2017年07月13日

Marantz 7 風プリアンプを作ってみる


 2016年の話です。
 春日無線の2A3シングルアンプが2015年に稼働したので、これにCDのライン出力をつないで聴いていたのですが、やはりレコードもこれで聴きたくなります。しばらくは市販のトランジスタアンプのフォノEQを使っていたのですが、せっかくなので真空管プリアンプを作ることにしました。ネットでいろいろ調べ、有名どころのMarantz 7の回路を作ることにしました。

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■アンプの構成

 Marantz 7はもう60年くらい前の製品ですが、今でもこれが好きな人が多く、資料も容易に入手できます。詳しくはhttp://www.takobeya.com/Marantz7C/Marantz7.htmlにまとめてあるので、そちらを参照してください。
 今回作ったプリアンプの構成、特徴はこんな感じです。

・Marantz 7のフォノEQ、バッファアンプを作る(トーンコントロールは省略)
・Marantz 7っぽい基板、真空管まわりとする
・使用する部品にはこだわらない。

■真空管ソケット周辺

 Marantz 7は、ケース内部の垂直の板に真空管ソケットが取り付けられています。つまり真空管は水平に配置されます。ケース背面には長穴があいていて、シールドケースがケース背面から少し飛び出します。
 今回作ったアンプは、この構造を踏襲し、真空管ソケットをアルミアングルに取り付け、ケース背面にあけた穴からシールドケースが飛び出すように配置してあります。ケース背面はCNCで穴抜きしました。オリジナルは12AX7を6本使っていますが、トーンアンプを組み込まないので、本作は4本構成です。

rear2.JPG

rear1.JPG

■基板

 Marantz 7はラグ板配線ではなく、基板を使っています。しかしプリント基板ではなく、ベークライト板に貫通ポストを立てて、CR類を結線します。本作では、3mm黒色ベークライト板に2.5mmネジを切り、ポストを立てています。この基板の両面にCとRを取り付けます。基板は真空管ソケットに隣接しており、基板とソケットを結ぶCRは、直接ハンダ付けしています。基板に信号配線を接続する部分にはポストを立てています。電源の接続はポスト間のスズメッキ線に直接接続しています。このような構造なので、後から部品交換を行うのはかなり大変です。

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board1.JPG

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board3.JPG

■回路

 回路については、Marantz 7ほぼそのままです。詳しくはWebサイトのほうに書いてあります。Phono入力の抵抗が47kΩと1MΩが並列にはいってますが、これはWebサイトにも書いた通り、オリジナルの回路構成の都合です。47kΩはフォノイコライザ動作の時にのみ挿入され、1MΩは(マイク、テープヘッドなどのために)常時挿入されている入力抵抗です。実装上では、1MΩは基板上、47kΩは入力端子に接続しています。
 使っている部品は、抵抗がごく普通の金属皮膜抵抗、電界コンデンサも普通のもの、信号系のコンデンサはフィルムタイプです。イコライザの時定数はマイラーコンデンサで、オリジナル回路の容量とするために、2つのコンデンサを並列につないでいます。

sch.JPG

test1.JPG

■入力セレクタやボリュームなど

 今回は、Photoが1入力、Lineが2入力です。
 ケース背面のRCAコネクタからの配線は、オリジナルではフロントパネルのセレクタ類に直接伸びていますが、作例では配線長を短くするため、セレクタとボリュームを真空管のすぐ上に取り付け、コネクタからの配線長を数十ミリに抑えています。
 オリジナルは、Line入力時にはPhono入力をグラウンドに落とすという回路になっているのですが、引き回し長が伸び、スイッチ回路が増えるので短絡回路は省略しました。

front2.JPG

side.JPG

 セレクタとボリュームは、延長軸でフロントパネルのつまみに接続していますが、ケース組立誤差により、軸が一直線に揃いませんでした。そのためユニバーサルジョイントを作りました。スパイダー部は金属ですが、ヨークがジュラコン樹脂なので、絶縁継手となっています。もちろん、タイトカップリングなどの市販品を使うのが普通で、わざわざジョイントを自作したのはただの自己満足です。

joint1.JPG

joint2.JPG

■電源

 東栄(http://toei-trans.jp/)で買ったP-260Bというトランスで、次の巻線があります。

・260-0-260V 30mA
・0-6.3-15-17V 2A
・6.3V 1A

 これを、基板側への漏洩磁束がなるべく少なくなるような位置に取り付けました。10ターンのコイルをいろいろ動かし、それに発生する1mVほどの電圧を見ながら、位置と向きを決めています。ショートリング付きなのでさほど漏れないのですが、まぁ気持ちの問題です。
 B電源は260V-0V-260Vの巻線をシリコンダイオードで両波整流し、CRフィルターで平滑化しています。フォノイコライザーは245V、フォノEQ出力段と出力バッファのカソードフォロワは280Vの電源を接続しますが、これはCRフィルターの適当なところから引き出すことで、目的の電圧としています。抵抗値は現物合わせで決めました(写真は仮付抵抗で調整中のもの)。

ps2.JPG

 ヒーター電源は、12AX7のヒーターを管内で直列で使用し、DC 12.6Vで点灯しています。トランスの15V巻線から適当なシリコンブリッジで全波整流し、LM338で安定化しています。

ps1.JPG

 セレン整流器? 何だっけそれ? 昔、鉄道模型のヘッドライト切り替えやパワーパックの整流に使ってたっけ(遠い目)。。。

■問題点

 特に問題もなく音が出たのですが、実は未解決の問題が残っています。
 MCカートリッジのDL-103を接続し、MCトランスをスルーにすると(つまり入力にDL-103を直接接続すると)フォノイコライザーが発振するという症状があります。トランスでステップアップしたり、インピーダンスの高いMMカートリッジを使う分には問題ありません。DL-103の内部抵抗に近い抵抗をつないでも問題なし、DL-103の小さなL分がある時のみだめなようです。
 発振時には入力側にも数十mVの電圧がかかってしまい、カートリッジによくないので、じっくりと各部を調べる訳にもいかず、また実用上の問題もないので放置状態です。今のカートリッジが腐ったら実験してみます。

posted by masa at 02:07| 電子工作

2017年07月02日

ジョグシャトルで遊ぶ その3


 今回は、ジョグモードとシャトルモードの切り替えの説明と、Arduinoで動くサンプルプログラムを示します。

arduino.JPG

■ジョグとシャトルの切り替え

 ツマミを上から押すことで、ノック式ボールペンのような機構的な仕組みによりジョグモードとシャトルモードが切り替わります。この変化は、軸の上下を検出するフォトインタラプタから得られるモード信号を調べることで検出できます。
 これとは別に、シャトルモードで使うための、シャトルセンター位置を示す信号があります。これは羽が1枚だけ付いた回転する板が、シャトルのセンター位置の時に、フォトインタラプタの光を遮るという形で信号を生成します。
 この部品はシャトルモードの時はツマミ軸に噛み合って回転し、回転範囲を制限し、クリック位置を定めます。ジョグモードの時は軸から切り離され、スプリングでセンター位置に移動します。したがって、ジョグモードからシャトルモードに移行した時は、常にセンター位置から始まることになります。
 このような機械的な動作に合わせて、プログラムを作ります。動作は次のようになります。

・シャトルモードでは、回転パルスによってnShuttle変数を増減させる。
・センター信号の検出で、nShuttle変数を0にリセットする。
・ジョグモードでは、回転パルスによってJogFwd()関数かJogRev()関数を呼び出す。
・シャトルモードに移行した時は、センター信号を検出してから動作を始める。
・ジョグモードに切り替えた直後は、ツマミの回転検出を一定時間行わない(切り替え時に意図しない移動をしないようにするため)。


 これを実現するために、ジョグ/シャトルのモードの状態は、過渡的なものも含めて以下のようになります。

・状態1: ジョグモードに移行(回転検出を行わない)
・状態2: ジョグモード(回転検出を行う)
・状態3: シャトルモードに移行(センター未確認)
・状態4: シャトルモード(センター確認済み、回転検出を行う)

 これらの状態は、時間経過やジョグ/シャトルの動作によって別の状態に移動します。定常状態は状態2状態4で、ここでは回転の検出を行い、そして必要に応じて、状態2ではJogFwd()関数かJogRev()関数の呼び出しを行い、状態4ではnShuttleの更新を行います。
 状態1から状態2へは時間経過で、状態3から状態4はセンター検出で移行します。またすべての状態において、モード切替の検出を行います。

state.jpg

 状態は以下の定数で表します。


enum {
JsJogOn = 0, // シャトルからジョグに移行
kJsJog, // 現在、ジョグモードである
kJsShOn, // ジョグからシャトルに移行(センター未確定)
kJsSh // 現在、シャトルモードである(センター確定)
};


 状態はグローバル変数jsModeに保持し、この値で場合分けして、各状態での処理、別の状態への遷移を行います。kJsJogOnkJsShOnは過渡的な状態を示すもので、実際のジョグ動作はkJsJog状態で、シャトル動作はkJsSh状態で処理を行います。
 状態の遷移は、モード信号(GetMode()関数)でジョグモード(kJsJogOn)かシャトルモード(kJsShOn)かを判定します。シャトルモードに移行した場合、その後、センター位置をGetCenter()関数で判断してkJsShに遷移します。
 ジョグモード(kJsJogOn)に遷移した時は、ツマミを押す操作で多少ツマミが回転してしまうため、それをカウントしないように500ミリ秒ほど待機してから、実際にジョグ操作を行う状態(kJsJog)に移行します。
 シャトル処理、ジョグ処理は、ChkRot()関数で回転を検出します。この関数はGetClk()関数で現在のΦ1、Φ2信号を読み込み、以前の信号の状態(prev変数)を組み合わせてテーブルを引き、動作内容を返します。この値に応じて、ジョグモードの場合はJogFwd()関数かJogRev()関数を呼び出し、シャトルモードではnShuttle変数を増減します。またnShuttle変数が変化した時は、JogShuttle()関数は非0を返します。
 シャトルモードでの処理は、常にセンター信号を監視し、センターであればnShuttle変数を0にリセットします。実はここでちょっと問題があります。このジョグ/シャトルユニットは、センターとして認識される角度範囲が意外と広く、この範囲中でカウントが進むことがあるのです。そのためカウントミスが発生し、変数の増減で0になったにも関わらず、センター信号が検出ず、さらに進んでセンターと判断されてしまいます。具体的には、2、1、0、-1、0(センター検出)という出力になってしまいます。このような動作はまずいので、カウントが0になるのにセンター信号が検出されない時は、カウントを0にせず、前の値を維持し、0になるのはセンター信号を検出した時だけとしています。
 JogShuttle()関数を呼び出す前に、変数の初期化が必要です。これは、prev変数に最初の状態を読み込む、jsModeに最初の状態を読み込むといった処理を行います。

 これらの処理を行うプログラム例(Arduino用)を以下に示します。関数JogShuttle()がジョグ/シャトルのためのポーリングルーチンです。この関数はジョグ/シャトルの信号線を読み込み、以前の状態と組み合わせて動作を判定し、必要な作業を行うという処理を1回だけ行います。なので、実際にジョグ/シャトルを使う際は、この関数を繰り返し呼び出す必要があります。呼び出し間隔が長く、その間にツマミが何ステップ分も回されると、データの取りこぼしとなります。ジョグをすばやく回した時でもパルスの取りこぼしがないようにするには、1秒間に数百回程度は呼び出す必要があるでしょう。
 また、この関数を呼び出す前に、最初に使う以前の状態データ、ジョグ/シャトルの状態データを初期化しておく必要があります(setup()関数中で実施)。

 以下のプログラム例は、ATmega328のArduino用のもので、信号入力はすべて別関数として定義しています(GetClk()GetMode()GetCenter())。初期化はsetup()で、メイン部分のloop()は繰り返し呼び出されます。


//
// ジョグ/シャトルのテストプログラム (Arduino ATmega328)
//

// 回転を検出するテーブル
enum {
kRotNotMove = 0,
kRotFwd,
kRotRev,
kRotMiss
};

// クロックの変化パターンから回転を判定
const unsigned char jsPhPat[16] = {
kRotNotMove, // 00 -> 00 Not move
kRotFwd, // 00 -> 01 +
kRotRev, // 00 -> 10 -
kRotMiss, // 00 -> 11 Miss
kRotRev, // 01 -> 00 -
kRotNotMove, // 01 -> 01 Not move
kRotMiss, // 01 -> 10 Miss
kRotFwd, // 01 -> 11 +
kRotFwd, // 10 -> 00 +
kRotMiss, // 10 -> 01 Miss
kRotNotMove, // 10 -> 10 Not move
kRotRev, // 10 -> 11 -
kRotMiss, // 11 -> 00 Miss
kRotRev, // 11 -> 01 -
kRotFwd, // 11 -> 10 +
kRotNotMove // 11 -> 11 Not move
};

// ジョグモードとシャトルモードの遷移
enum {
kJsJogOn = 0, // ジョグモードに移行
kJsJog, // ジョグモード確定
kJsShuttleOn, // シャトルモードに移行
kJsShuttle // シャトルモード確定
};

// 使用するグローバル変数
int jsMode;
unsigned long tMode;
int nShuttle;
unsigned char prev;

//
// セットアップ
//

// ピンの割り当て
const int Clk1 = 2;
const int Clk2 = 3;
const int Center = 4;
const int Mode = 5;

void setup()
{
// ピンの動作を定義
pinMode(LED_BUILTIN, OUTPUT);

pinMode(Clk1, INPUT_PULLUP);
pinMode(Clk2, INPUT_PULLUP);
pinMode(Center, INPUT_PULLUP);
pinMode(Mode, INPUT_PULLUP);
Serial.begin(9600);

// 初期状態を取得
jsMode = (GetMode() == HIGH) ? kJsJogOn : kJsShuttleOn;
prev = GetClk();
nShuttle = 0;
tMode = millis(); // 現在時刻を取得

return;
}

//
// メインループ
//
void loop() {
// ひたすら繰り返し呼び出す
if (JogShuttle()) {
// シャトル値が更新された
Serial.print("S=");
Serial.println(nShuttle);
}

return;
}

//
// ジョグ/シャトルの状態をスキャンし、必要に応じて適切な処理を行う
// シャトル値が変化した時は、非0を返す
//

int JogShuttle()
{
unsigned char act;
int ret = 0; // シャトル値に変化があった場合、1を返す

// 状態の変化の処理、現在の状態での処理など
switch (jsMode) {
case kJsJogOn: // ジョグモードに切り替わった
// モード変更の判定
if (GetMode() == LOW) { // シャトルモードに移行
jsMode = kJsShuttleOn;
break;
}
// 一定時間待ってからジョグモードに移行(回転検出はしない)
if (millis() >= (tMode + 500)) {
jsMode = kJsJog;
prev = GetClk();
}
break;

case kJsJog: // ジョグモード
// モード変更の判定
if (GetMode() == LOW) { // シャトルモードに移行
jsMode = kJsShuttleOn;
break;
}
// ジョグの回転の検出
act = ChkRot();
if (act == kRotFwd) {
JogFwd();
} else if (act == kRotRev) {
JogRev();
}
break;

case kJsShuttleOn: // シャトルモードに切り替わった
// モード変更の判定
if (GetMode() == HIGH) { // ジョグモードに移行
jsMode = kJsJogOn;
tMode = millis();
nShuttle = 0;
ret = 1;
break;
}
// センターを確認してシャトルモードに移行
if (GetCenter() == HIGH) { // シャトルがセンター位置
jsMode = kJsShuttle;
nShuttle = 0;
ret = 1;
prev = GetClk();
}
break;

case kJsShuttle: // シャトルモード
// モード変更の判定
if (GetMode() == HIGH) { // ジョグモードに移行
jsMode = kJsJogOn;
tMode = millis();
nShuttle = 0;
ret = 1;
break;
}
if (GetCenter() == HIGH) { // シャトルがセンター位置
if (nShuttle != 0) {
ret = 1;
}
prev = GetClk();
nShuttle = 0;
} else {
// シャトル回転の検出
act = ChkRot();
if (act == kRotFwd) {
if (nShuttle != -1) { // センターの例外処理
nShuttle++;
ret = 1;
}
} else if (act == kRotRev) {
if (nShuttle != 1) { // センターの例外処理
nShuttle--;
ret = 1;
}
}
}
}
return ret;
}

// ジョグ操作に対応する処理
void JogFwd()
{
Serial.print(">");
return;
}

void JogRev()
{
Serial.print("<");
return;
}

// 回転の検出
int ChkRot()
{
unsigned char t;
unsigned char pat;
unsigned char action;

t = GetClk();
pat = (prev << 2) | t;
action = jsPhPat[pat];
prev = t;

if (action == kRotMiss) {
Serial.print("*");
}

return action;
}

// 2相クロックの読み込み (Arduino用コード)
unsigned char GetClk()
{
unsigned char val;

val = (digitalRead(Clk1) == HIGH) ? 2 : 0;
if (digitalRead(Clk2) == HIGH) {
val |= 1;
}
return val;
}

// モード信号の読み込み (Arduino用コード)
int GetMode()
{
return digitalRead(Mode);
}

// センター信号の読み込み (Arduino用コード)
int GetCenter()
{
return digitalRead(Center);
}


posted by masa at 21:07| 電子工作

2017年06月28日

ジョグシャトルで遊ぶ その2


■ジョグ/シャトルをマイコンにつなぐ

 ジョグシャトルをマイコンなどに接続するためには、ジョグ/シャトルから送られてくる信号を適切に処理し、回転やモードを検出する必要があります。ジョグ/シャトルコントローラに5V電源を供給すると、2相パルス、モード、センターのデジタル信号(0Vと約5V、要プルアップ)が得られます。

・2相パルス
 1回転で24サイクル、各相は90度ずれている。

・モード
 ジョグ時にH、シャトル時にL。

・センター
 シャトルセンター時にH、それ以外でL。ジョグ時はH。

 これらの信号をマイコンで適当に処理すると、ジョグ/シャトルの動作をプログラムで検出することができます。まず、回転を検出する処理を考えます。

■回転の検出

 まず2相パルス信号から回転を検出する方法を考えます。この時、回転方向も調べなければなりません。位相のずれた2相パルスを生成するのは、回転方向を調べるためです。ここでは2本の信号をΦ1とΦ2とします。
 基本的な考え方は以下のようになります。

・Φ1を回転パルスの基準とする。Φ1の信号がLからHに変化した時(ポジティブエッジ)に、ツマミがまわされたと判断する。ツマミには24のスリットを持つ羽根車がつながっているので、ツマミ1回転で、15度おきに、24回のポジティブエッジが発生する。

・Φ1がLからHに変化した時のΦ2の状態を、回転方向とする。

 これだけでいいの?って感じですが、これでいいのです。図は位相が90度ずれた2つのクロックです。ツマミの回転に応じて、波形上の位置が左から右に移動していきます。この時、Φ1がLからHに変わるとき、Φ2は必ずHです。

rot1.jpg

 赤い上向きの矢印がΦ1のポジティブエッジで、この時のΦ2の値を回転方向と判断します。つまりこの回転方向はロジックレベルHとなります。
 ジョグを逆回しすると、Φ1とΦ2の位相がずれ、次の図のようになります。

rot2.jpg

 逆に回すとΦ1とΦ2のタイミングが変わり、Φ1がLからHに変わるとき、Φ2はLになっています。
 つまり、Φ1のポジティブエッジのタイミングでのΦ2の値は、回転方向を示すのです。下の図は、途中で回転方向を変えたときに、波形がどのようになるかを示しています。オレンジの線のタイミングで回転方向を変えています。

rot3.jpg

 これで、回転と方向の検出ができます。しかしこのやり方では、ツマミ1回転で24ステップしか情報が得られません。もう少し細かく欲しい場合はどうすればいいでしょうか? 前の方法では、Φ1のポジティブエッジに着目しましたが、それに加えて、Φ1がHからLに変わる時(ネガティブエッジ)も考えれば、倍の48ステップにできます。回転方向の判定はちょっと複雑になり、ポジティブエッジの時とネガティブエッジの時では、同じ方向にまわっていても、その時のΦ2の値は逆になります。まぁ、この辺は後で考えます。

rot4.jpg

 Φ1のポジティブ、ネガティブエッジの間で、Φ2の信号も変化しています。これも回転を検出するタイミングとして使えます。この場合、Φ2のエッジをタイミングとし、その時のΦ1の値を方向とすればいいのです。こうすればさらに倍の96ステップになります。

rot5.jpg

 ただこのやり方は、方向判定がさらに複雑になります。Φ1とΦ2のそれぞれのポジティブ、ネガティブエッジを回転検出のタイミングとし、その時の他方の信号の状態によって方向を判断するというのは、まぁプログラムで条件判断や論理式をごりごり書けばどうにかなりますが、もう少しすっきりさせましょう。
 Φ1とΦ2の値は、Hを1、Lを0とすると、プログラムから見たとき、以下の組み合わせのどれかとなります。

 Φ1  Φ2
 0   0
 0   1
 1   1
 1   0

 この4通りだけです。つまみを一方向に回した時、Φ1とΦ2はこのように変化します。0から3までの2進数とはちょっと違いますが、とりあえず2ビットで4通りの組み合わせです。
 このような変化パターンをグレイコードといいます。いかなる変化の場合であっても、1ビットしか変化しない(ハミング距離が1)という特徴があります。
 ある時点でのΦ1とΦ2の状態は、2ビットのデータとして表せます。その後のΦ1とΦ2の状態も同じように2ビットで表せます。つまりΦ1とΦ2の変化のパターンは、4ビットの組み合わせ、16通りしかないのです。この程度だったら、if-elseをいくつも組み合わせて判断したり、論理演算で考えるより、テーブルにまとめてしまったほうが簡単です。
 この状態変化を表すのは、4ビットの添え字、つまり16要素の配列で済みます。上位2ビットが以前の状態、下位2ビットを新しい状態でとします。この添え字で示される配列要素の値は、その添え字で表される変化パターンの意味、つまり正回転、逆回転などを示します。
 16要素で4ビットの全組み合わせがあるので、この中には状態が変化していない組み合わせ、つまり以前の状態と現在の状態が同じものも含まれています。これは動きがなかったとみなすことができます。また前述したビット変化のパターンには、2ビットが同時に変化するという組み合わせはありません。例えば00から11に変化することはなく、00からだと必ず01か10になります。もし00から11になったとすると、途中の01か10を読み損ねた可能性があります。これらも考えると、パターン変化の組み合わせは、不動、正回転、逆回転、読み取りミスの4種類となります。
 Φ1とΦ2の変化パターン(2進数)を添え字とし、そのパターンに応じた動作を定数kRotNotMovekRotFwdkRotRevkRotMissとした場合、変化パターンのテーブルを構成する配列は以下のようになります。


enum {
kRotNotMove = 0,
kRotFwd,
kRotRev,
kRotMiss
};

const unsigned char jsPhPat[16] = {
kRotNotMove, // 00 -> 00 Not move
kRotFwd, // 00 -> 01 +
kRotRev, // 00 -> 10 -
kRotMiss, // 00 -> 11 Miss
kRotRev, // 01 -> 00 -
kRotNotMove, // 01 -> 01 Not move
kRotMiss, // 01 -> 10 Miss
kRotFwd, // 01 -> 11 +
kRotFwd, // 10 -> 00 +
kRotMiss, // 10 -> 01 Miss
kRotNotMove, // 10 -> 10 Not move
kRotRev, // 10 -> 11 -
kRotMiss, // 11 -> 00 Miss
kRotRev, // 11 -> 01 -
kRotFwd, // 11 -> 10 +
kRotNotMove // 11 -> 11 Not move
};


 たとえば以前の状態が01で、それが11に変化した場合、添え字は0111(7)となり、正回転で1ステップ進んだことになります。
 Φ1とΦ2が接続された2ビットのポートを繰り返し読み出し、1回前の読み出しデータを保存しておけば、次のようなコード(ループの内部)で回転パルスの検出と方向判定を行うことができます。


unsigned char t;
unsigned char pat;
unsigned char action;

t = GetClk(); // 現在のΦ1とΦ2を2ビットデータとして読み込み
pat = (prev << 2) | t; // 以前の状態と組み合わせて添え字を算出
action = jsPhPat[pat]; // 添え字から動作を判定
prev = t; // 次に使うために現在の値を保存

switch (action) {
case kRotFed: // 正回転
// 正回転の処理
break;
case kRotRev: // 逆回転
// 逆回転の処理
break;
case kRotNotMove: // 移動せず(何もしない)
break;
case kRotMiss: // 読み取りミス
// 必要に応じてエラー処理
}


 ジョグモードであれば、正回転と逆回転はステップ送りの処理を行い、シャトルモードであれば、シャトルのポジションを示す変数を更新する(そしてプログラムのどこかでその値を参照する)ことになるでしょう。
 次は、ジョグモードとシャトルモードの切り替えについて考えます。



posted by masa at 14:09| 電子工作

2017年06月21日

ジョグシャトルで遊ぶ その1

 テープ時代のビデオ編集をやったことがある人なら、ジョグ/シャトルコントローラを知っているでしょう。VHSやベータのビデオでも、高級な機種には本体やリモコンに装備されていました。
 ジョグ/シャトルは、実はビデオ編集に限らず、何かと便利に使うことができます。単発からある程度の周波数まで、パルス発生のためのコントローラとして便利に使うことができます。筆者は、CNCフライス盤のMPGに、このコントローラを使おうと考えています。MPG(Manual Pulse Generator)は、ツマミを回してテーブル移動用ステッピングモーターを回転させるコントローラです。つまりハンドルを手で回す代わりに、モーターで動かせるようにするのです。駆動はパルスに比例して回転するステッピングモーターを使うので、モーター制御にジョグ/シャトルは好都合です。微動はジョグモードで、早送りや定速送りはシャトルでと考えています。

■ジョグ/シャトルコントローラ

 ジョグ/シャトルはVTRのテープの早送りからコマ送りまでを円滑に行えるコントローラです。ジョグ/シャトルという名前が示すように、ジョグとシャトルという2つの機能があります。

・ジョグ
 ジョグは、何回転でも自由に回るツマミを回して、ビデオのコマ送りをする機能です。時計回りで正送り、反時計回りで逆送りで、ツマミの1回転で数フレームから数十フレームのコマ送りができます。
 VHSやベータ、8mmなどの家庭用アナログ機、DVなどのデジタル機では、ジョグを一定角度回転させるごとに1フレーム送りという形でしたが、ベータカムなどではフレーム単位ではなく、まさにテープを微動させるという形で制御できました。つまり1フレームの途中で好きなところで止めることができました。
 ビデオ編集において、フレーム単位(あるいはフィールド単位)でテープの位置決めをする際には、ジョグは欠かせない機能でした。

・シャトル
 シャトルは、正方向、逆方向に、静止画から早送りまで、速度を自由に変えながらテープを送る機能です。ツマミのセンターが静止で、左右にそれぞれ数十度から150程度回すことができます。もちろん、センターから回すほど送り速度が高まります。
 家庭用のシャトルは、手を離すとセンターに戻るものが多かったですが、SONYの業務用のものは、手を放しても戻りません。

DSCN1929.JPG

■ジョグ/シャトルコントローラの構成

 家庭用VTRや一部の業務用のジョグ/シャトルコントローラは、中央にジョグツマミがあり、その周囲にシャトルのリングがあるという構成です。ジョグツマミは自由に回転しますが、シャトルは左右に一定角度しか回転しません。
 一方、SONYの業務用VTRや編集機に使われていたものは構造がちょっと異なります。丸いツマミが1つだけで、上から押すごとにジョグとシャトルが切り替わります。ジョグモードの時は自由に回転し、シャトルモードの時は、中央から左右に150度程度回転します。手を放しても中央には戻らず、中央位置には、中央であること示すクリックがあります。また最大角度に回した時にもクリックがあります。
 ツマミが回転すると、羽車と2組のフォトインタラプタによって、位相が90度ずれた2相パルスが生成されます。各相は1回転で24サイクルなのです。どのエッジに着目するかで、1回転あたりの回転検出数は24回から96回となります。
 ツマミを上から押すと、ノック式ボールペンと同じような仕組みで、ツマミの位置が上下します。ツマミが上に上がっている時はシャトルモードで、ツマミの回転範囲が制限されます。ツマミが沈んでいる時はジョグモードで、回転範囲の制限が外れ、自由に回転できます。この回転角を制限する部品は、シャトルモードの時は軸とともに回転しますが、ジョグモードの時は軸との結合が外れ、スプリングでセンターに戻っています。そのためジョグモードからシャトルモードに切り替わった時は、必ずセンター位置から始まります。
 現在のモードがジョグであるかシャトルであるかは、ツマミの軸受け部分の上下方向の位置を別のフォトインタラプタで検出します。また、シャトルモードの際のセンター位置も、フォトインタラプタによって検出されます。

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 2相の回転パルス、ジョグ/シャトルモードの判定、シャトルのセンター検出の合計4個のフォトインタラプタは、ユニット側面の基板に装着されており、そこからの信号は基板上のコンパレータICで処理されます。このICとフォトインタラプタの電源は+5Vで、信号出力は0Vか5Vのデジタル信号となります。ただし回路の都合により信号を受ける側に適当なプルアップ抵抗が必要です。

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 回転パルスのためのフォトインタラプタはヒステリシス特性を持つシュミット回路になっており、境界付近での振動を避けるようになっています。モード切替とセンターのほうは単純に出力をデジタル化しているだけです。
 配線の色は筆者の入手した部品のものです。ほかのものが同じである保証はありません(コネクタは筆者が交換したものです)。

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 1. 赤 +5V
 2. オレンジ 回転でH/L
 3. 黄 回転でH/L
 4. 青 シャトル時: センターでH、それ以外でL ジョグ時: 常時H
 5. 紫 ジョグ時にH、シャトル時にL
 6. 茶 Gnd

 SONYのこのコントローラは、業務/放送用VTR、編集機に広く使われました。慣れるととても便利に使えます。今では、テープ編集はほとんど行われないため、当時の機材がオークションなどで安く放出されており、うまく探せば、1個1000円程度で入手することができます。例えば1980年代後半から1990年ごろまでの代表的な編集機であるSONY RM-450は、このコントローラを2基備えていますが、1000円から2000円で落札することができます(今回使った部品は、2台のRM-450から取り外したものです)。多くは25年くらい前のものですが、放送用品質のおかげか、今でもほとんど問題なく使うことができます。
 これより新しいものだと、ジョグ/シャトルの切り替えが機械式ではなく電磁式になったようです。このタイプは、ツマミのそばにあるプッシュスイッチでモードを決めるようで、自分で遊ぶにはさらに解析やら付加回路やらが必要そうです。

 次回は、ドライバプログラムについて説明します。
posted by masa at 14:41| 電子工作