー部が干渉するのです。そのため、燃料チャンバーを外すか、エンジンを持ち上げ気味にした状態でないと取り付けできません。

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  キャブの取り外し(パイプフレームにあたる)

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  取り外したキャブ


 使用されているのはKEIHINのBE型という汎用エンジン用キャブレターです。シングルバレル、サイドドラフト、バタフライスロットルバルブ、チョークバルブという構成です。バレルの下に燃料チャンバーが、横に燃料コックとフィルターがあり、上側に置かれたタンクから自然落下したガソリンがフロートバルブで調整され、チャンバー内の燃料液面が一定に維持されます。
 チャンバー内の燃料は、縦に配置されたパイプ(チャンバー取り付け兼用)の側面の穴から中に流入し、メインジェット(#60)とノズルを通ってバレル内で気化されます。メインジェットの手前にはスロー系(パイロット系)の分岐があり、別に置かれたスロージェットを通り、パイロットスクリューで調整されてバレル内(バタフライバルブの後)で気化します。発電機の場合、スローでの運転はないので、スロー系はどうでもいいのかなとも思いますが。
 ネットを検索すると、このBE型の互換の中華キャブがいろいろ販売されています。値段は2000円以下からあり、純正の部品を買うより中華キャブに置き換えるほうが安く済みます(メーカーのサイトには中華偽物に注意という喚起があります)。
 キャブを交換するかどうかは後で考えるとして、まずは今のキャブレターを調べます。古いエンジンのキャブレターは、だいたい劣化したガソリンで内部が詰まっているので洗浄します。
 自宅にある自動車用具を物色していたら、キャブクリーナーを発見しました。発電機ほどは古くないにしろ、15年以上は前のものと思われます。シトラスクリーンが新発売され、試供品が付いていた時代のものなので、もしかしたら20年以上前かも。もちろんガスは抜けていたので、缶に穴をあけて適当な瓶に中身の液体を注ぎ、洗浄液として使います。

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  古いキャブクリーナー


 チャンバーを外したところ、思ったよりはよい状態でした。チャンバー内にガム状のものはなく、ちょっと汚れているだけでした。メインジェットのノズルを取り外して点検します。メインジェットは詰まり気味でしたが、年代もののキャブクリーナーに浸けてエアブローで開通しました。

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  チャンバー取り外し

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  チャンバーを外したキャブ

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  チャンバー清掃

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  フロートバルブ、メインジェット、燃料フィルター


 スロー系は分解はせず、空気通路とガソリン通路にキャブクリーナーを垂らし、エアブローするという作業を数回繰り返してクリーニングし、懐中電灯の光やエアブローで開通を確認しました。分解した時点では、スロー系のパイロットスクリューは、締切から2と1/3回転程度の戻しでした。サービスデータによると、2回転、あるいは2と3/8回転戻しが有効な数値のようです。


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  スロースクリュー(金属製)とアイドルスクリュー(黒い樹脂製)、右側はチョークバルブ

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  スロットルバルブ

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  キャブ上部のスロットル、チョーク、奥側に燃料コック


 チャンバーのパッキンはOリングを使っているのですが、これはさすがに変形しており、気密に難ありそうなので、耐燃料タイプの同じような寸法のOリングを用意し、交換しました。燃料フィルター部分にもパッキンがあるのですが、これはまだどうにかなりそうなのでそのまま使います。ダメなら純正ガスケットセットを購入します(最初にOリングを注文した時は、まだパーツリストを入手していなかったのです)。
 燃料コックは、分解すると内部のゴム部品を交換することになりそうなので、開閉操作により通気が開閉されることを確認してよしとします。漏るようならその時考えます。


■ 仮組み立て

 掃除したキャブレターをエンジンに取り付けますが、インテークマニホールドのガスケットがくたびれているので、取り替えます。とりあえず、汎用のガスケットシートを使い、同じ形に切り抜いて使います。

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  ガスケットは新調


 シリンダヘッドにねじ込まれた長いスタッドボルトで、キャブレターとエアクリーナーケースを共締めして取り付けます。

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  キャブを取り付け


 エンジンオイルも、今まで入っていたのは20世紀のものなので、さすがに交換します。とはいっても、入れ替えるのは21世紀初頭に購入したまま未開封だったものですが。
 オイル交換の際には、ロッカーカバーをはずし、ロッカーアームまわりにも注油しておきました。跳ね掛け式なので、この部分には久しくオイルが回っていないと思われるので、初回始動時の初期潤滑のためです。

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  ロッカーカバーをはずしたところ


 今の時点では、ガバナーとスロットルは連結しません。手でスロットルを操作していろいろエンジンをいじってみます。
 燃料タンクはクランクケースの上に位置するので、燃料パイプを新しいものに交換し、キャブにつなぎます。


■ 始動手順

 タンクにガソリンを入れ、燃料コックを開くとキャブのチャンバーまでガソリンが来ます。エンジンの始動は、スイッチをONにしてリコイルを引きます。キャブにはチョークがあるので、エンジンや周囲の温度によって適宜絞ります。エンジンが始動したら、安定して回転するところまでチョークを戻します。暖まったらチョークを完全に戻します。
 このエンジンは空冷で冷却水がないので、シリンダまわりはすぐに暖まります。しかし単にシリンダブロックが暖まるだけでなく、オイルの温度が上がって暖機完了です。

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  燃料コック、チョークの操作部


■ 試運転

 問題がなければ、この手順でエンジンを始動できるのですが、さっそく問題が起きました。燃料コックを開くと、レバーの隙間からガソリンがポタポタと漏れます。コックを閉じても、隙間からにじみ出てきます。これでは危なくて始動できません。
 一度ガソリンを抜き、コックをばらしてみたところ、可動するレバーに接触する内部のゴムパッキン部品がかなり固くなっていました。そのため密着が悪くなり、漏れたのでしょう。この部品はキャブレターのガスケットセットに含まれているので、仕方なくガスケットセットの部品(16010-ZE0-025か16010-ZE0-812)を注文しました。
 新品のゴム部品は、古いものと比べ、厚みが5割増しくらいありました。古いほうは、長年の放置でずっと押されたまま、潰れてしまったのでしょう。。もっともゴム部品はガソリンと接触することで膨潤するので、もしかすると古いものでも、ちょっと待てば膨らんで漏らなくなったのかもしれませんが。


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  燃料コックを分解したところ

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  新旧の燃料コックのパッキン


 ゴム部品の交換でガソリンが漏れなくなったので、いよいよエンジン始動です。発電機として組み立てられている場合は、始動すると即座に発電用の規定回転数になりますが、この時点ではそのためのリンケージを接続していないので、手でスロットルレバーを操作できます。
 コックを開いてガソリンを流し、チャンバーに貯まるまでちょっと待ちます。気温は25度くらいあるので、とりあえずチョークは使わず、スロットルはアイドルより気持ち開けた状態で、リコイルロープを何度か引いたら、エンジンが20年ぶりくらいに息を吹き返しました。


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  試運転(発電機カバーを外した状態)


■ またガソリン漏れ

 エンジンを止め、しばらく置いておいたら、キャブの下にガソリンが漏れていました。調べて見ると、チャンバーをキャブに固定しているボルトか、チャンバーのドレンボルトから染み出しているようです。ガスケット不良を疑い、新しく買ったものに取り替えてみても症状は変わりません。
 チャンバー底面が変形し、密着が悪くなっているのかもしれません。とりあえず液体ガスケットを塗ってごまかします。本当は耐燃料タイプを使わないといけないのですが、手元にないので普通のもので様子を見ます。


■ スロー調整

 とりあえず問題が一通り解決したところで、調整を行います。とはいっても単純なキャブなので、スロー(パイロット)スクリューとアイドルスクリューがあるだけです。
 まずエンジンを十分に暖機します。空冷エンジンなのでシリンダーはすぐに温まりますが、ほかの部分の温度上昇にはしばらくかかります。基本的には、油温が十分に上がったら暖機完了となります。とはいっても油温計も何もないので、単にしばらく回すだけです。
 十分に温まったら、まずパイロットスクリューを調整します。エンジン始動前に規定状態(2と3/8回転戻し)にしておき、スロットルを閉じます。この状態でパイロットスクリューをどちらかに回し、エンジン回転が一番高くなる位置を探します。そしてこの位置から1/4回転ほど戻し、パイロットスクリュー調整とします。
 実際にやってみたところ、多少の回転数の変化はあるものの、だいたい既定値のあたりで問題なさそうなので、それで良しとしました。
 これが終わったら、アイドル回転数を調整します。パイロットスクリューのそばにあるプラスチック製のアイドルアジャストスクリューを回すと、スロットルレバーの絞り位置が調整でき、これでアイドル回転数が決まります。
 GX120の規定アイドル回転数は1400RPM(+200、-100)です。回転計は持っていないので、発電コイルの周波数で回転数を調べます(発電コイルについては後で説明します)。1回転で2サイクルのコイルなら、1400RPMで交流出力は46.6Hzとなります。周波数測定ができるテスターやオシロスコープを使い、アイドル回転数を調整します。

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  テスターを使って周波数を測定

 回転数がかなり高めだったのでこの周波数を目標に落としてみたのですが、回転が不安定になるぎりぎりのようなので、ちょっと高めに設定しました。


■ キャブまわり完成

 スロートアイドルを調整したところで、スロットルレバーをガバナーと連携させます。
 ガバナーレバーは燃料タンクの下にあります。ガバナーレバーとスロットルレバーは曲げた針金のようなリンク部品で繋がります。またこの2つのレバーを弱いバネで結びます。これはレバーの軸穴によるガタを無くすためのものでしょう。
 スロットルがガバナーと連動するようになったら、以後は半固定式の回転数調整レバーの角度をネジで調整し、エンジン回転数を調整することになります。

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  ガバナーとスロットルの連携


 次回は、エンジンのその他各部を見ていきます。
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古いエンジン発電機 EG1200X を復活させる −− その1

 2年ほど前(2018年ごろ)、古いエンジン発電機の整備を始めました。とりあえずエンジンが回るところまで作業し、その後1年あまり放置し、思い立って発電機側の中身も調べ、発電機として復活させました。


■ 古い発電機

 家に古い発電機があります。購入したのは25年くらい前、買ってから数年間で10時間使ったかどうか。しばらく放置した後、ガソリンを抜いて物置へ。20年近く触っていなかったものです。

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  発掘直後の状態(エンジン操作側)

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  発掘直後の状態(発電機側)


 今回、各部をきちんと整備/補修し、これの復活を試みます。要点は以下の2つです。

・エンジンを動かす
・発電機の機能の確認

 さて、どうなることか? だめなら、また物置行きかな。


■ 発電機の構成

 この発電機はホンダの1990年代のモデル、EG-1200Xというもので、120ccの4サイクルエンジン、単相100V、50Hzで1kVA、60Hzで1.2kVAの出力です。50Hzと60Hzは出荷時に設定されており、うちのは50Hzモデルです。インバータなどは搭載しておらず、エンジンを定速回転させて同期発電機を駆動し、一定の周波数の交流を発生させるというものです。

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  銘板


 オルタネーターの記事でも説明しましたが、同期発電機は回転速度で出力周波数が決まります。出力電圧は回転速度と励磁電流が支配的な要素ですが、負荷電流により変動するので、回転子に供給する励磁電流を調整して一定電圧に制御します。出力負荷の変動は駆動軸トルクの変化という形で現れます。つまり出力電流が増えると、必要な駆動トルクが大きくなります。したがってエンジンで同期発電機を駆動する場合は、負荷(軸トルク)の大きさに関わらず、エンジンを一定速度で運転するという制御になります。もし出力に対して軸トルクが不足する、つまりエンジン出力に対して負荷が大きい場合は、エンジンの回転が下がり、出力周波数と電圧が低下します。
 出力電圧は、発電機に備えられたレギュレーターで回転子の励磁電流を調整して安定させます。出力電流が増えると回転数低下や内部抵抗などにより出力電圧が低下します。すると励磁電流が増え、出力電圧を高める、つまり回復しようとしますが、励磁電流が最大になったら、以後は電圧も降下していきます。通常はこのような状態に至る前に、過電流遮断器により出力がカットされます。

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  発電機の構成


 この発電機は、エンジンに組み込まれた遠心ガバナーとキャブレターのスロットルを連携させることで、一定速度での運転を実現しています。つまり負荷が大きくなって回転速度が低下するとガバナーのレバーが動き、それによってスロットルが開き、回転が上昇するという仕組みです。結果として負荷の大きさに関わらず、エンジン回転は一定になります。このやり方は負荷変動に対するタイムラグが大きいため、急激な負荷変動の時に周波数変化が起こりやすいという欠点がありますが、電球や熱器具、小出力モーターなどなら、問題なく使えます。電子機器は原則として使用禁止となっています(これについては後で触れます)。また大きなモーターなど、突入電流が大きいものの場合は、使用可能な電力が定格よりかなり小さいものに制限されます。


■ エンジンの仕様

 使っているエンジンはGX120というホンダ製の汎用エンジンで、農機具、工事用機器などに組み込んで使うためのものです。この発電機は25年も前のものですが、GX120エンジン自体は、仕様変更などはあるものの今も現役のモデルです。
 おおよその仕様は以下のとおりです(現行モデルのデータ)。

・空冷4サイクルOHVガソリンエンジン
・排気量118cc(ボア60mm、ストローク42mm)1気筒、圧縮比8.5
・シングルバレル、バタフライバルブキャブレター(ガバナー連動)、チョークバルブあり
・回転数調整レバー(ガバナーにより一定の回転数が維持される)
・最大出力2.6kW(3600RPM)、定格出力2.1kW(3600RPM)
・トルク7N/m(2000RPMから3600RPM)
・トランジスタマグネトー点火
・強制飛沫潤滑、潤滑油約0.6L
・重量13kg


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  エンジンのシリンダヘッド側


 製品には出力の形態でいくつかバリエーションがあり、クランク軸でそのまま出力、減速機構が組み込まれたものなどがあります。EG-1200Xに使われているものは、クランク軸が発電機に直結で、クランクケース部品が発電機のハウジングの一部を兼用する構造になっています。つまり発電機専用エンジンとなります。50Hzモデルは3000RPM、60Hzモデルは3600RPMで、回転数調整レバーは半固定状態で、ユーザーが自由に回転数を変えることはできません。


■ 資料

 発電機としての資料は製品に付属していた説明書しかありませんでしたが、ネットで現行GX120エンジンのパーツリスト(日本語版)を拾えたので、必要な部品の番号がわかります。ただし何度か仕様変更はされているようなので、部品によっては合わないかもしれません。また海外サイトで、サービスデータ資料(英語版)も拾えました。
 その後、ホンダの国内サイトでもパーツリストなどが入手できました。


■ 整備を始める

 燃料が抜いてあったものの、20年近く放置したエンジンがまともとも思えず、試運転の前にまずは一通りの点検整備をします。ガソリンエンジンの運転条件は、良好な混合気、圧縮、火花なので、まずは各部点検です。
 パイプフレームの上半分を外します。エンジンのクランクケース上部に燃料タンク、シリンダ上にマフラーがあります。そしてシリンダーの向かって右側にキャブがあり、その上にエアクリーナーケースがあります。エンジンの向かって左側にあるのが発電機本体で、その上の赤いボックスにはコンセントと遮断器があり、内部にレギュレーターがあります。

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 発電機全景


■ エアクリーナー

 本体のサビなどはおいておき、まずはエアクリーナーを見ました。長円形の金属枠の中に濾過紙が折り畳まれているエレメントの回りに、油(エンジンオイル)を浸したスポンジを巻きつけるという構造なのですが、25年の歳月により、スポンジはボロボロに風化していました。ペーパーのほうはまだ大丈夫そうなので、しばらくはこれだけを使います。

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   エアクリーナーケースのカバーを外した状態

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   エアクリーナーエレメント


■ タンク清掃

 燃料タンクは、ガソリンを抜いて保存しておいたので、外観の多少のサビ以外は問題なく、内部はきれいなものでした。僅かに残っていた腐れガソリンをパーツクリーナーできれいにしておしまいです。ただしキャブにつながる燃料ホースは多少劣化が見られるので交換します。

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   燃料タンク


■ 圧縮

 このエンジンはリコイルスタートなので、ロープを引っ張ればエンジンがまわります。とりあえずロープを引いてみて、固着していないこと、ガリガリした引っかかりなどがないことを確認しました。また適当な周期で圧縮抵抗がある、マフラー側からプシュッという排気があるので、とりあえずバルブの動作と圧縮はOKとして、作業を勧めます。ただエンジンオイルは20世紀のもの(新品時に入れたもの)なので、エンジンテストの前に交換します。


■ 点火系

 このエンジンはマグネトー点火なので、外付けバッテリーがなくてもプラグに火花が飛びます。
 プラグを外し、エンジンスイッチをONにしてリコイルを勢いよく引くと、一応プラグに火花が飛ぶことが確認できました。ただプラグ先端がだいぶ黒く煤けているので、新品のプラグを用意しました(BPR6ES)。新品のほうがきれいに火花が飛ぶような気がします。

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  プラグ

 プラグコードの被覆のゴムがかなり劣化している感じですが、部品を変えると高いので、とりあえずこのまま使います。

 次回はキャブ清掃を行います。


posted by masa at 09:19| 電気機械

2018年05月31日

中華ウインチを買ってみた


■中華ウインチを入手

 ウインチはさまざまな目的で使われていますが、その中に車載用というものがあります。車載用ウインチには、動力源がPTO(ギヤボックス経由のエンジン出力)、油圧、電動のものがあります。その中で、レジャーや簡易使用の分野で広く使われているのが電動ウインチです。クロカン系4WDや作業用車両、ボートトレーラーなどに使われます。
 もともと車載の電動ウインチはアメリカ製が主流で、国産ではアイシン製などがメーカーオプションに使われていましたが、最近は通販サイトを中心に、中国製のものが広く販売されています。値段は米国メーカー製の数分の1から1/10程度です。
 どんなもんだろうと思って、小型のものを1つ新品で買ってみました。能力は1300kg(3000ポンド)、ワイヤーは4.8mm、長さは12mです。フック、ベースプレートとローラーフェアリード、スイッチが2個ついたコントローラがセットになっています。これを7500円ほどで入手しました。


  パッケージの内容

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  ウインチ本体

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  フックとローラーフェアリード

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  コントローラー

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■消費電力

 この種のウインチは車両用なので、DC12Vで動作します(数は少ないですが、ディーゼル車用の24Vモデルもあります)。
 車載電動ウインチの大きな問題の1つは、この電源電圧の低さです。ウインチは牽引力相応のモーター出力が必要で、だいたい1馬力ないし数馬力、つまり0.75kWないし数キロワットの出力のモーターが必要です。例えば1kWのモーターを12Vで駆動する場合、効率が100%でも83Aの電流になります。なので実際には100A超の電流が流れることになり、これはおおよそスターターモーターと同程度です。スターターは数秒程度しか使いませんが、ウインチは数分程度の連続使用になります。
 今回購入したものは自称モーター出力1kWで、最大牽引時に130Aとなっています。
 より大型の3000kg以上のウインチだと3馬力程度のモーターなので、最大電流は400Aを超えます。車載のオルタネーターの余力は、普通車だとせいぜい100A程度なので、これを超える分はバッテリーからの持ち出しになります。なので、ウインチをまともに使おうと思ったら、大容量バッテリーは必須です。それでも大負荷だと数分で使用限界に達してしまい、再充電の時間が必要になります。つまり作業用などの連続使用は無理ということです。


■ぱっと見た感じ

 このクラスの製品は何種類かあり、牽引能力によってモーター出力が違うようです。しかしドラム回りの構造部材などが大きく違うようには見えません。ウインチの構成は、モーターと一体になったギヤボックスにドラムを取り付け、そのギヤボックスにL字の鉄板をネジ止めし、ドラムの反対側がその板に取り付けられた軸受で支えられます。またギヤボックスと軸受のそばに2本のステーを渡して、ドラム軸受の強度を確保しています。

  ドラムと軸受

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 しかしこの鉄板はさほど厚くなく、取り付けネジも細いし、軸受も貧弱です。これらの部材が1tを超える荷重に耐えられるようには見えません。まぁワイヤーも細いし、電線もちょっとなぁという感じです。というわけで、実用牽引力はせいぜい300kgから500kgかなと思っています。


■モーター

 前に触れたようにDC12V、出力1kWです。この出力の割には、直巻ではなくマグネットモーターです。永久磁石界磁なので、接続する電線は回転子用の2本だけで、これの極性を切り替えれば反転します。
 とりあえず仮組して運転したところ、無負荷で6A程度でした。説明書では無負荷で12Aなっていたので、それよりは少ないです。ちなみに直巻だと、無負荷でも本当に10A以上流れます。
 ブラシ側ははめ込みが硬かったので外していません。


  モーター全体

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  モーターの内部

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■コントローラー

 より大出力なウインチは、数百アンペアの電流を開閉するために、リレーボックスを使っていますが、このクラスはスイッチで直接開閉します。コントローラーからは、バッテリーに接続する2本、ウインチに接続する2本で、4本の電線が出ています。
 どちらの電線も赤と黒のペアですが、長さが違うので区別できます。どっちがバッテリーでどっちがウインチという区別はありません。しかしペアでないほうの線をバッテリーにつないでしまうと、スイッチ操作でショートしてしまいます。色を変えておくとか、ラベルつけとくとかすればいいんですけどね。電線の末端は丸型圧着端子で、モーターの端子、バッテリーの適当なターミナルにネジ止めします。
 電線の長さが短いので、手元で操作する感じになります。車載で使うには、配線を延長することになるでしょう。

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 使用されているスイッチは防水タイプ(たぶん)のプッシュ式で、内部に常開、常閉の2組の接点があり、2個のスイッチを適当に配線することで、モーター停止、正転、逆転ができます。
 使用されているスイッチは防水タイプ(たぶん)のプッシュ式で、2つのスイッチが1つのパッケージにまとめられたものです。それぞれのスイッチは双極単投タイプ、つまり押した時にオンになる接点を2組持っています。回路は以下のようになっています。

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 単純にこのような回路を組んだ場合、両方のスイッチを押すとバッテリーがショートしてしまいます。テスターで導通を調べたところ、このスイッチは、両方のスイッチを同時に押した場合は、どの接点もつながらないインターロック機構を内蔵しているようです。インターロックといっても、同時にボタンが押せないというものではなく、ボタンは押せるものの接点は接触しないという形です。
 これにより、スイッチを1つだけを押せば巻取りか繰り出しが行われ、両方を押すと動作しません。

■ドラム

 ドラムに、5mm弱のワイヤーを12m巻き取ります。ドラム径が小さく、ワイヤーは弾性があるので、無負荷時にビローンと広がってしまいます。これを防ぐために、ドラムにワイヤーを押さえつける鉄板のプレートが装備されており、ケーブルの繰り出しや巻き込みに抵抗を与え、ケーブルが暴れないようにしています。乱巻き防止にもちょっとは役立つかもしれません。


  ワイヤー押さえ

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 モーターの反対側のドラム端にはノブがついており、これを引っ張ってちょっとひねると、ドラム駆動軸がギヤから切り離され、ドラムが自由に回転するようになります。ギヤとの噛合によっては外れにくいこともあり、その場合はドラムをちょっと回すようにしてやると外れます。
 この状態ではケーブルを自由に引き出せるはずなのですが、実際にはワイヤーの弾性とかワイヤー押さえの鉄板との絡みなどで、簡単にはいきません。勢いよく引っ張り出そうとすると収拾がつかなくなります。ワイヤーが中でたるまないように、ゆっくり引き出す必要があります。
 ロックする際は、ノブ軸に刺されたピンがドラム側の溝にはまる位置までノブを回します。するとノブ軸が引っ込み、ドラム軸がギヤに噛み合います。


  結合状態

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  フリー状態

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■ギヤボックス

 試運転したところ、ギヤノイズが凄まじかったため、ばらして給脂しました。
 裏側のネジとステーのネジを外すと、モーターとL字の鉄板、ドラムが外れます。ノブを回して取り外し、ワイヤー押さえ鉄板を外せば、ドラムとL字鉄板も外せます。ドラム軸受にはかすかな油分しかありませんでした。これで1tの荷重に耐えるって、無理でしょ。。

  プレートを取り外した状態

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  ドラムを取り外した状態

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 ギヤボックスのネジとステーを外すと、ギヤボックス側の軸受プレートが外れて、内部のギヤが見えます。とはいっても、この時点ではお鍋の底のようなものが見えるだけ。中心にドラム軸が噛み合う穴が見えます。これを外すと、裏側に遊星ギヤ用の内歯車があります。その下にあるのは遊星歯車を3セット持つプラネタリキャリアです。これに申し訳程度のグリスがついていましたが、肝心の歯の部分にはほとんどわまっていませんでした。うるさいわけです。

  ギヤボックス内部の潤滑状態

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 遊星歯車は、ギヤボックスの内側にある固定内歯車に噛み合い、そして中心にはモーター軸に直接刻まれた太陽歯車があります。遊星キャリアは遊星歯車を支えるだけで、出力用の軸やギヤは備えられていません。固定内歯車の歯幅は遊星歯車の歯幅の半分で、遊星歯車の残り半分の歯幅は、ここにかぶせる出力用の内歯車に噛み合います。
 太陽歯車が回す遊星歯車が、固定内歯車と出力内歯車に噛み合っていて、遊星キャリアはどこにもつながっていないというこの歯車は、不思議遊星歯車減速機構というもので、1段で100以上の減速比が実現できるという特長があります。このウインチでは、太陽歯車が6T、遊星歯車が22T、固定内歯車が48T、出力内歯車が61Tで、減速比は153になります。


  各部品を洗浄

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  モーター軸の太陽歯車と固定内歯車

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  遊星歯車とキャリア

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  出力側内歯車

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  固定内歯車と遊星歯車

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  出力側内歯車

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  組み合わせた状態

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 実際に回転している様子を示します。無潤滑での動作は電源電圧5V、グリース潤滑されている状態は3V程度です。

  遊星歯車の回転




  出力側内歯車の回転




  グリスまみれでの回転




 不思議遊星歯車の固定内歯車と出力内歯車はピッチ円直径が同じなのに歯数が異なるので、実際には転位歯車という構造にしなければいけないのですが、これはそうなっていないようです。このギヤボックスがうるさいのは、そのへんにも理由があるかもです。
 不思議遊星歯車の構造については、以前投稿した動画があるので、それを見てください。


https://www.youtube.com/watch?v=ttfPo773HEU




http://www.nicovideo.jp/watch/sm12579213



■整備

 ほぼ無潤滑運転で凄まじくうるさいという状態をどうにかするために、グリースを給脂して組み立てました。静粛というほどではありませんが、まぁ許容範囲内のノイズに収まりました。


■使用形態

 このウインチは車載用として買ったのではなく(車にはちゃんとした3600kgの電動ウインチがついてる)、なんとなく買ったものです。差し当たって、ワイヤーなどにつないで使うポータブルウインチとして組み立てます。
 ウインチ本体、ローラーフェアリードを取り付けるベースプレートには4つのネジ穴があるのですが、ワイヤーとつなぐための構造にはなっていません。そこで鉄アングル材を使ってアイボルトを取り付けます。アイボルトにシャックルをはめれば、ワイヤーやスリング、フックをつなぐことができます。

  アングル材

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  アイボルト

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  出来上がり

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■電源

 無負荷なら数アンペアで動作しますが、実際に負荷をかけたら数十アンペアないし100Aくらい(ウインチが持つかどうかは別にして)になるでしょう。今回は、車用のバッテリーを使います。以前車に使っていたお下がりで、135Dというものです。まぁ乗用車に積むものとしてはほぼ最大級の容量のものです。古いものなので、実際にどれだけの容量が残っているかは謎ですが。
 バッテリーの端子に、ネジ止めタイプの端子をはめ、それにウインチコントローラへの配線の圧着端子をネジ止めします。本当は安全のために100A程度のヒュージブルリンクを入れるべきですが、それは今後考えます。


■実際の能力

 実際の牽引能力や耐久性は、まだ確かめてないのでわかりません。



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2017年10月15日

オルタネーターで遊ぶ その4

 前回、三相交流を整流してみたので、今回はレギュレーターを組み込んで直流出力を安定化してみます。


■普通のオルタネーターとして動かす

 オルタネーター1号は、実際に運転できる環境を作る前に分解し、配線を引き出してしまったので、普通のオルタネーターとしては動かしていません。今回、オルタネーター2号を入手したので、まずは何も手を加えず、普通の自動車用オルタネーターと同じ構成で運転してみました。
 電源として12Vシールド鉛バッテリーを接続し、オルタネーターを動かします。回路は以下のようになっています。

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 ボディアース(マイナス)とB(バッテリー)端子にバッテリーを接続します。この状態では、オルタネーターには電流は流れません。バッテリーの開放電圧は12.8V程度なので、回路の電圧も同じになります。
 ここでIG(制御端子)に+12Vを接続すると、200mAほどの電流がIG端子に流れます。これが停止状態での回転子の励磁電流となります。同時に、+12VのIG端子からL(チャージランプ)端子に接続したLEDに電流が流れ、点灯します。
 この状態でモーターを起動し、オルタネーターを回転させると発電が開始され、B端子に出力電圧が発生します。
 発電開始とともにL端子のトランジスタがOffになり、チャージランプは消灯します。チャージランプはオルタネーターが発電していないことを警告するものなので、IGがOnで停止時に点灯し、発電開始により消灯するという動作になります。
 発電電圧は、無負荷状態で約15Vでした。電圧を調整するのは、内蔵しているレギュレーターの働きです。この電圧はバッテリー端子電圧より高いので、オルタネーターからバッテリーに電流が流れ、充電が始まります。そして実際の自動車であれば、各部に電力を供給することになります。またこの状態では、回転子の励磁電流もオルタネーター自身が供給します。そのためバッテリーの端子を外しても、オルタネーターは発電を続けることができます。
 これが自動車などに搭載されたオルタネーターの標準的な動作です。

■レギュレーターを壊す

 オルタネーター1号のレギュレーターからの配線をすべて引き出した状態で実験をしていたところ、オルタネーターから電源に電流が逆流したのか、実験電源が壊れました。その際、電源の出力が30Vくらいに上昇し、どうもレギュレーターを道連れにしたようです。以後、IG端子への電圧印加で発電は開始するものの、電圧調整機能は正常に動作しなくなってしまいました。
 オルタネーター2号を導入したのはほかの実験のためだったのですが、1号レギュレーターが壊れてしまったため、レギュレーターの実験は2号のものを使うことにしました。


■オルタネーター2号の分解

 オルタネーター2号も、1号と同等の形式のもの(だと思って)購入したのですが、実際にいじってみると、メーカーや形状はほとんど同じであったものの、細部がいろいろ変わっていました。出力が45Aから50Aになっていたのですが、内部も一部変わっていました。最初につまづいたのがプーリーナットです。1号は22mmだったのに2号は24mmとなっていました。また電機子出力は、三相Y接続の3線ではなく、中性線が最初から引き出された三相4線式で、レクチファイヤの整流方式がちょっと変わっていました。

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 1号のレクチファイヤは、三相交流の3本の出力を6個のダイオードで全波整流していましたが、2号のレクチファイヤは中性線にも2個のダイオードを接続し、合計8個のダイオードで整流しています。オルタネーターではこのような構成の整流回路もしばしば使われているようです。
 実はオルタネーター2号は泥だらけで、電線のハンダ外しに手こずりました。その結果、熱でレクチファイヤの絶縁体を破損してしまい、2号レクチファイヤはボツとなりました。残念ながら、この方式の全波整流の実験はできませんでした。
 2号はほかにもレギュレーターとスリップリング回りの配線が変わっており、レギュレーターからの配線とスリップリングへの接続を簡単に切り離すことができませんでした。そこでここは切り離さないまま、電線だけを引き出しました。レギュレーターの構成そのものは、1号のものと同等のようです。
 また実験とは関係ありませんが、泥水のせいか、プーリー側ベアリングは回転がなかり重くなっていたため、新品と交換しました。

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■レギュレーターの実験

 こういった事情により、レギュレーター以外のオルタネーター1号と2号のレギュレーターを組み合わせるという、変則的な構成で実験することにしました。

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 自動車用として使う場合は、レギュレーターで出力電圧を調整します。レギュレーターの構成は製品によって異なり、また最近は燃費向上のために細かな制御が行われているので、ここで説明するものより複雑になっています。
 オルタネーターの交流出力をレクチファイヤで整流すると直流が得られますが、これは安定化されていません。回転が上がると電圧が上昇し、負荷が増えれば電圧が低下します。この電圧変動を調整し、出力電圧を一定の範囲に収めるのがレギュレーターの役割です。回路構成や省エネ機能などの違いはあるものの、出力電圧を調整する基本的な仕組み(回転子の励磁電流を調整する)は同じです。
 今回実験に使ったオルタネーターのレギュレーターは、以下の接続があります(レギュレーターICを裏から見たところ)。
(*が付いているのは、オルタネーター内部の接続で、通常は外部に出ていません)

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・グラウンド(G)
 直流出力のマイナス側が基準電位になります。レギュレーター部をオルタネーターに組み付けることで、レギュレーターのグラウンド回路がオルタネーターボディに接続されます(レギュレーター側にグラウンド用の配線や端子はありません)。実験回路ではオルタネーターボディの使っていないネジ穴(レクチファイヤ取付ネジ穴)に端子をネジ止めし、ここにグラウンド配線を接続します。

・バッテリー(B)端子
 オルタネーターの主プラス出力で、自動車のバッテリー/電装系に接続される端子です。

・励磁電力端子(Fp)*
 レクチファイヤには、電力出力用の主プラス端子とは別に、回転子励磁のために使う補助プラス端子があります。これをレギュレーター経由で回転子に接続し、励磁電力を供給します。今回の2台はどちらもこの端子を利用していますが、使わないもの(B端子からの電力を使う)もあるようです。これは内部で接続されています。

・励磁出力(F+、F-)*
 スリップリングを介して回転子に送る12Vの励磁電力です。回転子のプラス側(F+)は励磁電力端子に、マイナス側(F-)はレギュレーター内のトランジスタを経てグラウンドに落ちます。この2本の配線は内部で接続されています。

・制御電源(IG)端子(コネクタ)
 ここに12Vを加えるとレギュレーターが動作します。

・チャージランプ(L)端子(コネクタ)
 発電していない時にグラウンドに落ち、チャージランプを点灯させます。

 レギュレーターとレクチファイヤ、オルタネーターの交流発電部分は以下のように接続されます。レギュレーター内部の回路は類推したもので、この通りであると確かめたものではありません。

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■停止状態

 バッテリーは、レギュレーター/レクチファイヤのB端子とグラウンドに接続されます。IG端子はスイッチで12VがOn/Offされます。Offの状態ではレギュレーターは動作せず、電流も流れません。レクチファイヤも内部にダイオードがあるので、バッテリーからオルタネーターには電流は流れません。
 この状態でIG端子に12Vをかけると、IG−Fp(励磁電力)端子の間のダイオードを通り、F+を通して回転子に電圧がかかります。この状態で、F-(回転子マイナス)−グラウンド間のトランジスタが導通すると、回転子に電流が流れます。つまり、トランジスタの制御により、回転子の励磁電流を調整できるということです。
 IG端子からの12VはFp端子にもかかりますが、レクチファイヤの整流ダイオードにより、電流はレクチファイヤ側には流れません。
 またIG端子に12Vがかかっている間、レギュレーターは出力電圧を監視しており、発電していないと判断すると、L(ランプ)端子をトランジスタを介してグラウンドに落とします。したがって、+12Vからチャージランプをこの端子に接続しておくと点灯します。出力電圧が規定値以上になるとトランジスタがOffになり、ランプは消灯します。

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 回転子の直流抵抗は数オーム程度なので、12Vをかけると3Aから5Aくらい流れることになりますが、実際に測ってみると、そんなに電流は流れていません。テスターで測ると、停止時のIG端子電流は200mAほどでした。
 停止状態では回転子に1.6Vほどの電圧がかかっており、後述するスイッチング動作は行われていません。レギュレーター内部の構成はわかりませんが、電流制限抵抗(この場合だと50Ωほど)がはいっていると考えられます。


■回転状態

 IG端子に12Vを加えた状態でオルタネーターを回転させます。回転子には励磁電流が流れているので、電機子コイルに起電力が発生します。起電力はおおよそ励磁電流と回転数に比例するので、ある程度以上の回転数になれば、規定以上の電圧が得られます。
 発生した交流は、レクチファイヤで整流されます。レクチファイヤのFp(励磁電力)出力電圧が上昇すると、励磁回路にはレクチファイヤからの電流が流れるようになります。Fp−IG端子間にはダイオードがあるため、Fp電圧がIG電圧より高くなっても、この電力はIG端子側には逆流しません。この状態になると、IG端子に流れる電流は数ミリアンペアに減少します(わずかに流れる電流は、内部動作のためのものでしょう)。
 レクチファイヤのB(バッテリ)端子の電圧もバッテリー電圧以上になり、オルタネーターの電力で、バッテリーへの充電、そして自動車であれば、周辺回路への電力供給が始まります。
 オルタネーターの回転数が上がると、内部の交流発電機の出力電圧は高くなりますが、レギュレーターの働きにより、一定以上の電圧には上昇しません。負荷の増大により電圧降下が起きた場合も、レギュレーターの働きにより出力電圧が調整され、なるべく一定の電圧を維持するように動作します。

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 次回は、レギュレーターのさらなる詳細や、電圧制御の仕組みなどを見ていきます。



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2017年10月01日

オルタネーターで遊ぶ その3

 前回、交流出力ができたので、今回はこれを整流し、直流出力を見てみます。

■レクチファイヤを使って直流出力

 今回使ったオルタネーターのレクチファイヤの回路は図のようになっています(前の説明には間違いがありました)。

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 三相交流の3本の出力線(R、S、T、中性線は未使用)をレクチファイヤに接続すると、三相全波整流されます。
 回路を見ると、直流のマイナス出力はひとつですが、プラス出力が2系統あるのがわかります。上側のプラス出力(コンデンサがつながっている方)が発電機出力で、バッテリーや車両の電装系に接続されます。もう1組の補助プラス出力(コンデンサがつながっていない方)は、オルタネーター内部で使用します。
 放熱器は2個に分かれていて、それぞれに3個の大きいダイオードが取り付けられています。それぞれの放熱器は、直流出力回路の一部になっています。2個の放熱器は絶縁されており、−側はオルタネーターボディにネジ止めされています。今回は外付けなので、放熱器に端子をネジ止めしています。プラス側はオルタネーターのプラス極ボルト(B端子)と、内部のレギュレーターに接続する端子になっています。−極とB端子側のプラス極の間にはコンデンサが接続されています。
 補助プラス出力用のダイオードは主ダイオードより小型のもので、放熱器を使わず、放熱器の間で空中配線されています(交流入力電線の横の黒い円筒部品)。

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 中央の赤白黒の3本は交流入力。これらの線の横の黒っぽい円筒は補助プラス出力用のダイオード。外側の端子に接続されているのは、赤が主プラス出力、白が補助プラス出力。

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 マイナス出力は端子の形では用意されていないので、マイナス側放熱器に電線(黒)をネジ止めして引き出しています。

 レクチファイヤの交流入力に三相交流を接続すると、出力端子に2系統の直流が出力されます。三相全波整流回路が2組組み込まれた形ですが、−側は共用されているという変則的な整流回路です。
 三相全波整流では、整流出力は三相交流の頭の部分をつないだ波のような形になります。補助プラス出力は整流してそのままの出力なので、波のある波形になります。わかりやすいように、波形の表示位置を少し上にあげていますが、実際にはほとんど重なる位置になります(ダイオードによる電圧降下が0.5V程度あります)。

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 主プラス出力は、出力側にコンデンサが入っているので、無負荷状態では平滑化され、ほぼきれいな直流になっています。こちらも波形表示位置を少し上にあげています。

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 交流出力の測定は基準電位として中性線を使いましたが、整流した場合はマイナス出力を基準電位とします(オシロスコープの波形画面は、交流波形と同時に表示するため、直流出力も交流側中性線を基準電位としています)。車の電装系はオルタメーターも含めて車体全体が−極に接続されており(マイナスアース)、使用する電源は+12Vとなります。このように接続するために、オルタネーター内部の交流出力は接地されていません。なお、三相交流の中性線を基準電位とすれば、三相両波整流となり、プラスマイナス出力となります。この場合、オルタネーターボディが電位を持つことになるので、ショートなどに注意する必要があります。

■オルタネーター2号を入手

 思うところあって、ほぼ同形式のオルタネーターをもう1台入手しました。1号よりもちょっときたないですが、これから動作や内部の配線変更などを行っていきます。

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posted by masa at 13:52| 電気機械

2017年09月19日

オルタネーターで遊ぶ その2

 前回分解したオルタネーターを、実験用に組み立てます。

■配線の引き出し

 オルタネーターがエンジンに取り付けられていた時は、直流出力しか必要ないので、ボディアース、ネジ止めのバッテリー端子、そしてコネクタで制御電源とランプ端子が接続されていました。今回は実験のために、必要な別の配線を引き出します。
 まず、オルタネーターを交流同期発電機として動かすための配線を引き出します。電機子コイルのY結線の3本の出力と、未使用だった中性線から配線を引き出します。これで三相4線交流が得られます。この4本の出力はオルタネーターボディには接地されておらず、完全にフローティングになっています。この線は、取り外したレクチファイア用の穴から引き出します。ブラシからの回転子(界磁)用の配線も引き出します。これで外部から励磁電力を送り、回転子を回転させることで、三相交流発電機となります。

・三相4線交流出力(4本)
 Y結線の三相出力と中性線です。

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・回転子励磁電流(2本)
 回転子を励磁するための直流12Vの配線です。

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 交流出力は、中性線がN、三相出力がR、S、Tです。回転子はF+とF-です。

 レギュレーターICはブラシホルダーと一体に組み込まれているため、外部に取り出せません。そのため、レギュレーターの配線もオルタネーター内部から引き出します。レギュレーターは物理的にオルタネーター内部に残っていますが、電気的には完全に分離されています。
 レギュレーターの配線については、後で直流発電の実験をする際に説明します。

 これらの配線を接続したら、オルタネーターを組み立てます。


■モーターの準備

 オルタネーターを、インバーター制御の三相誘導モーターで回します。
 モーター軸にVベルト用プーリーを取り付けます。プーリーは汎用品なので、軸穴は自分で加工する必要があります。そのため、9mmの下穴のモーター軸に合わせて11mmに広げ、さらに押ネジ用の穴を加工します。

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 モーター側プーリーは3インチタイプで、オルタネーター側のプーリーよりちょっと大きいものです。誘導モーターを120Hzで運転すればたぶん3500 RPMくらいで回るので、オルタネーターは4000 RPM程度でしょうか。実際にエンジンに装着している状態ではもっと高回転になるはずなので、今回の実験では、電圧や出力は低くなるでしょう。


■台座

 適当な木材にモーターとオルタネーターを取り付けます。ベルト駆動なので、張り調整もできるようにしておきます。オルタネーターからの配線は、後でいろいろ実験できるように、端子台に接続します。

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■交流の発電

 同期発電機は、磁石である回転子(界磁)を回転させることで、固定子(電機子)側に交流起電力が発生します。回転子に永久磁石を使えば回転させるだけで発電しますが、電磁石の場合は、励磁電流を流す必要があります。
 回転子に励磁電流を流して回転させれば、電機子巻線に交流電圧が発生します。三相4線式で、Yの接続部を中性点とできるので、オシロスコープをつないでちゃんと三相交流の波形を見ることができます。これがデルタ結線だったり、Y結線でも中性線がないと、基準電位にできる中性点がないので、そのままではこの波形を見られません。

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 実は、励磁電流を流さなくても、わずかな電圧が発生します。回転子は直流励磁なので、鉄心に以前の励磁による残留磁束があり、これによりわずかな電圧が発生するのです。うまくやれば、この電圧を利用して励磁することで徐々に発電電圧が上昇し、外部から電力を供給することなく、発電を開始することもできます。
 実験してみたところ、励磁電流なしで、1Vちょいの起電力が観察できました。下の画像は、1目盛が0.2Vです。やたらノイズが乗っているのは、インバーターに由来するものでしょうか?

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 回転子は抵抗が3-4Ω程度なので、12Vを加えると数アンペアの電流が流れます。実験はとりあえず1A程度(印加電圧は約5V)で実験を行いました。励磁電流が実際にどれくらい流れるのかは、レギュレーターを接続した実験で見てみます。下の波形は1目盛が5Vです。

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 このオルタネーターは、回転子が12極(S-Nペアが6組)、電機子側は36スロットの分布巻きで、発電機1回転につき6サイクルの交流が発生します。
 モーターとオルタネーターのプーリー直径比が約1.25(増速)で、モーターを60Hzで駆動した場合(同期速度1800 RPM)、発電出力は約200Hz(2000 RPM)となります。


posted by masa at 01:05| 電気機械

2017年08月30日

オルタネーターで遊ぶ その1


 ふと、三相同期発電機をいじくりたくなったのです。
 一般人の日常生活で、もっとも身近な三相同期発電機は(というかほとんど唯一の選択肢は)、自動車のオルタネーターでしょう。という訳で、自動車用オルタネーターで遊んでみます。

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■自動車のオルタネーター

 自動車用のオルタネーターは、自動車で消費する電力を供給し、さらにバッテリーに充電するために、12Vか24Vの直流電力を発電します。実際には12V(24V)バッテリーに充電するために、14V(28V)程度の出力電圧になります。
 オルタネーターは交流発電機のことですが、自動車用のオルタネーターは直流出力です。これは、オルタネーター内部に整流/出力調整機能を持っているからです。オルタネーターは、ベルトを介してエンジンによって回転し、三相交流電力を発電します。そして三相全波整流器(レクチファイア)によって直流に変換します。
 エンジンの回転数は10倍近い範囲で変動するので、それに応じてオルタネーターの発電電圧も変わりますが、出力電圧が過剰にならないように、レギュレーターによって調整します。これにより、回転数が変わっても出力電圧が一定値を超えることはなく、自動車の電装品とバッテリーに安定した電圧で電力を供給できます。


■実験用オルタネーターを入手

 ネットオークションで適当なオルタネーターを仕入れました。条件はVベルトプーリー駆動であること。今時の車はたいていリブベルトを使っているのですが、プーリー入手がちと面倒そうです。Vベルトならプーリーもベルトも標準部品を簡単に入手できます。
 入手したのは、スズキキャリイ(軽トラ)用の、12V45A出力のものです。レクチファイアとレギュレーターは内蔵されており、電気的には以下の端子があります。

・アース(ボディ)
 マイナス極です。

・バッテリー(B)端子
 ケース背面にネジ止め端子で、オルタネーターの直流出力端子です。バッテリーと電装系の+母線に接続します。ここにはバッテリーによって常時12Vが加わります。

・制御電源(R)端子
 イグニッションキーにより12Vが供給される端子です。この電源によりレギュレーターの制御回路が機能し、オルタネーターのローターに励磁電流が流れます。つまりこの端子に12Vを加えないと、オルタネーターは(たとえ回転していても)発電しないということです。エンジン始動時はこの12Vはバッテリーから供給されますが、始動後は自身が発電した電力が使われます。
 この端子の名称はメーカーによっても変わるようです。

・チャージランプ(L)端子
 チャージランプ端子です。これは、オルタネーターに制御電源が供給されている(イグニッションキーがON)で、発電出力が発生していないときに、警告ランプを点灯させるための端子です。具体的には、発電出力がない時にグラウンドに落ちます。

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■分解

 オルタネーターを三相発電機として使うためには、電機子コイルの出力から配線を引き出す必要があります。またレクチファイアは必要ありません。ローターへの励磁電流も、外部から供給できるようにします。ローター用のスリップリング/ブラシ部はレギュレーターと一体になっているので、ブラシの電線だけ切り離し、ビニール線でブラシ配線を引き出します。また実験のために、レギュレーターの各端子への配線も引き出しておきます。
 オルタネーターの分解は、ネットで調べれば手順がいくらでも出てきます。ちょっと難しいのは、最初にプーリーの固定ナットを外すことです。ローターの回転を押さえなければならず、エンジンに取り付けられていればどうにかなりますが、オルタネーター単体だとうまく押さえられません。インパクトレンチを使えば簡単に外せます。

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 あとはケースのボルトを外し、軸をプラハンマーなどで叩けば、ケースを前後に分解し、ローターを抜き取ることができます。

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 電機子コイルからの配線はレクチファイアにハンダ付けされているので、これを外して電機子、レクチファイア/レギュレーターを外します。レクチファイアの直流出力がレギュレーターにハンダ付けされているので、これも外します。スリップリングのブラシもレギュレーターにハンダ付けされているので、外します。

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 一般にオルタネーターの分解は、ベアリングやブラシの交換のために行うのですが、今回は、配線を変えるのが目的なので、その辺は手を加えません。


■オルタネーターの内部構成

 オルタネーターは以下の部品で構成されています。

・電機子コイル
 オルタネーターケースの内側の固定巻線で、三相Y結線になっています。この出力をレクチファイアで三相全波整流することで、直流出力を得ています。今回の入手したものは中性線を使わない構成でしたが、3本の巻線を接続している部分を露出させ、中性線を引きだしました。

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・ローター(界磁)コイル
 回転するローターは直流で励磁される電磁石です。励磁電力はスリップリングで供給されます。レギュレーターはこの励磁電流を制御することで、オルタネーターの出力を制御します。今回入手したものは、12極ローターです。
 軸端に厚みのあるベアリングがあり、それとローターの間にほぼ同径のスリップリングが2組あります。

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・レギュレーター
 R端子に12Vが与えられると動作します。レギュレーターは、ブラシとスリップリングを介してローターコイルに励磁電流を供給します。B端子の電圧が規定以下の場合(回転していない、あるいは回転しているが出力電圧が低い)、レギュレーターはローターコイルに励磁電流を供給します。回転数が上がって電圧が上昇し、規定電圧(約14V)以上になると励磁電流をカットし、電圧上昇を抑えます。ローター電流の断切を高速に繰り返すことで、母線電圧を規定電圧に保ちます。制御は断続的ですが、バッテリーが平滑回路として働き、母線では滑らかな直流となります。
 チャージランプは、R端子に12Vが加えらており、オルタネーターが十分な電圧を発生していない場合に点灯します。つまり回転していないか、出力電圧が下限値以下である時に、トランジスタを介してL端子が接地します。自動車の場合、キーをONにすると点灯し、エンジンが始動し、回転が安定して発電を開始すると消灯することになります。
 写真は、レギュレーターとレクチファイアが接続された状態のものです。ハンダ付けを外せば分離できます。

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・レクチファイア
 6個のダイオードで三相全波整流します。+出力はB端子、−出力はケースにアースされます。またこの+出力は、レギュレーターの電圧検知端子(オルタネーター内部の接続)にも送られます。ノイズ防止用に、プラス極とマイナス極の間にコンデンサが接続されています。(間違ってました。今度訂正します。)
 写真では、絶縁用のプラスチック部品が割れてしまっていますが、これを再度組み付けることはないので気にしません。

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posted by masa at 18:18| 電気機械

2017年03月26日

三菱のインバータで遊んでみる その4

 今回使っている三菱電機のE-700シリーズは、汎用磁束ベクトル制御とアドバンスト磁束ベクトル制御という2種類のセンサレスベクトル制御がサポートされていますが、アドバンスト制御のほうが高性能で、汎用のほうは過去の製品との互換性のために用意されているようです。ここではアドバンスト制御を使います。ちなみに、出荷時状態はV/F制御になっています。
 ベクトル制御を正確に行うには、さまざまなパラメータが必要になります。なので、実際に使う前にこれらのパラメータを設定する必要があります。パラメータには、使用するモーターの仕様で決まるものと、モーターそのものの電気的な(仕様書などには示されていない)特性値があります。いまどきのインバータは賢いので、電気的な特性値を自動的に求める機能が備わっています。特性値を調べ、設定する機能を「チューニング」といいます。

■アドバンスト磁束ベクトル制御の設定

 ベクトル制御を行う際は、モーターに関するいくつかのパラメータを設定する必要があります(以下の説明には、ベクトル制御専用のパラメータ以外のものも含まれます)。モーターの出力、極数などの情報は、ユーザーが直接指定します。ここでは以下のパラメータを設定します。おもにインバータ出荷時設定からの変更ですが、初期設定のままのものもあります。見出しの後のPnnは、パラメータnnの意味です。
 電流、周波数のパラメータは、単位を示すA、HzのLEDが点灯します。電圧のVは単位表示はありません。これらのパラメータは、小数点も表示されます。

・上限周波数 P1
 インバータが出力する最高周波数、つまり最高回転数の指定になります。ここでは定格周波数の倍の120(出荷時設定値)とします。これはV/F制御でも参照されます。

・下限周波数 P2
 インバータが出力する最低周波数、つまり最低回転数の指定になります。ここでは0(出荷時設定値)とします。これはV/F制御でも参照されます。

・電子サーマル P9
 サーマルはサーマルリレーの略で、電流による発熱で動作する保護機構です。過負荷などによる過電流を検出し、出力を遮断して機器を保護します。一般にサーマルリレーは独立した部品、あるいは開閉器とセットで使われますが、インバータには、電子的に等価な操作を行う機能、つまり過電流が流れた時に出力を遮断する機能が組み込まれています。これが電子サーマルです。初期設定ではインバータの定格に見合った電流値が設定されていますが、定格より小さなモーターを使う場合は、この値を小さくする必要があります。この値は0.01A単位で設定できます。今回使った200Wモーターの定格電流は60Hzで0.98Aです。汎用モーターの場合は、これを1.1倍した値(1.1A)を設定します(詳細はマニュアルを参照)。

・適用モーター P71
 使用するモーターの種類で、三菱の汎用、高効率、定トルク、他社製などがあります(マニュアル参照)。三菱の指定形式以外の場合、後述するオートチューニングが必要になります。今回、日立の汎用モーターを使っているので、他社汎用モーターを意味する3を指定し、後でオフラインチューニングを行います。

・モーター容量 P80
 モーター容量をkW単位で指定します。9999だとV/F制御(モーター容量は関係しない)となります。ベクトル制御の場合は、0.01kW単位でモーター容量を指定します。今回は200Wモーターなので、0.20を設定します。

・モーター極数 P81
 モーターの極数で、2、4、6などがあります。V/F制御の場合は9999にします。極数が多いほど、同じ周波数でも回転数が低くなります。60Hzの場合、2極だと3600RPM弱、4極だと1800RPM弱になります。今回は4極を使うので4を設定します。

・モーター定格電圧 P83
 モーターの定格電圧を0.1V単位で設定します。ここでは200V(出荷時設定値)を指定します。

・モーター定格周波数 P84
 モーターの定格周波数を0.01Hz単位で設定します。ここでは60Hz(出荷時設定値)を指定します。

・速度制御ゲイン P89
 負荷変動により回転数が変化したときの回復動作の応答性のパラメータで、100(%)が標準です。設定は0.1%単位で行います。9999だと指定したモーターのデフォルト値が使われます。この数字が小さいと変化に対する応答がゆっくりになり、大きいと早くなります。値が大きすぎると、状況によっては過負荷になったり、速度の振動が発生することがあります。このパラメータは実際に負荷をかけた運転で調整することにし、ここでは9999(出荷時設定値)としておきます。

・制御方法 P800
 汎用かアドバンストかを指定します。ここではアドバンスト磁束ベクトル制御なので、20を設定します。

 これらのパラメータを設定すると、アドバンスト磁束ベクトル制御モードとなります。つまり、モーター容量(P80)と極数(P81)を設定するとV/Fモードからベクトル制御モードになり、さらにP800で汎用かアドバンストかの制御方法を決めるということです。
 ベクトル制御を選択した場合は、実際に運転する前に、次に説明するオフラインオートチューニングを行う必要があります。

■オフラインオートチューニングの実行

 アドバンスト磁束ベクトル制御では、モーターの巻線の抵抗やインダクタンスなどのパラメータが必要になりますが、これらはインバータが自身で測定し、設定できます。接続されたモーターに適当な電圧を加え、それに対する電流値を測定することで、これらのパラメータを求めます。これをオフラインオートチューニングといいます。
 オフラインチューニングではモーターは回転させず(多少軸が動くことはあるようです)、必要な調査を行うので、モーターを機器に組み込んだ状態でも実施できます。オフラインチューニングにより、P82P90-94P859が自動的に設定されます。あるいは事前に求めておいたこれらのパラメータをインバータに設定することで、個々の機材でのチューニングを省略することもできるようです。
 オフラインチューニングとは別に、通常運転中にパラメータを調べ、最適な状態に自動的に調整するオンラインチューニングという機能もあります。
 オフラインオートチューニングは、以下のように行います。

・オートチューニング P96
 オートチューニングの実行、現在の状態を示します。0はチューニングを実行しない、1はアドバンスト制御のためのチューニングの実行を示します。

 前述のパラメータ設定を行った後、P96に1を設定し、PU運転モードにしてRUNボタンを押します。この時、LED表示を電流や電圧以外にしておくと、進行が数字で表示され、1から3まで進みます。
 途中で停止する場合はSTOP/RESETを押します。チューニングには数秒から数十秒かかります。RUN LEDが点滅したら正常終了で、STOP/RESETを押してチューニングを終了します。これでパラメータが設定されます。終了後にP96の値を変更する必要はありません(変更するとパラメータが無効化されます)。

 これで出荷時のV/F制御からアドバンスト磁束ベクトル制御になったはずですが、無負荷で回転させる実験では違いがわかりません。このモードの違いは、実際に負荷がかかった環境で低速運転や負荷が変動する運転をしないとわからないでしょう。

posted by masa at 18:34| 電気機械