■ モーター整備
モーターは正常に動作するし、運転時間も15年でせいぜい10分程度なので、ブラシの摩耗の心配はありません。しかし軸受はどうにかしたいところです。現在のWARNのウインチはモーターの軸受はボールベアリングですが、この時代のモーターは、ブラシ側がメタル軸受なのです。せっかくウインチを降ろしたので、モーターも分解してここに給油することにしました。そうしたら内部の腐食がひどく、ばらしてみて正解でした。
モーターは内部のサビを軽く落とし、サビ転換剤で処理します。接合面のサビはしっかり落とし、鉄の地肌を出しておきます。あとは整流子まわりを目の細かいサンドペーパーで軽く磨きます。
組み立ては、まずケースに回転子をはめ込みます。ブラシを適当なパイプなどで引っ込めておき、回転子をはめ込みます。この状態で、ドラム軸受にモーター軸を差し込み、ケースを載せます。最後にブラシホルダーにサーモスタットを組み込み、キャップをはめます。
回転子を挿入
ドラム軸受に取り付け
キャップを取り付け
ドラム軸受、モーター界磁、キャップは、2本の長いボルトで固定されます。この時、接合部にはガスケットが使われておらず、長年の放置で継ぎ目から水が染み込んでいました。特にドラム側がひどく、ドラム軸受側のダイカストの塗装ははがれ、モーター側にもサビがでていました。ブラシ側も接合部に水の侵入が見られ、もう少し放置しておいたら、モーターが回らなくなっていたかもしれません。かつて同じ形式のウインチを積んでいたJeepでは、しばらく使わなかったら、漏った水で軸受が固着し、動かなくなったことがありました。
そこで今回は防水を意識して組み立てることにしました。ドラム側には底部の水抜き穴以外に、側面に位置する水抜き穴(垂直面にマウントしたときに下部になる)と、モーターを90度回展させて取り付けるためのボルト穴(ドラムのツバの裏側が開口部としてあります。雨中の走行でこれらの穴から水が侵入したと思われるので、一番底になる水抜き穴以外を塞ぎます。そして組み立てに際しては液体ガスケットを塗布し、接合面から水が浸入しないようにします。不要な穴は、試運転が済んだ後、適当なシール剤で塞ぎます。
開口部の位置
ブラシ側は、キャップ側に段差があり、多少は水がはいりにくいようになってはいるものの、過去にJeepで水浸入で動かなくなったことがあるので、液体ガスケットを塗布して組み立てます。
軸部に潤滑油をつけ、ブラシ側のキャップを取り付ける前に、軸受メタルの奥にある不織布のパッドに、十分に潤滑油を染み込ませておきます。この種のメタルに適した油の種類や粘土はわかりません。あまりサラサラのものだとすぐに無くなってしまいそうなので、今回はエンジンオイルを使ってみました。まぁ数年は持つでしょう(さすがに15年たった状態では、ほぼ乾いていました)。またこの油がブラシ部分に回らないように、モーター軸にファイバー製のワッシャーがはいっています。組み立てるときはこれを忘れないようにします。
キャップ
キャップを取り付けるときには、サーモスタットを先に取り付けます。サーモスタットの接触面に熱伝導グリースを塗布し、ブラシ横のクリップにはめます。電線が短いのでちょっとやりにくいですが、困難というほどのものではありません。
最後に長いボルト2本でキャップとケースをドラム軸受部品に固定します。このボルトは、1本は界磁コイルの間を通り抜けるだけですが、もう1本はアース側でないほうのブラシ配線のすぐ横を通ります。配線はチューブで絶縁されていますが、差し込むときにこの配線を傷つけないように注意する必要があります。
電気機器を整備する場合、ショートしていないかをチェックするのですが、モーターのような機器では、これが簡単ではありません。巻数の少ないコイルは抵抗値が限りなく0Ωに近いため、ショートしていてもわからないのです。
このウインチ用のモーターの場合、界磁コイルは逆転のために極性を変えられるようになっているので、モーターケースからは絶縁されています。テスターでチェックする場合は、ターミナルF-1とF-2の間に導通があり(ほぼ0オーム)、ケースとの間には導通がないというのが正常な状態です。
回転子側は、片方がケースを介してアースに落ちているので、組み立てた状態ではケースとターミナルAの間は導通があります(ほぼ0オーム)。ブラシまわりのショートのチェックは、モーターを組み立てる前、電機子をはめていない状態で行います。この時はターミナルAとケースの間に導通があってはいけません。ターミナルAとブラシ2個の間は0オーム、残り2個のブラシとケースの間が0オームとなります。ただしブラシがスプリングで飛び出していると、ブラシどうしが接触している場合があるので、ブラシが離れていることを確認してチェックします。
回転子は、個々の整流子片の間に導通がありますが、軸などの金属部分とは導通があってはいけません。
モーターの測定では、テスターでは導通なしとなりますが、実際に絶縁抵抗を測ると抵抗値が得られます。手元にある絶縁抵抗計を使って測定したところ、界磁コイルとケースの間が約500kΩ、Aターミナルとケースの間も約500kΩでした(絶縁抵抗計はテスターよりも高圧をかけて抵抗を測定します)。動作電圧は12Vなので、実際問題としては数キロオーム以上あれば問題はありません。
絶縁抵抗の測定
コイルの抵抗はほぼ0オームなので、コイルがショートしていもテスターではわかりません。電流を流したら煙を吹いたといった状況で、初めてショートとわかります。しかし別の測定器を使うとショートを調べることができます。LCRメーターを使うと、コイルのインダクタンスを測定できます。健全なコイルのインダクタンスがわかっていれば、コイルのショートをある程度判定することができます。コイルがショートするとインダクタンスが低下するからです。我が家のモーターのインダクタンスは、界磁コイルが12.1μH、回転子(Aとケースの間)が9.9μHでした。ちなみに、ソレノイドのインダクタンスは3.2mHでした。
LCRメーター
■ 全体の組み立て
ここまでできたら、ギヤボックス、ドラム、モーターを組み合わせて2本のパイプで接続することができます。
分解のとき、金属棒のボルトを折ってしまったので、この金属棒は作り直しました。オリジナルはアルミ合金のようでしたが、S55Cミガキ鋼棒から作りました。直径16mm、長さは226.5mmで、両端にボルトで止めるためのネジを切ります。もともとインチネジが使われていましたが、作り直したほうは8mmのボルト(六角部12mm)です。
鋼棒を加工
製作した金属棒
ドラム軸受とパイプ
ドラムが回転することを確認
このパイプを使ってウインチ全体を組み合わせます。ギヤボックスに六角シャフトを差し込み、ドラムをギヤボックス側にはめます。モーター側は、モーター軸にカップリングを差し込み、これがドラム内のブレーキユニットにはまるようにしながらドラム軸受をはめ込みます。ドラムのブッシュの部分は、水の浸入を防ぐために、たっぷりとグリースを塗布しておきます。
ギヤボックス側
モーター側を接続
組み上がり
あとはリレーボックスの配線を接続し、バッテリーをつないで動作試験をします。
アース線を接続
リレーボックスを仮接続
リレーボックスには、コネクタ配線を接続します。
リレーボックスの電源は、車体側とつながる2Pコネクタで供給されます。Acc電源の12Vと、コネクタ接続時にこの12Vをメインソレノイドリレーに送り返すので2極なので、コネクタが接続されていれば、どちらに12Vを供給しても動作します。アース側はリレーボックスの金属部分です。この2箇所にミノムシケーブルで電圧をかけます。ミノムシケーブルの反対側はモーター用のブースターケーブルのクリップ部分につないでおきます。リレー回路は、ウインチのモーターに比べれば微々たるものですが、それでも7Aは流れるので、あまり細い電線は使えません。
モーター電源はブースターケーブルを使って、モーターのアース電線をバッテリーのマイナス端子につなぎます。プラス側は、ソレノイドのプラス電源が接続されていた銅板のバスバー(リレーボックスのAターミナルにつながっていない側)に接続します。これで、コントローラを接続し、スイッチを操作すればウインチが動作します。コネクタのケーブルとモーターのサーモスタットの接続部分は分解時に切断したので、ここはギボシ接続にしてあります。このギボシを接続していないと、サーモスタット作動中と同じように回路が切れてしまうので、巻取り側が回転しません。またこのとき、コントローラの警告LEDが点灯します。したがってギボシを外した状態でスイッチを巻き取り側にすれば、モーターが回転せず、LEDが点灯することを確認できます。
バッテリーに接続
クランプメーターで電流を測定
約100A
また、モーターオフの際に一瞬LEDが点灯することがあります。これはソレノイドの逆起電力によるものでしょう。
実際に使い古しの135D31バッテリー(CCA実測値は500)で動作させたところ、約100Aの電流が流れました。このときのバッテリー端子電圧は約10Vでした。これにはソレノイド駆動電流7Aも含まれています。現行製品とはモーターが変わっているので比較できませんが、現行品(80A)よりちょっと多いようです。
■ ウインチベッドとローラーフェアリードの組み立て
ウインチを降ろしたので、ベッドのほうもきれいにします。ベッドはサビを落として塗装しました。
製品版のM8000は、ウインチ本体と、ボルトで取り付けるローラーフェアリードかハウスフェアリードから構成されますが、サファリの純正ウインチの場合は、ベッドにローラーフェアリードが直接組み込まれています。
フレームからベッドを取り外し、ローラーを外します。ローラー軸は両端にスナップリングがはめられており、これを外すと軸が抜けるのですが、ここでも問題がありました。左右のローラー(垂直軸)の内部で軸が錆びて膨らみ、抜けにくくなっていました。実は何年か前に同じ部分を分解したことがあり、そのときもサビがひどく、叩いて抜いたのです(このとき、ブッシュのツバが壊れました)。そのときにグリースをたっぷり塗って組み立てたのですが、どうも縦軸は水がはいって錆びるようです。
分解したウインチベッド
ローラーは軸に対して滑らかにまわるように、パイプの両端に樹脂製のブッシュがはめられています。樹脂ブッシュは基本的に無潤滑でいいのですが、油分がないと軸のほうが錆びてしまいます。これを防ぐために、以前分解した時は防錆のためにグリースを塗布して組み立てました。結局それでもだめだったので、今回は強硬策に出ます。内部の空間が完全にグリースで満たされれば、錆びることはなくなります。そこで軸にグリース給脂のためのニップルを取り付けることにしました。
軸の中央付近に直角方向に貫通孔を開けます。そして軸の端部から中央部分まで穴をあけます。これで端部からローラー内部へのグリース流路ができます。端部はブリースニップルを取り付けられるようにネジを切ります。
ニップルを取り付けた縦軸
水平軸は普通にグリース塗布だけでサビは発生しなかったので、この加工は行いません。
■ 車両への取り付け
まず、ウインチベッドをフレーム前端に取り付けます。ウインチベッドの固定ボルトに取り付けられたステーは、鉄バンパーの取付部なので、このボルトは鉄バンパーを取り付けるまで、仮締めにしておきます。
ウインチを取り付ける前にコネクタハーネスを取り付けるのですが、これのコネクタがローラーフェアリードの水平軸のそばなので、先に水平ローラーを取り付けておきます。防錆のために軸にグリースを塗布し、スナップリングで固定します。ワッシャーが10個ほど使われていますが、厚さが3種類あり、どこにどれを使うのかを事前に確認しておきます(最初に分解した時に記録していなかったのです)。フェアリードはプレス部品なので、多少の製造誤差があるようで、ローラーがうまく回るように配置します。
ローラー部品
水平ローラーの取り付け
次にコネクタ用ハーネスを取り付けます。これはウインチの背後を回っているので、ウインチ取り付けより先にやっておいたほうが作業が楽になります。コネクタはフェアリードの向かって右に取り付けます。このとき、紛失防止用ワイヤーもいっしょに止めておきます。
コネクタの取り付け
試しにウインチを載せてみました。
ベッド上のウインチ
実際にウインチを取り付ける前に、リレーボックスとモーターを接続します。電線が長くないので、後から接続するのは面倒なのです。このとき、電線の取り回しの調整が必要です。リレーボックスを正規の位置に取り付けたときに、モーターに行く3本の電線に無理がかからず、なおかつ周辺の部品に当たったりしないように、ターミナルに取り付ける角度を調整します。
ウインチを取り付け(リレーボックスの取り付けを誤っている)
電線の配置がおおよそ決まったら、リレーボックスがつながった状態のウインチをベッド上に起き、板ナットとボルトで固定します。リレーボックスはウインチベッド前縁にボルトで固定します。部品の大きさや必要な強度に対し、妙に太いボルトで取り付けられています。この取付でアースが接触しなければならないので、取付後、アース回路の導通を確認しておきます。
実はここで失敗しました。整備書通りに、ベッドより前側にリレーボックスのステーを取り付けたのですが、この状態では鉄バンパーがリレーボックスに当たってしまい、取り付けられませんでした。リレーボックスステーをベッドの裏側になるように固定すれば、干渉しなくなります。普通なら、部品についている取り付け跡でわかるのですが、このあたりはすべて塗装してしまったのでわからなくなっていました。
コントローラーコネクタからのハーネス、バッテリー母線の太い電線、Acc電源/メインリレーのコネクタを元通りに接続すれば配線は完了です。ケーブルをうまくさばき、コルゲートチューブなどで適宜保護、固定します。リレーボックスにカバーを取り付ければ、ウインチ本体の装着は完了です。
リレーボックスの配線
カバーを取り付け
塗膜と共に剥がれてしまった各種のシールを貼り付けます。シール裏に残った古い塗装を軽く落とし、合成ゴム系の接着剤で貼り付けました。耐候性の薄手の両面テープがあればそれがよかったのですが、あいにく手元にありませんでした。まぁ、剥がれても実害のないものですし。
シールの貼付 9100
ローラーフェアリードの縦軸のローラーも取り付けます。グリースを塗布してスナップリングで軸を止めたあと、内部の隙間をなくすためにグリースガンでグリースを給脂します。
取り付け完了
あとはワイヤーを巻取り、フックを取り付けます。フックはピンを挿した後、割りピンで止めるだけです。最後まで巻取り、フック押さえを取り付ければウインチ回りの作業は終わりです。
ローラーの塗装は、予想したとおり、1回ワイヤーを通しただけでボロボロになりました(笑)。
ワイヤーを巻き取る
フックの取り付け
フック押さえ
あとはバンパーまわりを元通りに取り付けます。鉄バンパーを取り付けたら、忘れずにステーとベッドを共締めしていたボルトを本締めします。あとはプラスチックバンパーを取り付け、外した部品を元に戻しておしまいです。
バンパーの取り付け
出来上がり
■ ウインチのアクセス性の向上を考える
この純正ウインチ、ちょっと考えておきたいことがあります。純正ウインチは、きれいにバンパー内に収納されますが、そのおかげでウインチ本体にはほとんど触ることができません。ワイヤーのマスター巻の際などは、ドラムを見ながら、場合によっては手でワイヤーを整えながらやりたいところですが、これができません。
現状では、バンパー上部に小さなのぞき窓(一応、ドラムが見える)しかありません。
バンパーを加工すればいいのですが、どうしたものか考え中です。内側の鉄バンパーは2段になっていて、フェアリードの上部、そしてさらにその上とのバンパー上面に分かれています。この2段のうち、どちらかを切り取ってしまえば、多少はアクセスがよくなります。その上にプラスチックバンパーがかぶりますが、一部を切って取り外し可能にするか、蝶番で跳ね上がるようにするか。。。
溶接ができれば、幅のある部分を棒材や細いアングルに入れ替えるといった加工もありなのですが、残念ながら我が家には溶接設備がありません。
さて、どうしたものでしょう。
■ フェアリードについての小ネタ
ウインチのワイヤー繰り出し部のガイド部品のことをフェアリードといいます。fairleadはロープやワイヤーを繰り出す際にワイヤー類を傷めず、滑らかに動かすためのガイドで、もともとは船舶の係留ロープなどのための部品の名称のようです。
ウインチの場合は、ドラムに対して直角以外の方向に牽引する際に、ワイヤーに無理な力がかからないようにガイドする部品で、回転するローラーを上下左右に4本配置したローラーフェアリードが広く使われています。別の形式として、回転部分を持たない単純なガイドもあります。これは金属ワイヤーにも使われますが、最近はやりの非金属ワイヤーでは、こちらのタイプがよく使われているようです。
ところで、ローラー式でないフェアリードの名称ですが、一般にはハウスフェアリードと呼ばれています。
調べてみたらこのハウスの綴りはhawseで、辞書で引くとホォーズが近いようです。そして意味は、錨鎖孔となっていました。船の錨の鎖を通すための、船体の船首部の穴です。この部分は大荷重のかかる鎖を通すため、鋳鉄製の丈夫なガイド部品が使われています。確かに用途としては同じです。ところでこの錨鎖孔のことは、日本では一般にホースパイプと呼ばれています。
ハウス、ホース、ホォーズ、ホーズ、、英語を日本語にすると、発音や綴りやらがいろいろ組み合わされて、用語ごとに違う表記になることがよくあるのですが、これもそのパターンのようです。ちなみに、ホーズパイプはあるのかなと調べたらありました。どちらかというとホーズという表記のほうが正式なようで、役所などの文書ではホーズパイプが使われている事例があります。ただ数の上では圧倒的にホースパイプでした。
用語の表記の分布を調べる場合、Google検索の件数というのがありますが、おおよそ次のようになりました。
ハウスフェアリード 約150万件
ハウズフェアリード 約2万件
ホースフェアリード 約116万件
ホーズフェアリード 約16500件
ホースパイプ 船 212万件
ホーズパイプ 船 105件
元の発音に従えば、一番近いのは錨鎖孔にしろウインチにしろホーズということになりそうですが、実際には濁らないホースのほうが圧倒的に多いようです。正しさの度合いでは、ホーズ>ホース|ハウズ>ハウスでしょうか。一番近いのはたぶんホーズフェアリードなのでしょうが、この検索結果を見ると通用しない可能性が高そうです。
また、かつてはほとんど聞かなかったホースフェアリードがハウスフェアリードに近い数であることにけっこう驚きました。自分が4WDに興味を持ち始めた1980年代は、ローラーフェアリードのほうが高級品とみなされていました。そのためほとんどの輸入ウインチはローラーフェアリードが組み合わされていました。ハウスフェアリードはメーカーのラインナップにはあったものの、ほとんど国内では見ませんでした。
最近は非金属のシンセティックロープが広く使われるようになっていますが、こちらは樹脂やアルミ製のハウスフェアリードが使われているようで、それで非ローラーフェアリードが復権したのでしょう。この際、昔のハウスフェアリードを知らない人が、正しく?ホースという音を当てたのかもしれません。