2020年08月29日

ミッションをばらす その4 −− シフトレバー周辺

 ミッションの分解手順としては、次にエクステンションハウジングを外すのですが、その前準備として、ハウジングの後部にあるシフトレバー周辺を分解しておく必要があります。そこで今回は、シフトレバーに関連する部分について説明します。

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 シフトレバーはミッションの最後部に取り付けられている。


■ シフトレバー取付部

 シフト機構のうち、シフトレバー周辺はエクステンションハウジングに組み込まれているので、これを見ていきます。
 ミッションのエクステンションハウジングの最後部にシフトレバーが取り付けれています。ミッションを車両から降ろす際は、作業の都合上、事前にシフトレバーを取り外すのですが、ここでは動きを見るために、元通りにボルトで止めてあります。
 ハウジングの最後部の上側に、シフトレバーをセットするベースとなるコントロールケースという部品が取り付けられています。そしてケース上部には、取り付けられたシフトレバーを固定する押さえ板がボルト止めされています。

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 コントロールケースとシフトレバー。


 ミッションが車載されている状態では、シフトレバーだけが車内に位置するので、この部分には防水、防塵などのために2つのゴム部品が取り付けられます。

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 車内外を仕切るゴム部品


 1つめの部品はコントロールケースにはめ込むこもので、この位置でミッションとボディの間をシールし、床下から水やホコリが車内に侵入するのを防ぎます。ミッションは走行負荷により左右に傾くので、中央部は蛇腹になっており、多少の前後左右の動きを吸収できるようになっています。

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 コントロールケースでシールするゴム部品。


 もう1つのゴム部品は、シフトレバーの付け根でシールするシフトブーツです。これはシフトレバーとボディの間をシールします。シフトレバーは大きく動くので、ブーツ部分の蛇腹は大きな動きに追従できる構造になっています。このブーツは、車内から異物がシフトレバー周辺に入るのを防ぎます。またコントロールケースとシフトレバーの取付部は、特別なシール構造にはなっていないので、内部のオイルの臭いなどが多少漏れますが、このゴムブーツにより車内に臭いが侵入するのを防ぎます。

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 シフトレバーのブーツ。


 実際の車内の内装は、このゴムブーツの上に、さらに革や布の素材のシフトブーツが取り付けられ、先端のネジ部にシフトノブが取り付けられます。


■ シフトレバーの動き

 前に触れたように、通常はミッションを降ろす時点でシフトレバーとゴムシール部品は取り外されています(組付け時は、ミッションを固定した後、これらの部品をもとに戻します)。しかしレバーを取り付けるためのコントロールケースは、ミッションに取り付けたままです。
 コントロールケース上部にボールマウントの台座があり、ここにシフトレバー下部のボール部(大きい方)がはまります。そしてその上に、ボールマウントの上側となる押さえ板をボルト止めします。このように組み立てることで、シフトレバーが自由に動ける状態で、コントロールケースに取り付けられます。
 NDのマニュアルミッションは前進6速+後退1速で、レバーの3列の前後の動きで、1−2、3−4、5−6を選択します。後退は1−2列のさらに左にあり、レバーを押し込むことで1−2列より左にレバーが倒れ、その状態で前に倒します。
 どれかのギヤに入れればレバーはそのポジションを維持しますが、ニュートラルの時は、手を離すとスプリングの働きで3-4列の中立位置に戻ります。


 シフトレバーの動き。付け根の部分を見ると、押し込むとRに入れられる仕組みがわかる。


 シフトレバーは前後左右に傾けられるように、レバーの支点部分は球体になっていて、これがケース側の球面で支えられます。上側のレバー押さえ板にも同じような球面があり、レバーの球体がこれに挟まれることで、前後左右へ倒す動きができます。単なるボールマウントだと、このような動きに加えて、レバーが自由に回転できてしまいますが、これは不要な動きです。シフトレバーを支えるボールマウントは、ケース側の左右からピンが飛び出していて、これがレバー側のボールの溝にはまります。これにより、レバーは前後左右に動きますが、ねじれるような回転の動きはできなくなっています。

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 シフトレバーと押さえ板。

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 レバーと押さえ板のボールマウント部。押さえ板の下側はボールマウントの上側を構成する。ボールの回転止めの溝も見える。

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 レバーと押さえ板を外した状態のコントロールケース。

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 コントロールケースのボールマウント。回転止めのピンが見える。


 シフトレバーをボールマウント部に固定する押さえ板は、レバーが動く範囲を制約するリミッターの役割があります。前の動画を見てもわかりますが、この押さえ板の枠部分に、レバーの付け根にある八角形の部品が当たることで、前後方向、1-2列の左方向、5-6列の右方向の限界位置を定めます。NDは後退に入れる際にシフトレバーを押し込み、1-2列よりもさらに左に動かしますが、これもこの八角形の部品が関係しています。通常は1-2位置でレバー基部の左端が押さえ板の枠に接触しますが、レバーを押し込むことでこの接触部分が枠の下に下がり、レバーをさらに左に倒せるようになります。

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 押さえ板の枠とレバーの付け根の八角形の部品で、レバーの動作範囲が制限される。

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 1-2列で、八角形の部品が枠の左側に当たる。

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 レバーを押し込むと、八角形の部分の上側の細い部分が枠に当たる。その差の分、レバーは大きく傾く。


 忘れがちですが、レバーを押した状態で前後や5-6列側に倒すこともできます。レバーを右側に倒した時に当たる枠部分は、1-2列側よりも厚くなっており、レバーを押した状態で倒しても、八角形の部品が枠に当たるようになっています。これにより、5-6列より右側に倒れることはありません。
 またレーバーの前後についても、枠側が厚くなっており、押す押さないに関わらず、八角形の部品が枠に当たるようになっています。

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 5-6列、前後側は枠が厚いので、レバーを押していても八角形の部品が枠に当たるので、傾く角度は変わらない。


 コントロールケースを取り付けているボルトを外せば、ケースをエクステンションハウジングから取り外すことができます。コントロールケース内部は、ミッションと同じギヤオイルを溜めて潤滑しています。今回は抜き取り済でしたが、車両から降ろした状態であれば、ここに300ccほどオイルがあるはずなので、分解の前に抜き取っておきます。オイルを溜める構造なので、コントロールケースもほかの部分と同じく、液体ガスケットでシールされており、ボルトを抜いた後、ちょっとこじって外します。

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 取り外したコントロールケース。


■ コントロールロッドエンド

 シフトレバーのボールマウント部の下には短い棒が伸びており、その先は小さな球状になっています。この球状部分がコントロールケースの内部で、シフト操作のためのコントロールロッドという部品を動かします。

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 コントロールケースに取り付けられたシフトレバーの下端には、小さなボールがある。


 コントロールケースを外すと、シフトレバー下端の小さなボールがはまるコントロールロッドエンドという部品が現れます。これはエクステンションハウジング内部に取り付けられたコントロールロッドという丸棒の後側に取り付けられています。コントロールロッドとロッドエンドは、ハウジングの中で前後と回転の動きができます。

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 コントロールロッドエンド

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 ロッドエンドにシフトレバー先端のボール部がはまる。


 シフトレバーを動かすと、ボールマウント部を支点にして、レバーの動きと反対向きに下部のボール部が動きます。このボール部はコントロールロッドエンドの穴にはまっているので、ボールの動きに合わせてエンド部品とロッドが動くことになります。シフトレバーを前−後に動かすと、その向きと逆に下端のボールが動くので、エンド部品(及びロッド)は後−前に動きます。レバーの左−右の動きはボールの右−左の動きとなり、これによりロッドエンド部品は、ロッドを軸として左右に回転します。以下の写真は分解後に撮影したものなので、ロッドエンドがスプリングピンではなく、ビスで仮止めされています。

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 レバーを5-6列方向に倒した時のロッドエンドの状態(写真の上が前側)。

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 レバーを1-2列方向に倒した時のロッドエンドの状態。

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 レバーを前側に倒した時。

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 レバーを前側に倒した時。


 実際にコントロールロッドエンドを動かしてみる。


 このコントロールロッドの前後と回転の動きで、全部で4本あるシフトロッドを個別に動かし、シフトフォークを動かしてギヤの切り替えを行います。
 コントロールロッドエンドの周辺には、シフトレバーの動きをサポートするための部品がいくつかあります。
 シフトレバーはR列、1-2列、3-4列、5-6列の4列で前後に動きますが、ニュートラル状態で手を離すと3-4列に位置します。これはコントロールロッドエンドを両側からスプリングで押すことで実現しています。ロッドエンドの左右の張り出し部分の下に、スプリングが組み込まれたピンが斜めに取り付けられています。ロッドエンドが回転すると張り出し部分がこのピンを押すので、スプリングの力がロッドエンドを元の位置に戻そうとします。前の写真や動画を見ると、倒された側のスプリングが縮んでいるのがわかります。これが左右にあり、レバーが3-4列の位置にある時は、どちらのピンも伸び切った状態となり、押されません。これにような仕組みにより、レバーに力がかかっていないときは、3-4列に戻るのです。
 レバーを右に倒すときは5-6列だけですが、左方向は1-2列とR列があり、左右で倒れる最大量が異なります。そのため1-2列とR列から戻すための右側のピンのほうが、ストロークが長くなっています。
 コントロールケース上の押さえ板の枠とは別に、コントロールロッドエンド下部にも移動を制限する部品があります。コントロールケースの底の部分にボルトで取り付けられた鉄板の部品も規制用の部品です。エンドが5-6列側に倒れた時に、エンドの下側にある突起がこの部品に当たります。

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 底部に取り付けられた黒い鉄板は、コントロールロッドエンドの傾きを規制する部品(分解後に撮影)。


 コントロールロッドエンドはロッドに差し込まれて固定されていますが、一緒にちょっと開いたコの字型の鉄板(次の写真の左側)がロッドに取り付けられています。これはロッドエンドが前後に動き、ケース内壁に当たる時の衝撃を緩和するためのクッションスプリングとして働くものと思われます。レバーを前後に動かした時、限界位置に達する直前に、このスプリングが作用してロッドエンドが壁に当たる衝撃を緩和します。つまりシフト操作時のフィーリングを改善するための部品でしょう。

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 コントロールロッドエンドと衝撃緩和用のスプリング。


■ エクステンションハウジング分離の準備

 コントロールロッドの前側のロッドエンドは、エクステンションハウジング内でシフトロッドと噛み合っており、ここが引っかかったままだとハウジングを外せません。そのためエクステンションハウジングを外す前に、シフトレバー側のロッドエンドとコントロールロッドの結合を切り離しておきます。これでエクステンションハウジングを外す際にコントロールケース部分からロッドが抜けるので、支障になりません。
 コントロールロッドエンドはスプリングピンという部品でコントロールロッドに取り付けられています(写真の赤丸部分)。ピンポンチを使い、ハンマーで叩いて抜き取ります。

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 エンド部品とロッドを貫通するようにスプリングピンを打ち込んで固定してある。


 なおここまでの写真の一部は、分解後に撮影したため、スプリングピンではなくネジで仮止めしてあるものがあります。


■ スプリングピンとピンポンチ

 スプリングピンは、バネ鋼の板材を丸めた筒状の部品で、合わせ目に隙間があるので、ピン外形より小さな穴に押し縮めて差し込むことができます。差し込まれたピンは弾性で広がろうとするので、その力によりその位置に留まり、部品を固定することができます。これは弾性と摩擦だけで止まっているので、穴径よりちょっと細いピンポンチという丸棒を当て、ハンマーで叩いいて抜き取ることができます。
 ピンの打ち込み、抜き取りはハンマーで行いますが、このサイズのものであれば、釘を打つくらいの力で抜き差しを行えます。スプリングピンは弾性部品なので、再使用は不可で、組み立て時には新品に交換します。

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 スプリングピン

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 ピンポンチ

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 次回は、ミッションの後ろ側のエクステンションハウジングを見ていきます。




posted by masa at 09:30| 自動車整備

2020年08月23日

ミッションをばらす その3 −− ミッションケースの分離

 これからNDロードスターの6速ミッションの本体部分を分解していきます。修理のために降ろしたものではなく、オークションで入手したものなので、内部の状態は不明です。見た目は割ときれいで、各ギヤへのシフトは普通に行なえます。また手でメインドライブシャフトを回した限りでは、特に問題は見当たらないという状態です。
 今回はミッションの前半分を収めるミッションケースを分離します。

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 ミッションケース(赤丸の部分)は、クラッチハウジング、ミッションのギヤトレーンの前半分を収める。


■ 分解の準備

 まずミッション後端下部にある2本のスタッドボルトを取り外します。これはデフと結合するパワープラントフレームを取り付けるためのボルトなのですが、下に飛び出していて邪魔なので外します。十分な長さがあるので、ナットを2個取り付け、ダブルナットにしてレンチで外します。

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 ダブルナットでスタッドボルトを取り外し

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 スタッドボルト


 次にオイルを抜きます。ケース内のオイルはドレーンとフィラーのボルトを外して抜きます。シフトレバーのケース部分のオイルは、ドレーンボルトがないのでシリンジなどで抜きます。
 いざ抜こうとフィラーとドレーンのボルトを外したところ、オイルはすでに抜かれた状態でした。ドレーンボルトの先端にはマグネットが組み込まれており、摩耗した鉄粉などを集めるのですが、これもほぼきれいに清掃された状態でした。なので、オイルからは以前の状態はわかりませんでした。ただ、ケースを外した後の内部、わずかに残ったオイルを見た限りでは、ほとんど汚れていませんでした。

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 ドレーンボルトにはマグネットが組み込まれている。


 このMTは、メインドライブシャフト、メインシャフト、カウンターシャフトが組み合わされた状態で、中間に位置するベアリングハウジングに取り付けられています。その状態から前側のミッションケース、後ろ側のエクステンションハウジング、インターメディエイトハウジングを外すという手順になります。その途中で、分解の支障になる後退ギヤ、シフトフォークなどの部品を外していきます。
 ハウジング類を外したら、ギヤ、ハブ、シンクロなどをシャフトから外します。一部の作業に特殊工具やプレスの使用が指定されていますが、とりあえずできるところまでやってみます。
 組み立てる際には、再使用不可部品を新品にする、シール材(液体ガスケット)の使用、寸法調整などが必要になります。まぁこのあたりはいきあたりばったりで考えます。修理のための分解組み立てでないので気が楽です。
 ケースの分離は、整備書の手順では、前側のミッションケース、次に後ろ側のエクステンションハウジング、最後にインターメディエイトハウジングをはずしていくことになっていますが、この順序でなければならないという訳ではありません。自分でやった時は、ボルトを外した後、先にエクステンション側からオイルが漏れ始めたので、そちらを先に外しました。ここでは一応整備書の順序に従って解説していきますが、写真の内容は順序に違いがある場合もあります。
 3つのハウジングとベアリングハウジングは、共通のボルトで共締めされています。エクステンションハウジングとインターメディエイトハウジングの接続部にある長ボルトを抜き取ると、すべてのハウジングの結合が外れます。ただし内部で噛み合っている部品もあるため、これだけでハウジングを分離できるわけではありません。また各ハウジングの間は液体ガスケットでシールされており、これがけっこうしっかりと固着していること、ハウジング間の位置決めのためのピンの嵌合があるため、ボルトを抜いただけでバラバラになるわけではありません。プラハンマーで叩いたり、突起をバールでこじったりする必要があります。


■ フロントカバーの取り外し

 前側のハウジングはミッションケースという名称です。
 クラッチハウジングと一体になったミッションケースを分離するには、まずクラッチまわりの部品を取り外します。前回取り外したレリーズカラーとレリーズフォークはフロントカバーという部品に取り付けられています。フロントカバーは、カラーが摺動するパイプ部分と、ミッション前側のベアリングのカバーが一体化したものです。ベアリング部分はミッション内の潤滑領域なので、この部品でオイルをシールしています。またメインドライブシャフトをシールするためのオイルシールは、フロントカバー内部に取り付けられています。
 カラーとフォークを外すと、フロントカバーを外すことができます。これは6本のボルトで固定されているので、これを抜き取ります。このボルトのためのネジ穴は、オイルで潤滑されるミッション内部に貫通しているので、取り付けボルトのネジ部にシール材が塗布されています。シール材がないと、ボルト穴からオイルが漏れ出る可能性があります。フロントカバーはオイルをシールする部品なので、ミッションケースへの取付面に液体ガスケットが使われています。かなり強く貼り付いているので、こじって外します。ちゃんとバールを引っ掛けられるように突起が付いています。

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 フロントカバー。まだクラッチ部品が残っている状態。

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 フロントカバーからクラッチ部品、ボルトを外す。

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 取り外したフロントカバー。オイルシールが組み込まれている。

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 ボルトのネジ部にはシール材が塗布されている。


 カバーを外すと2個のベアリングが現れます。ここで使われているベアリングはゴムシールタイプでした。内部はグリース潤滑されていて、グリースが外に漏れないように、そして外部から液体や個体の異物が入らないように、ボール部がカバーされています。汎用ベアリングのカバーのタイプには、金属製で僅かな隙間があるもの、ゴムが接触して完全に密封されているものなどがあり、ここで使われているのは密封タイプでした。つまりベアリング内部には、ミッションオイルは浸入しないということです。ミッション内部はオイル潤滑なので、シールドのないオープンタイプが当たり前と思っていたので意外でした。ギヤなどの摩耗粉によるベアリング消耗を防ぐという話をネットで見かけたのですが、真実は不明です。
 この部分の2個のベアリングは、軸に圧入、ケースにはしっくり嵌めです。つまり軸からベアリングを抜くにはプーラー等が必要ですが、ケースからは力をかけずに抜くことができます。これらのベアリングのインナーの軸には位置決め用のスナップリングが取り付けられているので、ベアリングを抜き取るなら、これを外しておきます。
 ハウジングを固定しているボルトを外し、メインドライブシャフトベアリング外周のスナップリング(このスナップリングについては、少し後で説明します)を外してからてケースを前に引っ張れば、ケースを外すことができます。この場合、ベアリングは軸側に残せるので、軸のスナップリングを外す必要はありません。写真では軸のスナップリングを外しましたが、筆者が行った手順では、外す必要はありませんでした。つまりベアリング交換をしない限り、軸側のスナップリングを外す必要はありません。

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 軸から外したスナップリング


 ミッションケースの分離の作業用に、専用工具が用意されています。専用工具をフロントカバー用のネジ穴を使ってミッションケースにボルトで固定し、メインドライブシャフトをネジで押して使うというものです。整備書によれば、この段階でミッションケースとメインドライブシャフトのベアリングを引っ張り、メインドライブシャフトをギヤトレーン側に残したまま、ケースを外し、同時にメインドライブシャフトベアリングを抜き取るようです。ベアリングのアウターレースの外周部にはスナップリングがはめられており、これによりケースを引っ張るとベアリングもそれとともに引っ張られ、ベアリングがメインドライブシャフトから抜き取られるのです。このやり方をする場合は、メインドライブシャフト上のスナップリングを取り外しておく必要があります。

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 ベアリング外周にはまっているスナップリング

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 スナップリングを外す


 メインドライブシャフトのベアリングをはずす必要がない場合は、軸のスナップリングは外さず、ベアリング外周のクリップをあらかじめはずした状態でケースを引っ張れば、ベアリングをシャフトに残した状態でケースを抜き取ることができます。メインドライブシャフトベアリングとカウンターシャフトベアリングは、共にミッションケースに対してはしっくり嵌めなので、まっすぐ引けば、分離することができます。
 ここでちょっと問題が。。。ベアリングのアウターレースにはめられていたスナップリングは、おそらく再使用不可部品です。整備書ではベアリング外周のスナップリングの取り外しには記載がなく、パーツ単品では入手できない可能性があります。その場合はパーツはベアリングとセットになるため、結局ベアリングごと交換するか、あるいはスナップリングを再使用することになります。


■ ベアリングの圧入嵌めとしっくり嵌め

 ベアリングをケースや軸に取り付ける場合、圧入としっくり嵌めがあります。
 圧入は小さい穴に少し太い部品を、圧力をかけて、あるいは熱膨張を使うなどして取り付ける方法です。軸の場合は、ベアリングのインナーレース内径よりも軸の外形が太くなります。ケースへの取り付けの場合は、ベアリングアウターレース外形が取り付け穴よりも少し大きくなります。
 しっくり嵌めは逆で、穴よりも軸あるいはアウターレース径が小さくなります。わずかな隙間があるため、大きな力をかけずにはめることができます。
 ベアリングを介して軸をケースに取り付ける際は、通常はどちらかを圧入します。つまり軸に圧入して、ケースにはしっくり嵌めするか、あるいはケースに圧入して軸をしっくり嵌めにします。用途によっては両方とも圧入します。両方ともしっくり嵌めというのは、大きな力がかかる部分ではあまりありません。
 ベアリングを圧入嵌めするとき、そして外す時は、圧入されているインナーレースかアウターレースに力をかけるというのが基本です。軸に圧入ならインナーレースに力をかけ、ケースに圧入ならアウターレースに力をかけます。これはボールやローラー部分に過大なスラスト方向の圧力や衝撃を加えないためです。過度な圧力はベアリング内部の変形や傷の原因になります。
 組み立てはこれでいいのですが、分解は必ずしもこれが可能とは限りません。軸に圧入されたベアリングを抜く場合、プーラーはアウターレースにかけるこのが普通ですし、ケースに圧入されたベアリングをパイロットベアリングプーラーで抜く場合は、インナーレースに力がかかります。
 ベアリングメーカーは、内部のボール列などにこのような抜き差しの力が加わることを避けるように求めています。もし規定以上の力がかかるようなら、新品に交換することが推奨されています。
 ミッションなどの整備で分解する場合、ベアリングそのものの劣化が原因で取り外すなら、新品交換でなんの問題もないのですが、分解の都合上、不具合のないベアリングを外さなければならないこともしばしばあります。このような時も、理想的にはベアリングを新品にするのがいいのでしょうが、現実問題としては微妙なところです。手で回してみて、ガタや引っかかりがなければ再使用可能となっているのですが、実際は予防的に新品交換といったところでしょうか。
 この種の深溝ベアリングのガタを調べるときは、片手でアウターレースでつかみ、反対側の手の指でインナーレースにを広げるように支えます。そしてベアリングを回したりこじるように動かし、ガタを手で感じ取ります。この時、開放型ベアリングなら油分を落として調べられるのでわかりやすいのですが、グリース封入タイプだと、グリースの粘りによりガタがわかりにくいのです。NDのミッションはすべてグリース封入タイプが使われているので、慎重に見極める必要があります。実際問題としては、ミッション分解の手間とベアリングの価格を考えれば、安全のためにベアリング交換しておくのがいいでしょう。


■ ミッションケースの分離

 ここまで準備すれば、前側のミッションケースを外すことができます。今回はメインドライブシャフトのベアリングのアウターレースのスナップリングを外し、ベアリングをシャフト側に残すという形(整備書とは違う方法)で行いました。
 まずエクステンションハウジング側からボルトを抜き取ります。実際のケース分離ですが、液体ガスケットの貼り付きと位置決めピンの嵌合がかなり固く、また部品自体が大物だったので、プラハンマーではうまく隙間があきませんでした(先に後ろ側が外れてしまいました)。そのため、メーカー純正の抜き取りSSTを真似て、メインドライブシャフトに圧力をかけて外すことにしました。フロントカバー取り付けボルトのネジ穴に寸切りボルトをねじ込み、メインドライブシャフト先端を支点にして、この寸切りボルトをプーラーで引っ張る形で外しました。手間はかかりましたが、あっさりと外すことができました。

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 各ハウジングを固定しているボルトを外す。

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 抜き取ったボルト。

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 寸切りボルトをねじ込む。

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 プーラーをセット。

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 隙間ができた。

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 隙間ができた。

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 取り外したミッションケース。


■ ミッションケース内のギヤ

 このケースをはずすと、メインドライブシャフト、カウンターシャフトとメインシャフトの前半分がむき出しになります。メインシャフトには2組のシフトフォークも組み合わされています。

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 ミッションケースを外した状態。作業の都合で、エクステンションハウジングも外れている。

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 上側がメインドライブシャフトとメインシャフト、下側がカウンターシャフト。シフトフォークがスリーブを前後に動かし、ギヤを選択する。

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 右側からメインドライブギヤ、5速ギヤ、2速ギヤ、1速ギヤ。シフトフォークは5-6速用と1-2速用。


・メインドライブシャフト
 クラッチディスクが取り付けられていた軸がメインドライブシャフトです。これは、ケース前側のベアリングで支えられ、さらに同心に位置するメインシャフトと接する部分にもニードルローラーベアリングが組み込まれています。メインドライブシャフトのギヤ(メインドライブギヤ)は、下側にあるカウンターシャフトを駆動します。またこのギヤの後ろ側には、直結の6速用のクラッチのスプラインがあります。
 ケースを外した段階で、メインドライブシャフトはどこにも固定されていないのですが、6速用クラッチがカウンターシャフトのギヤと干渉するため、現時点ではメインシャフトから取り外すことはできません。

・カウンターシャフト
 メインドライブギヤで減速され、回転する軸です。前端はケースのベアリングで支えられています。この軸には、1速から5速、後退用のギヤが取り付けられています。ケースを外した状態では、シャフトの駆動ギヤと5速、2速、1速のギヤが見えます。

・メインシャフト
 ミッションの出力軸で、後端部でプロペラシャフトに接続します。ケースを外した露出部分の前端には6速(直結)と5速ギヤと結合するためのクラッチ機構一式があります。クラッチスリーブを動かすためのシフトフォークも見えます。
 その後ろには2速と1速用のギヤ、クラッチ機構一式があります。つまりこの部分では、メインシャフトにはクラッチハブが2セット、5速、2速、1速の3組のギヤが取り付けられていることになります。


 シフトフォークを動かすと、ギヤシフトの様子がわかりますが、遊ぶのはもう少し後にします。


■ ミッションケースの内側

 ミッションケースはクラッチ機構をカバーし、そしてミッションの前半分のギアセットを内部に収めます。各部を見てみます。

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 クラッチハウジング側。ギヤ部分のハウジングとクラッチハウジングの間に補強用リブがある。シール材が塗布されているのは、シフトロッド用のブッシュの取り付け穴。向かって右側の膨らみはスターターモーターのピニオンギヤ部。

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 ギヤケース側。シフトロッドがスライドするためのブッシュが取り付けられている。側面にオイルフィラーボルトの穴が見える。

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 次回はシフトレバー周辺を分解します。





posted by masa at 12:03| 自動車整備

2020年08月22日

ミッションをばらす その2 −− クラッチの構造

 NDロードスターの6速マニュアルミッションの話の続きで、まずは全体像について説明します。今回入手したミッションは、クラッチの部品も一部含まれていたので、ミッションからはちょっと離れますが、クラッチ部分についても解説します。


■ 入手したミッション

 これはNDのオーナーや中古部品屋さんから直接入手したものではなく、個人売買です。別車種の改造用に入手したものの、うまく合わなかったために手放したということです。そのため部品の経歴(事故車取り外しとか部品として購入とか)はわかりません。パーツリストがないので正確なことはわからないのですが、貼り付けられているラベルの番号を見ると、かなり初期のもののような気がします。入手した時点では外装はかなりきれいで、またオイル類はすべて抜き取られた状態でした。
 車両からミッションを下ろす際に、最初にシフトレバーやクラッチレリーズシリンダーを外すので、中古部品として流通する際には、シフトレバー、クラッチ部品などは含まれていないことが多いのですが、今回入手したものは、MT本体に加えて、クラッチディスクとクラッチカバー、プロペラシャフト部のキャップ、シフトレバー(ノブなし)、シフトレバー部用のゴムブーツ2つが付属していました。

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 運搬中(後ろ側)

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 運搬中(前側)


■ ミッションの外観と全体構成

 FR車用のMTは、複数種類のエンジンに対応するために、エンジンと結合するクラッチ周辺部品(クラッチハウジング、クラッチベル)をミッション本体と別体化しているものもあるのですが、このミッションはベル部も一体化されています。そのため、接続部での明確な形状変化はなく、ベル形状が細長く伸び、ミッションケースの途中で滑らかに一体化しています。

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 ミッション全体

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 クラッチハウジングとミッションケース前側


 前側のクラッチベルとミッションケースが一体化した部品の後ろには、ミッションの内部で軸を支えるベアリングが組み込まれたベアリングハウジングがあります。これは薄い部品で、その後ろにインターメディエイトハウジングという中間部のケースがあり、さらに最後部にエクステンションハウジングが取り付けられます。メインドライブシャフト、メインシャフト、カウンターシャフトは、トランスミッションケース、ベアリングハウジング、インターメディエイトハウジングの3箇所のベアリングで支えられています。
 トランスミッションの構成は、前側から以下のようになっています。

・トランスミッションケース
 クラッチ、5-6速ギヤ、1-2速ギヤを収めています。メインドライブシャフト用ベアリングとカウンターシャフトの前側ベアリングが取り付けられています。

・ベアリングハウジング
 メインシャフト、カウンターシャフトの中間ベアリングが組み込まれています。シフトロッドのディテント(クリック感)、インターロック機構もここに組み込まれます。

・インターメディエイトハウジング
 3-4速ギヤを収めています。後端にメインシャフト用、カウンターシャフト用のベアリングが取り付けられています。

・エクステンションハウジング
 後退ギヤを収めています。最後部にはプロペラシャフトが挿入されます。後端上部にシフトレバーのマウント部があり、ケース上側にはシフト用のコントロールロッド類があります。また下側には、デフケースとつながるパワープラントフレームの取付部があります。


 これらのハウジングは、後ろに位置するエクステンションハウジング側から長いボルトによって、まとめて固定されています。つまり長ボルトはエクステンション、インターメディエイト、ベアリングハウジングを貫通し、トランスミッションケースのネジ穴と噛み合うという形です。ただしこのボルトを外してもすべてのケースがばらばらになる訳ではなく、位置決めピンやギヤ類の抜き取り作業が必要です。

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 ミッションの断面図


 各部の写真と簡単な説明を以下に示します。

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 ミッションの識別シール

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 シフトレバー取付部

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 ニュートラルスイッチ。反対側のボルトはもう1つのニュートラルスイッチ取り付け穴の栓。

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 後退スイッチ

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 ブリーザー


 ブリーザーは、ケース内外の温度差などにより圧力差が発生した時に、空気を通す部品です。水などが浸入しにくい構造になっています。


■ クラッチ

 ミッション内部に触れる前に、まず最前部にあるクラッチについて説明します。
 クラッチは普通の乾燥単板ダイヤフラムスプリング式で、ペダル操作により油圧で作動します。今回入手したミッションには、クラッチディスクとクラッチカバーが付属していました。レリーズシリンダーはありません。
 クラッチの構造を簡単に紹介します。

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 クラッチディスク

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 クラッチカバー(レリーズベアリング側)

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 クラッチカバー(プレッシャープレート側)


 エンジンのクランクシャフト最後部には回転を安定させるフライホイールがあり、クラッチ機構はフライホイールに取り付けられます。フライホイールにはクラッチカバーがボルトで取り付けられており、フライホイールと一体で回転します。ミッションの入力軸(メインドライブシャフト)に取り付けられたクラッチディスクは、フライホイールとクラッチカバーに挟まれる位置に置かれます。このような構造から、車両からミッションを取り外した時、クラッチ機構はエンジン側に残った状態で分離されます。つまりクラッチディスクとクラッチカバーはフライホイールに取り付けられたまま、ミッションのメインドライブシャフトを抜き取るという形になります。クラッチを作動させるレリーズカラーとレリーズフォークはミッション側に残ります。
 クラッチカバー内部で、クラッチディスクに接触するのは、プレッシャープレートという部品です。これはストラッププレートという板状の弾性部品でクラッチカバーに取り付けられており、クラッチカバー内で前後に移動できます。クラッチカバーとプレッシャープレートの間にはダイヤフラムスプリングという菊の花のような形状のスプリングがあります。このスプリングによりプレッシャープレートをフライホイール側に押し付ける圧力がかかり、結果としてフライホイールとプレッシャープレートでクラッチディスクを強く挟む形になります。この状態ではエンジン、つまりフライホイールの回転は摩擦力によってクラッチディスクに伝わります。

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 カバーとプレッシャープレートはストラッププレートでつながっている。


 フライホイールとプレッシャープレートは金属製、クラッチディスクは両側の表面にフェーシング材(摩擦材)が貼られています。両面のフェーシング材の間には、クッション機能を持つ部品があり、クラッチ接続時の衝撃を緩和します。
 ダイヤフラムスプリングは、クラッチカバー内の支点でカバーに固定されており、その支点よりも外側でプレッシャープレートを押しています。そしてダイヤフラムスプリングの中心部をフライホイール側に押さえ付けると、反対側がプレッシャープレートから離れ、プレッシャープレートにかかっている圧力が抜けます。

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 ダイヤフラムスプリングは固定用の支点で取り付けられている。


 クラッチディスクは、ミッション側のメインドライブシャフトとスプラインではまっているので前後動できます。そのためプレッシャープレートの圧力が抜けるとクラッチディスク自体も少し後ろにずれ、プレッシャープレートともフライホイールとも、接触圧力はなくなります。これにより動力の伝達が断たれ、フライホイールが回転してもクラッチディスクに回転は伝わりません。これがクラッチが切れた状態です。

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 クラッチディスクはスプラインでメインドライブシャフトにはまる。


 エンジン側のクランクシャフト/フライホイールとミッションのメインドライブシャフトは独立して回転でき、なおかつ同心状態を維持しなければならないので、フライホイール中心には、メインドライブシャフト先端が挿入されるパイロットベアリングが組み込まれています。
 プレッシャープレートがクラッチディスクに押し付けられている状態ではクラッチディスクはフライホイール、クラッチカバーと一体になって回転します。これがクラッチがつながっている状態です。

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 クラッチの構造


 クラッチディスクのハブ部分にコイルスプリングが見えますが、これは接続時の衝撃を緩和するためのものです。クラッチフェーシングを取り付けたプレートと中心のハブは別の部品であり、このスプリングを介して回転の力を伝えます。回転速度差が大きい状態での急な接続は大きなショックが発生しますが、そのような時に、このスプリングが縮むことで、回転方向の衝撃を緩和します。


■ 無駄話 −− コイルスプリングを使ったクラッチカバー

 乗用車のクラッチカバーはダイヤフラムスプリングを使っており、スプリングやプレッシャープレートは非分解構造なので、スプリング劣化やプレート摩耗などの場合はカバー全体を交換します。古い車や大型車両ではダイヤフラムスプリングではなく、コイルスプリングを使ったクラッチカバーもあります。以前乗っていたJeep J-58はコイルスプリングタイプでした。これは分解可能な構造で、使用部品もかなり多く、調整箇所もありました。

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 コイルスプリングを使ったクラッチ

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 クラッチカバーの構成


■ レリーズ機構

 ダイヤフラムスプリングはフライホイールと一体で回っており、中心部を押し込むことでクラッチが切れます。そのためのレリーズ機構はミッション側に組み込まれています。スプリング側は回転しているので、中心部を押し込むためにベアリングが使われます。ミッションのメインドライブシャフトを覆う形状のパイプ上を前後に摺動するレリーズカラーという部品があり、その先端にレリーズベアリングが取り付けられています。レリーズカラーが前側に動くとレリーズベアリングがダイヤフラムスプリングを押し込みます。レリーズベアリングは軸方向に力がかかるので、スラスト(アンギュラー)ベアリングが使われています。

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 レリーズカラー/ベアリングは前後に摺動する。

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 レリーズベアリングのダイヤフラムスプリング接触側。


 レリーズカラーの摺動は、レリーズフォークという部品で行います。これはミッションケース外側に取り付けられたクラッチレリーズシリンダーが押す力をテコの原理で向きを変え、レリーズカラーを強い力で前側に押します。ミッションケース内にはボール状の支点があります。ボールマウントなのでここはぐらぐらしてしまいますが、レリーズカラーに当たる部分が二股に別れて2箇所で接触するので、フォークに力が掛かっている間はちゃんと安定します。

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 レリーズフォーク

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 レリーズカラーのレリーズフォーク接触側。

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 フォークの支点のボール部。

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 取り外したレリーズフォーク。

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 レリーズフォークとレリーズカラー


 レリーズフォークはボールマウントに対して、クリップで取り付けられています。フォーク先端はカラーの金具に引っかかっているだけです。またミッション外部に飛び出す部分は、防水防塵のためにゴムブーツがはめられています。これらは簡単にはまっているだけなので、工具を使わずにすべて取り外すことができます。
 ボールマウントは、ディープソケットがあれば前から外せますが、ない場合は、レリーズフォークのための側面の開口部からストレートメガネを差し込んで緩めることができます。この部品はケースの固定には関与していないので、交換するのでなければ、はずす必要はありません。

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 ボールマウントの取り外し

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 レリーズフォークとボールマウント


 レリーズカラーとレリーズフォークの動く様子の動画です。



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 次回はミッションの前半分のケースを取り外します。



posted by masa at 11:24| 自動車整備

2020年08月20日

ミッションをばらす その1 −− マニュアルミッションについて

 今年の夏は工作をしていないので、代わりに夏休みの自由研究をまとめることにしました。テーマは、NDロードスターの6速マニュアルトランスミッションの分解と構造の解説です。
 実際の作業は夏休み前から行っており、そして夏中に自由研究をまとめ終えられるかはわかりませんが、しばらくこのネタを続けていこうと思います。
 このミッションはオークションで安く仕入れたもので、これを分解して中を見てみます。
 まずこのミッションの概要とマニュアルミッションの仕組みについて解説します。

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 実車と記念撮影

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 横から見るとだいたいこの辺にある。広角レンズなので、大きさの比率としては、ミッションはもう少し小さい。


■ M601 / M66M-D 6速マニュアルトランスミッション

 このトランスミッション(以後MTかミッション)は、マツダのSkyactiveテクノロジーの一環で、Skyactive MTとなっています。このミッションは、ND専用のものです。そもそも今のマツダ車は横置きFFかFFベースの4WDが中心であり、このクラスの縦置きFR車がほかにないため、ミッションも専用になってしまうのです。形式は、整備資料の中ではM66M-D、本体の刻印やパーツ番号ではM601となっています。

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 ミッションの全体像(右側)

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 ミッションの全体像(左側)


 メーカーによる資料としては、こんなものがあります。
 このミッションの特徴として、6速が直結でオーバードライブ段がないという点があります。一般的なマニュアルミッションでは、6速MTなら5速、5速MTなら4速が直結で、それより上のギヤは入力軸より出力軸が高速回転するオーバードライブというのが一般的ですが、このミッションは最速段の6速が直結(減速比1)で、それより下のギヤはすべて減速という構成です。一般にオーバードライブは、高速巡航時にエンジン回転数を低下させ、燃費を向上させるという役割が大きいのですが、NDの場合はファイナルのギヤ比を小さくすることで、ミッション側からオーバードライブ段をなくしています。ミッションは、動力伝達にギヤを経由しない直結が一番効率がよいわけで、この構成は理にかなっています。
 ミッションの各段のギヤ比と次段との比率は以下のようになっています。モータースポーツをやっている人からは、2速と3速がちょっと離れているという感想を聞いたことがあります。

 1速  5.087  0.5880
 2速  2.991  0.6804
 3速  2.035  0.7833
 4速  1.594  0.8068
 5速  1.286  0.7776
 6速  1.000
 後退  4.696

 メーカー資料によると、軽量化に加えて、ショートストローク、ダイレクト感など、シフトフィールに留意して開発したということです。横置きレイアウトだとシフトレバーとミッションのシフト機構はワイヤー伝達になるため、どうしても操作感にダルさがでます。それに対して縦置きFRは、ミッション後部にシフトレバーを配置できるので、ワイヤー類を介さず、ロッドで直接シフト機構を動かすことができ、本当のダイレクト感が味わえます。例えばシフトスリーブが同期してシンクロまで進んだ、さらに進んでギヤと噛み合ったなどの感触がわかります。
 シフト操作時のストロークを小さくすることで、よりクイックにシフトを行えるわけですが、これにはひとつ問題があります。一般にミッション内部のシフト機構の動作量は、モデルに関わらず、そんなに違いはありません。そのためレバーのストロークを短くするには、レバー支点と操作部の間の長さを小さく、つまりレバーを短くしなければなりません。するとテコの原理により、操作に要する力は大きくなります。
 シフト操作において、レバーによってシフト機構に加えられる力は、おもにシンクロメッシュ機構のために使われます。シンクロ機構を強く押すことで回転同期が行われ、シフトが可能になるのです。長いレバーを大きく動かすのであれば、軽い力でシンクロに大きな圧力をかけられますが、ショートストロークにすると、より大きな力でレバーを操作しないと、シンクロに十分な圧力をかけられません。そのためショートストローク設計にするためには、シンクロの効きをより強化する必要があります。シンクロがよく効けば、小さな力で同期が実現でき、結果としてショートストロークで快適な操作を実現できます。
 このミッションでは、カーボントリプルコーンシンクロなどを使うことで、シンクロの能力を強化しています。
 メーカー資料によると、メインドライブギヤの減速比、つまりメインドライブシャフトとカウンターシャフトの減速比も大きくしているようで、これによりカウンターシャフトの回転速度が低下しています。これはカウンターギヤによるミッションオイルの撹拌の抵抗を小さくすることが目的とのことです。


■ ミッションオイル

 ミッション内のギヤやベアリング類はギヤオイルで潤滑されます。このモデルには油圧ポンプはなく、歯車による撹拌やはねかけにより各部を潤滑します。NDのミッションは専用のオイル(純正ロングライフギヤオイルIS)が指定されており、これ以外のものを使うと、寒冷時の操作が渋くなることがあるとされています。純正オイル以外の場合は、SAE 75W-90 GL-4が指定されています。
 実際、純正オイルであっても、自分の車では新車の時(冬だったこともあり)、1速、2速のシフトがかなり渋く、冷間時はダブルクラッチを多用していました。この渋さは数千キロの走行と1回のオイル交換でほぼ改善しました。
 ミッションケースの下部にはオイルを抜くドレーンボルトがあり、側面には注入のためのフィラーボルトがあります。オイルは車載状態で、このフィラーボルトの高さまで注入します(約2リットル)。これはおおよそ、カウンターシャフトがオイルに沈むくらいの深さで、ギヤの噛み合い部やメインシャフトは空中に露出しており、カウンターシャフトのギヤの回転により撒き上げられたされたオイルで潤滑されます。
 またケース内の上部にはオイルガイドという雨樋のような部品があり、跳ね上げられたオイルの一部がここを流れ、ギヤから離れた部分にもオイルが回るようになっています。
 ギヤケース部分とは別に、シフトレバーのマウント部にも同じオイルを注入するようになっています。この部分にはドレーンやフィラーはなく、シフトレバーを外して上から注入し、シリンジを使って抜くことになります。ギヤほどの負担はないので、ミッションのオーバーホールやシフトレバー修理の時に交換する程度でしょう。
 プロペラシャフトをはずす際は注意が必要です。プロペラシャフトは伸縮できなければならないので、ミッションのアウトプットシャフトにスプライン嵌合しており、ジョイント軸の外周部がミッション側のオイルシールで密封されています。ジョイント部は固定されておらず、引っ張れば抜けてしまいます。そのためミッション単体の場合は、プロペラシャフト結合部は内部のシャフトがむき出しで、そのまわりに隙間があります。この部分はミッションオイルの油面より上ですが、傾けたりするとオイルが漏れるので、ミッションを車体から取り外す際には、オイルを抜くか、キャップを付けておく必要があります。

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 プロペラシャフト部のキャップ


■ 常時噛合式ミッションの基本的な構造

 このミッションの内部の詳細に触れる前に、マニュアルトランスミッションの基本的な構造を示しておきます。素人向けの解説の模式図などでは、ギヤがスライドしていくつかの組み合わせの中から1つを選ぶという構造が示されていることがあります。確かにこのような構造なら、ギヤ比を変える変速機とすることができますが、実際の自動車では、このタイプのものはほとんど使われていません。
 歯車をスライドさせて適宜噛み合わせるという構造のものは、選択摺動式と言います。それに対し小型自動車のマニュアルミッションに使われているものは、すべての歯車が常に噛み合った状態で回転しており、常時噛合式といいます。

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 ミッションの内部。右側がクラッチ側、後退ギヤは取り外し済。


 常時噛合式の基本的な考え方は、出力軸(メインシャフト)上で異なる速度、つまり異なる減速比で回転する複数の中から1つを選び、それをメインシャフトに結合させるというものです。これにより、メインシャフトは結合した歯車と同じ速度で回転します。別の歯車と結合させることで、メインシャフトはさまざまな減速比で回転することになります。
 構造を簡単に説明します。以下の図は直結4速タイプの常時嵌合式変速機の模式図です。後退とシンクロ機構は省略しています。図中の赤いニードルローラーベアリングを介している歯車は軸に対して自由に回転することができ、それ以外の歯車、クラッチハブは、軸に固定されています。クラッチスリーブはクラッチハブといっしょに回転しますが、前後方向にスライドすることができます。

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 マニュアルミッションの基本的な構造

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 クラッチハブとギヤの結合


 エンジン(クラッチ)からの回転は、メインドライブシャフトを回転させます。メインドライブシャフトの下側に、平行にカウンターギヤシャフトがあります。メインドライブシャフトに付いているメインドライブギヤは、カウンターギヤシャフトの最前部のギヤに噛み合っていて、メインドライブシャフトによりカウンターギヤシャフトが適度な減速比で回転します。
 カウンターギヤシャフトは、最前部の駆動ギヤとは別に、各変速段のための歯車が並んでいます。6速+R構成であれば、最前部の減速ギヤと後退ギヤを除き、5個の歯車が取り付けられています(6個でないのは、直結段は歯車を必要としないためです)。図は簡略化した4速MTなので、各段用のギヤセットは3組です。
 メインドライブシャフトの延長上に、メインシャフトが置かれています。これは変速機の出力軸であり、後ろ側にプロペラシャフトが付きます。メインドライブシャフトはメインドライブシャフトと同心ですが独立して回転でき、接続部にはベアリングが組み込まれています(図では省略)。
 カウンターシャフトの各段のギヤは、メインシャフト上に配置された歯車と噛み合います。各段のカウンターギヤ、メインシャフトの歯車のペアの歯数の比率はすべて異なるので、各ギアセットの減速比はそれぞれ異なります。メインシャフト側の歯車はメインシャフトには固定されておらず、ベアリング(図の赤いローラー)を介しており、メインシャフトとは異なる速度で回ることができます。結果として、メインシャフト上の各段の歯車は、シャフトに対してすべて異なる速度で回転することになります。
 後退ギヤについては、カウンターギヤとメインシャフトのギヤが直接噛み合うのではなく、間に1個のアイドラーギヤを置き、ほかのギヤとは逆回転するようになっています(図では省略)。

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 後退用のギヤ


 ここまでギヤを用意すれば、あとはこの中のどれかのギヤとメインシャフトを結合させれば、変速機として機能します。これは、メインシャフトと各ギヤの間にクラッチ機構を置いて実現します。ただしエンジンの回転の断切に使われるような摩擦クラッチではなく、溝と突起が噛み合うという構造のものです。具体的には以下のものから構成されます。

・クラッチハブ
、メインシャフトに固定された部品で、外周部にはスプライン(溝)が刻まれており、クラッチスリーブがスライドしながら回転を伝達できるようになっています。

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 クラッチハブ


・各段の歯車
 歯車の横には、クラッチハブと同じ形状のスプラインが刻まれています。

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 クラッチ部を持つギヤ(1速)


・クラッチスリーブ
 クラッチハブの外側に置かれた筒状の部品で、内側にクラッチハブ、各ギヤのスプラインと噛み合うスプラインがあります。スリーブはクラッチハブと一緒に回転しながら、前後に移動できます。

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 クラッチスリーブ


・シフトフォーク
 クラッチスリーブを前後に移動させる部品です(図では省略)。スリーブの外側にある溝にはまり、回転しているスリーブを前後に動かします。

・シンクロメッシュ機構
 滑らかに変速するための機構で、これについては別に説明します(図にはありません)。

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 シンクロナイザーリング(1速用トリプルコーンタイプ)


 クラッチスリーブはクラッチハブとほぼ同じ厚みで、中立状態ではハブに重なった位置にあります。スリーブをスライドさせると、ハブに隣接したギヤのスプライン部に噛み合います。これによりメインシャフトとそのギヤが結合され、同じ速度で回転します。これが、その段のギヤが選択された状態です。
 スライドしていな状態では何も拘束されないので、シャフトとギヤは異なる速度で回転できます。以下の写真はわかりやすくするために、シンクロ機構を取り除いてあります。

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 噛み合っていない状態。


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 噛み合っている状態。


 一般的なミッションでは、1組のハブとスリーブの両側(前側と後側)にギヤを配置し、スリーブを前後にスライドさせることで、2組のギヤのどちらかと結合できる構造になっています。もちろん、どちらとも噛み合っていない中立状態もあります。クラッチスリーブの外周には溝が刻まれていて、ここにシフトフォークがはまります。シフトフォークはシフトロッドにより前後に移動し、それによりスリーブが前後に動きます。

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 クラッチスリーブとシフトフォーク


 ギヤのセットが変速機の総段数より1つ少ないのは、メインドライブシャフトとメインシャフトを直結するという段があるからです。メインドライブシャフトの後端部にもスリーブと噛み合うクラッチ部があり、これがクラッチハブと噛み合うことで、メインドライブシャフトとメインシャフトが直結します。この時、駆動力はカウンターシャフトや歯車を経由しません。
 このように、各段のギヤが常時噛み合って異なる速度で回転しており、その中から1つ(直結も含む)を選んでメインシャフトと結合させるというのが、常時噛合式トランスミッションです。
 各ギヤとクラッチスリーブのスプライン部は、回転しながら噛み合うため、端部の角を斜めに落とし、はまりやすい形状になっています。この部分をチャンファと言います。チャンファ(chamfer)という言葉は、面取りや角を落とすという意味です。

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 スリーブのチャンファ加工。


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 クラッチ部のチャンファ加工。


 この噛み合いを運転中に滑らかに行うために、クラッチハブとギヤのチャンファ部の間にシンクロメッシュ機構が置かれています。シンクロの働きはわかりにくいので、後で現物を示しながら説明します。

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 次回はクラッチの構造と関連部品の取り外しを行います。





posted by masa at 22:59| 自動車整備

2020年07月13日

古いエンジン発電機 EG1200X を復活させる −− その4

 このEG-1200X発電機はホンダ製で、このGX120エンジンは発電機専用のものが使われています。速度調整レバーが半固定であることに加えて、クランクケースの出力側カバー部品が専用のものになっています。このカバー部品には、クランクシャフトベアリング、オイルフィラーキャップなどが組み付けられているのですが、同時に発電機のエンジン側ハウジングも兼ねた構造になっているため、エンジンと発電機を独立した形で分離することはできません。
 今回は発電機側を見ていきます。

■ 発電機

 発電機は単相同期発電機で、回転子(界磁)、電機子とも2極なので、1回転で交流1サイクルが出力されます。つまりエンジン回転数が3000RPMで50Hz、3600RPMで60Hzとなります。周波数は前に触れたようにエンジン回転数のガバナー制御で安定化されます。
 回転子は直流励磁タイプで、2組のスリップリングで励磁電流を供給します。出力電圧の制御は励磁電流の調整で行われ、電機子の主巻線はそのまま交流出力としてコンセントに接続されます。交流出力には、出力主回路の開閉、過電流保護のためのサーキットブレーカー(過電流遮断器)が組み込まれています。

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  発電機側

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  カバーを外したところ。左側にあるのが電機子巻線

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  電機子巻線には2系統の出力がある

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  回転子のスリップリング

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  回転子とファンの取り付けボルト


 発電機の各要素について、以下にまとめておきます。

・主巻線
 主巻線は発電電力を生成する固定側電機子巻線で、白、赤、薄緑の3本の配線が出ています。白と赤の2本は100V出力用で、もう1本の薄緑(たぶん電圧検出用)と白がレギュレーターに接続されます。
 この巻線はフレームに接地されていません。測定値は以下のとおりです。

 白−赤 0.3Ω、43mH
 白−緑 0.4Ω、73mH
 赤−緑 0.1Ω、4mH

・補助巻線
 補助巻線はもう1組の固定側電機子巻線で、2本の配線(白地に黒)が出ています。主巻線より細い銅線が使われており、巻数も少ないようです。この巻線は主巻線とは接続しておらず、また接地もされていません。この巻線の2本の出力はレギュレーターに接続されます。
 この巻線の測定値は以下の通りです。

 0.6Ω、1.2mH

・回転子
 ブラシとスリップリングを介して回転子に励磁電流が送られます。この配線は薄緑黒と薄緑白です。この巻線も接地されていません。測定値は以下の通りです。

 92Ω、3.53H

・接地線
 発電機のケースとレギュレーターを収めるボックスの金属ケースを電気的に接続しています。


 発電機のエンジン側でないほうの軸端に回転子のスリップリングがあり、ベアリングから飛び出した軸端に発電機冷却用のファンが取り付けられています。回転によって外部から取り込まれた空気は回転子や電機子周辺を通り、発電機を冷却します。カバーを外した状態だとこの風が送り込まれないので、冷却不足になる可能性があります。特にエンジン側の発電機ケースはクランクケースと兼用なので、エンジンの熱が直接来ています。そのため発電機負荷が小さくてもケースが高温になるため、冷却は不可欠です。
 ファンを止めている中央のボルトは長いもので、回転子をエンジン出力軸に固定する役割も担っているようです。


■ レギュレーター

 発電機上部に取り付けられたボックスには、ブレーカーと出力用のコンセントが2口、接地用ターミナルが備えらています。

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  ボックス内部

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  コンセントとブレーカー


 内部にはレギュレーター回路があり、発電機の出力電圧を制御しています。出力周波数はエンジン回転数制御で行われ、これはエンジン側の遠心ガバナーとキャブのスロットルを連携させることで実現されているので、レギュレーター側は何も関与しません。

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  レギュレーターとアース端子


 ボックス中に置かれたレギュレーターには、以下の配線が接続されています。

・エンジンの発電コイル出力 2本
 エンジンのフライホイール内側に設置されたコイルによって発電された交流電圧が接続されています。起動時の励磁電力供給に使われているものと思われます。
 この発電コイルの配線の色は水色で、接地されていません。測定値は以下の通りです。

 2.2Ω、11.3mH

・励磁電流 2本
 スリップリングを介して、回転子に直流の励磁電流を送ります。これも接地されていません。

・補助巻線 2本
 発電機の電機子には出力用の主巻線とは別に補助巻線があり、レギュレーターに接続されています。発電機運転中の励磁電力供給に使われているのではないかと思います。

・主巻線 3本
 主巻線には中間タップがあり、全部で3本の線が出ています。このうちの白と薄緑の2本がレギュレーターに接続されています。白と赤は100V出力のタップです。

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 レギュレーター

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 発電機の全体構成


 レギュレーターは樹脂封止されているので、内部の回路やどのような部品が使われているのかはわかりませんが、基本的な機能は、出力電流に関わらず、出力電圧を一定に維持するために励磁電流を調整することです。
 発電機が始動した時点では、励磁電流はエンジン側の発電コイルからの電力を使っているものと思われます。この時点では発電機は回転しているものの、発電を開始していないからです。エンジン側からの電力で回転子を励磁すれば、発電機は電力を生成できます。すると補助巻線にも電圧が発生します。
 また主巻線のタップもレギュレーターに接続されています。
 内部構成がわからないのでなんとも言えないのですが、主巻線からレギュレーターへの接続は、出力電圧を監視するためのものと考えられます。この電圧の変動に応じて励磁電流を調整し、主巻線電圧を一定に維持しているのでしょう。
 補助巻線からの電力は、運転中の励磁電流源かなと思いますが、確証はありません。エンジン側からの電力と自身の補助巻線の電力がどのように扱われているかの真相は、レギュレーターの樹脂の中です。
 レギュレーターの内部構成は不明ですが、やっていることは明らかで、回転子の励磁電流の制御です。励磁電流が増えれば出力電圧が上昇し、少なくなれば電圧が低下します。この電流をうまく制御することで、発電機の出力電圧をほぼ一定に維持します。


■ 発電機として動かす

 この発電機の出力は、50Hzモデルで1kVA(1000VA)、60Hzモデルで1.2kVA(1200VA)となっています。電気機器の消費電力などは一般にWで示されますが、発電機や変圧器などはしばしばWではなくVA(ボルトアンペア)で規定されています。これを皮相電力といいます。
 Wは実際の消費電力で、有効電力といいます。VAは負荷電圧と負荷電流を掛けたものです。直流ならこれらは同じものなのですが、交流の場合は、誘導負荷(モーターなど)や容量負荷の場合に、話が変わってきます。抵抗負荷以外では電圧位相と電流位相がずれるため、電流が流れているにも関わらず、エネルギーとしては利用されないという場合があるのです。例えば100Vで5A流れているにも関わらず、電力値は100Wといった感じです。この場合、有効電力は100Wですが、皮相電力は500VAとなります。その差の400Wは無効電力となります。また有効電力の割合を力率といいます。
 発電機の電流出力能力が例えば10Aの場合、100V×10Aで最大1000Wの電力を供給できますが、これは皮相電力となります。力率が1の機器であれば1000Wまで接続できますが、力率が0.5なら、消費電力が500Wの機器であっても電流は10A流れ、発電機の限界値になります。
 またモーターのような突入電流が大きい機器では、突入電流が発電機の定格値を超える場合があるので、使用可能なW数はさらに小さくなります。まぁ実際には、突入で落ちなければそこそこ使えるのですが。

 さて、組み上げた発電機が実際に機能するかどうかを確かめてみました。巻線類は事前のチェックで問題なさそうだったので、あとはレギュレーターが経年劣化で壊れていない限り、問題なく動くはずです。これは樹脂モールドされているので、実際につないで動かしてみる以外、調べる方法がありません。で、配線を接続し、エンジンを動かしてみました。結果は問題なし、あっさり動きました。


■ 仕上げ

 発電機側の動作確認の後、フレームまで分解して、フレームなどの塗装をして作業は完了です。ガソリンを抜いて、再び物置にしまわれたのでした。

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  フレームを塗装


■ 電気が汚い

 このクラスの発電機(数百VAから数kVA)の注意書きには、接続できる機器種別や消費電力が示されています。その中には、電子機器が接続できる、できないという項目があります。一般にインバータータイプの発電機は電子機器も含めてどんな機器でも接続できるのに対して、非インバーターの一般モデルは電子機器への給電を避けるように指定されています。これはどういうことなのでしょうか?
 このクラスの発電機の発電出力にはいくつかの構成があり、それに応じた使用上の注意が示されています。
 インバータータイプは、発電機で生み出した電力をCVCF(Constant Voltage Constant Frequency)という機器に送り、その出力が負荷に供給されます。CVCFは一定の周波数、一定の電圧を生成するインバーター電源装置のことです。つまり入力電力の電圧や周波数が変動しても、安定した出力が得られるというものです。CVCFはインバーターの一種です。インバーターには可変電圧、可変周波数のVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)というものもあり、モーター制御などに使われます。このBlogで以前に触れた(途中で止まってる)モーター用のインバーターは、VVVF装置です。
 ちなみにインバーターとは、交流を出力する装置のことです。狭義では直流を交流に変換する装置ですが、一般の製品では交流入力のものも含めてインバーターと呼ぶことが多いようです。これは内部で一度直流に変換しています。インバーターに対して、交流を直流に変換する装置はコンバーターと言います。
 インバータータイプの発電機の出力は、CVCFのおかげで電力会社から供給されるのと同等な正弦波で、負荷変動などがあっても電圧、周波数が安定しています。つまり商用電源と同等のクオリティが得られるということです。当然、使用する機器の制限はなく、電子機器でも問題なく使用できます。ただしインバーター回路の分、価格は高くなります。
 ではCVCFを使っていない、つまりインバータータイプではない発電機は、どのような電気出力なのでしょうか? なぜ電子機器を接続してはいけないのでしょうか?
 この疑問に正直に答えているサイトなどは意外とみつからず、誤動作したり最悪故障するとは書いてあっても、それがなぜなのかに触れていません。
 前にも書きましたが、ガバナーによるエンジン制御は、負荷変動に対する応答性の悪さ(遅さ)という欠点があります。負荷が変化したことによるエンジン回転数の変動が物理的なガバナーとスロットルによって行われるので、回復に数百ミリ秒の時間がかかります。これは周波数の変動という形で現れます。
 負荷変動に対する励磁電流の変化は、電子回路で行われているので周波数の回復よりは時間がかかりませんが、それでも交流のサイクルのオーダーでの回復時間は必要でしょう。これは電圧変動という形で現れます。
 これらの変動は、通常の商用電源だったら事故とみなされるレベルのものです。そのため、電源系のノイズに弱い機器の誤動作が起こりえます。故障にまで至るかどうかはわかりませんが、頻繁に発生したら使い物になりません。
 もうひとつ考えられることは、出力波形です。励磁電流制御レギュレータータイプの多くは、励磁制御が直流電流を変化させるのではなく、パルス幅変調(PWM)を行っています。回転子の巻線により多少の平滑化は行われるものの、磁力が変動することになるので、出力波形は正弦波ではなく、歪んだ形になってしまいます。これは出力電圧に周波数の高いノイズが乗っていることになるので、負荷によっては問題が起こる可能性があります。
 今回は調べていませんが、以前、オルタネーターの交流出力の波形を調べた時は、励磁電流のPWM制御の影響と考えられる波形歪が見られました。
 ほかにサイクロコンバータ式というものもあり、中間程度の性能です。



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古いエンジン発電機 EG1200X を復活させる −− その3

 動作確認とは別に、発電機の各部を見てみます。ついでに、錆びた部分などを塗装してごまかします。
 問題ない余計な部分をバラすというのは、大抵の場合、不幸の始まりなのですが、そんなことは気にしません。もともと使えなかったものなのですから。ただしクランクケースやシリンダヘッドは、ガスケット交換が伴うので(問題が見つからない限り)開けません。


■ 排気系

 シリンダ上部に小さなマフラーが付いています。この大きさなので消音効果はたかが知れていて、はっきり言ってうるさいです。安全のために遮熱カバーで覆われていますが、それを外すと内部のマフラーが見えます。

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  シリンダー上部にマフラーがある(燃料タンクは取り外し済)

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 遮熱カバーを外したマフラー


■ ガバナーとスロットル

 GX120エンジンにはクランクシャフトの回転で動作する遠心錘式のガバナーが装備されており、回転速度の上昇に伴って動くレバーがエンジン外部に備えられています。このレバーはリンクを介してキャブのスロットルレバーに繋がっています。このリンクにより、キャブのスロットル調整はガバナーレバーにより行われるようになります。


  ガバナーレバーが動く様子


 ガバナーレバーはエンジン回転の上昇により角度が変化しますが、この変化量を制御するためのスプリングが取り付けられています。回転数が上がるとエンジン上部にあるガバナーレバーが動きます。このレバーはスプリングで引っ張られており、このスプリングの力と遠心力によるガバナーレバーを動かす力が釣り合った位置で、ガバナーレバー角度が安定します。スプリングの力が弱ければレバーは大きく動き、強くするとレバーの動きは小さくなります。つまりスプリングが強く引いている時は、エンジン回転数が高くならないとレバーが動きません。エンジンの回転速度調整レバーは、このスプリングの力を調整します。 ガバナーレバーの動きはリンクでキャブレターのスロットルバルブにつながっています。エンジン回転数が変化すると遠心力が変化するのでガバナーレバー角度が変わりますが、これによりキャブレターのスロットルが制御されます。スロットルレバーは、回転数が下がるとスロットルがより開き、回転数が上がると閉じる方向に動作します。これにより負荷変動で回転数が変化した時にスロットル開度が変わり、回転速度が回復する方向に動作します。そして元の回転数に達した時点では、ガバナーレバーの角度とスロットル開度がバランスした状態になり、回転速度が維持されます。
 このバランスする位置は、回転速度調整レバーにつながったバネの強さによって決まります。つまり回転速度調整レバーによって、エンジンは負荷状態に関わらず、レバー位置に応じた一定の回転速度を維持することになります。このあたりが、キャブのスロットルを直接操作するバイクや車のエンジンと違うところです。

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  出力調整レバー、ガバナーレバー、スロットルレバー

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  ガバナーとスロットルの連携


 一般的な汎用エンジンでは、出力調整レバーをユーザーが操作できる構造になっていますが、発電機用エンジンではレバーに手で操作する部分がなく、調整ネジでポジションを固定するようになっています。つまりドライバーで調整ネジを回して、エンジン回転数を決めるのです。このエンジンは50Hz用、つまり3000RPMに調整済ですが、調整ネジを回すことで例えば60Hz用の3600RPMに変えることができます(発電機側に50Hz/60Hzの仕様があるのかどうかはわかりません)。


■ リコイルスターター

 このエンジンは、リコイルスターターを手で勢いよく引くことで始動します。昔のロープを巻き付けて引っ張るタイプに比べるとお手軽です。
 リコイルスターターのロープのリールにはゼンマイバネが内蔵されており、ロープを引き出した力を緩めると自動的にロープが巻取られます。

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  リコイルスターターの裏側


 ロープを手で引いてリールが少し回転すると、回転するハブから爪が飛び出し、これがエンジンのフライホイールに取り付けられたカップリングの内部に引っかかり、エンジンが回転します。この引っかかりは方向性があり、リコイルスターター側の正回転はエンジンに伝わりますが、逆回転は伝わりません。またエンジンが回転してもリコイルスターター側に回転は伝わりません。従ってエンジンが始動した後は、フライホイールのカップリングだけが回転し、スターターのハブは回転しません。そしてロープを巻き戻すと爪が引っ込むので、スターターとエンジンの接触は完全に断たれます。


■ フライホイールと電気系

 リコイルスターターを外すと、スターター用のカップリング、強制空冷用のファンが取り付けられたフライホイールが見えます。冷却風を誘導するシュラウドを外すと、フライホイール全体が見えます。

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  フライホイールカバーにリコイルスターターとエンジンスイッチがある

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  カバーを外したところ


 ファンの中央部分にあるカップ状のものは、リコイルスターターの爪が噛み合うカップリング部品です。
 フライホイールの外側(写真では左側)には、点火プラグ用の高圧パルスを発生させるマグネトーがあります。マグネトーは鉄芯入りのコイルで、フライホイール外周の1箇所に取り付けられたマグネットによって、1回転に1回、電気パルスが発生します。
 フライホイール内側には、外部に電力を供給するための発電用コイルが取り付けられており、フライホイール内側のマグネットによって交流電流を発電します。このエンジンでは、フライホイールが1回転すると2サイクル分の交流が発生します(アナログテスターをつなぎ、フライホイールを手で回して電圧の振れを調べました)。ここで発生する交流の周波数を測定すれば、回転計がなくてもエンジン回転数を調べることができます。
 マグネトーも発電用コイルも、フライホイールに取り付けられたマグネットがコイルの鉄芯近辺を通過することで、誘導起電力が発生します。
 フライホイールはクランクシャフトにナットで固定されています。軸にはキーがはめ込まれているので、クランク位相とマグネトー用のマグネット位置は正しく維持されます。


■ 点火系

 小型のバイク用エンジン、この種の汎用エンジン、航空機用エンジンなどは、外部電源を使わずに点火プラグ用の高圧パルスを生成できるマグネトーがしばしば使われます。エンジンの運転に外部電気回路が不要なので、運用が手軽になる、信頼性が高いというメリットがあります。
 フライホイールの横に取り付けられているイグニションユニットは、イグニッションコイルが一体に組み込まれています。イグニッションコイルの1次側では、フライホイールのマグネットによってクランクシャフト1回転につき1回、電圧が発生します。これにより、巻数比の大きい2次側コイルに高圧が発生し、プラグコードを介してプラグ先端のギャップ部分で放電することで、シリンダ内の混合気に点火します。
 4サイクルエンジンの場合は圧縮工程の最後に点火するので、クランクシャフトの2回転に1度、電圧を発生すればいいのですが、この構造では1回転ごとに火花が飛ぶことになります。つまり排気が終わり、吸気が始まるところでも火花が飛ぶということです。

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  エンジンスイッチ


 エンジンにはエンジンON/OFFスイッチがあり、ONポジションでエンジンが始動可能で、動作中にOFFにするとエンジンが停止します。これはイグニッションコイルの1次側を接地するスイッチになっています。コイルの1次側が接地すると電圧が発生しないのでプラグで火花が飛ばず、エンジンが停止します。つまり普通のスイッチと逆で、接点が開いているとエンジンが運転できるということです。したがってこのスイッチの配線が外れたり、スイッチが壊れるとエンジンが止まらなくなります。セーフティ的にどうよと思いますが、構造を単純化することを優先しているのでしょう。バイクのエンジンスイッチもこのような構造のものがあります。ただバイクは人間の操作でエンジンを止められますが、発電機の場合、燃料カットしてしばらく待つか、プラグコードを抜くしかありません(感電するかも)。
 またこのエンジンにはオイルアラートスイッチが組み込まれており、エンジンオイル液面が低下すると保護のためにエンジンが止まります。このスイッチも液面低下で接点が閉じるスイッチで、エンジンスイッチと並列に接続されており、アラート時に点火系を地絡して停止させます。


■ エンジンの発電コイル

 写真はありませんが、フライホイールの内側には、発電用のコイルが置かれています。自動車の場合は、エンジンとは別体のオルタネーターをベルトで駆動しますが、小型エンジンの場合はフライホイール部分に一体で組み込まれることが多いのです。バイクや農機具用の汎用エンジンでは、ライトや保安部品などに電力を供給するために使われます。またスターターモーター付きの高級な製品の場合は、バッテリー充電にも使われます。
 発電コイルからの配線には生の交流が出力されており、回転数によって電圧と周波数が変化します。そのため直流が必要な場合はレクチファイヤで整流する必要があり、ライトの点灯などを行うには、電圧を安定化するレギュレーターが必要です。
 発電機用エンジンの場合は、安定化されていない交流のまま、発電機用のレギュレーターに接続されます。発電機のレギュレーターは、発電を始めるために回転子に励磁電流を供給しなければなりませんが、そのための電力をエンジン側からもらっているのでしょう。
 GX120は、出力電圧が6V、12V、電力が25W、50Wが選べるようです。この発電機用エンジンでは、アイドル回転時15V程度出力されていたので、たぶん12V仕様でしょう。ワット数はわかりません。

 次回は発電機側を見ていきます。

posted by masa at 12:27| 電気機械

古いエンジン発電機 EG1200X を復活させる −− その2

 圧縮と点火がどうにかなりそうなので、今回はキャブレター掃除をします。


■ キャブレター

 放置したエンジンはだいたいキャブの中の古いガソリンが劣化し、詰まりを起こしていることが多いので、キャプ整備はほぼ必須作業です。
 シリンダヘッドの吸気側に、キャブとエアクリーナーケースが2本の長いスタッドボルトで共締めされています。まずエアクリーナーを外し、ガバナーとスロットルレバーのリンクを外せば、キャブを取り外すことができます。ここでちょっとした問題が。キャブをはずす時、発電機のパイプフレームにキャブのチャンバー部が干渉するのです。そのため、燃料チャンバーを外すか、エンジンを持ち上げ気味にした状態でないと取り付けできません。

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  キャブの取り外し(パイプフレームにあたる)

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  取り外したキャブ


 使用されているのはKEIHINのBE型という汎用エンジン用キャブレターです。シングルバレル、サイドドラフト、バタフライスロットルバルブ、チョークバルブという構成です。バレルの下に燃料チャンバーが、横に燃料コックとフィルターがあり、上側に置かれたタンクから自然落下したガソリンがフロートバルブで調整され、チャンバー内の燃料液面が一定に維持されます。
 チャンバー内の燃料は、縦に配置されたパイプ(チャンバー取り付け兼用)の側面の穴から中に流入し、メインジェット(#60)とノズルを通ってバレル内で気化されます。メインジェットの手前にはスロー系(パイロット系)の分岐があり、別に置かれたスロージェットを通り、パイロットスクリューで調整されてバレル内(バタフライバルブの後)で気化します。発電機の場合、スローでの運転はないので、スロー系はどうでもいいのかなとも思いますが。
 ネットを検索すると、このBE型の互換の中華キャブがいろいろ販売されています。値段は2000円以下からあり、純正の部品を買うより中華キャブに置き換えるほうが安く済みます(メーカーのサイトには中華偽物に注意という喚起があります)。
 キャブを交換するかどうかは後で考えるとして、まずは今のキャブレターを調べます。古いエンジンのキャブレターは、だいたい劣化したガソリンで内部が詰まっているので洗浄します。
 自宅にある自動車用具を物色していたら、キャブクリーナーを発見しました。発電機ほどは古くないにしろ、15年以上は前のものと思われます。シトラスクリーンが新発売され、試供品が付いていた時代のものなので、もしかしたら20年以上前かも。もちろんガスは抜けていたので、缶に穴をあけて適当な瓶に中身の液体を注ぎ、洗浄液として使います。

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  古いキャブクリーナー


 チャンバーを外したところ、思ったよりはよい状態でした。チャンバー内にガム状のものはなく、ちょっと汚れているだけでした。メインジェットのノズルを取り外して点検します。メインジェットは詰まり気味でしたが、年代もののキャブクリーナーに浸けてエアブローで開通しました。

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  チャンバー取り外し

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  チャンバーを外したキャブ

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  チャンバー清掃

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  フロートバルブ、メインジェット、燃料フィルター


 スロー系は分解はせず、空気通路とガソリン通路にキャブクリーナーを垂らし、エアブローするという作業を数回繰り返してクリーニングし、懐中電灯の光やエアブローで開通を確認しました。分解した時点では、スロー系のパイロットスクリューは、締切から2と1/3回転程度の戻しでした。サービスデータによると、2回転、あるいは2と3/8回転戻しが有効な数値のようです。


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  スロースクリュー(金属製)とアイドルスクリュー(黒い樹脂製)、右側はチョークバルブ

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  スロットルバルブ

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  キャブ上部のスロットル、チョーク、奥側に燃料コック


 チャンバーのパッキンはOリングを使っているのですが、これはさすがに変形しており、気密に難ありそうなので、耐燃料タイプの同じような寸法のOリングを用意し、交換しました。燃料フィルター部分にもパッキンがあるのですが、これはまだどうにかなりそうなのでそのまま使います。ダメなら純正ガスケットセットを購入します(最初にOリングを注文した時は、まだパーツリストを入手していなかったのです)。
 燃料コックは、分解すると内部のゴム部品を交換することになりそうなので、開閉操作により通気が開閉されることを確認してよしとします。漏るようならその時考えます。


■ 仮組み立て

 掃除したキャブレターをエンジンに取り付けますが、インテークマニホールドのガスケットがくたびれているので、取り替えます。とりあえず、汎用のガスケットシートを使い、同じ形に切り抜いて使います。

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  ガスケットは新調


 シリンダヘッドにねじ込まれた長いスタッドボルトで、キャブレターとエアクリーナーケースを共締めして取り付けます。

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  キャブを取り付け


 エンジンオイルも、今まで入っていたのは20世紀のものなので、さすがに交換します。とはいっても、入れ替えるのは21世紀初頭に購入したまま未開封だったものですが。
 オイル交換の際には、ロッカーカバーをはずし、ロッカーアームまわりにも注油しておきました。跳ね掛け式なので、この部分には久しくオイルが回っていないと思われるので、初回始動時の初期潤滑のためです。

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  ロッカーカバーをはずしたところ


 今の時点では、ガバナーとスロットルは連結しません。手でスロットルを操作していろいろエンジンをいじってみます。
 燃料タンクはクランクケースの上に位置するので、燃料パイプを新しいものに交換し、キャブにつなぎます。


■ 始動手順

 タンクにガソリンを入れ、燃料コックを開くとキャブのチャンバーまでガソリンが来ます。エンジンの始動は、スイッチをONにしてリコイルを引きます。キャブにはチョークがあるので、エンジンや周囲の温度によって適宜絞ります。エンジンが始動したら、安定して回転するところまでチョークを戻します。暖まったらチョークを完全に戻します。
 このエンジンは空冷で冷却水がないので、シリンダまわりはすぐに暖まります。しかし単にシリンダブロックが暖まるだけでなく、オイルの温度が上がって暖機完了です。

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  燃料コック、チョークの操作部


■ 試運転

 問題がなければ、この手順でエンジンを始動できるのですが、さっそく問題が起きました。燃料コックを開くと、レバーの隙間からガソリンがポタポタと漏れます。コックを閉じても、隙間からにじみ出てきます。これでは危なくて始動できません。
 一度ガソリンを抜き、コックをばらしてみたところ、可動するレバーに接触する内部のゴムパッキン部品がかなり固くなっていました。そのため密着が悪くなり、漏れたのでしょう。この部品はキャブレターのガスケットセットに含まれているので、仕方なくガスケットセットの部品(16010-ZE0-025か16010-ZE0-812)を注文しました。
 新品のゴム部品は、古いものと比べ、厚みが5割増しくらいありました。古いほうは、長年の放置でずっと押されたまま、潰れてしまったのでしょう。。もっともゴム部品はガソリンと接触することで膨潤するので、もしかすると古いものでも、ちょっと待てば膨らんで漏らなくなったのかもしれませんが。


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  燃料コックを分解したところ

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  新旧の燃料コックのパッキン


 ゴム部品の交換でガソリンが漏れなくなったので、いよいよエンジン始動です。発電機として組み立てられている場合は、始動すると即座に発電用の規定回転数になりますが、この時点ではそのためのリンケージを接続していないので、手でスロットルレバーを操作できます。
 コックを開いてガソリンを流し、チャンバーに貯まるまでちょっと待ちます。気温は25度くらいあるので、とりあえずチョークは使わず、スロットルはアイドルより気持ち開けた状態で、リコイルロープを何度か引いたら、エンジンが20年ぶりくらいに息を吹き返しました。


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  試運転(発電機カバーを外した状態)


■ またガソリン漏れ

 エンジンを止め、しばらく置いておいたら、キャブの下にガソリンが漏れていました。調べて見ると、チャンバーをキャブに固定しているボルトか、チャンバーのドレンボルトから染み出しているようです。ガスケット不良を疑い、新しく買ったものに取り替えてみても症状は変わりません。
 チャンバー底面が変形し、密着が悪くなっているのかもしれません。とりあえず液体ガスケットを塗ってごまかします。本当は耐燃料タイプを使わないといけないのですが、手元にないので普通のもので様子を見ます。


■ スロー調整

 とりあえず問題が一通り解決したところで、調整を行います。とはいっても単純なキャブなので、スロー(パイロット)スクリューとアイドルスクリューがあるだけです。
 まずエンジンを十分に暖機します。空冷エンジンなのでシリンダーはすぐに温まりますが、ほかの部分の温度上昇にはしばらくかかります。基本的には、油温が十分に上がったら暖機完了となります。とはいっても油温計も何もないので、単にしばらく回すだけです。
 十分に温まったら、まずパイロットスクリューを調整します。エンジン始動前に規定状態(2と3/8回転戻し)にしておき、スロットルを閉じます。この状態でパイロットスクリューをどちらかに回し、エンジン回転が一番高くなる位置を探します。そしてこの位置から1/4回転ほど戻し、パイロットスクリュー調整とします。
 実際にやってみたところ、多少の回転数の変化はあるものの、だいたい既定値のあたりで問題なさそうなので、それで良しとしました。
 これが終わったら、アイドル回転数を調整します。パイロットスクリューのそばにあるプラスチック製のアイドルアジャストスクリューを回すと、スロットルレバーの絞り位置が調整でき、これでアイドル回転数が決まります。
 GX120の規定アイドル回転数は1400RPM(+200、-100)です。回転計は持っていないので、発電コイルの周波数で回転数を調べます(発電コイルについては後で説明します)。1回転で2サイクルのコイルなら、1400RPMで交流出力は46.6Hzとなります。周波数測定ができるテスターやオシロスコープを使い、アイドル回転数を調整します。

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  テスターを使って周波数を測定

 回転数がかなり高めだったのでこの周波数を目標に落としてみたのですが、回転が不安定になるぎりぎりのようなので、ちょっと高めに設定しました。


■ キャブまわり完成

 スロートアイドルを調整したところで、スロットルレバーをガバナーと連携させます。
 ガバナーレバーは燃料タンクの下にあります。ガバナーレバーとスロットルレバーは曲げた針金のようなリンク部品で繋がります。またこの2つのレバーを弱いバネで結びます。これはレバーの軸穴によるガタを無くすためのものでしょう。
 スロットルがガバナーと連動するようになったら、以後は半固定式の回転数調整レバーの角度をネジで調整し、エンジン回転数を調整することになります。

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  ガバナーとスロットルの連携


 次回は、エンジンのその他各部を見ていきます。
posted by masa at 10:11| 電気機械

古いエンジン発電機 EG1200X を復活させる −− その1

 2年ほど前(2018年ごろ)、古いエンジン発電機の整備を始めました。とりあえずエンジンが回るところまで作業し、その後1年あまり放置し、思い立って発電機側の中身も調べ、発電機として復活させました。


■ 古い発電機

 家に古い発電機があります。購入したのは25年くらい前、買ってから数年間で10時間使ったかどうか。しばらく放置した後、ガソリンを抜いて物置へ。20年近く触っていなかったものです。

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  発掘直後の状態(エンジン操作側)

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  発掘直後の状態(発電機側)


 今回、各部をきちんと整備/補修し、これの復活を試みます。要点は以下の2つです。

・エンジンを動かす
・発電機の機能の確認

 さて、どうなることか? だめなら、また物置行きかな。


■ 発電機の構成

 この発電機はホンダの1990年代のモデル、EG-1200Xというもので、120ccの4サイクルエンジン、単相100V、50Hzで1kVA、60Hzで1.2kVAの出力です。50Hzと60Hzは出荷時に設定されており、うちのは50Hzモデルです。インバータなどは搭載しておらず、エンジンを定速回転させて同期発電機を駆動し、一定の周波数の交流を発生させるというものです。

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  銘板


 オルタネーターの記事でも説明しましたが、同期発電機は回転速度で出力周波数が決まります。出力電圧は回転速度と励磁電流が支配的な要素ですが、負荷電流により変動するので、回転子に供給する励磁電流を調整して一定電圧に制御します。出力負荷の変動は駆動軸トルクの変化という形で現れます。つまり出力電流が増えると、必要な駆動トルクが大きくなります。したがってエンジンで同期発電機を駆動する場合は、負荷(軸トルク)の大きさに関わらず、エンジンを一定速度で運転するという制御になります。もし出力に対して軸トルクが不足する、つまりエンジン出力に対して負荷が大きい場合は、エンジンの回転が下がり、出力周波数と電圧が低下します。
 出力電圧は、発電機に備えられたレギュレーターで回転子の励磁電流を調整して安定させます。出力電流が増えると回転数低下や内部抵抗などにより出力電圧が低下します。すると励磁電流が増え、出力電圧を高める、つまり回復しようとしますが、励磁電流が最大になったら、以後は電圧も降下していきます。通常はこのような状態に至る前に、過電流遮断器により出力がカットされます。

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  発電機の構成


 この発電機は、エンジンに組み込まれた遠心ガバナーとキャブレターのスロットルを連携させることで、一定速度での運転を実現しています。つまり負荷が大きくなって回転速度が低下するとガバナーのレバーが動き、それによってスロットルが開き、回転が上昇するという仕組みです。結果として負荷の大きさに関わらず、エンジン回転は一定になります。このやり方は負荷変動に対するタイムラグが大きいため、急激な負荷変動の時に周波数変化が起こりやすいという欠点がありますが、電球や熱器具、小出力モーターなどなら、問題なく使えます。電子機器は原則として使用禁止となっています(これについては後で触れます)。また大きなモーターなど、突入電流が大きいものの場合は、使用可能な電力が定格よりかなり小さいものに制限されます。


■ エンジンの仕様

 使っているエンジンはGX120というホンダ製の汎用エンジンで、農機具、工事用機器などに組み込んで使うためのものです。この発電機は25年も前のものですが、GX120エンジン自体は、仕様変更などはあるものの今も現役のモデルです。
 おおよその仕様は以下のとおりです(現行モデルのデータ)。

・空冷4サイクルOHVガソリンエンジン
・排気量118cc(ボア60mm、ストローク42mm)1気筒、圧縮比8.5
・シングルバレル、バタフライバルブキャブレター(ガバナー連動)、チョークバルブあり
・回転数調整レバー(ガバナーにより一定の回転数が維持される)
・最大出力2.6kW(3600RPM)、定格出力2.1kW(3600RPM)
・トルク7N/m(2000RPMから3600RPM)
・トランジスタマグネトー点火
・強制飛沫潤滑、潤滑油約0.6L
・重量13kg


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  エンジンのシリンダヘッド側


 製品には出力の形態でいくつかバリエーションがあり、クランク軸でそのまま出力、減速機構が組み込まれたものなどがあります。EG-1200Xに使われているものは、クランク軸が発電機に直結で、クランクケース部品が発電機のハウジングの一部を兼用する構造になっています。つまり発電機専用エンジンとなります。50Hzモデルは3000RPM、60Hzモデルは3600RPMで、回転数調整レバーは半固定状態で、ユーザーが自由に回転数を変えることはできません。


■ 資料

 発電機としての資料は製品に付属していた説明書しかありませんでしたが、ネットで現行GX120エンジンのパーツリスト(日本語版)を拾えたので、必要な部品の番号がわかります。ただし何度か仕様変更はされているようなので、部品によっては合わないかもしれません。また海外サイトで、サービスデータ資料(英語版)も拾えました。
 その後、ホンダの国内サイトでもパーツリストなどが入手できました。


■ 整備を始める

 燃料が抜いてあったものの、20年近く放置したエンジンがまともとも思えず、試運転の前にまずは一通りの点検整備をします。ガソリンエンジンの運転条件は、良好な混合気、圧縮、火花なので、まずは各部点検です。
 パイプフレームの上半分を外します。エンジンのクランクケース上部に燃料タンク、シリンダ上にマフラーがあります。そしてシリンダーの向かって右側にキャブがあり、その上にエアクリーナーケースがあります。エンジンの向かって左側にあるのが発電機本体で、その上の赤いボックスにはコンセントと遮断器があり、内部にレギュレーターがあります。

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 発電機全景


■ エアクリーナー

 本体のサビなどはおいておき、まずはエアクリーナーを見ました。長円形の金属枠の中に濾過紙が折り畳まれているエレメントの回りに、油(エンジンオイル)を浸したスポンジを巻きつけるという構造なのですが、25年の歳月により、スポンジはボロボロに風化していました。ペーパーのほうはまだ大丈夫そうなので、しばらくはこれだけを使います。

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   エアクリーナーケースのカバーを外した状態

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   エアクリーナーエレメント


■ タンク清掃

 燃料タンクは、ガソリンを抜いて保存しておいたので、外観の多少のサビ以外は問題なく、内部はきれいなものでした。僅かに残っていた腐れガソリンをパーツクリーナーできれいにしておしまいです。ただしキャブにつながる燃料ホースは多少劣化が見られるので交換します。

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   燃料タンク


■ 圧縮

 このエンジンはリコイルスタートなので、ロープを引っ張ればエンジンがまわります。とりあえずロープを引いてみて、固着していないこと、ガリガリした引っかかりなどがないことを確認しました。また適当な周期で圧縮抵抗がある、マフラー側からプシュッという排気があるので、とりあえずバルブの動作と圧縮はOKとして、作業を勧めます。ただエンジンオイルは20世紀のもの(新品時に入れたもの)なので、エンジンテストの前に交換します。


■ 点火系

 このエンジンはマグネトー点火なので、外付けバッテリーがなくてもプラグに火花が飛びます。
 プラグを外し、エンジンスイッチをONにしてリコイルを勢いよく引くと、一応プラグに火花が飛ぶことが確認できました。ただプラグ先端がだいぶ黒く煤けているので、新品のプラグを用意しました(BPR6ES)。新品のほうがきれいに火花が飛ぶような気がします。

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  プラグ

 プラグコードの被覆のゴムがかなり劣化している感じですが、部品を変えると高いので、とりあえずこのまま使います。

 次回はキャブ清掃を行います。


posted by masa at 09:19| 電気機械

2020年06月25日

NDの下回りを見る −− 後ろ側

 前回は前側を紹介したので、今回は後ろ側です。


■ リア下部

 エンジンからの排気系統は途中で触媒とサブマフラーを経て、プロペラシャフト、パワープラントフレームと共にフロアトンネルを通り、メインマフラーに至ります。触媒はタコ足状のエキゾーストマニホールドのちょっと後ろ、ミッションの横にあり、そのちょっと後ろにサブマフラーがあります。メインマフラーはリアアクスルより後ろ、車体後端に位置します。排気管はメインマフラーから直接でています。途中にサブマフラーを置くことで排気特性を調整し、トルクカーブを改善しているらしいです。

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  ミッション横に触媒

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  デフより少し前にサブマフラー

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  最後部にメインマフラー

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  メインマフラーの接続部にはスプリングを使用

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  リアバンパー内側のバックライトとセンサー類


■ ファイナルギヤとリアサスペンション

 縦置きFRなので、プロペラシャフトの後端にファイナルギヤボックスが位置します。最終減速はハイポイドギヤで行われます。NDの6速MTは6速が直結でオーバードライブギヤがありません。そのためファイナルのギヤ比は一般的な車よりも小さめになっています。

ファイナルギヤ比(ND3世代目)
MT   2.866
1.5L AT 4.100
2.0L AT 3.583

 ファイナルギヤに組み込まれたデフギヤは、オープンタイプとトルセンLSDタイプがあります。SグレードとAT全車がオープンデフで、その他はトルセンデフ(整備書での呼称はスーパーLSD)です。

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rsus-010  デフギヤケース

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rsus-020  デフケースとドライブシャフト


 トルセンはトルクセンシングという意味で、左右の出力のトルク配分を検出し、トルクの偏りがあると、トルクが小さい方(例えば空転している側)によりトルクを配分するように働きます。これにはいろいろな仕組みがありますが、NDで使われているスーパーLSDはベベルギヤとテーパー摩擦を使うタイプです。機械式LSDのような多板クラッチはありません。
 ベベルギヤ式のディファレンシャルギヤは、デフキャリアに固定されたピンを回転軸とするピニオンギヤと、ドライブシャフトにつながるサイドギヤから構成されます。スーパーLSDは、サイドギヤとデフキャリアの間で摩擦が発生し、差動制限する構造です。
 オープンデフでは、サイドギヤとキャリアの間は平面で、オイルで潤滑されているので、キャリアとギヤの間の摩擦はわずかです。それに対してトルセンデフは、キャリアとギヤの接触部がテーパー(円錐面)になっており、スラスト方向(軸方向)の力がかかると、大きな摩擦が発生します(マニュアルミッションのシンクロと同じような感じです)。キャリア内でピニオンギヤとサイドギヤは噛み合っていますが、左右にトルク差が発生すると、ギヤの噛合反力によりサイドギヤにスラスト方向の圧力がかかり、差動制限が作用します。
 また板状のスプリングが組み込まれており、ピニオンギヤとの噛み合いによるスラストがない状態でも、多少のスラスト力がサイドギヤにかかっています。そのため後輪を両方とも上げた状態で一方のタイヤを回転させると、反対が側のタイヤも同じ向きに回転します(オープンデフだと逆回りします)。

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  スーパーLSDの構造


 このタイプのLSDは、多板クラッチを使う機械式LSDに比べると差動制限効果は小さいとされています。まぁメーカー純正デフなので、そんなに強力なものを入れることはできないし、気合を入れて走る人は、デフなんて交換するものと思っているでしょう。
 デフケースは、リアサスペンションと共にサブフレームに組み込まれます。そのためデフやファイナルの組み換えなどを行うには、サブフレームごとボディから外して行うことになります。
 前に触れたようにデフケースはパワープラントフレームによってミッションと結合しています。このような構造にすることで、ドライブシャフトの駆動の反動でデフ前部が持ち上がるワインドアップが起こらないようになっています。またエンジンからデフまでが剛性構造で前後に渡ることで、ボディ補強の役割も果たしています。
 デフとリアアップライトの間は、両端に等速ジョイントを持つドライブシャフトで接続されます。ジョイントは、デフ側がトリポードジョイント、アップライト側は一般的なボール式のバーフィールドジョイント(ベル型ジョイントと表記されています)を使っています。ドライブシャフトはサスペンションの動きにより、角度が変化するだけでなく、長さの変化も必要ですが、ローラーを3個使うトリポードジョイントは、ジョイントそのものに伸縮性があり、この部分で摺動できます。
 このドライブシャフトはモデルによって太さが異なります。基本的には2LのRFと1.5Lのソフトトップ、ATとMTで異なります。ただしソフトトップでも、NR-Aは太いタイプが使われています。

ドライブシャフトの太さ
ソフトトップ 1.5L NR-A(MT) 34mm
ソフトトップ 1.5L(MT)    31.5mm
ソフトトップ 1.5L(AT)    26mm
RF 2.0L(MT)        34mm
RF 2.0L(AT)        28mm


 後輪は5本のリンクを使ったマルチリンクサスペンションを使っています。アップライトを支える5本のリンク、ドライブシャフト、ショックアブソーバー、リアスタビ(モデルによってはない)が見えます。
 スタビライザーはリアアクスル後方にあり、短いリンクを介してリンクアームの1本の途中に結合しています。

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  リアサス全景

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  ハブとブレーキ

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  後方から見たところ

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  前方上方から見たところ

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 後方から見たところ

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  後方内側から見たところ。各リンクはサブフレームから伸びている

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  内側から見たところ


 アップライトには駆動軸を支えるためのベアリングが組み込まれていますが、NDではこのベアリングの単品交換は不可能で、フロントと同様にハブごと交換します。そのためベアリング交換となると、かなり高くつくことになります。
 リアブレーキはソリッドタイプのディスクブレーキで、片押しキャリパーで動作します。パーキングブレーキはディスクブレーキと一体になっており、パーキングレバーに伸びるワイヤーにより、パッドを機械的に押し付ける構造です。

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  下側から見たリアブレーキキャリパとパーキングブレーキ


■ 燃料タンク

 40Lほどの燃料タンクが、トランクの前と幌収納部の間に収まります。給油口のカバーはドアロックと連動しており、解除時に縁の部分を押すと開きます。オープナーのレバーやスイッチ、鍵穴はありません。故障すると開かなくなりますが、マニュアルに故障時の開け方が示されています。内装の一部を外し、ロック用のソレノイドを手で動かすという方法になります。


■ トランク

 トランクは、この手の車としては大容量なほうなのかもしれません。ただ、荷物の積み下ろしよりもボディ剛性を優先しているようで、開口部は狭く、トランク空間の上が開くだけです。そのため大きな箱などは、収まるサイズであったとしても、入れることができない場合があります。

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  トランクの開口部

 進行方向右側の側面にはフタがあり、これを外すとパンタグラフジャッキを収めるスペースがあります(ジャッキは付属していません)。この空間は配線などがむき出しになっているので、ほかの車載工具類を収納するなら、クッション材で保護したり、紐で固定するなどしたほうがよいでしょう。
 トランクを開くにはキーリモコンか、バンパーのナンバープレートのそばに隠れるようについているボタンを押します。こちらもワイヤー式のオープナーや鍵穴などはありません。
 トランクリッドは蝶番で開くタイプではなく、片側2本のリンクとガススプリングで支えています。これによりトランク空間に蝶番部品が飛び出すことはありませんが、強度はちょっと低いかもしれません。

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  トランクリッドのリンク(全開)

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  トランクリッドのリンク(半開)

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2020年06月24日

NDの下回りを見る −− 前側

 ジャッキアップしたところで、サスペンションまわりや床下を見ていきます。今回はエンジンの下側やフロントサスペンションを見ていきます。


■ フロント下部

 フロントサスペンションはサブフレームに取り付けられており、このサブフレームがボディモノコックに組み合わされます。このサブフレームにはエンジン部のアンダーカバーとなるアルミパネルが取り付けられています。エンジンオイルの下抜き、エレメント交換を行う際には、このパネルを取り外す必要があります。
 これはかなり厚いパネルで、取り付けボルトもしっかりしたものです。単なる整風目的でなく、ボディやフロントサスペンションの剛性強化の役割も果たしています。サブフレーム前縁より前、フロントバンパーまでの部分にもカバーがありますが、これは整風のためのもので、樹脂製のものがクリップで留められています

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  外したパネル


 補強パネルをはずすと、エンジンの下部を見ることができます。

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  前方向から見たエンジン下部。まわりを取り囲む黒い部品がサブフレーム

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  助手席側。オイルパン、ミッション、スターター、クラッチレリーズシリンダー

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  前輪とエンジンの位置関係がわかる

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  運転席側。オイルフィルター、エグゾーストマニホールド下部


■ ミッション周辺

 エンジンの後ろにはトランスミッションがあります。エンジン下部のサブフレームに取り付けられたアルミパネルの後ろにちょっと隙間があり、ここにクラッチハウジングが位置します。海外モデルではこの部分にもカバーがあるという話です。クラッチレリーズシリンダーはこの位置にあります。

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  エンジンとミッションの結合部

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  レリーズシリンダー。その横の配管は燃料とブレーキ


 その後ろ、ミッションの真下にフロアトンネルの左右を結合するメンバーがあります。AT車とMT車ではミッションの大きさが違い、そのためボディのフロアトンネルの大きさも違うようで、この補強材はAT車にはなく、MT車のみ(Sグレードは除く)の装備です。
 このメンバーはボディ補強の役割があります。通常はこの位置のメンバーでミッションを支えるのですが、NDではこの部分はミッションと結合していません。ミッション後部はパワープラントフレームという縦梁部品に固定され、それがデフまで伸びています。駆動ユニット、つまりエンジン−ミッション−パワープラントフレーム、デフが一体に結合されており、これがエンジン部とデフ部のマウント部品でボディに固定されるという形になっています。
 ミッション下のメンバーの少し後ろに、交差した形状のアルミ製補強材があります。ディーラーオプションで、さらにボディ下部を広範囲で結合する補強パーツも販売されています。

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  補強材


 上の写真は後ろ側からみたところで、パワープラントフレームと排気管が見えます。プロペラシャフトはこれらの上を通っており、下からはほとんど見えません。排気系の手前側がサブマフラー、ミッションの横にあるのが触媒です。運転席の左足元の大きな膨らみは、この触媒を収めるためのものです。


■ フロントサスペンション

 前輪はダブルウィッシュボーンサスペンションです。上下のアームはアルミ合金製です。ナックルアームも含めてアップライトもアルミ合金製で、上下がボールジョイントで取り付けられています。

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  前側から見たフロントサスペンション

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  後ろ側から見たフロントサスペンション


 ロアアームのボディ側支点の後ろ側は、後方に大きく伸びています。これは前輪に制動力が掛かったときに、ゴムブッシュの変形によって前輪が後ろにオフセットするのを減らす効果があるのかもしれません。一方、アッパーアームはこのような後ろ側への大きな突っ張りはありません。

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  アッパーアームとスプリング/ショック

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  ロアアーム

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  上から見たアップライト


 スプリング/ショックアブソーバーは一体型で、中央のショックの周りにスプリングが取り付けられた構造です。競技用ベース車のNR-Aは、下側のスプリングシートの位置を変更できるようになっていて、車高を変えることができます。その他の車種は、位置変更はできません。
 スプリング/ショックの下端はロアアームに取り付けられており、その上部はフェンダー内部のボディパネルに固定されます。

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  タイロッドとナックルアーム、ショック取付部


 ステアリング機構は、エンジン前縁のちょっと前、中央部にラックアンドピニオンのギヤボックスがあります。これは電動パワーステアリングになっており、ハンドルにつながるステアリング軸のギヤとは別に、モーターのギヤでラックを左右に動かすようになっています。
 スタビライザーも前側に位置し、短いリンクを介してスタビライザーとロアアームがつながっています。

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  後ろ側から見たショック、スタビリンク取付部


 パワーステアリング機構、スタビライザーの左右をつなぐロッド部分は、アンダーカバーより上側に配置されており、カバー下には出ていません。
 フロントのブレーキはごく普通のベンチレーテッドディスクで、キャリパーはシングルピストンの片押しタイプです。一部車種、グレードでは、ブレンボブレーキを選択できます。これだと対抗4ピストンとなります。

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 フロントブレーキとハブ


 ディスクブレーキのローターには2種類のサイズがあり、モデルやグレードによってサイズが異なります。2.0LのRFと1.5LのRS、NR-Aが15インチの大径タイプ、SSPは14インチの小径ローターとなります。しかしサイズに関わらずバックプレートは共通のようで、小さいローターだとプレートとサイズが合わず、ちょっと悲しいものがあります。
 アップライトにはABSのための回転速度センサーがついており、その配線がアップライトまで伸びています。

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  フロントブレーキ用のABSセンサーの配線


 フロントのハブベアリングは、ハブ(回転する部分)とベアリングが一体化されており、ベアリングだけ交換することはできません。つまりベアリングを交換する場合はハブごと交換することになります。

posted by masa at 07:47| 自動車

2020年06月19日

NDロードスターのジャッキアップ

 車の足回りは汚れやすいので、写真をきれいに撮りたいなら、新車のうちにやっておかなければなりません。
 これからNDの足回りなどを見ていきますが、その前にまずジャッキアップについて。
 さしあたって部品を変えたり修理をしたりする訳ではありませんが、それでもジャッキアップは必須の作業です。とりあえず写真撮影のために必要です。ここではいくつかのジャッキアップ形態をまとめておきます。
 それから車いじりの常識ですが、ジャッキアップをする時(特に駆動輪側)は、設置しているタイヤに輪止めを忘れずにかけます。この時、1個だけでなく、どちらにも進まないように前後に2個かけます。


■ ボディシルのジャッキアップポイント

 モノコックボディの乗用車の多くは、前輪と後輪の間のフロアパネルとサイドパネルの接合部に2ヶ所のジャッキアップポイントがあります。ここにジャッキを当てて持ち上げることで、タイヤ交換などを行えます。ジャッキアップポイントには、位置を示すためのくぼみが2箇所あります。

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  サイドシルのジャッキアップポイント


 この部分はフロアパネルとサイドパネルをスポット溶接で接合するためにフランジ状になっており、ジャッキはこのフランジ部分を逃げるように溝を切ってあるものを使います。下に潜って作業をする際には、ジャッキで上げたあと、ウマ(リジッドラック)をかけますが、それもこのジャッキアップポイントを使います(整備工場のリフトも同様です)。上面が平らなウマを使うとこのフランジ部分が潰れてしまうので、溝を切ったゴムパッドを介して支えます。
 実はNDでは、サイドのエアロパーツのプラスチック部品がこの部分に迫っており、ジャッキやウマを当てると干渉してしまい、プラ部品がちょっと変形します。まぁ外せばもとに戻るのでよしとしています。

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  パンタグラフジャッキによるジャッキアップ


 一連の解説の最初の頃に触れたように、NDには標準では車載ジャッキは含まれていませんが、トランク内にパンタグラフジャッキの設置場所が用意されており、ディーラーオプションで(高価な)パンタジャッキが用意されています。これを買わなくても、KTCのPJ-06という600kgジャッキがぴったり収まります。ただしハンドルは分解式ではないので、車載工具袋には収まりません。


■ ガレージジャッキ

 一般的なネジ式パンタグラフジャッキは操作が重いですが、油圧ガレージジャッキ(フロアジャッキ)を使えば楽に上げることができます。一般にガレージジャッキのサドル部は鉄の皿状なので、側面のジャッキアップポイントにかける際は、フランジ部を潰さないように適切な形状のアダプタやゴムパッドを使います。
 ただしガレージジャッキはパンタグラフジャッキより背の高いものが多いので、そのままでは下にはいらないこともあります。僅かな差ではいらないという程度なら、もう一方(前なら後ろ、後ろなら前)をパンパジャッキでちょっと持ち上げることで、ガレージジャッキを入れられます。もちろん、はずす際にもパンタジャッキの応援が必要です。

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  小型のガレージジャッキを使ったジャッキアップ


■ フロントのジャッキアップ

 フロント側を2輪まとめてをジャッキアップする際は、エンジン前部下のメンバー中央部にガレージジャッキをかけます。これはバンパー下の樹脂製カバーの後ろ、エンジン下部のアルミ製カバーの前のサスペンションメンバーです。前後方向の幅がさほど広くないので、ずらさずに当てないといけません。また中央部には後ろ側のアンダーカバーアルミパネルを止めるボルトがあるので、そのボルトと緩衝しないように位置を決める必要があります。

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  フロントのジャッキアップ


■ リアのジャッキアップ

 リアのジャッキアップでは、デフ下にあるリアサスペンションのメンバー中央部にジャッキをかけます。

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  リアのジャッキアップ


■ スロープ等の利用

 NDは車高が低めなので、ガレージジャッキの大きさ(背の高さ)によっては、ジャッキアップポイントの位置までジャッキを押し込めないことがあります。低床用や超低床用であればいいのですが、うちにあるのは昔ながらのものなので(買ったのは最近なのだけど、その時は4WDのジャッキアップしか考えてなかった)、フロントはエアロパーツに、リアはマフラーに当たってしまいます。

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  干渉してジャッキがはいらない


 このような状況のために、スロープという高さをかせぐ用品が市販されています。ガレージジャッキで上げる際には、まず自走してスロープにタイヤを載せ、その後でジャッキを押し込むことになります。現在スロープが1セットしかないので、前後同時に上げることができません。

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 スロープに載せてからジャッキアップ


 ジャッキと車体の干渉がわずかなら、別のジャッキでボディシル側のジャッキアップポイントをちょっと持ち上げて、ガレージジャッキを挿入することもできます。この場合、下ろす際に注意が必要です。そのままガレージジャッキを下げてしまうとボディに干渉します。車体に当たる前にボディシル側に再度ジャッキをセットし、車体が下がりきらないように支える必要があります。


■ リジッドラックで支える

 ジャッキアップ後に下に潜って作業する場合は、ジャッキの落下事故を防ぐために、リジッドラック(ウマ)で車体を支えます。また倒れ止めのために接地しているホイールに輪留めもかけておきます。リジッドラックをセットする位置は、サイドシルのジャッキアップポイントです。ジャッキを使い場合と同様に、シルを潰さないように、溝のあるゴムパッドなどを介する必要があります。

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サイドシル用のものと通常のもの

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サイドシルのジャッキアップポイントにウマをかける

posted by masa at 08:14| 自動車整備

2020年06月18日

NDロードスター NR-Aのすすめ

 ロードスターのカタログにちょろっと載っているNR-Aは、モータースポーツ用のベース仕様ですが、普通にナンバーを付けて登録できます。ベース仕様といってもエアコン、パワステ、オーディオは備えられており、それ以上の贅沢系装備が落とされているだけです。これは車として見てお買い得であるだけでなく、いくつかの装備の組み合わせは、非常に有意義なモデルであることがわかります。特に大径ブレーキは最高額モデルのRSとNR-Aのみの装備です。
 基本的にNR-Aは、Sに走行系オプションを付加し、一部の部品を2LのRFのものに置き換え、耐久性を高めているという形になります。

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■ カタログでわかる仕様

 NR-Aは基本的に、一番安価なSグレードに「走行に重きを置いた装備」を最初から取り付けた仕様となります。MTのみでATは選択できません。
 カタログ(主に仕様一覧)に示されている特徴(付いているもの、いないもの)を以下にまとめておきます。ここにまとめた内容は、おもに3世代目(2018年夏のマイチェン後)のものです。

・重量は1010kg
 Sより20kg重く、SSPと同じです。

・マツダコネクトが付かない
 ラジオ、外部入力、USBオーディオのみとなります。オプションのナビも対応せず、またマツコネコンソールで設定できる車のちょっとした動作変更なども行えません。

・マニュアルエアコン
 エアコンは標準で備えられていますが、Sと同様にオートエアコンではありません。

・キー
 アドバンスドキーではなく、Sと同じワイヤレスキーになります。

・内外装のコストダウン
 樹脂部品の塗装やメッキなどが簡略化されています。

・セーフティ系
 助手席側のサイドエアバッグが省略されます。オートクルーズも付きません。一部のセーフティ機能はオプションでも設定がありませんが、衝突被害軽減ブレーキや死角位置のアラートなどは装備されます。

・走行系
 NR-Aにはトルセンデフとリアスタビが装備されます。これはSを除くMT車に装備されるものです。フロント/リア大径ブレーキはRSとNR-Aのみの装備です。車高調整付きビルシュタインダンパーはNR-Aのみです。ビルシュタインダンパーはRSにも装備されますが、車高調整が付きません。
 車高調整は、ショック側のスプリングシートの位置を変えて行います。この位置決めはショック外周部の溝にはめたCリングで行うので、変更する際はジャッキアップし、スプリングコンプレッサーでスプリングを圧縮する必要があります(マニュアルにはディーラーで行うように記載されています)。

・ボディ補強
 フロアトンネルの下部に装備されるトンネルブレースバーは、Sを除くMT車に装備されるものです。フロントサスタワーバーはRSとNR-Aに装備されます。メーカー装着のタワーバーは鉄製のもので、ディーラーオプションのマツダスピードのアルミ製のものとは異なります。

 このように見ると、走行系をあとからちょっと強化するより、最初からNR-Aにしてしまうほうがコスト的にかなり有利であることがわかります。もっとも、さらに強化するのであれば、逆にSかSSPを購入するのが正解でしょう。


■ カタログには詳しく示されていない違い

 NR-Aも含めて、国内のソフトトップモデルは1.5Lエンジンのみですが、NR-Aでは一部の部品が、よりハイパワーな2L用のものに置き換えらています(海外では2Lソフトトップモデルが販売されています)。

・ラジエーター
 NR-Aはラジエーターがちょっと大容量になっています。1.5LのソフトトップMT車は冷却水量が5.8Lですが、NR-Aは2Lモデルと同じ6.2Lになっています。ちなみにATだと、ラジエーターのタンク内にATFクーラーが組み込まれるため、どちらも0.2L少なくなります(NR-AにはATがないので関係ありません)。
 また冷却用の電動ファンのモーター出力も異なります。NR-A以外の1.5Lモデルでは120Wですが、NR-Aは2Lモデルと同じ160Wになります。

・リアアクスル
 NR-Aはリアのファイナルギヤとドライブシャフトの仕様が変更されています。リングギヤ径が169mmから181mmになっていて、2.0Lモデルと同じです(ギヤ比は変わりません)。ドライブシャフト径も31.5mmから2.0L MTモデルと同じ34mmに強化されています。
 ついでに書いておくと、ATモデルはファイナルギヤ比がMTと異なるので、1.5L、2Lモデルとも、リングギヤはこれらとは違うサイズです。AT車のドライブシャフトはMT車より細くて、1.5Lだと26mm、2.0Lで28mmです。ATモデルにはLSDの設定がなく、ドライブシャフトにかかる負担が小さいとみなされているのでしょう。

・ブレーキ
 NDのブレーキのディスクローターは、フロントがベンチレーテッド、リアがソリッドのディスクという違いはありますが、ローター径は前後とも同じです。モデルによって14インチと15インチの2種類があり、2Lモデルはすべて15インチ、1.5LのATモデルは14インチです。1.5LのMTモデルには2種類あって、RSとNR-Aが15インチ、ほかは14インチです。
 なお、2Lモデルにはメーカーオプションでブレンボのブレーキがあります。これはフロントが対向4ピストンキャリパーになりますが、それ以外のメーカー純正ブレーキはフローティングタイプのシングルピストンです。

追記: 2019年のマイナーチェンジで、1.5LソフトトップのRSモデルでも、ブレンボブレーキをオプションで選べるようになりましたが、NR-Aでは選択できません。


■ 未確認なこと

 ネット上の紹介記事などで、以下の違いがあるという記述を見かけましたが、パーツリストを見ていないので未確認です。

・パワープラントフレームが2.0Lモデル用のものを使っている
 ミッションとデフを剛結合するパワープラントフレームが強化されているという話です。

・スプリングのセッティングが異なる
 専用ビルシュタインショックに合わせて、スプリングのレートなどが変えられているという話です。


■ ディーラーオプション

 NR-A用として、おもにレースで使うためのディーラーオプションが用意されています。カタログではNR-Aとなっていますが、おそらくほかのモデルにも装着できると思われます。

・ロールケージ
・バケットシート
・牽引フック

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posted by masa at 02:55| 自動車

2020年05月24日

NDのバルブタイミング制御

 今回はエンジンのバルブタイミング制御の話です。

 今どきのエンジンでは、バルブの開閉のタイミングを制御する可変バルブタイミングは珍しい機能ではありません。一般的な可変バルブタイミング機構は、カムシャフト用スプロケットホイールとカムシャフトの間に、位相をずらす機構を組み込むことで実現されます。NDのP5-VPでは吸気側、排気側の両方を制御しています。

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向かって右側が吸気系、左側が排気系

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エンジンの後ろ側にあるのは、カムシャフト角度のセンサー


 排気バルブタイミング制御はエンジンオイルを使った油圧制御です。ECUで制御されたコントロールバルブによって油路が開閉され、油の出入りによってカムシャフトとスプロケットの間にある油室の容積が変化します。これでスプロケットとカムシャフトの位相が変化し、バルブタイミングが変わります。
 この機構はカムカバー内に収まっているため、写真では存在はほとんどわかりません。

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排気カムシャフト用スプロケットの構造


 排気系にに使われている油圧制御は昔からある技術ですが、吸気系には比較的新しい電動制御になっています。油圧ではなく電動を使っているのは、油圧の低い低回転時にも適切に制御するためらしいです(油圧が低いと十分な圧力がかからず、機構が十分に作動しないため)。
 電動可変バルブタイミング機構のわかりやすい解説として、デンソーの資料があります。NDの電動可変バルブタイミングのための機構は、内部の機構などを見るとデンソーのものに近いですが、減速メカニズムがちょっと変わっています。デンソーの資料のものはサイクロイド減速、マツダのものは特殊な偏心遊星歯車を使っています。
 この電動のバルブタイミング制御はかなり複雑な機構です。
 カムシャフト前部にはクランクシャフトからチェーンで駆動されるスプロケットがあります。排気側と同様にこのスプロケットとカムシャフトの位相を変えることでバルブタイミングを変化させます。この位相差をモーターの回転で生み出すのですが、これがかなり興味深い構造なのです。

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吸気カムシャフト用スプロケットの構造


 スプロケットのすぐ前にモーターがあり、通常はこれがスプロケットと同じ速度で回転します。モーターとスプロケットの間には減速機構が組み込まれていてます。前に示したデンソーのものはサイクロイド減速機構ですが、NDの減速機構はモーターで駆動される偏心軸に取り付けられた歯車とスプロケット、カムシャフトに取り付けられた内歯車が噛み合うというもので、サイクロイド減速機構の変形版のようなものです。これらの減速機構の特徴は、1段で大きな減速比を実現していることで、NDの場合はおそらく数十の減速比になっていると思われます。つまりこの割合でトルクを増加させ、大きな負荷のかかるカムシャフトの位相を変えているのです。
 この減速機構はスプロケットが固定ハウジング側、モーター軸が入力側となります。そして減速出力がカムシャフトにつながっています。モーターとスプロケットが同じ速度で回転している場合は、減速機構のハウジング(スプロケット)に対して入力軸(モーター回転)が回転していないことになります。つまり減速機構は駆動されないので、減速機構の出力軸はスプロケットに対して回転しません。したがって出力がつながっているカムシャフトはスプロケットに対して回転せず、スプロケットと同じ速度で回転し、位相は変化しません。モーターとスプロケットの回転に速度差があると、その回転速度差が減速機構で減速され、カムシャフトがスプロケットに対して回転します。これでカムの位相がずれ、バルブタイミングが変化します。目的の変化量に達した時点でモーターの速度をスプロケットの速度と一致させれば、カムシャフトの位相がずれた状態が維持されます。
 このような機構により、クランクシャフトの回転数に応じたモーターの回転数を制御することで、吸気バルブのタイミングを自由に変えることができます。

  クランクシャフト速度 < モーター速度 → 進角方向に変化
  クランクシャフト速度 = モーター速度 → 位相を維持
  クランクシャフト速度 > モーター速度 → 遅角方向に変化

 ただしこの機構は、常時クランクシャフトと同じような速度でモーターが回転することが求められます。モーターはメンテが必要になるブラシタイプではなく、ブラシレスモーターを使っていますが、機構の寿命が気になるところです。

posted by masa at 18:54| 自動車

2019年10月27日

NDのエンジンルーム

 15年ぶりの新車です。汚れたりくたびれたりする前に、各部の状態を記録に残しておきます。特になかなか見られない足回り、汚れやすいエンジンルームなどを中心に写真を撮りました。今回はエンジンルームの写真です。写真の大半は納車から3ヶ月めないし半年程度の状態です。


■ エンジンルーム

 NDは今の車によくある、樹脂製のエンジン全体を覆うようなカバーがありません。安い車はカバーレスがそこそこあるようですが、NDの場合はコストダウンのためではありません。カバーがないので昔の車のように、見た目を考えてデザインされたカムカバーが見えます。NDにとって、エンジンルーム内は鑑賞対象ということなのでしょう。

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エンジンルームを横から見たところ。ガススプリングではなくステーで支える構造。


 エンジンルームは決して広くはありませんが、1.5Lエンジンを中心にすっきりとまとめられています。補機だらけで手を入れる隙間もないといったエンジンルームではありません。RFだとこれが2Lエンジンになるわけですが、エンジンの全長が伸びる分くらいの隙間は十分にあります。


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前からみたところ。エンジンはかなり後ろにあり、フロントミッドシップになっている。


 タイヤハウス上部には、前輪用のスプリングの取付部があります。スプリングはコイルとショックアブソーバーが一体化したものです。フロントサスはダブルウィッシュボーンなので、スプリングとショック自体にはホイールの位置決め機能はなく、純粋に緩衝と減衰が仕事です。グレードによっては、あるいはディーラーオプションや後付パーツとして、このスプリング取付部とバルクヘッドを結合し、補強するタワーバーがありますが、この車両には装備されていません。


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ウォッシャータンク

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ラジエーターの上にリザーバータンクとエアクリーナーボックス

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エアクリーナーからスロットルバルブ、インテークマニホールド


 車の前側から見ると、向かって左側手前にウォッシャータンク、中央部にはフロントカウルに隠れるようにラジエーター(エアコン用含む)があり、その背後に電動ファンがあります。その上にラジエーターのリザーバータンクがあり、その後ろ側がエアクリーナーボックスになっています。そのため、ラジエーターや電動ファンは上からはほとんど見えません。ラジエーターの放熱は自然通風と電動ファンのみで、エンジンで駆動されるファンはありません。
 エアクリーナーボックスは、ダクトを介してフロントカウル内部から吸気します。エアクリーナーボックスからはエンジンに向かって右側にあるインテーク側に繋がりますが、ディーラーオプションでこの部分の吸気音を車内に伝えるというインダクションサウンドエンハンサーという部品を取り付けることができます。ここに示した写真にはこのオプションはありません。


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バッテリー

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手前(車両前部)からヒューズボックス、ECU、ブレーキ制御ユニット。

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ヒューズボックスの内部。RFでは空いている部分に電動ルーフ用のヒューズやリレーが収まる

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ヒューズボックスのカバーの裏側にはスペアヒューズと取り外し用のクリップ

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ECU

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ABSや横滑り防止のためのブレーキ制御ユニット


 向かって右側のエンジンより前の部分にバッテリーとメインヒューズボックスがあり、その少し後ろ、フロント左のサスペンションマウント部にエンジン制御コンピュータ(ECU)があります。その後ろにはABSその他でブレーキを制御するためのポンプ/バルブユニットがあります。


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クランクプーリー(中央下)とアイドラプーリー、コンプレッサープーリー、オルタネータープーリー

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ウォーターポンプ


 エンジンに取り付けられている補機は、ウォーターポンプ、オルタネーター、エアコンコンプレッサーのみです。オルタネーターとエアコンコンプレッサーは1本のベルトでクランクプーリーから駆動されます。ベルトの途中にはテンション調整用プーリーがあり、エンジンオイルの油圧によりちょうどいいベルト張力になるように調整されます。パワステは電動なので、パワステポンプはありません。
 ウォーターポンプは専用ベルトでクランクプーリーから駆動されます。ウォーターポンプにファンは付いておらず、そのためかエンジン前面の中心部ではなく、側面に配置されており、エンジン全長を短くするのに役立っています。駆動するリブベルトにテンション調整用の機構はなく、ベルト自体が多少の伸縮性を持っているようです。


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バキュームブースター、ブレーキマスターシリンダー、リザーバータンクがあり、その手前側にクラッチマスターシリンダー


 運転席の前の位置には、ブレーキとクラッチのマスターシリンダーがあります。これらのフルードは共通のリザーバータンクから供給されます。ブレーキマスターシリンダー上にリザーバーがあり、そこからクラッチマスターシリンダーに配管が伸びています。
 ブレーキにはバキュームブースターがあり、踏力を軽くしています。バキューム源はエンジンのインマニだけでなく、別途用意された電動バキュームポンプも使われます。このポンプのためのコントローラーが、ECUと対称になる位置、右側のスプリングのアッパーマウント部に取り付けられています。バキュームポンプそのものはフロントカウル内部に位置するようで、エンジンルーム側からは見えません。


■ アクティブボンネット

 アクティブボンネットは、衝突時に歩行者がボンネットに叩きつけられた時、内部のエンジンなどに直接頭をぶつけないように、衝撃検出時にボンネットを持ち上げる機構です。


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ボンネットを持ち上げるアクチュエーター

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ボンネット後端を持ち上げるためのリンクが組み込まれている


 ボンネットの持ち上げ動作は、ヒンジの前にある、火薬で飛び出すロッドにより行われます。バンパー内側のセンサーが衝撃を検知すると、エアバッグやシートベルトの巻取りなどと同じような形でガスが膨張し、ロッドが飛び出し、ボンネットを持ち上げます。ボンネット後端にあるヒンジは、通常の開閉のためのための支点とは別に、力がかかったときに動くリンクがあり、ボンネット後端が持ち上がります。
 アクティブボンネットの動作はある程度破壊的なものであり、これが作動するとピストン類は交換になります。ボンネットやヒンジは、見たところ元の状態に戻せそうな感じですが、実際には交換されるようです。ネコをはねて動作したという事例もあるようなので、要注意です。


■ エンジン本体

 使用しているのはSKYACTIVE-G 1.5という1.5L直列4気筒直噴ガソリンエンジンで、形式はP5-VP(マイルドハイブリッドなしのMT用)になります。
 エンジンの仕様は以下の通りです。これは2018年夏のマイナーチェンジ後のものです。

・DOHC 16バルブ 直噴ガソリンエンジン(ハイオク仕様)
・ボア74.5mm×ストローク85.8mm、排気量1496cc
・96kW(131PS) 7000 RPM
・150Nm(15.3kgfm) 4800 RPM
・鍛造クランクシャフト/軽量フライホイール
 吸気側は電動可変バルブタイミング、排気側は油圧可変バルブタイミング


■ 吸気系

 エアクリーナーを通った吸気は電子制御スロットルバルブ、樹脂製のインテークマニホールドを経てシリンダヘッドに至ります。ガソリンは筒内噴射なので、インジェクタはシリンダヘッドに取り付けられています。この部分は樹脂製のカバーに隠れています。
 このカバーはゴムブッシュ状の部品でエンジンに取り付けられているので、上に持ち上げればはずれます。


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スロットルバルブ

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インテーク部のカバー

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カバーを外したところ。インジェクターはこの下にある。


■ 点火系

 点火プラグはシリンダ頂部にあります。4個の各プラグごとに点火コイルを持つタイプです。カバー類がないので、メンテ性は良好です。


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プラグごとの点火コイル。プラグはかなり深いところにある。


■ 排気系

 P5-VPでは、排気管に4-2-1集合管を使っています。いわゆるタコ足というやつで、それぞれのシリンダーからの排気がほかのシリンダーの排気に悪影響を与えないように、ある程度距離をおいて排気が合流するようになっています。このとき、各排気系の長さを調整するために、排気管をクネクネと曲げているため、タコ足と呼ばれます。
 カスタムパーツに取り替えるような場合は、きれいにメッキされたタコ足を見せるような取り付けになりますが、これは市販車なので、タコ足部分は遮熱板でカバーされており、くねくね部分は見えません。またパイプも普通の金属地肌なので、見た目の派手さは期待できません。


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排気管の遮熱板。

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4-2-1排気管


 この集合管の後に触媒があり、さらに車両中央部のプリマフラーを経由し、トランク下のメインマフラーに至ります。排気口はメインマフラーから直接出ています。

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2019年07月28日

NDロードスターのソフトトップの構造

 NDロードスターのソフトトップの構造について見ていきます。

■ ソフトトップ

 (少なくとも自分にとっては)NDの最大の特徴はソフトトップ、つまり幌車であるということです。
 NDでは以前のモデルに比べ、幌の開閉が格段に容易になりました(らしいです。自分ではNC以前の幌に触ったことがないので)。ロックはセンターに1ヶ所のみ。幌側にロック付きのレバーがあり、それを起こせばフックが外れます。そのままルーフ部を後ろ側に動かし、シート後部の空間に収め、上から押せばロックされます。収納時はルーフ上面がそのまま上に来て、幌骨などはすべて幌の内部に隠れるので、トノカバーで覆うことなく、きれいに収納されます。


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レバーの裏側にロック用のフックがある。


 閉じる時は左右のシートの間にあるリリースレバーを操作すると、畳まれていた幌が15cmほど持ち上がります。それをそのまま引き起こし、ロック用のフックを引っ掛けてロックレバーを戻すだけです。電動開閉などのギミックはありませんが、開閉とも5秒程度で行えるので、はっきりいって電動より便利です。

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 NDロードスターというと、ハードトップのRFの電動開閉ギミックがよく話題に登りますが、手動開閉のソフトトップも十分に興味深い構造になっています。幌についてのマツダの技術解説としては、こんなのがあります。


■ 幌骨

 幌はいくつかの幌骨、ルーフパネル、リンクなどで支えられています。構成する部品はおおよそ以下のものです。なお、各部品の名称は、ルーフパネルとメインリンク以外はここで勝手につけたものです。パーツリストでも見れば正式名称がわかるかもしれませんが。。

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閉じた状態でのリンク類のおおよその配置


・ルーフパネル(屋根前半分) −−図の灰色の部分
 屋根の前半分の部分には、幌生地の下にアルミ材のフレームと板状の屋根材が入っています。前縁フレームの中央にロック機構、両側に位置合わせのための突起があります。ドアガラスの上部前半分はこのルーフパネルの側縁部に接触する形になります。前縁部の水密のためのウェザーストリップは、フロントウィンドウフレーム側に取り付けられています。

・メインリンク(ルーフパネル用幌骨) −−図の緑の部分
 横から見てルーフパネルの中央部付近に、大きく曲がった太い幌骨であるメインリンクが繋がっています。これはドア枠の一部、Bピラー相当の部材となります。そのためメインリンクのドアガラスと接触する部分、つまりドアガラス上側の後ろ側半分と後縁に接触する部分には、水密のためのストリップが取り付けられています。
 メインリンクは左右で独立しています。メインリンクの上端はルーフパネルに、下端はボディ側に、どちらも回転するピンで取り付けられています。メインリンクのボディ側支点にはスプリングが組み込まれていて、重量のバランスを取っています。畳んだ状態でロックを解除すると、このスプリングの働きで幌がちょっと持ち上がり、シートからウインドデフレクター越しに手をかけることができ、閉じるのが容易になっています。


・角度調整リンク(ルーフパネルの角度拘束用) −−図の赤い棒
 正式な名称はわからないので、ここでは角度調整リンクと呼ぶことにします。
 ルーフパネルはメインリンクとピンで接続されていますが、これだけではメインリンクに対してぶらぶらと動いてしまいます。そこでルーフパネルの動きを規制するために、メインリンクとは別に、もう1本のパイプ状のリンク部品でボディ側とルーフパネルをつないでいます。これも左右に2セットあります。上端のピンの位置はルーフパネルの後ろ側です。ボディ側はちょっと複雑になっていて、これについては後で説明します。
 メインリンクの動きとこの調整用リンクの働きにより、ルーフパネルを後ろに畳んでいくと、ルーフパネルは最初の水平状態から前縁を持ち上げた状態になり、さらに畳んでいき、収納部にロックする際には再び水平になります。

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左側がルーフパネル、中央のピンでメインリンクがつながっている。手前側の右に伸びている棒が角度調整リンク

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リンク部分のアップ


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リンク部分の構造図


・幌骨A(ルーフ後端) −−図の黄色い棒
 ルーフパネルより後ろの屋根は幌生地のみとなります。屋根が水平から後ろに傾き始める位置に、パイプを曲げた構造の幌骨A(これもここでの呼び方)があります。この幌骨Aは下側がピンで回転するようになっていて、上側は幌生地の内側(幌の側面上部)に固定されています。幌骨Aはメインリンクと連動して後ろに倒れる構造になっています。


・幌骨B(リアウィンドウ上部) −−図のオレンジ色の棒
 屋根後端の幌骨Aから後ろに下がり、リアウィンドウのとの中間あたりに、もう1本の幌骨Bがあります。この幌骨Bも左右がつながったパイプ構造で、上側は幌生地に取り付けられています。下側の支点のピンはボディではなく、幌骨Aの途中に位置します。また幌骨Bとルーフパネルは幅広のベルト(シートベルトと同等のもの)で繋がれています。これは幌を閉じた状態で位置を正しく定め、幌生地をきちんと張るためのものです。

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メインリンクの後ろ側に幌骨Aがあり、その途中に幌骨Bが取り付けられている。


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幌骨Aはメインリンクに連動して倒れ、幌骨Bは成り行きで倒れていく。


・連動リンク −−図の濃い灰色の棒
 メインリンクと幌骨Aの動きは連動しています。これはメインリンク、幌骨Aのそれぞれの支点からちょっと離れた位置で、連動リンクによって繋がれているためです。これによりメインリンクが後ろに倒れていくと、連動して幌骨Aも倒れていきます。
 連動リンクの中間位置あたりに、角度調整リンクの支点があります。つまり角度調整リンクの支点位置は固定ではなく、メインリンクと幌骨Aの位置に応じて移動していくことになります。

・リアウィンドウ
 リアウィンドウはガラス製で、熱線ヒーターも内蔵されています。このウィンドウは幌生地に取り付けられていて、幌を畳んでいくと、収納部の底の位置に沈んでいきます。ガラス製ウィンドウのありがたさは、ビニールウィンドウの幌車に乗ったことのある人しかわからないでしょう。

・幌
 屋根の前半分は内部に金属製のルーフパネルが入っていますが、そこより後ろと側面は幌生地だけです。上位グレードでは防音などのための内張りがあるらしいですが、S、SSPグレードにはありません。
 幌の裾の部分は、ボディの幌収納部の内側に取り付けられています。ボディと当たる部分にはゴム部品があり、水が侵入しにくい(しないわけではない)構造になっています。

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幌とボディの当たる位置はゴムのストリップが取り付けられている。


■ 幌の畳み込み

 幌を開いて畳むと、シート後ろの収納部に、下からリアウィンドウガラス、ウィンドウガラスとルーフパネルの間の幌生地、ルーフパネルという順に畳み込まれます。左横から見ると幌生地はZ字上に畳まれます。
 幌の開閉の際のリンクの位置や動きを見てみます。興味深いのは、ルーフパネルの角度調整リンクのボディ側支点、幌骨Aの動きの連携です。メインリンクと幌骨Bは、それぞれのボディ側支点の近くで連動リンクでつながっています。つまりメインリンクを畳む方向に動かすと、幌骨Aも連動して収納部側に畳み込まれていきます。また調整リンクのボディ側支点は、この連動リンク上に位置します。つまりメインリンクの位置に応じて調整リンクの支点位置が変化し、そしてルーフパネルの角度は、メインリンクの角度とそれによって決まる調整リンクの支点位置で決まるということです。
 幌の開閉時のそれぞれの状態を見てみます。

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閉じている状態。

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ロックを外して後ろに動かすと、ルーフパネル前縁が持ち上がる。

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さらに動かすと、リアウィンドウが収納されていく。

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ルーフパネルが水平に戻り、すべて収納される。


・閉じた状態
 幌を閉じてロックされた状態では、ルーフパネルがフロントウィンドウフレームに結合し、ほぼ水平な状態です。メインリンクはドアウィンドウ上縁部に接する部分がルーフパネルと滑らかにつながる角度になり、ルーフパネルとメインリンクでドアガラスが接触するボディ側フレームを構成します。角度調整リンクは、ルーフパネルが正しく水平になる位置にあります。
 幌骨Aはメインリンクと繋がっており、また幌内部にも固定されているので、屋根の後縁を形作るちょうどいい位置にあります。幌骨Bは連動機構はありませんが、幌内側に固定されており、またルーフパネル側にベルトで引っ張られているので、幌とベルトがピンっと張る位置にきます。これにより、幌骨AとBで幌の後ろ側部分は正しい形になります。

・開きはじめ
 ロックを外してルーフパネルを後ろ側に動かすと、それに押されてメインリンクが後ろに倒れていきます。ルーフパネルの角度は、メインリンクの角度、調整リンクの支点位置によって決まりますが、閉じていく過程では、ルーフパネルは徐々に前縁が持ち上がっていきます。

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畳み始めは、リアウィンドウ側がたるみ、ルーフパネル前縁が持ち上がる。

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この状態でのルーフパネル、メインリンク、角度調整リンクの状態。たるんだベルトは、ルーフパネルと幌骨Bをつないでいる。

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リンク類の支点部分はカバーの内部に隠れている。

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かなり収納された。メインリンクの中間部も幌生地に固定された場所がある。

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前のほうから見たところ。中央部分に固定用フックが見える。

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リンク類はすべて内部に収まる。


・リアウィンドウの収納
 メインリンクが後ろに倒れると、連動して幌骨Aとそれにつながっている幌骨Bも後ろに倒れます。幌骨Bのベルトも緩み、後ろ側の幌生地全体がたるみます。するとリアウィンドウ下側の幌生地が緩んで下にさがり、幌骨Bによってウィンドウが斜め後ろ方向に押し込まれます。そして最終的に、幌収納部の最下部にほぼ水平に畳み込まれます。

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リアウィンドウが内部に落ち込む。


・幌生地の畳み込み
 幌骨Bは幌骨Aの途中の部分にピンで止められているので、リアウィンドウが十分に下に下がり、幌骨Bも収納部の底に近づくと、もうそれ以上は下がらず、以後、幌骨Aだけが収納部に倒れ込んでいきます。結果として幌骨A、Bは、ほぼくっついた状態で収納位置に収まります。どちらの幌骨も幌生地の内側に固定されているので、屋根後半部からリアウィンドウ上縁部までの幌生地は、幌骨の位置に応じてリアウィンドウ上部に畳み込まれます。


・収納してロック
ルーフパネルを後ろに下げ、メインリンクの大半が収納部に収まるくらいになると、調整リンクの支点位置の関係から、ルーフパネルは水平に近づきます。この状態でルーフパネルの前縁を押さえると、収納部に水平に収まり、ロックがかかります。この状態では、リアウィンドウ、後ろ半分の幌生地、ルーフパネルという形で重なっています。

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すべて収納された。


 幌を閉じる動作はこの逆になります。シートの間のロックレバーを操作するとロックがはずれ、スプリングの力でルーフ前縁が15cmほど持ち上がります。このスプリングも工夫されています。スプリングはメインリンクを起こす方法に働き、ルーフ収納時の幌の重量を支えること、そして収納状態から閉じ操作を始める時にポップアップさせる力を発生させます。この力をバランスよく生み出すために、単にメインリンクのピンのまわりにねじりスプリングを収めるのではなく、ピンから離れた位置にスプリングを配置し、そこからスプリングのねじれの力をリンク機構でメインリンクに伝えています。これにより、メインリンクの角度に応じて、スプリングのアシスト力がちょうどよく変化するようになっています。

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アシストスプリング


■ウェザーストリップ

 幌の畳み込みのために、幌とドアガラス、ボディが当たる部分のゴム製のウェザーストリップはいくつかに分割されています。合わせ目の部分は薄いゴムシートが重なるなどして、水が滲みないようになっているのですが、これらのゴムが経年劣化で固くなると水密が低下し、雨漏りなどの原因になるのではないかと思います。まぁ幌は基本的に消耗品なので、ある程度の年数が経過したら、交換することになるでしょう。

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フロントウィンドウフレームと幌の合わせ目

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ルーフパネルとメインリンクのつながる部分のウェザーストリップ

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ボディとメインリンクの合わせ目のウェザーストリップ

 NDの幌のウェザーストリップとドアのガラスの合わせ目はちょっと工夫されていて、ウェザーストリップ側の溝にガラスがはまり込むようになっています。単にゴムとガラスが当たるだけという構造に比べ、格段に水密性が向上していると思われます。この構造を実現するために、ドア開閉時にパワーウィンドウでガラスが自動的に上下するようになっています。
 窓がしまっている状態でドアノブを引くと、ドアが開く直前にガラスが1cmほど下がり、溝との噛合がはずれます。そしてドアを閉めると、その直後にガラスが上昇し、溝にはまります。つまりドア開閉ごとにパワーウィンドウがちょこっと上下するのです。
 耐久性に不安を感じる構造ですが、現行モデルの発売から4年で、特に問題になっていないようなので、大丈夫なのでしょう。しかし長く乗っていると、問題になりそうな気はします。
 ガラスは、幌の開閉時にも自動的に下がります。窓ガラスと幌が閉じている状態でロックレバーを解除すると、ガラスが10cmほど下がり、幌のウェザーストリップから離れます。また幌を畳み、ガラスが一番上まで上がっている時に、幌を閉じる操作を始めると、やはり途中でガラスが10cmほど下がります。幌の開閉に伴う動作はガラスの下降だけで、元の位置に自動的に上昇するという機能はないようです。
 幌生地のボディ側への固定は、ボディの内側部分で行われます。そしてボディ表面で幌に接する部分はゴムのストリップになっていて、内部に水が浸入しないようになっています。しかしこの部分はそんなに強力な防水構造にはなっておらず、多少の水は内部に漏れます。漏れた水は幌布の縁の部分を通って流れ、ドア開口部付近に達します。ここには床下に続く排水管があり、水は下に流れます。排水口部分にはトラップがあり、葉っぱなどの固形物で管が詰まらないようになっています。
 このトラップ部は定期的に掃除しなければいけません。説明書によると年に1回程度となっています。幌を閉めた状態でシートの後ろに手を入れ、手探りで外さなければならないので、結構大変です。トラップ部は、プラスチックの目の荒いメッシュと、その上のスポンジ状のフィルターから構成されています。

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トラップ部品


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2019年06月29日

NDの運転席まわり


 MTとオープンにつられて購入したNDロードスターの話の続きです。今回はおもに運転席まわりの紹介です。


■ メーター周辺

 車内の詳細を見てきます。まずはメーターまわりを。
 中央の一番大きいのがタコメーター、右にスピードメーターがあります。どちらも実際に針が動くアナログメーターです。タコメーターの左には丸い液晶パネルがあり、燃料、水温、距離、燃費、その他の情報が表示されます。
 今どきの車はさまざまな電子制御機器や安全装備があるため、数多くのワーニングやインジケーターランプがあります。エンジンスイッチをOnにすると各ユニットの自己診断が行われ、問題ない要素は徐々に消灯していきます。


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Off状態


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Onにした直後(エンジン未始動)


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Onで安定した状態(エンジン未始動)


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エンジンがかかっている状態


 液晶パネルは、通常は下が燃料計、上が水温計で中央部に距離計とトリップメーター、外気温、燃費が表示されます。メーター右上のノブを押すと水温計が拡大モードになり常用域を細かく表示することができます。実際に正確に表示しているのかどうかはわかりません。


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水温計拡大モード


 中央部の表示内容はステアリングのINFOスイッチで切り替えることができ、トリップA、トリップB、残り走行可能距離、メンテナンスまでの期間と変わっていきます。


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メンテナンスまでの時間


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走行可能距離


 またドアとトランクが開いている時はその表示に切り替わり、半ドア警告灯の代わりとなります。車線逸脱の警告も画面で表示されます。


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ドア警告表示


 セーフティパッケージ(SSPではオプション、この車両は搭載)ではこの液晶がカラーになります。セーフティパッケージの機能として、カメラで標識を認識し、現在の制限速度、一時停止、はみ出し禁止などが液晶左側に表示されます。速度標識に対し、現在速度が超過していることの警告も可能ですが、デフォルトでOffになっており、当然、Onにする気もありません。
 セーフティ機能の一部は機能をOffにすることができます。具体的には横滑り防止機能、車線逸脱警報、後方の障害物警報などは、運転席右側のスイッチで解除できます。


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セーフティ機能の解除スイッチ


■ ステアリング

 自分が今まで乗ってきた車と比べると、かなり小径のステアリングです。ホイールベースが短く、フロンドに駆動系がないこともありますが、ギヤ比はかなり小さく、くぃっと曲がれます。
 中央のホーンボタンにエアバッグが内蔵されています。ステアリングの中央パッド部全体にエアバッグを収納するのに比べ、格段に小さくなっています。また丸いホーンボタンと一体になったデザインは、往年のスカイラインなどのスポーツモデルのステアリングハブ部を彷彿させるものがあります。1970年代頃にかっこいいとされていたデザインです。


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 ステアリングホイール


 そういえば2018年夏の改良で、ステアリングがチルトだけでなくテレスコも調整可能になりました。これを羨ましがる人もかなりいるようです。


■ トランスミッション

 タコメーターの右下部分にも液晶表示があり、走行中は現在のギヤが表示されます。もともとはATのポジション表示用なのでしょうが、MTでも使用されています。MTでは速度やアクセル開度に応じて(おもに)シフトアップの推奨ギヤが表示されます。見ていると、かなり燃費に振った感じで、定常速度で走行していると、その速度で使用可能なもっとも高いギヤが推奨されるようです。状況によっては2段以上も上のギヤも推奨されます。例えば4速で60km/hで定常走行なら、4→6といった表示になります。またエンジン回転が下がりすぎるとシフトダウンが示されることもあります。
 このギヤインジケーター、走行中しか表示されません。実はミッションには各ギヤポジションを検知するスイッチはなく、あるのはNとRの検出だけです。クラッチをつないで走行している間は、エンジン回転数と車速から現在のギヤがわかりますが、クラッチを切ると(クラッチの検知スイッチもあります)ギヤポジションはわからなくなってしまうのでした。


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 シフトレバー


 また停止時にクラッチを切ってギヤを入れ、ブレーキを離すと、アイドル回転数が1000RPM近くまで自動的に上がり、発車時のエンストの可能性を低くしています。
 シフトは6速で、ニュートラルではレバーは3-4の列にあります。Rは左上で、レバーを左に押して1-2の列にし、さらにノブを押し込んで左上に動かします。
 狭いところの切り返しなどで1速とRをちょこちょこ入れ替えていると、たまに入れ間違えることがあります(笑)。


■ ギヤが渋かった問題

 NDの6速MTはこの車種専用のものです。ショートストローク、直結6速(オーバードライブなしでファイナルのギヤ比が低め)といった特徴があります。昔乗っていた車のトラックのようなMTと比べると、シンクロの能力は格段に高くなっており、シフトダウンも軽く入ります。とは言っても、納車直後は1速、2速、Rの入りが悪く、多少難儀しました。
 1速と2速はトリプルコーンのカーボンシンクロとかいう、容量の大きなシンクロらしいのですが、実際には恐ろしく渋く、ギヤが入れにくかったのです。1速は停止時には問題なくはいるのですが、走り初めて2速にいれるのがかなり固く、冷間時は速度が完全に合っていないと入れられませんでした。そのため、温まるまではダブルクラッチで回転を合わせ、温まった後もシフトダウン時はダブルクラッチが必須でした。1速に至っては、走行中に入れるのはほぼ諦めていました。


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 MTのクラッチ周辺部品

 その後、距離を走ってアタリが付いたのか、軽く入るようになりました。3000kmほど走った時点で2速はシフトダウンも含めて特に問題なし、1速もまぁ実用上問題なしといったところです。1速のシンクロはもともとほとんど使われていないので、今後、さらに改善していくことでしょう。もう少し距離が進み、1速のアタリがついたら、一度ミッションオイルを交換するつもりです。
 1速とRは、停止時にときどき、歯の山が当たった状態でまったく入らないことがあります。これはシンクロの問題ではないので、クラッチを踏み直すしかありません。


■ ペダル

 NDのペダル配置は、一般的な国産車より全体的に右寄りなようです。というか、今どきの国産車、とくに軽やコンパクトカーの多くが、車内を広く取るために前輪のホイールハウスが運転席と助手席の足元に食い込みがちになり、そのため右側運転席の外側に位置するアクセルを左側にオフセットせざるを得ないという面があると思います。
 NDではホイールハウスはかなり前なので食い込みはありません。逆にエンジンをミッドシップとするために、エンジンとミッションが車内に食い込んでおり、運転席の足元は左側の余裕がありません。クラッチペダルの左にフットレストを置くという構造上、クラッチペダルがかなり右にオフセットしている感じです。写真を見るとわかりますが、中央に位置するステアリングシャフトに対し、そのわずか左にクラッチペダルがあります。さらに見ると、クラッチペダルのレバーは、ステアリングシャフトの右側にあり、ペダル部分だけがかろうじてシャフトの左に位置しているという形です。


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 ペダル配置


 普通のMT車だと、ステアリングシャフトの左側にクラッチのレバーやマスターシリンダーが置かれ、クラッチとブレーキはほぼ対称位置になりますが、NDではこのように右にオフセット気味になります。最初はちょっと慣れず、足をフットレストに引っ掛けたりしました。
 ブレーキはバキュームブースター付きの油圧、クラッチはブースターなしの油圧で作動します。アクセルは完全な電子式で、ECUと電気的に繋がっているだけで、スロットルバルブなどを動かすための機械的な仕組みはありません。アクセルペダルの操作量は磁気的なセンサーを使っているようで、摺動接点などはありません。アクセルの接触不良はちょっと怖いものがあるので、この点は好ましいと言えるでしょう。


posted by masa at 15:41| 自動車

2019年06月12日

MT車に乗りたいので。。

■ MT車を運転したい

 あと何年車の運転ができるんだろうと考えたときに、やっぱりMTを運転したいと思ったのです。昔持っていたJeepはなにかと大変でしたが、楽しい車でした。その後のY60サファリもMTでした。Jeepが鉄として朽ち果て、Y60がディーゼル規制で乗れなくなり、後継のY61サファリ(中期)に乗り換えたのですが、国内販売は残念ながらATしかなく、悲しい思いをしたのです。久しく欲しい車がなく、次に車を買うなら4WDの軽トラかなぁなどと思っていたのですが。。。。
 今買える楽しいMT車というと、ひとつ思い浮かぶのは新しいJimnyですが、今使っているサファリとの使い分けが難しいこと、人気に生産が追いつかず、納車がいつになるかわからない状態なので、候補から落ちました。
 というわけで、2018年12月にNDロードスターを購入しました。MTとオープンの爽快感という、かつてのJeepに合い通じる要素が選択の理由です。


■ 購入したモデル

 現行のND5RCマツダロードスター(以後NDと略)は2015年に発表された4代目ロードスターです。発表当初はそんなに気にもしていなかったのですが、いつの間にか気になる車になっていました。
 購入したのは、2018年夏のマイチェンモデルです。この時のマイチェンでは、ハードトップモデルのRFのエンジンの大改良が中心でしたが、他にも安全装備の充実などが行われました。


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  大きなディーラーには納車専用ブースがあるんですね


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  まずはオープンに


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  運転席と助手席しかない。


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  走行距離はごくわずか。ただし燃費は極悪(笑)


 グレードの詳細はマツダのサイトでわかりますが、基本的には次のようになります。

・S
 ベーシックグレード。最軽量。MTのみ、ボディ補強パーツ、リアスタビ、マツコネ省略。

・S Special Package
 ほぼ標準グレード。MT/AT、基本的なボディ補強パーツ。 

・S Leather Package
 豪華な内装、MT/AT、高級オーディオ、安全装備がより充実。

・RS
 全部入り。さらに足回り強化、レカロシート。

・NR-A
 競技用ベースモデル(公道走行可)。ボディ補強、足回り強化。マツコネ省略。


 自分が買ったのは幌モデルのS Special Package(以後SSP)という、標準的なグレードです。とりあえずマツダコネクト(オーディオ、ナビ、情報の統合システム)は落とせない、革シートにこだわりはない、固めるつもりもないとなると、この選択になります。これにさらにセーフティパッケージとシートヒーター/CD/DVD/ワンセグTVを加えました。TV系は不要だったのですが、シートヒーターとセットオプションだったので。。。
 セーフティパッケージは、安全装備がより充実するもので、ハイビームの自動制御がより高度化され、標識を自動認識したり、クルーズコントロールが付いたり、液晶メーターがカラーになったり。
 加えてディーラーオプションでETCとバックカメラを追加しました。


■ もし人に勧めるなら

 自分はSSPグレードを買ったのですが、もし人に勧めるなら断然NR-Aですね。ボディ補強、強化ブレーキ/サスが組込済で、贅沢装備がないので、お手頃価格になっています。ナビをスマホで済ますのであれば、これが一番合理的な選択肢でしょう。


■ サービスマニュアルの入手は基本

 車を入手したら、整備書も入手することにしています。過去に乗っていたJ50系Jeep、Y60サファリ、そして現役のY61サファリとも、整備書を入手しました。
 もちろん、NDも例外ではありません。マツダの場合、サイト内に整備書の提供に触れているページがあり、一般ユーザーでも希望すれば有償で入手できます。購入したディーラーで聞いたところ、オーナーには販売するということでした。

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  マイチェンごとに新版がでます。写真は手違いで届いたNDの第2版。その後第3版に交換。

 かつての整備書は紙に印刷された書籍の形ですが、現在はPC上でブラウザで閲覧する形で、CD-ROMで提供されます。たぶん、ディーラーや整備工場は、マツダのサイトでオンラインで閲覧できるんでしょうね。マツダの場合、これらはMESI(Mazda Electronic Service Information)と呼ばれています。
 入手したCD-ROMには、以下の資料が含まれています。

・新車解説書
 車両各部の構成や構造、特徴を解説したもの。

・車検・点検
 各種の点検項目。

・整備書
 車体、エンジン、AT、MTの整備方法

・ボディ修理
 ボディの修理方法、各部寸法。

・電気配線図
 電装品の回路、配線。

 いくつかのプラグインの都合か、これらはIEで閲覧します。一応プロテクトがかかっていて、基本的にはPCにCDをセットして起動することになっています。ファイル一式をPCにコピーして起動するとCDを入れろと言われますが、まぁこれは簡単に回避できるので、自分はノートPCにファイルをコピーして使っています。

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  データはIEで閲覧します


■ 車載工具

 NDに限らず、現在販売されている車にはほとんど工具が積まれていません。スペアタイヤもなく、代わりにパンク修理キットが含まれています。今回、標準で付属していたのは以下のものです。

・パンク修理キット
 エアコンプレッサー、パンク修理剤、バルブコアなど。

・ねじ込み式の牽引フック
 前用と後用。

・ホイールナットレンチ
 一応ホイールナットを回せますが、スペアタイヤはありません。主な用途は牽引フックのアイ部に差し込み、締めたり緩めたりすることです。

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  前後のフックとそれを回すためのL時レンチ


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  パンク修理キットは修理用の薬剤とエアコンプレッサーのセット


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  コンプレッサーのホースは裏側にうまくはめ込まれてます


 これだけではあんまりなので、以下の工具を常時積載しています。

・ドライバー
 プラスとマイナス。

・コンビレンチ
 車載工具といえばショートスパナですが、まともにボルト/ナットを回そうと思ったらソケットかメガネです。ソケットは費用がかかるので、10/12/14/17のコンビを車載しています。

・プライヤー
 車載工具のお約束。

・エアゲージ
 パンク修理キットのコンプレッサーに圧力計が付いているのですが、ちょっと測るのにこれを引っ張り出すのは面倒なので、小型のものを別途用意しました。

・パンク修理キット
 純正品は液体の修理剤をバルブから流し込むタイプですが、これを使うとタイヤの再利用が困難ということなので、ゴムヒモをねじ込むタイプを積んでいます。まぁ、これでうまく直るかどうかは、やってみないとわかりませんが。

・ジャッキ
 標準でジャッキは搭載していませんが、車両側にはジャッキを収納するスペースが用意されています。ディーラーオプションでジャッキ類があるのですが、かなり割高なので単品で購入しました。ジャッキを収納場所に固定するには、専用のネジが必要です。

・車止
 適当な(年代物の)車止を2個。

・ブースターケーブル
 これもお約束。

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  ふたつめの工具袋はY61サファリのもの


 そういえばもうひとつのお約束のプラグレンチがないですね。長寿命タイプのプラグであることと、DOHCヘッドでプラグはかなり深いところにあるので、脱着にはちゃんとしたプラグ用ソケットとエクステンションが必要なので、車載はしていません。


■ パンタジャッキを用意

 トランクの右側にフタを外せる部分があり、この中がパンタジャッキ収納スペースになっています。内部の台座にジャッキを置き、上側を専用の手回しネジで固定することで、ジャッキをしっかりと固定することができます。ジャッキはKTCの600kgパンタグラフジャッキがちょうど収まります。ネジは純正部品(B001-56-170C)を取り寄せることができます。
 一般的な車載ネジ式ジャッキは、フック軸にL字ホイールナットレンチを組み合わせてハンドルとするものが多いですが、単品で購入したジャッキは鉄の棒を曲げたハンドルが含まれています。これは工具袋には収まらないので、トランクの一番下に置いておきます。

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  ハンドルを赤く塗ったのは、道端などでの視認性向上のため


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  トランクの側面部分にきっちりと収納


■ とりあえずドライブレコーダーを取り付け

 何かとアレなご時世なので、とりあえずドライブレコーダーを取り付けます。
 NDは車高が低く、さらにウィンドウの縦幅が比較的小さく、また自分がシートを起こしめにした姿勢が好きなので、今までの車より上方視界がちょっと悪くなります。なので少しでも視界をかせぐべく、小型のものをミラーの影になるあたりに取り付けます。
 新しい車用にTranscendの物を新規に購入したのですが、これが思いのほか大きく、結局Y61に使っていたちょっと古いユピテルのものを移植することにしました。

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  ほぼミラーの影になるので、視界にはほとんど影響しません


 最初はシガーソケットの電源アダプタを使って仮設配線で使っていたのですが、ちょっとあれなので、電源直結タイプのアダプタを調達し、内装を外して配線を収めました。
 内装の取り外しは当然整備書で調べられますが、この辺のサイトにも詳しい解説があります。

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  仮配線


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  内装を外してちゃんと配線


 ついでに車載のものより容量大きめのUSB電源アダプタも接続しようと思ったのですが、ちょっと問題が起こりました。USB電源アダプタを接続すると、ワンセグTVが受信できなくなるという問題です。今回、電源は車内のヒューズボックスの未使用部分からヒューズタイプの引出線を使って取り出したのですが、アダプタ類を設置した直ぐそばにTVチューナーがあり、どうも電源アダプタのレギュレーターのノイズが影響するようです。TVアンテナはウィンドウスクリーン上のプリントアンテナで、アンテナのすぐそばにプリアンプがあるようで、この信号系まわりか、あるいは電源経由でノイズが回り込むのでしょう。

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  短いオレンジ色がプリントアンテナ


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  ダッシュパネル内のワンセグチューナー


 TVを見ることはまずないのですが、恒久的に見えないというのもなんなので、とりあえずUSB電源アダプタの接続は見送りました。ドラレコ用のアダプタも多少の影響はあるようですが、見えなくなるほどではないのでよしとします。必要な時はシガーソケットに差し込むタイプのものを使います。

posted by masa at 14:56| 自動車

2019年04月06日

KORG TRITON Studioを修理する

■ KORG TRITON Studio

 TRITONというのは、2000年前後にKORGから販売されていたシンセサイザーのシリーズです。「けいおん!」でムギちゃんが使っていたのは、これの末期のモデルです。家にあるのはTRITON Studioの88鍵モデルで、2002年頃に購入したものです。シリアル番号が45なので、思いっきり初期モデルですね。
 TRITON StudioはMIDIによる外部インターフェイスに加えて、以下の機能、デバイスを備えており、これ1台でオーディオCDの作成までできるミュージックワークステーションという位置づけです。

 ・オーディオのデジタル/アナログ出力
 ・オーディオのデジタル/アナログ入力
 ・マイク入力(アンバランス、非給電)
 ・外部入力、サウンド出力、CDのサンプリング機能
 ・シーケンス作成/演奏/オーディオファイル出力
 ・拡張音源ROM(オプション)
 ・物理モデリング音源基板(オプション)
 ・5GBハードディスク
 ・フロッピーディスク
 ・CD-Rドライブ(オプション)
 ・SCSI
 ・mLAN(オプション)

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TRITON Studio PRO


 インターフェイスは数十個のスイッチとタッチ式液晶パネルです。またPCにソフトを入れることで、MIDI経由で演奏以外の外部制御もある程度できたような記憶があります。
 まぁ音楽制作をしない自分にとっては、単なる大げさなシンセなのですが。

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操作部分

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ドライブ


■ スイッチの不調

 このシンセ、パネルに50個あまりのスイッチがあるのですが、これに使われているALPSのスイッチの出来が悪く、使い始めて割とすぐに接触不良が発生しました。ネットで見ると同じような事例が多いので、たぶんスイッチの問題なのでしょう。10年以上使った時点で、半数程度のスイッチに問題があり、機能させるために何度も押す、強く押すと状態でした。
 購入から約15年くらいしたころ、このスイッチが普通に秋葉原の千石で入手できることを修理動画で知り、スイッチを買うだけ買ってきました。それから1年くらい、ふと思い立って修理を始めたのでした。

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新旧のスイッチ


■ 分解

 かつて、キーの隙間からの異物混入の際に分解したことがあるのですが(発掘されたのはギターのピックでした)、このキーボード、分解の方法がわかりにくいのです。以前の分解はだいぶ前のことなので、もはや手順は完全に忘れています。
 76鍵以下のモデルについてはネットでいくらでも情報があるのですが、88鍵モデルについては見つかりません。88鍵モデルはピアノタッチキーボードなので、取り付け方も含め、構造がまったく違うのです。しかも全体が重たいため、ネジを外して持ち上げても、きちんと外れているのかまだどこか引っかかっているのかもよくわかりません。
 76鍵以下のモデルは、鍵盤も上モノ側に取り付けられており、底板を外すのは簡単なのですが、88鍵モデルは鍵盤が下側に取り付けられているため、手順がかなり異なるのです。
 結果として、めぼしいネジをすべて外し、外れる部品から取り外していくというやり方になってしまいました。このようにして、まずキーボードとドライブ類が取り付けられた底板、基板類が取り付けられた上モノと分離しました。この過程で、電源付近にコロコロとさまよっている1円玉を発見したのですが、回収に失敗し、奥に落ちてしまいました。これを回収するために、底板からキーボードユニットまで外すはめに。。。

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上下の分離、キーボードの取り外し


 上モノ側には、スティック、スイッチ基板、液晶パネル、メイン基板、電源が取り付けられています。スイッチは一番表側、つまり裏から見ると奥側になるので、いろいろ外していきます。すべてコネクタ接続なので、記録しながら外します。それでもいくつか、記録し忘れて、えいやっで戻したものあるのですが。。
 リアパネルに取り付けられたジャック類もすべて外し、一部のものはさらにコネクタも分離します。もうぐしゃぐしゃです。上下を分離する際には、キーボード、ドライブ類、ヘッドフォンジャックなどのコネクタも抜き、ケーブルクリップから外しておかないと泣きを見ます。HDDの基板側コネクタが結構トリッキーな押さえ方だったので、注意します。抜け止なのか、コネクタを押さえるようにはめられているスポンジ材を抜かないとコネクタを抜き取れません。キーボードは、2組のコネクタに加えて、全然別の部分から別のフレキシブル基板配線が出ているので忘れないように。自分は忘れてました(笑)。
 全部バラした結果、最終的にはどう分解すべきであったかがわかりました。詳細は最後に。。。もっともスイッチ基板を取り出すためには、結局全部ばらさないとだめなんで、結果は一緒ですが。


■ スイッチの交換

 中央に液晶パネルがあり、その左右にスイッチが多数並んでいます。左右は基板が別れているので、それぞれを取り外し、ハンダ付けされているスイッチを交換します。
 ディスプレイが中央にあり、その右側にはテンキーやバンクセレクト、サンプラーなどの操作スイッチがあります。これらは1枚の基板になっているので、まずこれを外します。この基板の裏には電源ユニットがあるので、それを取り外し、あとはコネクタを抜けば、比較的簡単に基板を取り外せます。

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右側スイッチ基板と電源

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右側スイッチ基板


 この基板は片面基板なので、ハンダ吸取器や吸取線を使えば、簡単にスイッチを外せます。後は新しいスイッチをハンダ付けするだけです。この時、スイッチの底部がきちんと基板に接していることが大事です。浮いていると裏側の配線パターンに力がかかり、断線することになります。
 ディスプレイの左側にはモード設定などのスイッチがあります。このスイッチを取り付けている基板は、メイン基板の裏(正しい向きで見ると上側)にあるので、まずメイン基板を外さなければいけません。コネクタが多いので、後でわかるように記録しておきます。よく見るとコネクタ部分に電線の色の情報が書かれているので、ピン数、線の長さとの組み合わせで、割と簡単に戻すことができます。

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メイン基板


 メイン基板と取り付け金具を外すとスイッチ基板が現れます。ディスプレイ部と共締めされているのでその部分のネジを外す必要があります。ディスプレイそのものを外す必要はありません。

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姿を表した左側スイッチ基板

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左側スイッチ基板


 このスイッチ基板は、単なるスイッチ取り付け用だけでなく、ほかのモジュールとのインターフェイスを担っているようで、たくさんのコネクタが備えられています。接続関係をちゃんと記録しておきましょう。
 このスイッチ基板は両面スルーホールなので、ハンダ除去はちょっと面倒です。パターンを破損するとうまく動かなかくなってしまいます。実は1ヶ所ランドを破損し、断線させてしまいました。この部分はジャンパー線を飛ばしてごまかしました。

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交換したスイッチ


■ ハードディスクの交換

 ここ最近、スイッチを入れてもシステムが素直に起動せず、忘れた頃に立ち上がるという状態になっていました。どうもドライブの認識のタイムアウト待ちのようです。もちろん、HDDは認識されていません。このキーボードはシステムはすべてROMにあり、HDDはデータ専用なのです。
 フロント側にCD-RWドライブとFDDがあり、奥側にHDDが取り付けられています。アナログ系にノイズが乗らないように、フラットケーブルはシールドされています。

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ドライブまわり


 とりあえず古い内蔵HDD(2.5インチ、ATA、5GB、2000年製造の骨董品)を取り外し、USBアダプタを使ってPCに取り付けたところ、認識できて、ファイルをすべて拾うことができました。分解時のドッタンバッタンでヘッドの張り付きが解消したのかも。
 手元にあった2005年製の40GBのドライブをFAT32でフォーマットし、ファイルを転送してシンセに戻しました。最初は認識しませんでしたが、抜き差しや再起動を繰り返していたら認識してくれました。もしかすると単なる接触不良だったのかも。まぁ、古い方はベアリングの異音も出ていたので、寿命は寿命です。


■ 正しい分解手順

 必要な修理を終え、基板や構造部品を組み立てる過程で、この機材の適切な分解方法がやっとわかりました。底板にあるいくつかのネジを外せばよかったのでした。
 底板には何種類化のネジがあり、オプションの音源基板を取り付けるためのアクセスパネルのネジ、鍵盤ユニットを固定している太いネジ、鍵盤前縁部品を止めているネジ、その他の固定ネジがあります。これらのネジのうち、サイドパネル、リアパネルに固定するものと、中央部にあるいくつかの小さいネジを外せば、上下を分離することができます。この状態で、底板には鍵盤、鍵盤前縁カバー、ドライブ類が残り、操作パネル、サイドパネルとリアパネルが一体化したものを分離できます。内部では配線がつながっていますが、リアパネルを支点にして前側を持ち上げるような形でゆっくり起こせば、コネクタやクリップを外すだけの十分な空間を確保できます。具体的には以下のコネクタを外します。

 ・鍵盤部の引き出し基板に接続する2組のコネクタ
 ・鍵盤部右橋から伸び、メイン基板に行くコネクタ
 ・FDDコネクタ(フレキシブル基板タイプ)
 ・HDD、CDドライブ用のIDEコネクタ(メイン基板側のスポンジ状のクッションを外す)
 ・CDドライブ用のオーディオコネクタ2本
 ・ヘッドフォンコネクタ1本(基板側で外す)

 これらを外すと上下を完全に分離することができます。

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ただしい分解


 コネクタを外さず、うまく上側を支えておけば、この状態で通電して動かすことができます。本格的な機器故障の場合は、この状態でトラブルシューティングすることになるでしょう。

posted by masa at 09:20| 楽器

2019年04月05日

Y61サファリのエアコンの調子が悪い

■ グゴンッという異音

 しばらく前(2017年秋?)、エアコンの効きがいまいちということで、定期点検の際にディーラーでガスチャージしてもらいました。その後しばらくしたら、エンジン始動時にコンプレッサーから異音が出るようになりました。グゴンとかギギッという感じで、どうもエアコンがロック、あるいは異常に回転が重い状態になっている感じです。ただこの状態は1秒もかからずに解消するようで、以後は普通に動作します。また一度うまく動いてしまうと、エンジン再始動の際には異音は出ません。2日程度間をあけるとだめなようです。
 これと関係があるのかないのか、車内のエアコンコントローラーのACボタンのLEDも点灯したり点灯しなかったり。さて、どにかなるのでしょうか?


■ コンプレッサー本体のトラブルでないことを祈る

 そもそも最初は、コンプレッサーかどうかもわからなかったのでした。のんびりといろいろためしたあげく(なんせ中1日あけないと実験ができない)、AC Offで始動すると異音は出ず、その後、Ac Onで異音がすることから絞り込んだのでした。でもAC Offでエンジンを回し、暖気できた頃にOnにすると異音がしないという。。。
 きっとコンプレッサーだよなぁ、内部の摩耗とか傷だろうなぁなどと思いつつ、もっと安い部品ならいいなぁということで、ACベルトのテンション調整用のアイドラプーリーを調べることにしました。


■ アイドラプーリーを取り外す

 コンプレッサーはエンジン左側(前から見ると右)のかなり下のほうに取り付けられており、アイドラプーリーはそのベルトの上側にあります。上からアクセスしようと思っても、ファンやPSベルト/ポンプなどがあるため、うまく手が届きません。
 この写真のピントが合っていない部分がPSベルトとプーリー、奥側のプーリーがコンプレッサーの物、そのベルトの向きを変えているのが(見えないけど)アイドラプーリーです。

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上からはほとんど見えない

 上からは手が届かないので、タイヤハウス側から作業します。タイヤハウス内のゴムのカバーをはずすと、ちょうどコンプレッサーまわりに手がはいるようになります。

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ゴムカバーをはずす

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コンプレッサーとアイドラプーリー


 プーリーは前側から締める固定ナットと上側から回すテンション調整ボルトがあり、上側をゆるめ、固定ナットを取り外します。

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取り外し


 プーリーと共締めされている自転車のベルのような部品はダストカバーです。ベアリングはラバーシールタイプで、水やホコリなどが内部にはいらないようになっていますが、このカバーにより、飛沫などが直接ベアリングのシール部に当たらないようになっています。

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プーリーとダストカバー

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プーリー


■ ベアリングの交換

 ベアリングを回してみると、ロックはしていないものの、多少ゴリゴリ感があり、寿命は近そうです。アセンブリで取り寄せるといい値段なので、ベアリングだけ汎用品と交換します。交換したのは6301DDUというタイプで、内径12mm、外径37mm、両側接触ゴムシールというタイプです。

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プーリーと新しいベアリング

 ベアリングはプーリーに圧入されているので、パイロットベアリングプーラーで抜き取ります。プーリーの形状から、うまくプーラーの脚を支えられないので、Vブロックをかまし、プーリーが変形しないように抜きます。

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ベアリングの抜き取り

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Vブロックをかます

 新しいベアリングを圧入します。これは古いベアリングを当金として使い、万力で挟んで行いました。万力による圧入は、ちゃんとアゴの平行が出ているものでないと、うまくいかないことがあります。写真の万力はJISマーク入りの高級品なので、問題はありません。

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ベアリングの圧入

 あとは、このベアリングを元通りの位置に取り付け、ベルトの張り調整をして固定します。


■ コントローラーのイルミネーションランプ交換

 コントローラーはAC LEDの不点灯とは別に、イルミネーションも半分くらい切れており、夜間の操作に支障があったので、これも直します。

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取り外したコントローラ

 この時代(2003年製造)だと、インジケータ類はLEDですが、この手の照明はまだ電球です。これらのランプは、コントローラーを分解しなくても、外部から脱着できる構造になっています。バヨネットタイプなので、ちょっとひねってはずし、差し込んで逆向きにひねればOKです。

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表側は2ヶ所(+部がランプの底部分)

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裏側は4ヶ所

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外したランプ(長さが2種類ある)

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新しいランプ

 球切れは半分程度ですが、またやるのも手間なので、すべて新品に交換しました。


■ LED不点灯問題

 ACスイッチを押してもLEDが点灯しないという問題、コンプレッサーの不具合により点灯しないのかと思っていたのですが、実は原因は単純で、基板間コネクタの接触不良でした。実はACだけでなく、DEFモード、外気導入などのLEDも点灯しなかったのです。
 このコントローラー、メインのロジック基板とフロントパネルのスイッチ、LED基板に分かれています。

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内部の基板類

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2枚の基板の組み合わせ

 スイッチ類の配線は、ちゃんとしたコネクタで接続されているのですが、LEDについては、割と安直なピンヘッダで接続されています。

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LED接続部

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LEDコネクタ

 このLEDコネクタをアルコールできれいに洗浄して組み立てたら、すべてのLEDがちゃんと点灯するようになりました。要するに、経年劣化による接触不良ということでした。


■ さて、結末は

 コントローラの問題はとりあえず解決したものの、問題はコンプレッサー異音です。結論からいうと、異音はプーリーではありませんでした。まぁベアリングの状態から予想はしてたけど。
 結局、間をあけた時の始動時の異音は変わらず。始動時はACを切っておくという対処で乗り切っています。後日ディーラーで点検したときには、コンプレッサーの振動が多いということで、やはり寿命が近いものと思われます。。(涙)
 またLEDの不点灯ですが、冬場、ずっとACを使わなかったところ、春になったらまた不点灯になっていました。もう接点の表面処理がやられているんですかね。もう少しまじめな対処が必要なようです。

posted by masa at 08:25| 自動車整備

2019年03月07日

サファリのリアデフのブリーザーホースの修理

 Y61サファリのショックの交換でリアをジャッキアップした時、デフケースからアホ毛のようにホースが生えていました。デフケースの最上部に取り付けられたホースは、先端がどこにもつながっておらず、ぶらぶらしていました。先端を見ると、腐食して破断した金属パイプが見えます。とりあえずブラブラしているのはなんなので、リアデフのLSPV用のブラケットにインシュロックで仮止めしておきました。

仮止めしたホース
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■ ブリーザーホース

 このホースはリアデフケース用のブリーザーホースです。
 デフに限らず、車の各部のギヤボックスの軸の露出部分は、内部の潤滑油が外に漏れず、また外部から水が浸入しないように、オイルシールという部品で密閉しています。これはゴムのリップがリング状のスプリングで軸に当たるという構造になっています。一般的なオイルシールは大きな圧力差に耐えられるようにはできていません。ギヤボックス内と外部の間で圧力差があると、リップのゴムと軸の間に隙間があいて、内部の油が外に漏れたり、あるいは外部から水が浸入します。
 ギヤが回転すると温度が上がり、内部の気圧が高くなります。また冷えると気圧が下がります。このような圧力変化で漏れが起こらないように、ギヤボックス内の圧力を外部の気圧と同じに維持するための開口部があります。もちろん、ここから水が入っては意味がないので、水などがはいりにくいように工夫されています。この圧力調整用の開口部のことをブリーザー(Breather)といいます。Breathは呼吸という意味です。空気が出たり入ったりするからでしょうね。
 一般的な乗用車などでは、ギヤボックスの上部に短いパイプを取り付け、外部から水が入りにくいようにキャップが取り付けられています。このキャップは跳ねかかった水などの浸入は防ぎますが、空気は出入りできます。
 サファリのような車両は深い水たまりを走ることができますが、このような走行はギヤボックスに水がかかるだけではなく、水没してしまうので、簡単なキャップだけでは浸水することがあります。走行中のギヤボックスは温度が上がっていますが、水中にはいると温度が急激に下がり、内部の気圧が低下します。これによりブリーザーから空気を吸い込むのですが、深い水たまりなどでブリーザー部分まで水没していると、空気の代わりに水を吸い込んでしまいます。
 これを防ぐために、サファリのデフケースのブリーザーはホースで伸ばされています。フロントデフはエンジンルームの上部まで伸びており、通常の走行では水に浸りません。リアデフはフレームのクロスメンバーパイプ内に伸びています。このパイプはさほど高い位置ではありませんが、構造的に水が入りにくくなっているので、通常の水たまり走行では水を吸い込むことはありません。
 このメンバーのパイプにホースを差し込むための部品が錆びて破断してしまったため、ホースがぶらぶらしていた訳です。

リアデフのブリーザーホース
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■ デフケース側

 ブリーザーホースはデフケース内の空気の出入りのためのものなので、当然デフケース最上部にあります。ここにL字に曲がったパイプ部品をねじ込むようになっています。

パイプ部品
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■ フレーム側

 ホースのつながる先は、リアアクスルのちょっと後ろ、燃料タンクの前に位置するメンバーです。このメンバーは丸パイプをちょっと曲げた形状になっていて、その上側にデフケース側と同じ部品がねじ込まれています。この部品のパイプ部が腐食で破断していました。
 この部分はアクスルの影になって、足回り洗車でもほとんど水がかからない場所のようです。泥や凍結防止剤などがきれいに流れず、それが原因で腐食したのでしょう。

メンバー側の取付部
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アップで
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■ 部品の手配

 まずは部品の手配です。L字パイプがついたねじ込み部品とホースを固定するクリップを用意します。デフケース側の交換も考え、2セット用意しました(今回はメンバー側のみ交換しました)。

部品
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■ 古い部品の取り外し

 写真ではジャッキアップしてウマでフレームを支え、その後ホイールを外してアクスルを目一杯下に下げていますが、実際にはジャッキアップせず、そのまま下に潜って作業できました。

ジャッキアップ
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 さて、錆びて破断した部品です。素直には外れません。最初、ラチェットメガネで外そうとしたのですが、これが12角タイプで、ナット部の角を少しなめてしまいました。その後フレアナットレンチを使ったものの、やはりなめそうです。ラスペネでもだめ。
 結局、ショック交換時の固着ナットの取り外しに使った冷却浸透スプレーのお世話になりました。作業が寒い時期だったので、まずヒートガンで温め、スプレーをたっぷり吹き、さらにトンカチで軽く叩いて衝撃を与えるという作業を2回くりかえしました。フレアナットレンチでは角がなめてしまうので、より強く加えられるバイスグリップを使いました。
 これでどうにか緩みました(実際には秋に作業を始めて、何度か挫折し、冬に交換となりました)。

取り外した部品
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 この部品は写真をよく見るとわかりますが、テーパーネジになっています。部品には向きがあるので、向きを合わせるため、きつめに締められていたのかもしれません。

■ 新しい部品の取り付け

 フレーム側のネジに損傷はないので、新しい部品をねじ込みます。一応液体ガスケットを塗布しておきました。テーパーねじは締め込み終わりという位置はなく、どんどん締めることができますが、過大トルクで締めると緩まなくなってしまいます。これを適度なトルクでホースを取り付けられる角度にします。今回は最初に手で締めて、その後、ちょうどいい位置までフレアナットレンチで1回転弱締め込んでよしとしました。
 これにデフからのホースを差し込み、クリップで固定しておしまいです。

出来上がり
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タグ:Y61サファリ
posted by masa at 01:36| 自動車整備