2018年08月27日

ウインチを整備する その5

 前回までで、ギヤボックスとドラムができあがりました。今回はモーターを組み立て、ウインチを車に取り付けます。


■ モーター整備

 モーターは正常に動作するし、運転時間も15年でせいぜい10分程度なので、ブラシの摩耗の心配はありません。しかし軸受はどうにかしたいところです。現在のWARNのウインチはモーターの軸受はボールベアリングですが、この時代のモーターは、ブラシ側がメタル軸受なのです。せっかくウインチを降ろしたので、モーターも分解してここに給油することにしました。そうしたら内部の腐食がひどく、ばらしてみて正解でした。
 モーターは内部のサビを軽く落とし、サビ転換剤で処理します。接合面のサビはしっかり落とし、鉄の地肌を出しておきます。あとは整流子まわりを目の細かいサンドペーパーで軽く磨きます。
 組み立ては、まずケースに回転子をはめ込みます。ブラシを適当なパイプなどで引っ込めておき、回転子をはめ込みます。この状態で、ドラム軸受にモーター軸を差し込み、ケースを載せます。最後にブラシホルダーにサーモスタットを組み込み、キャップをはめます。

回転子を挿入
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ドラム軸受に取り付け
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キャップを取り付け
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 ドラム軸受、モーター界磁、キャップは、2本の長いボルトで固定されます。この時、接合部にはガスケットが使われておらず、長年の放置で継ぎ目から水が染み込んでいました。特にドラム側がひどく、ドラム軸受側のダイカストの塗装ははがれ、モーター側にもサビがでていました。ブラシ側も接合部に水の侵入が見られ、もう少し放置しておいたら、モーターが回らなくなっていたかもしれません。かつて同じ形式のウインチを積んでいたJeepでは、しばらく使わなかったら、漏った水で軸受が固着し、動かなくなったことがありました。
 そこで今回は防水を意識して組み立てることにしました。ドラム側には底部の水抜き穴以外に、側面に位置する水抜き穴(垂直面にマウントしたときに下部になる)と、モーターを90度回展させて取り付けるためのボルト穴(ドラムのツバの裏側が開口部としてあります。雨中の走行でこれらの穴から水が侵入したと思われるので、一番底になる水抜き穴以外を塞ぎます。そして組み立てに際しては液体ガスケットを塗布し、接合面から水が浸入しないようにします。不要な穴は、試運転が済んだ後、適当なシール剤で塞ぎます。

開口部の位置
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 ブラシ側は、キャップ側に段差があり、多少は水がはいりにくいようになってはいるものの、過去にJeepで水浸入で動かなくなったことがあるので、液体ガスケットを塗布して組み立てます。
 軸部に潤滑油をつけ、ブラシ側のキャップを取り付ける前に、軸受メタルの奥にある不織布のパッドに、十分に潤滑油を染み込ませておきます。この種のメタルに適した油の種類や粘土はわかりません。あまりサラサラのものだとすぐに無くなってしまいそうなので、今回はエンジンオイルを使ってみました。まぁ数年は持つでしょう(さすがに15年たった状態では、ほぼ乾いていました)。またこの油がブラシ部分に回らないように、モーター軸にファイバー製のワッシャーがはいっています。組み立てるときはこれを忘れないようにします。

キャップ
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 キャップを取り付けるときには、サーモスタットを先に取り付けます。サーモスタットの接触面に熱伝導グリースを塗布し、ブラシ横のクリップにはめます。電線が短いのでちょっとやりにくいですが、困難というほどのものではありません。
 最後に長いボルト2本でキャップとケースをドラム軸受部品に固定します。このボルトは、1本は界磁コイルの間を通り抜けるだけですが、もう1本はアース側でないほうのブラシ配線のすぐ横を通ります。配線はチューブで絶縁されていますが、差し込むときにこの配線を傷つけないように注意する必要があります。
 電気機器を整備する場合、ショートしていないかをチェックするのですが、モーターのような機器では、これが簡単ではありません。巻数の少ないコイルは抵抗値が限りなく0Ωに近いため、ショートしていてもわからないのです。
 このウインチ用のモーターの場合、界磁コイルは逆転のために極性を変えられるようになっているので、モーターケースからは絶縁されています。テスターでチェックする場合は、ターミナルF-1F-2の間に導通があり(ほぼ0オーム)、ケースとの間には導通がないというのが正常な状態です。
 回転子側は、片方がケースを介してアースに落ちているので、組み立てた状態ではケースとターミナルAの間は導通があります(ほぼ0オーム)。ブラシまわりのショートのチェックは、モーターを組み立てる前、電機子をはめていない状態で行います。この時はターミナルAとケースの間に導通があってはいけません。ターミナルAとブラシ2個の間は0オーム、残り2個のブラシとケースの間が0オームとなります。ただしブラシがスプリングで飛び出していると、ブラシどうしが接触している場合があるので、ブラシが離れていることを確認してチェックします。
 回転子は、個々の整流子片の間に導通がありますが、軸などの金属部分とは導通があってはいけません。
 モーターの測定では、テスターでは導通なしとなりますが、実際に絶縁抵抗を測ると抵抗値が得られます。手元にある絶縁抵抗計を使って測定したところ、界磁コイルとケースの間が約500kΩ、Aターミナルとケースの間も約500kΩでした(絶縁抵抗計はテスターよりも高圧をかけて抵抗を測定します)。動作電圧は12Vなので、実際問題としては数キロオーム以上あれば問題はありません。

絶縁抵抗の測定
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 コイルの抵抗はほぼ0オームなので、コイルがショートしていもテスターではわかりません。電流を流したら煙を吹いたといった状況で、初めてショートとわかります。しかし別の測定器を使うとショートを調べることができます。LCRメーターを使うと、コイルのインダクタンスを測定できます。健全なコイルのインダクタンスがわかっていれば、コイルのショートをある程度判定することができます。コイルがショートするとインダクタンスが低下するからです。我が家のモーターのインダクタンスは、界磁コイルが12.1μH、回転子(Aとケースの間)が9.9μHでした。ちなみに、ソレノイドのインダクタンスは3.2mHでした。

LCRメーター
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■ 全体の組み立て

 ここまでできたら、ギヤボックス、ドラム、モーターを組み合わせて2本のパイプで接続することができます。
 分解のとき、金属棒のボルトを折ってしまったので、この金属棒は作り直しました。オリジナルはアルミ合金のようでしたが、S55Cミガキ鋼棒から作りました。直径16mm、長さは226.5mmで、両端にボルトで止めるためのネジを切ります。もともとインチネジが使われていましたが、作り直したほうは8mmのボルト(六角部12mm)です。

鋼棒を加工
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製作した金属棒
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ドラム軸受とパイプ
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ドラムが回転することを確認
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 このパイプを使ってウインチ全体を組み合わせます。ギヤボックスに六角シャフトを差し込み、ドラムをギヤボックス側にはめます。モーター側は、モーター軸にカップリングを差し込み、これがドラム内のブレーキユニットにはまるようにしながらドラム軸受をはめ込みます。ドラムのブッシュの部分は、水の浸入を防ぐために、たっぷりとグリースを塗布しておきます。

ギヤボックス側
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モーター側を接続
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組み上がり
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 あとはリレーボックスの配線を接続し、バッテリーをつないで動作試験をします。

アース線を接続
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リレーボックスを仮接続
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 リレーボックスには、コネクタ配線を接続します。
 リレーボックスの電源は、車体側とつながる2Pコネクタで供給されます。Acc電源の12Vと、コネクタ接続時にこの12Vをメインソレノイドリレーに送り返すので2極なので、コネクタが接続されていれば、どちらに12Vを供給しても動作します。アース側はリレーボックスの金属部分です。この2箇所にミノムシケーブルで電圧をかけます。ミノムシケーブルの反対側はモーター用のブースターケーブルのクリップ部分につないでおきます。リレー回路は、ウインチのモーターに比べれば微々たるものですが、それでも7Aは流れるので、あまり細い電線は使えません。
 モーター電源はブースターケーブルを使って、モーターのアース電線をバッテリーのマイナス端子につなぎます。プラス側は、ソレノイドのプラス電源が接続されていた銅板のバスバー(リレーボックスのAターミナルにつながっていない側)に接続します。これで、コントローラを接続し、スイッチを操作すればウインチが動作します。コネクタのケーブルとモーターのサーモスタットの接続部分は分解時に切断したので、ここはギボシ接続にしてあります。このギボシを接続していないと、サーモスタット作動中と同じように回路が切れてしまうので、巻取り側が回転しません。またこのとき、コントローラの警告LEDが点灯します。したがってギボシを外した状態でスイッチを巻き取り側にすれば、モーターが回転せず、LEDが点灯することを確認できます。

バッテリーに接続
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クランプメーターで電流を測定
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約100A
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 また、モーターオフの際に一瞬LEDが点灯することがあります。これはソレノイドの逆起電力によるものでしょう。
 実際に使い古しの135D31バッテリー(CCA実測値は500)で動作させたところ、約100Aの電流が流れました。このときのバッテリー端子電圧は約10Vでした。これにはソレノイド駆動電流7Aも含まれています。現行製品とはモーターが変わっているので比較できませんが、現行品(80A)よりちょっと多いようです。


■ ウインチベッドとローラーフェアリードの組み立て

 ウインチを降ろしたので、ベッドのほうもきれいにします。ベッドはサビを落として塗装しました。
 製品版のM8000は、ウインチ本体と、ボルトで取り付けるローラーフェアリードかハウスフェアリードから構成されますが、サファリの純正ウインチの場合は、ベッドにローラーフェアリードが直接組み込まれています。
 フレームからベッドを取り外し、ローラーを外します。ローラー軸は両端にスナップリングがはめられており、これを外すと軸が抜けるのですが、ここでも問題がありました。左右のローラー(垂直軸)の内部で軸が錆びて膨らみ、抜けにくくなっていました。実は何年か前に同じ部分を分解したことがあり、そのときもサビがひどく、叩いて抜いたのです(このとき、ブッシュのツバが壊れました)。そのときにグリースをたっぷり塗って組み立てたのですが、どうも縦軸は水がはいって錆びるようです。

分解したウインチベッド
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 ローラーは軸に対して滑らかにまわるように、パイプの両端に樹脂製のブッシュがはめられています。樹脂ブッシュは基本的に無潤滑でいいのですが、油分がないと軸のほうが錆びてしまいます。これを防ぐために、以前分解した時は防錆のためにグリースを塗布して組み立てました。結局それでもだめだったので、今回は強硬策に出ます。内部の空間が完全にグリースで満たされれば、錆びることはなくなります。そこで軸にグリース給脂のためのニップルを取り付けることにしました。
 軸の中央付近に直角方向に貫通孔を開けます。そして軸の端部から中央部分まで穴をあけます。これで端部からローラー内部へのグリース流路ができます。端部はブリースニップルを取り付けられるようにネジを切ります。

ニップルを取り付けた縦軸
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 水平軸は普通にグリース塗布だけでサビは発生しなかったので、この加工は行いません。


■ 車両への取り付け

 まず、ウインチベッドをフレーム前端に取り付けます。ウインチベッドの固定ボルトに取り付けられたステーは、鉄バンパーの取付部なので、このボルトは鉄バンパーを取り付けるまで、仮締めにしておきます。
 ウインチを取り付ける前にコネクタハーネスを取り付けるのですが、これのコネクタがローラーフェアリードの水平軸のそばなので、先に水平ローラーを取り付けておきます。防錆のために軸にグリースを塗布し、スナップリングで固定します。ワッシャーが10個ほど使われていますが、厚さが3種類あり、どこにどれを使うのかを事前に確認しておきます(最初に分解した時に記録していなかったのです)。フェアリードはプレス部品なので、多少の製造誤差があるようで、ローラーがうまく回るように配置します。

ローラー部品
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水平ローラーの取り付け
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 次にコネクタ用ハーネスを取り付けます。これはウインチの背後を回っているので、ウインチ取り付けより先にやっておいたほうが作業が楽になります。コネクタはフェアリードの向かって右に取り付けます。このとき、紛失防止用ワイヤーもいっしょに止めておきます。

コネクタの取り付け
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 試しにウインチを載せてみました。

ベッド上のウインチ
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 実際にウインチを取り付ける前に、リレーボックスとモーターを接続します。電線が長くないので、後から接続するのは面倒なのです。このとき、電線の取り回しの調整が必要です。リレーボックスを正規の位置に取り付けたときに、モーターに行く3本の電線に無理がかからず、なおかつ周辺の部品に当たったりしないように、ターミナルに取り付ける角度を調整します。

ウインチを取り付け(リレーボックスの取り付けを誤っている)
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 電線の配置がおおよそ決まったら、リレーボックスがつながった状態のウインチをベッド上に起き、板ナットとボルトで固定します。リレーボックスはウインチベッド前縁にボルトで固定します。部品の大きさや必要な強度に対し、妙に太いボルトで取り付けられています。この取付でアースが接触しなければならないので、取付後、アース回路の導通を確認しておきます。
 実はここで失敗しました。整備書通りに、ベッドより前側にリレーボックスのステーを取り付けたのですが、この状態では鉄バンパーがリレーボックスに当たってしまい、取り付けられませんでした。リレーボックスステーをベッドの裏側になるように固定すれば、干渉しなくなります。普通なら、部品についている取り付け跡でわかるのですが、このあたりはすべて塗装してしまったのでわからなくなっていました。
 コントローラーコネクタからのハーネス、バッテリー母線の太い電線、Acc電源/メインリレーのコネクタを元通りに接続すれば配線は完了です。ケーブルをうまくさばき、コルゲートチューブなどで適宜保護、固定します。リレーボックスにカバーを取り付ければ、ウインチ本体の装着は完了です。

リレーボックスの配線
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カバーを取り付け
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 塗膜と共に剥がれてしまった各種のシールを貼り付けます。シール裏に残った古い塗装を軽く落とし、合成ゴム系の接着剤で貼り付けました。耐候性の薄手の両面テープがあればそれがよかったのですが、あいにく手元にありませんでした。まぁ、剥がれても実害のないものですし。

シールの貼付 9100
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 ローラーフェアリードの縦軸のローラーも取り付けます。グリースを塗布してスナップリングで軸を止めたあと、内部の隙間をなくすためにグリースガンでグリースを給脂します。

取り付け完了
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 あとはワイヤーを巻取り、フックを取り付けます。フックはピンを挿した後、割りピンで止めるだけです。最後まで巻取り、フック押さえを取り付ければウインチ回りの作業は終わりです。
 ローラーの塗装は、予想したとおり、1回ワイヤーを通しただけでボロボロになりました(笑)。

ワイヤーを巻き取る
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フックの取り付け
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フック押さえ
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 あとはバンパーまわりを元通りに取り付けます。鉄バンパーを取り付けたら、忘れずにステーとベッドを共締めしていたボルトを本締めします。あとはプラスチックバンパーを取り付け、外した部品を元に戻しておしまいです。

バンパーの取り付け
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出来上がり
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■ ウインチのアクセス性の向上を考える

 この純正ウインチ、ちょっと考えておきたいことがあります。純正ウインチは、きれいにバンパー内に収納されますが、そのおかげでウインチ本体にはほとんど触ることができません。ワイヤーのマスター巻の際などは、ドラムを見ながら、場合によっては手でワイヤーを整えながらやりたいところですが、これができません。
 現状では、バンパー上部に小さなのぞき窓(一応、ドラムが見える)しかありません。
 バンパーを加工すればいいのですが、どうしたものか考え中です。内側の鉄バンパーは2段になっていて、フェアリードの上部、そしてさらにその上とのバンパー上面に分かれています。この2段のうち、どちらかを切り取ってしまえば、多少はアクセスがよくなります。その上にプラスチックバンパーがかぶりますが、一部を切って取り外し可能にするか、蝶番で跳ね上がるようにするか。。。
 溶接ができれば、幅のある部分を棒材や細いアングルに入れ替えるといった加工もありなのですが、残念ながら我が家には溶接設備がありません。
 さて、どうしたものでしょう。


■ フェアリードについての小ネタ

 ウインチのワイヤー繰り出し部のガイド部品のことをフェアリードといいます。fairleadはロープやワイヤーを繰り出す際にワイヤー類を傷めず、滑らかに動かすためのガイドで、もともとは船舶の係留ロープなどのための部品の名称のようです。
 ウインチの場合は、ドラムに対して直角以外の方向に牽引する際に、ワイヤーに無理な力がかからないようにガイドする部品で、回転するローラーを上下左右に4本配置したローラーフェアリードが広く使われています。別の形式として、回転部分を持たない単純なガイドもあります。これは金属ワイヤーにも使われますが、最近はやりの非金属ワイヤーでは、こちらのタイプがよく使われているようです。
 ところで、ローラー式でないフェアリードの名称ですが、一般にはハウスフェアリードと呼ばれています。
 調べてみたらこのハウスの綴りはhawseで、辞書で引くとホォーズが近いようです。そして意味は、錨鎖孔となっていました。船の錨の鎖を通すための、船体の船首部の穴です。この部分は大荷重のかかる鎖を通すため、鋳鉄製の丈夫なガイド部品が使われています。確かに用途としては同じです。ところでこの錨鎖孔のことは、日本では一般にホースパイプと呼ばれています。
 ハウス、ホース、ホォーズ、ホーズ、、英語を日本語にすると、発音や綴りやらがいろいろ組み合わされて、用語ごとに違う表記になることがよくあるのですが、これもそのパターンのようです。ちなみに、ホーズパイプはあるのかなと調べたらありました。どちらかというとホーズという表記のほうが正式なようで、役所などの文書ではホーズパイプが使われている事例があります。ただ数の上では圧倒的にホースパイプでした。
 用語の表記の分布を調べる場合、Google検索の件数というのがありますが、おおよそ次のようになりました。

ハウスフェアリード 約150万件
ハウズフェアリード 約2万件
ホースフェアリード 約116万件
ホーズフェアリード 約16500件

ホースパイプ 船  212万件
ホーズパイプ 船  105件

 元の発音に従えば、一番近いのは錨鎖孔にしろウインチにしろホーズということになりそうですが、実際には濁らないホースのほうが圧倒的に多いようです。正しさの度合いでは、ホーズ>ホース|ハウズ>ハウスでしょうか。一番近いのはたぶんホーズフェアリードなのでしょうが、この検索結果を見ると通用しない可能性が高そうです。
 また、かつてはほとんど聞かなかったホースフェアリードがハウスフェアリードに近い数であることにけっこう驚きました。自分が4WDに興味を持ち始めた1980年代は、ローラーフェアリードのほうが高級品とみなされていました。そのためほとんどの輸入ウインチはローラーフェアリードが組み合わされていました。ハウスフェアリードはメーカーのラインナップにはあったものの、ほとんど国内では見ませんでした。
 最近は非金属のシンセティックロープが広く使われるようになっていますが、こちらは樹脂やアルミ製のハウスフェアリードが使われているようで、それで非ローラーフェアリードが復権したのでしょう。この際、昔のハウスフェアリードを知らない人が、正しく?ホースという音を当てたのかもしれません。


posted by masa at 03:18| 自動車整備

2018年08月26日

ウインチを整備する その4

 家で行った実際のウインチの分解整備について説明します。なおこの解説はモジュールごとに書いており、実際の組み立て順序とは一致していない部分があります。


■ バンパーを取り外す

 ウインチはウインチベッドという台座に取り付けられています。これは車両のフレーム前端にボルト止めされています。問題は、このウインチとウインチベッドは、完全にフロントバンパーの中に収まっているということです。
 Y61サファリのバンパーは、普通のプラスチックバンパーなのですが、内部に鉄板のバンパーが組み込まれています。従ってウインチベッドやウインチを取り外すには、まずこのバンパーブロックを外す必要があります。
 作業の内容は次のようになります。

・フロントグリル取り外し
・タイヤハウス内のプロテクター取り外し
・フォグランプ取り外し
・ヘッドライトウォッシャーホース切り離し
・ナンバープレート取り外し
・プラスチックバンパー取り外し
・鉄製バンパー取り外し

 プラスチックバンパーと鉄バンパーを組み合わせたまま外すこともできますが、ボルトへのアクセスが悪いこと、重いことなどを考えると、別々にやるのが正解でしょう。

フロントの各種部品を外す
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プラスチックバンパーを外す
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鉄バンパーの奥のウインチ
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鉄バンパーを外す(ウインチ配線切り離し済み)
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 鉄バンパーはサビも出ているので、錆止め塗料を塗ります。今回はシャーシーブラックではなく、屋外用の錆止め塗料を使いました。刷毛目もクッキリです。

鉄バンパーを塗装
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■ ウインチを降ろす

 ここまでやって、やっとウインチが現れます。
 今回は、気楽に考えてワイヤーを巻き取ったままの状態で分解しました。なにより、フリースプールが回らないというのが整備に最大の動機だったので、ワイヤーをほどこうと思うと、モーターを回してほどかねばならなかったからです。しかし思ったよりもいろいろやることになり、結局、ワイヤーは事前にすべてほどいておくべきでした。分解した後にほどくのはけっこう大変ですし、またワイヤーの分だけウインチが軽くなるので、作業が楽になります。
 ウインチはかなり重く(ワイヤー込だと30kg以上)、ベッドと一体の状態だと40kgを超えるので、先にウインチだけを外します。まずは電線を切り離します。ウインチ周辺には、ウインチリレーへのバッテリーからのプラス線、ボディアースに落ちるアース線、ウインチリレーを駆動するためのAcc系統の線(コネクタ)、コントローラのコネクタに行く線がつながっています。これらを、ちゃんと元に戻せるように、リレーボックスやボディーアースの位置で外します。コントローラーソケットとモーターのサーモスタットを接続する線のみ、コネクタでなくカシメによる直結だったため、ここは切断しました。組み立てる時はギボシでつなぎます。ウインチのワイヤーは、ローラーフェアリードを通ってフックにつながっているので、フックも外します。あとはベッド底面にあるボルト4本とリレーボックスのボルト2本を外せば、ウインチとリレーボックスを降ろすことができます。

取り外したウインチ 6050
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ウインチベッド
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■ ウインチの整備

 15年も経っているので、動いてはいるものの、状態は相当悪くなっています。まず、塗装がボロボロにはげ、金属が腐食しています。M8000はドラム軸受部と右側のギヤボックスがダイカスト製で、モーターと最終段ギヤの内歯車が鉄製です。鉄の部分は多少のサビはあるものの、まぁまぁの状態なのですが、ダイカストの部分はひどい状態です。塗膜の下で腐食がすすみ、塗膜がカサブタのように剥がれています。

ダイカスト部の腐食
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 リレーボックスも内部の鉄板がかなり錆びており、機能の問題はないものの、補修します。

リレーボックスの裏側
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 ローラーフェアリードは、軸が錆びているので対処します。ここは過去に1度分解したことがあるのですが、以前もサビがひどく、軸が抜けなくなっていました。今回も軸を叩いて抜くような状態になっていました。
 ローラーにケーブルが擦った後がほとんど見られませんが、過去に分解したときに銀色に塗装したためです。

ウインチベッド
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ローラー取り外し
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■ リレーボックスのサビ処理

 事前の動作確認で、モーター回りやリレーに不具合はなかったものの、15年の年波でかなり腐食などが見られるので、主にボックスの鉄板部分の補修をしました。
 リレーボックスのサビを落として塗装しますが、この時、金属部のアース接続を確実にしておく必要があります。ソレノイドリレーの駆動回路は、プラス側の電線が1本しかつながっておらず、もう1本は本体の金属部からアースに落ちます。塗装などで車体アースが取れないと動作しなくなるので、金属の接触面はなるべく塗料を塗らず、組み立ててから塗装します。ボルトやネジの部分は、締め込みにより金属面が接触しますが、一応、導通を確認しておきます。

ベースプレート
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リレーボックス
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 ウインチの操作は有線の手元スイッチで行いますが、これはコネクタでリレーボックスに接続します。コネクタには防水/防塵のためのキャップがあり、紛失防止のために一体成型の細いベルトでベース部分とつながっています。しかしこれが経年劣化で切れてしまい、キャップがいつ紛失するかわからない状態になってしまいました。そのため、キャップに細いワイヤーをネジ止めし、これをコネクタ取り付けネジに取り付け、紛失しないようにしました。ネジ止め部には圧着端子を使っています。キャップにねじ込んだタッピングビスの先端が裏側に飛び出しますが、正確に中央に穴をあけてねじ込めば、コネクタの中央の端子穴(未使用)の位置になるので、干渉せずにキャップをしっかりとかぶせることができます。

コネクタキャップ
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■ 全体の分解

 降ろしたウインチを分解します。ドラムを挟んでモーターとギヤボックスがあり、これはドラム上部の2本の金属棒でつながっています。この金属棒を取り付けるボルトもかなり腐食していましたが、ギヤボックス側は外すことができました。ドラムをモーター側に残してギヤボックスを取り外します。

取り外したギヤボックス
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 クラッチ軸の側面に位置する六角ネジを抜き取ると、クラッチレバーを抜き取れます。ギヤボックスからクラッチレバーを取り外し、中を覗いたところ、初段、2段めの遊星歯車の共用内歯車のスライド用ガイド溝の内部にサビがあります。どうもクラッチレバーの穴から水が侵入したようです。ただクラッチレバーによるスライドはでき、またクラッチを切ってモーターを回すとドラムは回転しないので、内歯車は固着していないことがわかります。

クラッチ穴から覗いたガイド溝
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 さらに、初段と2段めのケースと、終段の内歯車を切り離します。こちらまでは水は浸入していないようです。

ギヤボックスを分離
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 ギヤボックスとモーターをつなぐ金属棒を外すと、本当ならドラムもモーター側から抜き取ることができるのですが、なぜか外れません。回りもしません。どうも、軸受が固くなっているようです。モーターでは回転したので、完全な固着ではありません。

ドラムがはずれない
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 ドラムは置いておき、モーターを分解します。モーターの端にある2本のボルトを外すと、ブラシ側のキャップを外すことができます。ここにはサーモスタットの配線があり、エンドキャップを外すと、サーモスタットも一緒にはずれます。サーモスタットはブラシホルダーの1つにクリップで固定されているだけなので、簡単に脱着できます。
 次に界磁コイルを保持するモーターケースを外します。これで、回転子だけが残った状態になります。回転子はドラム軸受に取り付けられたボールベアリングに差し込まれているので、これを抜き取ればモーターの分解は完了です。
 モーターケースを外したら、内部はドラム軸受から塗装が剥がれてひどい状態でした。モーターケース側にも多少サビが出ています。どうも水の侵入で腐食してしまったようです。ベアリングはラバーシールタイプなので、問題はありませんでした。

ドラム軸受のモーター側の腐食
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モーター内部の腐食
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 これでモーター側のドラム軸受に、ドラムと金属棒パイプがつながったものが残りました。ドラムはかなり固く、プラハンマーで軸受側を軽く叩いて抜きました。ドラムのツバの背後の部分の腐食もかなりひどいです。

ドラム軸受の腐食
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 金属棒を取り付けるボルトを外すために、金属棒を万力で挟んでレンチで緩めたのですが、腐食に負け、ボルトが折れてしまいました。

折損したボルト
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 なお、ボルトや六角ネジなどはインチ規格なので注意が必要です。この金属棒の固定ボルトは、直径は約8mm、六角部は1/2インチで、12mmソケットははまらず、13mmだとちょっとゆるいです。かなり力のかかる部分なので、1/2インチのツールだけは用意しほうがいいでしょう。それからギヤボックスの組み立てに使われている六角ネジもインチのようです。ソレノイドの主回路のターミナルのナットは1/2インチ、モーターの取り付けボルトやソレノイドの制御端子のナットは3/8インチでした。
 ウインチの取り付けボルトは、17mmのコマがぴったりはまりますが、ミリネジなのかインチネジなのかは確認していません(サイズによっては、ミリとほとんど同じになるのです)。


■ 腐食がひどいので塗装

 このウインチのボディは、鉄とアルミダイカストを使っています。モーター部分は鉄、ドラムの両側の軸受部はダイカスト、最終段の遊星歯車の内歯車は鉄、初段と2段め(クラッチ部)のギヤケースはダイカストです。
 これらがメタリックグレイに塗装されていたのですが、ダイカストに対する塗装が悪かったのか、環境が悪かったのか、ボロボロに剥げてしまいました。鉄の部分は年式相応のサビ程度なのですが、ダイカスト部分は塗膜がカサブタのように剥げ、下地のダイカスト表面が白い粉を吹いた状態になっています。
 この状態を放置するのもなんなので、全体を再塗装することにしました。各部を分解し、グリースなどを除去した後、ワイヤーブラシで酸化物や古い塗装を極力落とした後、金属用のサビ止め塗料(アルミも使用できるもの)を塗ります。今回は茶色にしてみました。
 モーターケースはさほど腐食していないので、そのまま元のグレーを残しました。


■ ギヤボックスの組み立て

 今回の不具合、つまりフリースプールがまともに動かないという症状は、ギヤボックス内のクラッチ回りのグリースが固まったものと想像していのたですが、実際には、モーター側のドラム軸受が固くなっていたのが原因だったようです。とはいってもクラッチまわりもまともな状態ではありませんでした。これらのサビを落とし、古いグリースを洗浄します。

ギヤボックスを分解
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初段と2段めの内歯車
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ギヤボックスのケース 7020
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 内歯車には、クラッチレバーと噛み合ってスライドするための溝があるのですが、ここが結構錆びています。どうもクラッチレバーの穴から水が浸入したようです。レバーの付け根の部分にはゴムパッキンがあるのですが、ゴムが劣化したのか、軸に対して多少の隙間があり、強く水がかかれば内部に漏れてしまいます。ウインチは車体最前部、バンパー内部にありますが、クラッチレバーを手で操作するための開口部があるため、雨の中で走れば水が激しくかかります。ゴムパッキンをどうにかしないと、水漏れは直らないでしょう。

クラッチレバーとオリジナルのパッキン
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 ここの水漏れで、初段と2段めの内歯車の外周部にもかなりのサビがあり、それがケースの内面にも移っていて、あまりよい状態とはいえません。ただ部品が痩せるほどの腐食ではないので、ブラシで落としてよしとします。
 遊星歯車などはグリースのおかげで、特に問題はありませんでした。
 ドラム軸受、鉄の内歯車、クラッチ周辺のギヤケースは、10本の六角ネジで共締めされてこていされています。各部品の間には、水や油脂が漏れないようにガスケットが挟まれているのですが、15年の風雪で完全に貼り付いており、分解時に1つはボロボロに破れてしまいました。もう1つは形は保っているものの、一部が剥がれて薄くなっているので、再使用には耐えそうにありません。そこで汎用のガスケットシート(0.6mmくらいのもの)から切り出し、新しく作りました(黒いガスケットがオリジナルのもの)。

ガスケットを製作
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 あとは元通りに組み立てるだけですが、問題はクラッチ回りです。
 クラッチレバーは、軸とパッキンカバー、パッキン材から構成されているのですが、古いパッキン材は使わず、軸に合うサイズのOリングをはめました。しかしこれだけでは径が足りないので、その外側にさらに一回り大きいOリングをはめ、2段構成としました。これにグリースを十分に塗布し、あとは水が漏らないように祈ります。

クラッチレバーのOリング
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クラッチレバーに組み込んだ状態
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 ギヤボックスの組み立てに際して、潤滑にはモリブデングリースを使用しました。
 内歯車は、前に説明したように、クラッチを切ったときにはケース内で回転します。ここをグリースまみれにしてしまうと回転が重くなり、フリースプールが軽く回らなくなってしまいます。Youtubeにあったウインチ整備の動画では、ここにはグリースを塗るなと指示されていますが、水が漏った場合、油分がないとあっという間に錆びてしまいます。そこで、ケース内面と内歯車外周、スライドガイドの溝に薄くグリースを塗布しました。回転はちょっと重くなりましたが、錆びて動かなくなるよりはいいでしょう。

参考になるYoutubeの動画(全部で3本)



 ケースを組み立てる際にはガスケットを挟みますが、自作のものなので、念の為に液体ガスケットも塗布しておきました。また分解したら、ガスケットを作り直さないといけません。また最初の状態では、接合面も塗装された状態でしたが、今回はダイカストや鉄の地肌を出した状態で組み立てています(刷毛塗り塗装で凸凹なので)。組み立て後に露出した地肌の部分は塗装します。
 あとは、グリースを十分に塗布しながら遊星歯車を組み込んでいきます。この時、キャリアー軸の潤滑に注意しなければなりません。遊星歯車の公転は、キャリアを介して次段を回転させます。パーツクリーナーを使って遊星歯車のグリースをきれいにすると、このキャリアー軸のグリースも流れてしまいます。組み付け時にグリースをたっぷり付けても、キャリアー軸にはなかなか回り込みません。まぁ、しばらく回転させれば回っていくのでしょうが。しかしそれまで無潤滑で回すのもアレなので、初期潤滑のためにモリブデンタイプのスプレーグリースを、キャリアー軸に吹き付けておきました。スプレータイプは噴射剤が揮発するまでは流動性が高く、細かいところにも流れやすいのです。細いノズルを使えば、狭い隙間にも吹き付けられます。本当は別種のグリースを混ぜないほうがいいのですが、微量なので大丈夫でしょう。

内歯車と初段の遊星歯車
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2段めの遊星歯車
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ドラム軸受と終段内歯車
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終段遊星歯車とスラストワッシャー
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ギヤボックス完成
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 ドラム軸受の部分は、ボールベアリングやメタルではなく、樹脂製のブッシュが使われています。ここも腐食で固まらないように(モーター側は固まっていたのです)、腐食を除去して地肌が出ている取り付け面に薄くグリースを塗布し、ブッシュをはめます。

ドラム軸受のブッシュ
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ブッシュを取り付け
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 終段の遊星キャリアにはまっている歯車のような部品は、ドラムに回転を伝えるためのカップリング部品です。これがキャリアとドラムの両方に噛み合った状態で回転を伝えます。

ドラム用のカップリングを取り付け
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カップリングがはまるドラム側
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駆動軸を挿入
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ドラムを取り付け
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■ ドラム整備

 ドラム本体とブレーキには問題ないのですが、モーター側のドラム軸受がきつくなっていた問題を解決しなければなりません。プラハンマーで叩いてドラムを抜き取った後、軸受部のブッシュを外そうとしたのですが、えらくきつくなっています。ギヤボックス側は軽く外れたので、どうやらここに問題ありです。実際、内径を測ってみたところ、ギヤボックス側より何分の1ミリか小さくなっていました。ドラム側の軸径とほぼ同じか小さく、これでは軽くは回りません。

ドラム軸受
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 手でははずれないんので、刃先の薄いドライバーを隙間に差し込み、少しずつずらしてどうにかブッシュを外してみたところ、ブッシュのはまる部分のダイカストが腐食し、膨らんでいました。腐食をブラシで落とし、ブッシュの側もきれいにしたら、ブッシュも軽くはまり、ドラムも滑らかに回るようになりました。組み立てのときは、腐食防止のために、薄くグリースを塗布してブッシュをはめました。
 ブレーキユニットには問題はなかったのですが、ここまで分解してここだけ何もしないという手はありません。意味もなく分解してみました(仕組みをじっくり見たかったのです)。構造は前に書いたとおりですが、実際にバラすときには注意が必要です。
 ブレーキユニットはモーターのトルクが掛かっていないときは、スプリングによるプレロードでブレーキが掛かっており、ドラム内で動かないようになっています。そのためドラムから抜き取る際は、モーターでトルクをかけたときと同じように、カムを回す突起の位置を揃えなければなりません。これは先が細くなったラジオペンチなどを使います。ペンチで2つの突起を挟むとシューが緩むので、反対側から駆動シャフトを押して、ブレーキユニットをモーター側に抜き取ります。このとき、シューにグリースがつかないように、ドラム軸周辺をきれにしておきます。

ドラムの奥のブレーキユニット
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 抜けたとたん、3個のシューがばらけ、また上側コーンが回ってかかっていたプレロードも抜けてしまいます。真面目にやるのであれば、シューが半分くらい露出したところで、テープで巻くなどして仮止めすべきです。さらに問題になるのが組み付けで、誤ってプレロードをかけずに組み込むと、ブレーキがまるで効かなくので注意が必要です。実は最初にこれをやってしまいました。ブレーキを組み込んだものの全然効かず、いろいろ考えたらプレロードが必要だと気づいたのです。

ブレーキユニット
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 コーンのまわりに3個のシューを添えた状態で上側の回転するコーンを半回転させ、プレロードをかけます。この状態でテープやインシュロックなどでシューがはずれないように仮押さえし、ドラムに差し込みます。シューが半分くらいはいったら、仮押さえを外し、後は外したときと同じようにペンチで突起を挟み、ブレーキを緩めながら奥まで差し込みます。ブレーキユニットの位置は、モーター側のカップリング、ギヤボックス側の六角駆動シャフトを組み合わせた状態で、ギヤボックスとモーター側ドラム軸受を金属棒で接続し、ドラム回転に無理がない位置です。よく見ると、ドラム内側にブレーキシューが当たっていた跡があると思います。とりあえず組んでしまえば、モーターで回転しているときに適当な位置にずれていくはずです。
 ブレーキユニットは、コーン部、シューなどが摩擦で制動するため、グリースは塗布しません。
 ドラムをドラム軸受に取り付ける際は、水の浸入防止も願いつつ、軸部分にたっぷりとグリースを塗布しておきます。ただしブレーキシューにグリースがついてしまうと制動性能が著しく低下するので、ブレーキユニットを抜き取る際には、ドラムのグリースをきれいに除去しておく必要があります。


■ 動作確認

 ここまでできたら、ギヤボックス、ドラムを組み合わせ、金属棒を使ってモーター側ドラム軸受を組み合わせてみます。ドラム内には駆動軸とカップリングを組み込んでおきます。そしてモーター側に回転子を差し込み、手で回してみます。

仮組みして動作確認
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 クラッチがつながった状態では、回転子を手で回すとドラムがゆっくり回ります。またドラムをケーブル繰り出し側に手で回そうと思っても回らないはずです。ブレーキユニットにプレロードを掛けてないとこの状態で回ってしまうことがあります。
 クラッチを切った状態では、ドラムは手で回るはずです。今回はクラッチ部分の内歯車外周に薄くグリースを塗布したため、回転はちょっと重めです。
 ギヤボックスにドラムを取り付ける際は、ドラム軸受だけでなく、内部の駆動軸をブレーキユニットに差し込まなければならないため、全体を立てて行ったほうがやりやすいでしょう。
 テストが済んだら、モーター組み立てのためにモーター側のドラム軸受を外します。

立てて組み立て 7630
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 次回はモーターを組み立て、動作テストを行います。
posted by masa at 19:30| 自動車整備

ウインチを整備する その3

 今回は、ウインチの駆動系を解説します。


■ 遊星歯車減速装置

 モーターの回転は、3段の遊星歯車で減速され、ドラムを回転させます。どの段も、内歯車が固定、太陽歯車が入力、遊星キャリアが出力(次段の太陽歯車かドラムを回転させる)という構成です。

ウインチの動力伝達
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 モーター側(ブレーキユニット)からの六角軸は、ギヤボックスの一番奥(向かって一番右側)まで達していて、そこで奥側の遊星歯車の太陽ギヤを回転させます。この1段め(初段)のキャリアに取り付けられた歯車が2段めの太陽歯車となり、そして2段めのキャリアの歯車が3段め(最終段)の遊星歯車の太陽歯車となります。伝達トルクが大きくなるほど、歯車が大きくなっているのがわかります。
 2段めと終段の太陽歯車、そして終段とドラムを接続するカップリングは、その中心をモーター軸が通るので、大きめの穴が空いています。

3個の遊星歯車
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初段と2段め用のケース
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初段と2段め用の内歯車
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初段の太陽歯車、遊星歯車、駆動軸
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ケースに内歯車と太陽歯車をセット
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六角軸は太陽歯車を駆動
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初段の遊星歯車をセット
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2段めの遊星歯車をセット
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 初段/2段めの内歯車と終段の遊星歯車の間には、樹脂製のスラストワッシャーがはいります。

終段の内歯車とスラストワッシャーをセット
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終段の遊星歯車をセット
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ギヤボックス側のドラム軸受とドラムのカップリングをセット
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 ギヤボックスは3個のケース部品、すなわちドラム軸受、終段用内歯車、初段と2段め用のケースから構成されています。終段用のみ鉄製で、残りはアルミダイカスト製です。初段と2段め用のケースにはクラッチ機構も組み込まれています。終段の遊星歯車の内歯車は、ギヤボックスの内側に直接歯が刻まれています。初段と2段めはパイプ状の共通の内歯車を使っており、これがギヤボックス右側のケースの中に収められています。
 この3個のケース部品は、10本の六角ネジで固定されます。各部品の接合面にはガスケットが使われています。ケースの角度を変えて取り付けることで、クラッチレバーの位置を変えることができます。標準ではクラッチレバーは真上になりますが、サファリの純正ウインチでは、前側に36度傾いた位置となっています。
 初段と2段めの鉄製の内歯車は共用されており、パイプ状のこの内歯車がケース内で回転、スライドできる構造になっています。奥側にスライドすると、内歯車の歯がケース側に刻まれた歯と噛み合い、固定されます。ドラム側にスライドしている時は噛み合っていないので、ケース内で自由に回転することができます。
 固定状態では、初段と2段めの遊星歯車は減速歯車として働き、3段めを回転させます。3段での減速比は216となります。


■ クラッチ

 初段と2段めの内歯車をスライドさせるのがクラッチレバーです。内歯車のリングの外周には溝が切ってあり、これがクラッチレバーの偏心した突起と噛み合い、レバーの回転でスライドする構造になっています。

クラッチレバー
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クラッチが切れた状態(内歯車は回転できる)
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クラッチがつながった状態(内歯車は固定)
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内部での動き
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 内歯車が固定された状態では前述のように減速が行われ、モーターの回転でドラムがゆっくり回転します。
 クラッチが切れ、内歯車が自由に回転できるときにウインチがどのように動作するかを理解するには、まず遊星歯車の動作について理解している必要があります。
 遊星歯車は、太陽歯車、遊星キャリア、内歯車という3要素のうち、1つを固定(ウインチの場合は内歯車)することで、1入力1出力の減速歯車(逆向きに見れば増速)として働きますが、各要素を固定せず、1入力2出力あるいは2入力1出力の歯車装置として使うこともできます。例えばプリウスのエンジン、モーター/発電機、駆動軸は遊星歯車によって連携しており、エンジン出力、モーター出力/発電機入力、駆動出力/エンブレ入力の3つの回転をミキシングし、ハイブリッド走行を実現しています。あるいは戦車などの履帯車両の出力ギヤは、前後進の駆動軸と操向のための左右の回転数差を与える軸の出力を遊星歯車で合成して、スプロケットホイールを回転させています。1入力2出力の例としては、フルタイム4WDのセンターデフとしての使用などがあります。

遊星歯車
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 このウインチでちょっとわかりにくい点は、初段と2段めの遊星歯車が内歯車を共有していることです。しかし実際に歯車を組み合わせて動かしてみればわかりますが、このような形で2組の遊星歯車を組み合わせた場合、両方合わせて1つの遊星歯車として見ることができます(ここではこれを組み合わせ遊星歯車と称します)。内歯車固定であれば、2組の遊星歯車の遊星キャリアの減速比を掛け合わせた減速比を持つ1つの遊星歯車とみなすことができます。そして内歯車がフリーであれば、適当な比率で3つの要素が回転します。なのでこのウインチのギヤボックスは、この組み合わせ遊星歯車と終段の遊星歯車の2段構成として考えることができます。

遊星歯車の組み合わせ
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 このように考えると、クラッチが切れている時の動作がわかりやすくなります。まず、モーターが回転した時を考えてみましょう。
 モーターの駆動トルクによりブレーキの拘束は解除されているので、ドラムはモーター軸に対して異なる速度で回る、あるいは止まっていることができ、そしてドラムの回転に連動して終段の遊星歯車も回転します。また初段、2段めからなる組み合わせ遊星歯車の内歯車もフリーです。そのため組み合わせ遊星歯車は、モーター軸からの1入力、内歯車と、終段につながるキャリアへの2出力となります。この2出力はどちらも自由に回転することができます。このどちらにも大きな負荷はかかっていないので、モーターの回転トルクは両方に流れます。通常はワイヤーが巻いてあるドラムよりも内歯車のほうが軽く回るので、モーター回転で内歯車が回り、ドラムは回転しないということになります。ワイヤーを巻き付けていないなど、ドラムの抵抗が小さければドラムも回転しますが、手で押さえれば止まる程度の力です。
 つまり、クラッチを切ってモーターを回した場合は、ドラムはほぼ回転せず、モーターが空転することになります。

モーターの空転(灰色の部分は回転しない)
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 では、モーターオフでドラムを回転させた時はどうなるでしょうか?
 ドラムの回転は、終段遊星歯車で増速され、組み合わせ遊星歯車のキャリアへの入力となります。モーター停止時はドラムとモーター軸はブレーキで拘束されているので、ドラムの回転はまた、モーター軸を介して組み合わせ遊星歯車の太陽歯車を回転させます。この場合の組み合わせ遊星歯車は、太陽歯車がモーター軸による入力、そしてキャリアは終段遊星歯車からの入力となります。つまり2入力1出力となり、その結果、残りの要素である内歯車が出力となって回転します。
 これはブレーキがドラムとモーター軸を拘束しているにもかかわらず、ドラムが自由に回転できるということです。またモーターは、ドラム内部で拘束されているモーター駆動軸により、ドラムと同じ速度で回転します。モーターの抵抗により、カム部の突起が多少ずれ、ブレーキが軽くなるという現象も起こるかもしれません。
 これがクラッチを切るとドラムが自由に回る仕組みです。ドラムがフリーになることで、モーターを回さず、ワイヤーを手で引っ張り出すことができます。

ドラムの空転(すべての歯車とモーターが回転する)
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 クラッチが切れていないときは、組合せ遊星歯車の内歯車の回転ができないため、ドラムは回転できません。
 ドラムを外力で回転させた時、内歯車が空転しますが、このとき終段で増速されるので、組合せ遊星歯車のキャリアは太陽歯車より高速回転し、内歯車はそれよりさらに増速されて回転します。そのため内歯車の回転に抵抗があると、ドラムの回転はかなり重くなります。それゆえこの部分は、回転抵抗の大きいグリース潤滑は不向きです。無潤滑ならかなり軽く回るので、内歯車とケースの間にはグリースを塗布しないほうがよく、実際製品出荷時は無潤滑だったようです。しかし油分がないことによるサビが見られたので、ちょっと回転が重くなってもグリースを使うという選択もあります。


■ ブレーキ

 ブレーキユニットはモーターオフ時にドラムが回転しないように拘束するもので、ドラム軸の内部に組み込まれています。動作としては、モーター駆動シャフトとドラムの間を拘束します。モーターシャフトは高速回転し、それがギヤボックスで減速されてドラムをゆっくり回転させるので、ドラムとシャフトが拘束され、回転速度差を許さない状態では、ドラムは回転することができません。これでブレーキとなります。モーターが回転すると、その回転によりブレーキのカムが動作し、ブレーキが緩み、ドラムと軸が異なる速度で回転できるようになります。これで、モーターの力でドラムを回すことができます。

ドラム中のブレーキユニット
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カップリングがセットされた状態
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 ブレーキユニットは、モーターの出力軸に取り付けられたカップリングによって回転する部品で、写真のブレーキユニットの上側にカップリングがかぶさります。ブレーキユニットの下側には六角形の穴があり、それがギヤボックスに回転を伝える六角軸を回転させます。つまりブレーキユニットは動力伝達部品でもあり、モーターによって回転し、そして必要に応じてブレーキを作動させます。

ブレーキユニット
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カップリング
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ブレーキユニットとカップリング
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 ブレーキユニットは、カムによってスライドする2個のコーン型(円錐形)の部品と、3分割されたブレーキシューで構成されています。2個のコーン部品が接近すると。シューが外側に広がり、ドラム軸内面に押し付けられます。離れるとシューへの圧力がなくなるので、ドラムを押さえる力が抜けます。
 ここでは上側のコーン、下側のコーンと言っていますが、これは立てて置いた場合の話です。実際にウインチに組み込まれている状態では、「上側」コーンがモーター側、「下側」コーンがギヤボックス側となります。
 下側のコーンは中心の軸に固定されています。その上にある上側コーンは軸に対して自由に回転することができます。上側のコーンの上部はカムになっていて、軸に固定されている最上部のカムと接触しています。このカムにより、上側コーンが回転すると、上側コーンがスライドする構造になっています。このスライドにより2個のコーンの間の距離が変わり、シューが外側に広がったり戻ったりします。

ブレーキの動作
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 前の写真はカムがスライドし、ブレーキが作用する位置を示しています。次の写真はブレーキがほぼ緩んでいる状態です。カムと突起の位置関係の違いがわかります。

緩んだ状態のブレーキユニット
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 回転する上側コーンは、軸にスプリングでつながっています。これはゼンマイのように働き、上側コーンをひねる力を発生させます。ブレーキが組み付けられている状態では、ブレーキをかける方向(回転してコーンが接近する方向)に作用します。
 上側コーンのカム部と最上部のカム(下側コーンとつながっている)にはそれぞれ突起があり、突起の位置が揃っている状態で、2つのコーン間の距離が最大になり、ブレーキが緩みます(図の上側の状態)。力がかかっていないときは、スプリングの力でブレーキがかかる方向に突起がずれています(図の下側の状態)。
 モーター軸に取り付けられたカップリングは、この2セットの突起部と噛み合うようになっており、モーターのトルクがカップリングにかかると、カップリング内部の突起がブレーキユニット側のそれぞれの突起を押すので、突起の位置が揃うようにカムが回転し、ブレーキが緩みます。モーターが回っていないときは、スプリングの力によりカムがずれてブレーキが作動します。
 重要な点は、スプリングによって常時ブレーキが作動するようにコーンに力がかかっていることです。もしスプリングで押さえる力がないと、モーターが止まったときにブレーキが作動しません。
 このスプリングの力はささやかなもので、人間の手で回せる程度です。この程度の力でカムを介してシューを押さえたところで、大きな力がかかるドラムの回転を止められるものでしょうか?
 まずドラムは減速ギヤによってトルクが増大されているという点が重要です。すなわち、このブレーキユニットの位置では、それほど大きなトルクはかかっていないのです。ウインチの能力という面で見れば、モーターの出力トルク程度の制動能力があれば、定格牽引能力に対してドラムを制動できることになります。
 以下は想像ですが、さらに制動能力を高める効果も考えられます。
 モーターが回転していない時、ワイヤーを引き出す方向にドラムを回そうとすると、何が起こるでしょうか? ドラムの回転トルクはギヤボックスを経て、モーター軸(ブレーキユニット)をドラムより高速で回転させようとします。これはブレーキユニットのカムを回転させるトルクとなり、カムを作動させます。
 ブレーキシューは、スプリングの力でドラムに押し付けられているので、下側コーンが回転しようとしたときに、回転できる上側コーンは下側コーンよりも回転が遅れます。つまり上側と下側の間で回転が起こり、これがカムを作動させ、2個のコーンがさらに接近しようとします。これでシューを押さえつける力が強くなります。カムを動かす力は、ドラムを回そうとする力が増えるほど強くなるので、ブレーキも強力になり、大きな制動力が得られます。つまり自己倍力効果によって強力なブレーキ作用を発生させていると考えることができます。実際にこの効果がどれだけあるのかはちょっとわかりません。この効果による制動能力を求めるには、減速ギヤ比、カムやコーンの勾配、シューの摩擦係数などから計算する必要があります。


 ウインチのおおよその構造の説明は以上です。次回は、我が家のウインチの整備の顛末を紹介します。
posted by masa at 11:15| 自動車整備

2018年08月22日

ウインチを整備する その2

 うちのウインチの整備について話をする前に、M8000ウインチの構成や構造を紹介しておきます(各部の写真は、整備前、整備後のものが混じっています)。


■ ウインチの構成

 M8000ウインチは遊星歯車減速式で、車の前方(ワイヤー引き出し側)から見て、中央にワイヤードラム、向かって左にモーター、右にギヤボックスがあります。モーターのそばには、On/Off、逆転のためのリレーボックスがあります。ギヤボックスにはドラムをフリーで回転させるためのクラッチレバーがあります。

車体に取り付けられたウインチ(バンパー取り外し済)
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 モーターからの出力は、ドラム内のブレーキユニットを経由して、六角軸で右側のギヤボックスの一番奥まで達しています。そしてギヤボックス内の3段の遊星歯車で減速され、ドラムを回転させます。
 ブレーキユニットは、モーターが止まっている時にドラムが回らないようにするためのもので、モーターが回転していないとき、モーター軸とドラムの間を拘束します。モーター軸とドラムは異なる速度で回転しますが、これが拘束されることで、ドラムは回転できなくなります。モーターが回転すると拘束が解除され、モーターの回転が減速され、ドラムが回転します。

ウインチの駆動系統
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■ モーター

 このウインチのモーターは直流直巻という構成で、界磁を構成する巻線と、回転子の巻線が直列に接続されています。界磁は4極が直列になっています。回転子のブラシは4個あり、回転子の巻線は2セットが並列接続になります。

モーター銘板 SERIES WOUNDは直巻という意味
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モーターの内部 界磁コイルは4極、銅線というよりは銅板
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モーターの内部 ブラシは4個、2系統の並列接続
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モーターの内部 回転子を組み込んだ状態、右側のブラシホルダーにサーモスタット用のクリップがある
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モーターの内部 回転子を組み込んだ状態、出力軸側
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回転子のブラシ側
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回転子の出力軸側
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 自動車で使われる直流モーターのほとんどは界磁が永久磁石のもので、直流直巻はスターターモーターくらいしか使われていません。
 軸受は、非出力軸側(ブラシ側)はプレーンメタルベアリングです。軸受ハウジングの奥に不織布のパッドがあり、ここにオイルを染み込ませておくタイプです。現行モデルのモーターは、このベアリングはボールベアリングに変更されているようです。

出力側ベアリング
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ブラシ側ベアリングとサーモスタット
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 出力軸側はラバーシールタイプのボールベアリングが、ドラム軸受に組み込まれています。つまりモーターはドラム軸受に取り付けられた状態でないと、軸が支えられません。ウインチ本体から取り外した状態では、モーターを回転させることはできません。もっとも直流直巻モーターなので、無負荷で回転させると飽和するまで回転が上がってしまうので、原則として無負荷運転は禁止ですが。
 補修部品やアップグレードパーツでモーターを購入する場合は、仮軸受が付いた状態で出荷されるようです。こうしておかないと、回転子と界磁があたって傷がついてしまいます。
 モーターのブラシ側には、過熱検出用のサーモスタットが組み込まれます。ブラシホルダーの1つにサーモスタットを取り付けるクリップ金具があり、サーモスタットに熱伝導グリスを塗ってはめ込み、ブラシホルダーと接触させます。サーモスタットの配線はキャップを貫通しているので、キャップを外す時にはサーモスタットも外します。
 直巻モーターの特徴は、低速回転時のトルクが大きいこと(停止時に最大になる)で、ウインチのような用途には向いています。しかしこのトルクが大きい点が曲者で、そのトルクを発生させるために大電流が流れるのです。もう1つの特徴は、無負荷時に回転が異常に上昇することです。
 この時代のM8000では、ギヤボックスにはガスケットが使われていますが、モーターはガスケットを使っていません(現行のモデルがどうなっているかは知りません)。実はモーターまわりは水密には作られていません。ドラム軸受部品とモーターケースの合わせ目には、2箇所の開口部があります。写真でダイカストの地肌が出ている部分がモーターケースとの接触部分ですが、切れている2個所は段差になっていて、組合せたときに隙間ができるようになっています。
 これはウインチを水平面にマウントした時に最下部になる位置と、8274のように垂直面にマウントした時に最下部になる位置です。つまり、内部に水がはいっても抜ける構造になっているのです。一方は最下部になるので水抜き穴になりますが、もう1つの穴は側面に位置するため、雨などで水が浸入する経路となります。またドラム軸受のモーター取り付けボルトの穴は4箇所あり、2箇所しか使わないので、これも開口部となります。これはウインチドラムのツバの裏側になりますが、水がビシャビシャかかれば、多少は浸入するでしょう。新しいウインチはツバの裏側にグリースシールがあって軸受回りが水密になっているようですが、このM8000にはそのようなものはないので、水が浸入する可能性は高いです。

ドラム軸受側の水抜き穴
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 ブラシ側もガスケットはありませんが、接合面に段差があり、出力軸側よりは水が入りにくい構造になっています。


■ リレーボックス

 マグネットモーターは、モーターの2つの端子に掛ける電圧の向きを逆にすることで、回転方向を逆にすることができますが、直巻モーターの場合は少し複雑になります。界磁と電機子が直列なので、単純に極性を逆にしても、界磁、電機子とも磁化の向きが変わるため、回転方向が変わらないのです。そのためどちらか一方だけ、極性を変えます。
 WARNのウインチのモーターは図のような接続になっており、界磁コイルの極性を変えることができます(回転子側は、前に触れたように2回路になっています)。

モーター内部の接続 1102
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 モーターのF-1F-2というターミナルは、界磁コイル(フィールドコイル)につながっています。もう1つのターミナルAはブラシを介して回転子(アマチュアコイル)につながるもので、内部でブラシに接続されています。回転子のもう一方の配線はブラシを介してモーターケースにつながっており、グラウンドに接続しています。
 バッテリーのプラス側からの配線は、F-1F-2に繋がり、界磁を磁化して他方から流出し、Aに至ります。そして回転子を励磁してグラウンドに流れます。
 F-1F-2のどちらかをプラス電源に、そして他方をAにつなぐことでモーターが回転します。リレーボックスの役割は、F-1F-2の間に流す電流の開閉と向きを変えることです。

リレーボックス内の配線
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 リレーボックスの中には4個のソレノイドリレーがあり、それぞれが100アンペア以上の電流を開閉できる接点を内蔵しています。ソレノイドは直流12Vで動作し、12Vを掛けるとソレノイドにより接点が動作し、電流が流れるようになります。大電流開閉のため、接点やスプリングも相応のものを使っているようで(非分解構造なので、中は見えない)、ソレノイドリレー自体の動作電流も大きく、12Vをかけた時、3.5Aの電流が流れます。リレーは2個セットで動作するので、リレーの駆動だけで7Aの電流が必要になります。

基本的なOn/Off、逆転回路
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 ソレノイドリレーを図のように結線することで、センターオフのスイッチをどちらに倒すかに応じて、界磁に流れる電流の向きが変わり、モーターの正転と逆転ができます。もちろん、センター位置の場合は電流が流れず、Offになります。
 ウインチ故障でよくあるのが、このソレノイドリレーの動作不良です。リレーが正常に動作しないと、正転はするのに逆転はしないといった症状が現れます。
 Y61の純正ウインチはさらに付加回路が組み込まれています。コントローラーをコネクタに差し込むことで、エンジンルーム内にあるマスターソレノイドリレーが動作し、このリレーボックスにバッテリーからの電力が供給されます。そしてモーターには、過熱保護機能が組み込まれています。モーター内部にサーモスタットが組み込まれており、モーターが過熱するとサーモスタットが動作し、回路が切れます。

実際の回路(整備書より)
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 ウインチの操作は有線の手元コントローラーで行いますが、これはコネクタでリレーボックスに接続します。ウインチはAcc電源がOnになっているときに使用できます。コントローラを接続することで、Acc電源でマスターソレノイドがOnになり、電源が供給されます。

コントローラとコネクタ
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 サーモスタットはモーターのブラシ部に取り付けられており、温度が上がると回路がOffになります。これはソレノイドリレーを駆動するスイッチ回路に組み込まれており、サーモスタットの動作でソレノイドがオフになるため、モーターが止まります。サーモスタットが動作した時は、サーモスタット両端に12Vがかかるため、並列に接続されたLEDが点灯します。つまりスイッチをOnにしてLEDが光る時は、サーモスタットによる保護でモーターが回転しないということです。サーモスタットは、温度が下がると自動復帰します。
 興味深いのは、この過熱保護動作は巻取り時のみ有効ということです。回路を見るとわかりますが、繰り出しのためのソレノイドリレー回路はサーモスタットを通らないので、過熱していても繰り出しはできることになります。

 次回は遊星歯車による減速機構、フリースプールクラッチ、ブレーキについて説明します。


posted by masa at 18:47| 自動車整備

2018年08月13日

ウインチを整備する その1


 我が家のY61サファリにはメーカーオプションの電動ウインチが装備されているのですが、これがちょっと調子が悪くなったため、分解整備します。


■ メーカーオプションのウインチ

 今どきの事情は知りませんが、かつてはウインチはクロカン4WDの重要なアクセサリーであり、メーカーでオプション設定されていたり、あるいはサードパーティ品を後付したりということがしばしば行われていました。我が家のサファリは、購入時にメーカーオプションのウインチを装着しました。メーカーオプションのメリットは、ウインチ込みでの設計となるため、後付感なくスッキリと装着されることです。同時にこれは欠点でもあり、ウインチがバンパー内に収まってしまうため、ワイヤーの管理やメンテ性が低下します。以前のモデルであるY60では、ウインチを取り付けるとバンパーより飛び出して露出していました。悪路でつっかえるとか、デザイン的に文句がある人は多かったみたいですが、メンテ性はとてもよいものでした。

Y61のメーカーオプションのウインチ
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Y60のメーカーオプションのウインチ
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 Y60のウインチには、エンジン動力で動作するPTOタイプと電動タイプがありました。電動ウインチは、Y61と同じでWARNのM8000が搭載されていました。自分が乗っていたY60は、PTOタイプのウインチを搭載していました。Y61は電動のみです。


■ ウインチの現状

 今の車になってからほとんど悪路を走らなくなったため、ウインチを装着してはいるものの、ほとんど使ったことはありませんでした。たまに動作確認をするくらいです。
 久しぶりに動作確認をしたところ、モーターは正常に回転し、巻取りと繰り出しはできるのですが、クラッチの動作に問題がありました。ワイヤーを巻き取るドラムにはクラッチが付いており、クラッチがつながっているとモーターでドラムが回転し、止まっている時はドラムにブレーキが掛かります。クラッチを切るとドラムはフリーで回転し、ワイヤーを人力で引っ張り出すことができます。またフリーの時にモーターを回転させても、ドラムは回りません。
 動作確認をしたところ、クラッチを切った状態でドラムがフリー回転しなくなっていました。それ以外のモーター駆動は正常でした。ウインチのクラッチを切ると、ギヤボックス内の遊星歯車の内歯車がフリー回転するようになり、これにより動力伝達が切れるのです。グリースの劣化で、この回転が死ぬほど重くなってしまったのでないかと考えました。稼働時間が短い(15年で10分くらい?)とはいっても、年数も経っているので、それなりに状態は悪くなっています。クラッチの不具合以外にも、ひどい塗装剥がれがあり、腐食も進んでいます。そこで、ウインチを分解し、整備することにしました。
 作業はショック交換と並行して行い、ショック交換の際にウインチを降ろしました。その後、バンパーまわりはウインチなしで組み立て、ウインチ整備が完了したら、再度バンパーをばらして組み込みます。

腐食したウインチ
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■ ウインチの仕様

 このウインチは日産の純正オプションですが、当時のトヨタがアイシン製を使っていたのに対して、日産はアメリカのWARN製を搭載していました。ネームバリュー的にはアイシンよりもWARNのほうが受けが良かったのは確かです。ただ、この時代(今は知らない)のWARNのウインチには、ひとつ大きな問題があります。ネジがインチなのです。この辺は、それが日本メーカーのオプションであっても変わりません。そのためウインチベッドなどはミリのボルトなのに、ウインチ本体のボルトや配線のターミナルのナットなどはインチなのです。これに気をつけないと、ボルトをなめたり、工具が抜けなくなったりする可能性があります。
 搭載されているウインチは、WARNのM8000 D1というモデルです。これは現行のM8000とは一部(特にモーター)が違います。8000は能力を示すもので、牽引力が8000ポンド(3600kg)という意味です。
 もっとも3600kg引きといってもいろいろ条件があります。ワイヤーはドラムに巻かれますが、ワイヤー巻取り量が増え、実巻取り径が大きくなると牽引力が低下します。この3600kgという力が出せるのはドラムの1層めの場合で、最外層だと3000kg以下になってしまいます。

巻取り能力の変化
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1層め 3630kg
2層め 3302kg
3層め 3206kg
4層め 2826kg



 動力源は4.8馬力程度のモーターなのですが、直流12Vでこの馬力というと、最大で450A程度の電流を必要とします。これは普通の車のオルタネーターで供給できるものではないので(せいぜい100Aがいいところ)、実質的にバッテリーの放電で動かすことになります。

負荷 速度 電流
0kg19m/S 80A
910kg 4.9m/S 200A
1810kg 3.6m/S 285A
2720kg 3.0m/S 350A
3630kg 2.4m/S 450A



 一般にバッテリーにとって最大の負荷であるスターターモーターが約100Aですが、ウインチはこの3倍以上(エンジンが止まっていたら4倍以上)の電流が必要ということです。かなり大型のバッテリーを搭載していても、最大電流だと数分しか供給できないでしょう。WARNのサイトによれば、650CCA以上(日本のJIS表記だとおそらく100以上)のバッテリーが必要となっています。CCAはCold Cranking Ampereの略で、冷間時の放電能力を示し、この値が大きいほど放電能力が高いことになります。現在使用しているのは145D31で、CCA実測値は750程度なので、一応条件は満たしています。

 次回は、ウインチの構造を解説します。
posted by masa at 15:58| 自動車整備

2018年08月05日

Y61サファリのショックアブソーバーを交換する

 Y61サファリ中期型を購入して約15年、11万キロほど走行しました。この間、一度もショックアブソーバー(以下ショック)を交換していないので、交換することにしました。ひどく抜けているという程ではないのですが、ロッドのプロテクター部分が錆びて欠落し始めたなど、まぁ、交換してもよかろうということで。


■ 新しいショック

 とにかく安いという理由で、Procomp ES3000を選びました。ちょっと上乗せすると、よりハイパフォーマンスなES9000も買えるのですが、特にこだわりはないので、一番安いやつです。ブッシュ類込みで4本で25000円、それからナットやワッシャー類を日産純正部品で新品を購入したのが3000円ほどです。
 ちなみにES9000は低圧ガスショック、ES3000は一応なんかガスは入ってるみたいですが、ほぼ大気圧、つまりただのオイルショックのようです。

Procomp ES3000
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 低圧ガスショックはガス圧によって勝手に伸びてしまいますが、オイルショックはそれほどの圧が掛かっていないので、どのポジションにしても、その位置を維持します。
 Procompの製品(代理店?)サイトによると、ES3000は低圧ガスショック(飛び出さない)、ES9000は高圧ガスショック(飛び出す)ということになっています。自分の認識では、高圧ガスショックはビルシュタインのような単筒式、複筒式は飛び出すものが低圧ガスショック、飛び出さないもの(さらに圧力が低い)はただのオイル式という認識なので、ES3000はただのオイルショックです。
 ショックは、飛び石や泥などからピストンロッドを保護するために、ロッド部を覆うようにプロテクターが備えられています。メーカー装着のショックは、鉄のパイプを使っていますが、サードパーティ品はラバーブーツも使われています。ES3000はラバーブーツタイプです(購入時に色を選べます)。固定はシリンダ側はインシュロックで、ロッド先端側は、先端に取り付けられたフランジにはめるという形です。フランジへの取り付けはちょっと甘い感じだったので、こちらもインシュロックで固定しました。
 ブーツの上下には水/空気抜き穴があり、これを塞がないような位置にブーツを固定します。このブーツ、ハイリフト用のロングストロークのものと共通なようで、標準ないし2インチアップ程度のものにはちょっと長すぎます。目一杯縮むと、押しつぶされる形で固定が甘い上側が外れるかもしれません。
 注意点として、ナットのサイズがあります。このショック、どうもインチネジのようで、ステム用のナットが約14mmなのですが、実際にはそれより何分の1mmが大きく、ツールによっては14mmだとうまくはまらないとか、きつい場合があります。


■ フロントショックの取り外し

 まずはフロントから。フロントのショックはホイールの裏側、ナックル部の付け根に取り付けられているので、ジャッキアップし、ホイールを外して作業します。今回、ウインチ整備も平行して行っているので、バンパーも外してあります。

ジャッキアップしてウマをかける
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 15年も触っていない足回りのボルトなんか、触るものではありません。とにかく緩みません。
 フロントショックは上下ともステム(ボルト)タイプで、フレームのマウント部には、ゴムブッシュを介して取り付けてあるので、そのまま回してもショックごと回ってしまいます。そのため、回り止めをしないといけません。フロントはロッド最上部の一部が平行面になるように加工されていて、ここにスパナを掛けることができます。
 サファリのフロントショックの上側は、非常に狭いところにナットがあり、ソケットレンチははいりません。オフセットのあるメガネもだめ。使えたのは、わずかに角度のついたコンビのメガネ側と、首振りタイプのラチェットメガネだけでした。
 スパナで押さえながら上側のナットをはずすのですが、、これが固い。結局、ラスペネを数回かけ、ハンマーで軽く衝撃を与えるなどして、最終的には満身の力を込めてどうにかゆるみました。ゆるめはコンビで行い、その後のナット外しはラチェットメガネを使いました。

フロントの上側のナットを、回り止めして外す
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 下側のナットは広いところにあるので、インパクトで楽勝と思っていたのですが、これまたゆるみません。インパクトは20kg・m程度のトルクは出るはずなんですけどね。下側はまた悪いことに、回り止めスパナが掛けられる構造になっていません。インパクトなら回り止めはいらないのですが、これがだめなので、どうにかしないといけません。結局、パイプなどの回り止めに使うチェーンレンチを使って押さえました。もともとオイルフィルター用に購入したものなので、そんなに大トルクに耐えられるようなものではないのですが、どうにか耐えてくれました。
 もっともインパクトでもだめだった固く締まっているナットが、チェーンレンチを手で押さえた程度緩むわけもなく、結局、チェーンレンチには魔法の杖(という名前の鉄パイプ)を突っ込み、ナット側は500mmのラチェットハンドル(昔トルクレンチだったもの)を使い、どうにか緩めました。タイロッドが干渉するのでエクステンションを使ったのですが、そのせいで変な向きの力がかかり、ショックのボルトがひん曲がっていました。

チェーンレンチ
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チェーンレンチと500mmラチェット
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魔法の杖 登場
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魔法の杖とそれに敗北した文明の利器
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取り外したフロントショック
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■ フロントショックの取り付け

 今回購入したES3000、ステムのネジ部の長さに対してブッシュの厚みが結構あり(というかネジ部が短く)、車体にセットした状態では、ボルトのネジ部がブッシュの上に出てきません。つまり、ギュッと押さえないとナットがかからないのです。ちょっとがんばってやってみたのですが、非力な自分の握力でゴムが縮むわけもく、またうまくクランプなどをかける隙間もなく、結局ブッシュをナイフで切り、ちょっと薄くしました。

フロントブッシュ
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新しいフロントショック
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■ リアショックの取り外し

 リアショックはホイールよりかなり内側に取り付けられており、上部マウントも下側からアクセスするので、ホイールを外す必要はありません。ただ、作業空間を確保するために、ジャッキアップし、フレームをちょっと持ち上げています。
 リアショックは、上下とも取付部はアイになっており、フレーム、アクスル側の取り付け軸に差し込む構造になっています。なので、その軸の先端のネジ部のナットを外せば、取り外すことができます。アクスルに取り付ける下側のナットはあっさりと緩んだのですが、上側がアクスル上部の奥のほうにあり、うまく工具がはいりません。フレーム側の取り付けボルトのちょっと先にはサスペンションスプリングの上側のマウント部があり、ソケットレンチははいりません。また右側はブレーキのLSPV(積載量によって後輪ブレーキの油圧を調整するバルブ)、左側は排気管がそばにあり、かなり狭いのです。

リアの下側
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右リア上側
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左リア上側
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 使えるのは、フロントの上側に使ったコンビかラチェットメガネだけです。しかも固く締まっています。一応、作業の1週間前にラスペネも吹いておいたのですが、だめなものはだめです。フロントで懲りたので、リアの作業を始める前に、ラスペネとは違う新しいケミカルを使ってみました。これは冷却して潤滑剤を浸透させるというものです。ボルト部を急冷することで収縮させ、錆びや固着部にクラックを発生させ、そこに潤滑剤を浸透させるというものです。

冷却潤滑剤
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取り外したリアショック
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 これを試してみたら、それなりに硬かったものの、案外簡単に緩みました。というわけで、リアに関しては、狭くて時間がかかるという点以外は、取り外しはほとんど苦労しませんでした。


■ リアの取り付け

 取り外しが楽だったのですが、取り付けに意外と苦労しました。
 まず上側から取り付けます。ツールの動く範囲が狭いので、下側をフリーにしておき、なるべく広くしておきたいからです。まずブッシュのはまったアイを軸に差し込むのですが、これがはまりません。ラバーだかウレタンなので軸径より内径がちょっと小さいのですが、とにかく場所が狭く、力がはいらないのです。結局、アイのちょっと下のロッド部にストラップをまわし、車の後ろ側から引っ張るという形で差し込みました。
 さて本締めしようというところで問題が発生。上側はアイのブッシュを両側から挟むようにワッシャーが付くのですが、これがブーツ取り付け用フランジにすごく近く、アクスルの動きによっては接触しそうです。また隙間が狭くてブーツの上側がはまりません。
 仕方がないので、干渉する部分のワッシャーを削ることにしました。せっかく取り付けたショックをまた外し、ワッシャーをグラインダーで削ります。そして干渉しないようにうまく向きを合わせながら、再度ショックを取り付けます。

ワッシャーの加工
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 ところで、ナットを締めるとき(ゆるめるときも)かなり硬いなと思っていたのですが(手で回らないくらい)、よく見たらネジの一部をカシメて変形させているロックナットでした。そういえばこのナット、再使用不可部品でした(だから新品を注文したのでした)。まぁ、何度か付け外しをしているので、再使用しているのですが。。
 下側にも問題がありました。アイのブッシュの厚みに対して軸部が長くて隙間ができ、ナットを締めてもブッシュがスライドしてしまうのです。フロントは厚すぎたのにリアは短いのかよ。。。上側の干渉といい、下側の隙間といい、全体的に純正のショックよりもマウント部が小ぶりなようです。

リア下側の取り付け軸
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隙間がある
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 この隙間をなくすために、30mmのアルミ丸棒から厚さ5mmのスペーサーを削り出し、ブッシュとアクスルの間に挟み、ちゃんとナットで圧力をかけて押さえられるようにしました。写真ではスペーサーが黒く塗られているのでわかりにくいですが、ショックのアイとマウントの間にはまっています。

アルミでスペーサーを作る
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厚さ5mmのスペーサー
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スペーサーを介して取り付け
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取り付け完了
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■ まとめ

 ショック交換は、最初の車のJeepでも、前に乗っていたY-60でもやっているのですが、どれも半日もかかりませんでした。特にY-60は今のY-61とまったく同じ構造だったのですが、新車から数年でやったので、固着がなく、比較的簡単に済みました。やっぱり錆びるとだめですねぇ。。。
 あとひとつ気になる点が。
 リアの左ショックは排気管のすぐ横なのですが、これのゴムブーツがかなり排気管に近いのです。走っている間は大丈夫でしょうが、渋滞などで止まっている間、あぶられることになります。溶けるんじゃなかろうかと。。。しかし、猛暑日の炎天下、高速の通行止めで1時間半アイドリングを続けましたが、とりあえず大丈夫でした。

ブーツと排気管
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 さて、ショックを交換した後の乗り心地の変化ですが。。。
 鈍感な自分には変化は感じられませんでした。ステージによっては差があるのかもしれませんが。。
 前のショックも抜けていた訳ではなく、ノーマルに近い味付けのものに変えたので、差があまりないのでしょう。まぁ、以前の乗り心地に不満があったわけでもないので、これでよしとします。

posted by masa at 10:55| 自動車整備

2018年06月09日

ジャッキの作動油漏れを直す


 以前、車のタイヤ交換などに使っていたSLマンモス3t(大橋産業)というフロアジャッキを最近買い替えました。これはホームセンターで普通に売っているジャッキの中で最大級のものです。
 買い替えた理由の1つは作動油が漏ることでした。漏るといっても、ジャッキが下がってくるといった症状ではなく、リリース弁を回してジャッキを下げる時に、リリース弁のところから漏るのです。
 新しいジャッキ(長崎ジャッキNSG-3)があるので、SLマンモスはほぼ引退なのですが、補助ジャッキとして使えるようにしておこうと、修理することにしました。

大橋産業 SLマンモス3t
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 降ろすためにリリース弁を回すと、その軸の付け根から漏るのですから、原因はこの部分のパッキン材の劣化でしょう。まずはこのリリース弁のネジ軸を外します。このジャッキはジャッキレバーをねじるとリリース弁が開閉される構造で、レバーとリリース弁の軸はレバー支点位置で歯車で噛み合う形になっています。
 外れ止めのボルトを外せば、くるくる回すだけで逆ネジのリリース弁軸を取り外すことができます。この時、ジャッキのラム部にあるオイル注入口に隙間をあけて、空気圧差をなくしておきます。これをやらないと、油が吹き出すことがあります。

リリース弁部分
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リリース弁軸を外したところ
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取り外したリリース弁軸
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 リリース弁軸にはOリングが組み込まれており、これで密閉しているはずなのですが、よく見ると外側がだいぶ平らになっています。たぶんこれがすり減って、漏るようになったのでしょう。
 手持ちのOリングセットの中から合うサイズのものを選び、交換します。並べてみると、新しいものが気持ち太いのがわかります。

Oリングセット
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新旧のOリング
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 リリース弁軸に組み込むと、ゴム部の張り出しが以前より明らかに大きくなっています。

新しいOリングを付けたリリース弁軸
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 リリース弁軸を組み込み、動作させてみましたが、とりあえず油漏れはなくなりました。これまでの油漏れで作動油がかなり減っているので、フィラープラグを外して油を足しておきます。今回はタービン油を使いました。何度かフルストロークさせてエア抜きして、作業終了です。ついでに、何年ぶりかで各部に注油しておきました。
 実際に車を上げてみましたが、軸重1tちょいを2輪同時に問題なく上げられます。ただこのジャッキ、3tとなっていますが、がんばって2tがいいところという感じです。

デフ玉に掛けて2輪同時ジャッキアップ
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posted by masa at 14:03| 自動車整備

2018年05月31日

中華ウインチを買ってみた


■中華ウインチを入手

 ウインチはさまざまな目的で使われていますが、その中に車載用というものがあります。車載用ウインチには、動力源がPTO(ギヤボックス経由のエンジン出力)、油圧、電動のものがあります。その中で、レジャーや簡易使用の分野で広く使われているのが電動ウインチです。クロカン系4WDや作業用車両、ボートトレーラーなどに使われます。
 もともと車載の電動ウインチはアメリカ製が主流で、国産ではアイシン製などがメーカーオプションに使われていましたが、最近は通販サイトを中心に、中国製のものが広く販売されています。値段は米国メーカー製の数分の1から1/10程度です。
 どんなもんだろうと思って、小型のものを1つ新品で買ってみました。能力は1300kg(3000ポンド)、ワイヤーは4.8mm、長さは12mです。フック、ベースプレートとローラーフェアリード、スイッチが2個ついたコントローラがセットになっています。これを7500円ほどで入手しました。


  パッケージの内容

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  ウインチ本体

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  フックとローラーフェアリード

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  コントローラー

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■消費電力

 この種のウインチは車両用なので、DC12Vで動作します(数は少ないですが、ディーゼル車用の24Vモデルもあります)。
 車載電動ウインチの大きな問題の1つは、この電源電圧の低さです。ウインチは牽引力相応のモーター出力が必要で、だいたい1馬力ないし数馬力、つまり0.75kWないし数キロワットの出力のモーターが必要です。例えば1kWのモーターを12Vで駆動する場合、効率が100%でも83Aの電流になります。なので実際には100A超の電流が流れることになり、これはおおよそスターターモーターと同程度です。スターターは数秒程度しか使いませんが、ウインチは数分程度の連続使用になります。
 今回購入したものは自称モーター出力1kWで、最大牽引時に130Aとなっています。
 より大型の3000kg以上のウインチだと3馬力程度のモーターなので、最大電流は400Aを超えます。車載のオルタネーターの余力は、普通車だとせいぜい100A程度なので、これを超える分はバッテリーからの持ち出しになります。なので、ウインチをまともに使おうと思ったら、大容量バッテリーは必須です。それでも大負荷だと数分で使用限界に達してしまい、再充電の時間が必要になります。つまり作業用などの連続使用は無理ということです。


■ぱっと見た感じ

 このクラスの製品は何種類かあり、牽引能力によってモーター出力が違うようです。しかしドラム回りの構造部材などが大きく違うようには見えません。ウインチの構成は、モーターと一体になったギヤボックスにドラムを取り付け、そのギヤボックスにL字の鉄板をネジ止めし、ドラムの反対側がその板に取り付けられた軸受で支えられます。またギヤボックスと軸受のそばに2本のステーを渡して、ドラム軸受の強度を確保しています。

  ドラムと軸受

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 しかしこの鉄板はさほど厚くなく、取り付けネジも細いし、軸受も貧弱です。これらの部材が1tを超える荷重に耐えられるようには見えません。まぁワイヤーも細いし、電線もちょっとなぁという感じです。というわけで、実用牽引力はせいぜい300kgから500kgかなと思っています。


■モーター

 前に触れたようにDC12V、出力1kWです。この出力の割には、直巻ではなくマグネットモーターです。永久磁石界磁なので、接続する電線は回転子用の2本だけで、これの極性を切り替えれば反転します。
 とりあえず仮組して運転したところ、無負荷で6A程度でした。説明書では無負荷で12Aなっていたので、それよりは少ないです。ちなみに直巻だと、無負荷でも本当に10A以上流れます。
 ブラシ側ははめ込みが硬かったので外していません。


  モーター全体

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  モーターの内部

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■コントローラー

 より大出力なウインチは、数百アンペアの電流を開閉するために、リレーボックスを使っていますが、このクラスはスイッチで直接開閉します。コントローラーからは、バッテリーに接続する2本、ウインチに接続する2本で、4本の電線が出ています。
 どちらの電線も赤と黒のペアですが、長さが違うので区別できます。どっちがバッテリーでどっちがウインチという区別はありません。しかしペアでないほうの線をバッテリーにつないでしまうと、スイッチ操作でショートしてしまいます。色を変えておくとか、ラベルつけとくとかすればいいんですけどね。電線の末端は丸型圧着端子で、モーターの端子、バッテリーの適当なターミナルにネジ止めします。
 電線の長さが短いので、手元で操作する感じになります。車載で使うには、配線を延長することになるでしょう。

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 使用されているスイッチは防水タイプ(たぶん)のプッシュ式で、内部に常開、常閉の2組の接点があり、2個のスイッチを適当に配線することで、モーター停止、正転、逆転ができます。
 使用されているスイッチは防水タイプ(たぶん)のプッシュ式で、2つのスイッチが1つのパッケージにまとめられたものです。それぞれのスイッチは双極単投タイプ、つまり押した時にオンになる接点を2組持っています。回路は以下のようになっています。

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 単純にこのような回路を組んだ場合、両方のスイッチを押すとバッテリーがショートしてしまいます。テスターで導通を調べたところ、このスイッチは、両方のスイッチを同時に押した場合は、どの接点もつながらないインターロック機構を内蔵しているようです。インターロックといっても、同時にボタンが押せないというものではなく、ボタンは押せるものの接点は接触しないという形です。
 これにより、スイッチを1つだけを押せば巻取りか繰り出しが行われ、両方を押すと動作しません。

■ドラム

 ドラムに、5mm弱のワイヤーを12m巻き取ります。ドラム径が小さく、ワイヤーは弾性があるので、無負荷時にビローンと広がってしまいます。これを防ぐために、ドラムにワイヤーを押さえつける鉄板のプレートが装備されており、ケーブルの繰り出しや巻き込みに抵抗を与え、ケーブルが暴れないようにしています。乱巻き防止にもちょっとは役立つかもしれません。


  ワイヤー押さえ

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 モーターの反対側のドラム端にはノブがついており、これを引っ張ってちょっとひねると、ドラム駆動軸がギヤから切り離され、ドラムが自由に回転するようになります。ギヤとの噛合によっては外れにくいこともあり、その場合はドラムをちょっと回すようにしてやると外れます。
 この状態ではケーブルを自由に引き出せるはずなのですが、実際にはワイヤーの弾性とかワイヤー押さえの鉄板との絡みなどで、簡単にはいきません。勢いよく引っ張り出そうとすると収拾がつかなくなります。ワイヤーが中でたるまないように、ゆっくり引き出す必要があります。
 ロックする際は、ノブ軸に刺されたピンがドラム側の溝にはまる位置までノブを回します。するとノブ軸が引っ込み、ドラム軸がギヤに噛み合います。


  結合状態

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  フリー状態

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■ギヤボックス

 試運転したところ、ギヤノイズが凄まじかったため、ばらして給脂しました。
 裏側のネジとステーのネジを外すと、モーターとL字の鉄板、ドラムが外れます。ノブを回して取り外し、ワイヤー押さえ鉄板を外せば、ドラムとL字鉄板も外せます。ドラム軸受にはかすかな油分しかありませんでした。これで1tの荷重に耐えるって、無理でしょ。。

  プレートを取り外した状態

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  ドラムを取り外した状態

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 ギヤボックスのネジとステーを外すと、ギヤボックス側の軸受プレートが外れて、内部のギヤが見えます。とはいっても、この時点ではお鍋の底のようなものが見えるだけ。中心にドラム軸が噛み合う穴が見えます。これを外すと、裏側に遊星ギヤ用の内歯車があります。その下にあるのは遊星歯車を3セット持つプラネタリキャリアです。これに申し訳程度のグリスがついていましたが、肝心の歯の部分にはほとんどわまっていませんでした。うるさいわけです。

  ギヤボックス内部の潤滑状態

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 遊星歯車は、ギヤボックスの内側にある固定内歯車に噛み合い、そして中心にはモーター軸に直接刻まれた太陽歯車があります。遊星キャリアは遊星歯車を支えるだけで、出力用の軸やギヤは備えられていません。固定内歯車の歯幅は遊星歯車の歯幅の半分で、遊星歯車の残り半分の歯幅は、ここにかぶせる出力用の内歯車に噛み合います。
 太陽歯車が回す遊星歯車が、固定内歯車と出力内歯車に噛み合っていて、遊星キャリアはどこにもつながっていないというこの歯車は、不思議遊星歯車減速機構というもので、1段で100以上の減速比が実現できるという特長があります。このウインチでは、太陽歯車が6T、遊星歯車が22T、固定内歯車が48T、出力内歯車が61Tで、減速比は153になります。


  各部品を洗浄

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  モーター軸の太陽歯車と固定内歯車

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  遊星歯車とキャリア

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  出力側内歯車

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  固定内歯車と遊星歯車

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  出力側内歯車

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  組み合わせた状態

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 実際に回転している様子を示します。無潤滑での動作は電源電圧5V、グリース潤滑されている状態は3V程度です。

  遊星歯車の回転




  出力側内歯車の回転




  グリスまみれでの回転




 不思議遊星歯車の固定内歯車と出力内歯車はピッチ円直径が同じなのに歯数が異なるので、実際には転位歯車という構造にしなければいけないのですが、これはそうなっていないようです。このギヤボックスがうるさいのは、そのへんにも理由があるかもです。
 不思議遊星歯車の構造については、以前投稿した動画があるので、それを見てください。


https://www.youtube.com/watch?v=ttfPo773HEU




http://www.nicovideo.jp/watch/sm12579213



■整備

 ほぼ無潤滑運転で凄まじくうるさいという状態をどうにかするために、グリースを給脂して組み立てました。静粛というほどではありませんが、まぁ許容範囲内のノイズに収まりました。


■使用形態

 このウインチは車載用として買ったのではなく(車にはちゃんとした3600kgの電動ウインチがついてる)、なんとなく買ったものです。差し当たって、ワイヤーなどにつないで使うポータブルウインチとして組み立てます。
 ウインチ本体、ローラーフェアリードを取り付けるベースプレートには4つのネジ穴があるのですが、ワイヤーとつなぐための構造にはなっていません。そこで鉄アングル材を使ってアイボルトを取り付けます。アイボルトにシャックルをはめれば、ワイヤーやスリング、フックをつなぐことができます。

  アングル材

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  アイボルト

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  出来上がり

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■電源

 無負荷なら数アンペアで動作しますが、実際に負荷をかけたら数十アンペアないし100Aくらい(ウインチが持つかどうかは別にして)になるでしょう。今回は、車用のバッテリーを使います。以前車に使っていたお下がりで、135Dというものです。まぁ乗用車に積むものとしてはほぼ最大級の容量のものです。古いものなので、実際にどれだけの容量が残っているかは謎ですが。
 バッテリーの端子に、ネジ止めタイプの端子をはめ、それにウインチコントローラへの配線の圧着端子をネジ止めします。本当は安全のために100A程度のヒュージブルリンクを入れるべきですが、それは今後考えます。


■実際の能力

 実際の牽引能力や耐久性は、まだ確かめてないのでわかりません。



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2017年10月15日

オルタネーターで遊ぶ その4

 前回、三相交流を整流してみたので、今回はレギュレーターを組み込んで直流出力を安定化してみます。


■普通のオルタネーターとして動かす

 オルタネーター1号は、実際に運転できる環境を作る前に分解し、配線を引き出してしまったので、普通のオルタネーターとしては動かしていません。今回、オルタネーター2号を入手したので、まずは何も手を加えず、普通の自動車用オルタネーターと同じ構成で運転してみました。
 電源として12Vシールド鉛バッテリーを接続し、オルタネーターを動かします。回路は以下のようになっています。

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 ボディアース(マイナス)とB(バッテリー)端子にバッテリーを接続します。この状態では、オルタネーターには電流は流れません。バッテリーの開放電圧は12.8V程度なので、回路の電圧も同じになります。
 ここでIG(制御端子)に+12Vを接続すると、200mAほどの電流がIG端子に流れます。これが停止状態での回転子の励磁電流となります。同時に、+12VのIG端子からL(チャージランプ)端子に接続したLEDに電流が流れ、点灯します。
 この状態でモーターを起動し、オルタネーターを回転させると発電が開始され、B端子に出力電圧が発生します。
 発電開始とともにL端子のトランジスタがOffになり、チャージランプは消灯します。チャージランプはオルタネーターが発電していないことを警告するものなので、IGがOnで停止時に点灯し、発電開始により消灯するという動作になります。
 発電電圧は、無負荷状態で約15Vでした。電圧を調整するのは、内蔵しているレギュレーターの働きです。この電圧はバッテリー端子電圧より高いので、オルタネーターからバッテリーに電流が流れ、充電が始まります。そして実際の自動車であれば、各部に電力を供給することになります。またこの状態では、回転子の励磁電流もオルタネーター自身が供給します。そのためバッテリーの端子を外しても、オルタネーターは発電を続けることができます。
 これが自動車などに搭載されたオルタネーターの標準的な動作です。

■レギュレーターを壊す

 オルタネーター1号のレギュレーターからの配線をすべて引き出した状態で実験をしていたところ、オルタネーターから電源に電流が逆流したのか、実験電源が壊れました。その際、電源の出力が30Vくらいに上昇し、どうもレギュレーターを道連れにしたようです。以後、IG端子への電圧印加で発電は開始するものの、電圧調整機能は正常に動作しなくなってしまいました。
 オルタネーター2号を導入したのはほかの実験のためだったのですが、1号レギュレーターが壊れてしまったため、レギュレーターの実験は2号のものを使うことにしました。


■オルタネーター2号の分解

 オルタネーター2号も、1号と同等の形式のもの(だと思って)購入したのですが、実際にいじってみると、メーカーや形状はほとんど同じであったものの、細部がいろいろ変わっていました。出力が45Aから50Aになっていたのですが、内部も一部変わっていました。最初につまづいたのがプーリーナットです。1号は22mmだったのに2号は24mmとなっていました。また電機子出力は、三相Y接続の3線ではなく、中性線が最初から引き出された三相4線式で、レクチファイヤの整流方式がちょっと変わっていました。

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 1号のレクチファイヤは、三相交流の3本の出力を6個のダイオードで全波整流していましたが、2号のレクチファイヤは中性線にも2個のダイオードを接続し、合計8個のダイオードで整流しています。オルタネーターではこのような構成の整流回路もしばしば使われているようです。
 実はオルタネーター2号は泥だらけで、電線のハンダ外しに手こずりました。その結果、熱でレクチファイヤの絶縁体を破損してしまい、2号レクチファイヤはボツとなりました。残念ながら、この方式の全波整流の実験はできませんでした。
 2号はほかにもレギュレーターとスリップリング回りの配線が変わっており、レギュレーターからの配線とスリップリングへの接続を簡単に切り離すことができませんでした。そこでここは切り離さないまま、電線だけを引き出しました。レギュレーターの構成そのものは、1号のものと同等のようです。
 また実験とは関係ありませんが、泥水のせいか、プーリー側ベアリングは回転がなかり重くなっていたため、新品と交換しました。

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■レギュレーターの実験

 こういった事情により、レギュレーター以外のオルタネーター1号と2号のレギュレーターを組み合わせるという、変則的な構成で実験することにしました。

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 自動車用として使う場合は、レギュレーターで出力電圧を調整します。レギュレーターの構成は製品によって異なり、また最近は燃費向上のために細かな制御が行われているので、ここで説明するものより複雑になっています。
 オルタネーターの交流出力をレクチファイヤで整流すると直流が得られますが、これは安定化されていません。回転が上がると電圧が上昇し、負荷が増えれば電圧が低下します。この電圧変動を調整し、出力電圧を一定の範囲に収めるのがレギュレーターの役割です。回路構成や省エネ機能などの違いはあるものの、出力電圧を調整する基本的な仕組み(回転子の励磁電流を調整する)は同じです。
 今回実験に使ったオルタネーターのレギュレーターは、以下の接続があります(レギュレーターICを裏から見たところ)。
(*が付いているのは、オルタネーター内部の接続で、通常は外部に出ていません)

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・グラウンド(G)
 直流出力のマイナス側が基準電位になります。レギュレーター部をオルタネーターに組み付けることで、レギュレーターのグラウンド回路がオルタネーターボディに接続されます(レギュレーター側にグラウンド用の配線や端子はありません)。実験回路ではオルタネーターボディの使っていないネジ穴(レクチファイヤ取付ネジ穴)に端子をネジ止めし、ここにグラウンド配線を接続します。

・バッテリー(B)端子
 オルタネーターの主プラス出力で、自動車のバッテリー/電装系に接続される端子です。

・励磁電力端子(Fp)*
 レクチファイヤには、電力出力用の主プラス端子とは別に、回転子励磁のために使う補助プラス端子があります。これをレギュレーター経由で回転子に接続し、励磁電力を供給します。今回の2台はどちらもこの端子を利用していますが、使わないもの(B端子からの電力を使う)もあるようです。これは内部で接続されています。

・励磁出力(F+、F-)*
 スリップリングを介して回転子に送る12Vの励磁電力です。回転子のプラス側(F+)は励磁電力端子に、マイナス側(F-)はレギュレーター内のトランジスタを経てグラウンドに落ちます。この2本の配線は内部で接続されています。

・制御電源(IG)端子(コネクタ)
 ここに12Vを加えるとレギュレーターが動作します。

・チャージランプ(L)端子(コネクタ)
 発電していない時にグラウンドに落ち、チャージランプを点灯させます。

 レギュレーターとレクチファイヤ、オルタネーターの交流発電部分は以下のように接続されます。レギュレーター内部の回路は類推したもので、この通りであると確かめたものではありません。

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■停止状態

 バッテリーは、レギュレーター/レクチファイヤのB端子とグラウンドに接続されます。IG端子はスイッチで12VがOn/Offされます。Offの状態ではレギュレーターは動作せず、電流も流れません。レクチファイヤも内部にダイオードがあるので、バッテリーからオルタネーターには電流は流れません。
 この状態でIG端子に12Vをかけると、IG−Fp(励磁電力)端子の間のダイオードを通り、F+を通して回転子に電圧がかかります。この状態で、F-(回転子マイナス)−グラウンド間のトランジスタが導通すると、回転子に電流が流れます。つまり、トランジスタの制御により、回転子の励磁電流を調整できるということです。
 IG端子からの12VはFp端子にもかかりますが、レクチファイヤの整流ダイオードにより、電流はレクチファイヤ側には流れません。
 またIG端子に12Vがかかっている間、レギュレーターは出力電圧を監視しており、発電していないと判断すると、L(ランプ)端子をトランジスタを介してグラウンドに落とします。したがって、+12Vからチャージランプをこの端子に接続しておくと点灯します。出力電圧が規定値以上になるとトランジスタがOffになり、ランプは消灯します。

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 回転子の直流抵抗は数オーム程度なので、12Vをかけると3Aから5Aくらい流れることになりますが、実際に測ってみると、そんなに電流は流れていません。テスターで測ると、停止時のIG端子電流は200mAほどでした。
 停止状態では回転子に1.6Vほどの電圧がかかっており、後述するスイッチング動作は行われていません。レギュレーター内部の構成はわかりませんが、電流制限抵抗(この場合だと50Ωほど)がはいっていると考えられます。


■回転状態

 IG端子に12Vを加えた状態でオルタネーターを回転させます。回転子には励磁電流が流れているので、電機子コイルに起電力が発生します。起電力はおおよそ励磁電流と回転数に比例するので、ある程度以上の回転数になれば、規定以上の電圧が得られます。
 発生した交流は、レクチファイヤで整流されます。レクチファイヤのFp(励磁電力)出力電圧が上昇すると、励磁回路にはレクチファイヤからの電流が流れるようになります。Fp−IG端子間にはダイオードがあるため、Fp電圧がIG電圧より高くなっても、この電力はIG端子側には逆流しません。この状態になると、IG端子に流れる電流は数ミリアンペアに減少します(わずかに流れる電流は、内部動作のためのものでしょう)。
 レクチファイヤのB(バッテリ)端子の電圧もバッテリー電圧以上になり、オルタネーターの電力で、バッテリーへの充電、そして自動車であれば、周辺回路への電力供給が始まります。
 オルタネーターの回転数が上がると、内部の交流発電機の出力電圧は高くなりますが、レギュレーターの働きにより、一定以上の電圧には上昇しません。負荷の増大により電圧降下が起きた場合も、レギュレーターの働きにより出力電圧が調整され、なるべく一定の電圧を維持するように動作します。

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 次回は、レギュレーターのさらなる詳細や、電圧制御の仕組みなどを見ていきます。



posted by masa at 12:31| 電気機械

2017年10月01日

オルタネーターで遊ぶ その3

 前回、交流出力ができたので、今回はこれを整流し、直流出力を見てみます。

■レクチファイヤを使って直流出力

 今回使ったオルタネーターのレクチファイヤの回路は図のようになっています(前の説明には間違いがありました)。

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 三相交流の3本の出力線(R、S、T、中性線は未使用)をレクチファイヤに接続すると、三相全波整流されます。
 回路を見ると、直流のマイナス出力はひとつですが、プラス出力が2系統あるのがわかります。上側のプラス出力(コンデンサがつながっている方)が発電機出力で、バッテリーや車両の電装系に接続されます。もう1組の補助プラス出力(コンデンサがつながっていない方)は、オルタネーター内部で使用します。
 放熱器は2個に分かれていて、それぞれに3個の大きいダイオードが取り付けられています。それぞれの放熱器は、直流出力回路の一部になっています。2個の放熱器は絶縁されており、−側はオルタネーターボディにネジ止めされています。今回は外付けなので、放熱器に端子をネジ止めしています。プラス側はオルタネーターのプラス極ボルト(B端子)と、内部のレギュレーターに接続する端子になっています。−極とB端子側のプラス極の間にはコンデンサが接続されています。
 補助プラス出力用のダイオードは主ダイオードより小型のもので、放熱器を使わず、放熱器の間で空中配線されています(交流入力電線の横の黒い円筒部品)。

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 中央の赤白黒の3本は交流入力。これらの線の横の黒っぽい円筒は補助プラス出力用のダイオード。外側の端子に接続されているのは、赤が主プラス出力、白が補助プラス出力。

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 マイナス出力は端子の形では用意されていないので、マイナス側放熱器に電線(黒)をネジ止めして引き出しています。

 レクチファイヤの交流入力に三相交流を接続すると、出力端子に2系統の直流が出力されます。三相全波整流回路が2組組み込まれた形ですが、−側は共用されているという変則的な整流回路です。
 三相全波整流では、整流出力は三相交流の頭の部分をつないだ波のような形になります。補助プラス出力は整流してそのままの出力なので、波のある波形になります。わかりやすいように、波形の表示位置を少し上にあげていますが、実際にはほとんど重なる位置になります(ダイオードによる電圧降下が0.5V程度あります)。

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 主プラス出力は、出力側にコンデンサが入っているので、無負荷状態では平滑化され、ほぼきれいな直流になっています。こちらも波形表示位置を少し上にあげています。

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 交流出力の測定は基準電位として中性線を使いましたが、整流した場合はマイナス出力を基準電位とします(オシロスコープの波形画面は、交流波形と同時に表示するため、直流出力も交流側中性線を基準電位としています)。車の電装系はオルタメーターも含めて車体全体が−極に接続されており(マイナスアース)、使用する電源は+12Vとなります。このように接続するために、オルタネーター内部の交流出力は接地されていません。なお、三相交流の中性線を基準電位とすれば、三相両波整流となり、プラスマイナス出力となります。この場合、オルタネーターボディが電位を持つことになるので、ショートなどに注意する必要があります。

■オルタネーター2号を入手

 思うところあって、ほぼ同形式のオルタネーターをもう1台入手しました。1号よりもちょっときたないですが、これから動作や内部の配線変更などを行っていきます。

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posted by masa at 13:52| 電気機械

2017年09月19日

オルタネーターで遊ぶ その2

 前回分解したオルタネーターを、実験用に組み立てます。

■配線の引き出し

 オルタネーターがエンジンに取り付けられていた時は、直流出力しか必要ないので、ボディアース、ネジ止めのバッテリー端子、そしてコネクタで制御電源とランプ端子が接続されていました。今回は実験のために、必要な別の配線を引き出します。
 まず、オルタネーターを交流同期発電機として動かすための配線を引き出します。電機子コイルのY結線の3本の出力と、未使用だった中性線から配線を引き出します。これで三相4線交流が得られます。この4本の出力はオルタネーターボディには接地されておらず、完全にフローティングになっています。この線は、取り外したレクチファイア用の穴から引き出します。ブラシからの回転子(界磁)用の配線も引き出します。これで外部から励磁電力を送り、回転子を回転させることで、三相交流発電機となります。

・三相4線交流出力(4本)
 Y結線の三相出力と中性線です。

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・回転子励磁電流(2本)
 回転子を励磁するための直流12Vの配線です。

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 交流出力は、中性線がN、三相出力がR、S、Tです。回転子はF+とF-です。

 レギュレーターICはブラシホルダーと一体に組み込まれているため、外部に取り出せません。そのため、レギュレーターの配線もオルタネーター内部から引き出します。レギュレーターは物理的にオルタネーター内部に残っていますが、電気的には完全に分離されています。
 レギュレーターの配線については、後で直流発電の実験をする際に説明します。

 これらの配線を接続したら、オルタネーターを組み立てます。


■モーターの準備

 オルタネーターを、インバーター制御の三相誘導モーターで回します。
 モーター軸にVベルト用プーリーを取り付けます。プーリーは汎用品なので、軸穴は自分で加工する必要があります。そのため、9mmの下穴のモーター軸に合わせて11mmに広げ、さらに押ネジ用の穴を加工します。

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 モーター側プーリーは3インチタイプで、オルタネーター側のプーリーよりちょっと大きいものです。誘導モーターを120Hzで運転すればたぶん3500 RPMくらいで回るので、オルタネーターは4000 RPM程度でしょうか。実際にエンジンに装着している状態ではもっと高回転になるはずなので、今回の実験では、電圧や出力は低くなるでしょう。


■台座

 適当な木材にモーターとオルタネーターを取り付けます。ベルト駆動なので、張り調整もできるようにしておきます。オルタネーターからの配線は、後でいろいろ実験できるように、端子台に接続します。

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■交流の発電

 同期発電機は、磁石である回転子(界磁)を回転させることで、固定子(電機子)側に交流起電力が発生します。回転子に永久磁石を使えば回転させるだけで発電しますが、電磁石の場合は、励磁電流を流す必要があります。
 回転子に励磁電流を流して回転させれば、電機子巻線に交流電圧が発生します。三相4線式で、Yの接続部を中性点とできるので、オシロスコープをつないでちゃんと三相交流の波形を見ることができます。これがデルタ結線だったり、Y結線でも中性線がないと、基準電位にできる中性点がないので、そのままではこの波形を見られません。

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 実は、励磁電流を流さなくても、わずかな電圧が発生します。回転子は直流励磁なので、鉄心に以前の励磁による残留磁束があり、これによりわずかな電圧が発生するのです。うまくやれば、この電圧を利用して励磁することで徐々に発電電圧が上昇し、外部から電力を供給することなく、発電を開始することもできます。
 実験してみたところ、励磁電流なしで、1Vちょいの起電力が観察できました。下の画像は、1目盛が0.2Vです。やたらノイズが乗っているのは、インバーターに由来するものでしょうか?

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 回転子は抵抗が3-4Ω程度なので、12Vを加えると数アンペアの電流が流れます。実験はとりあえず1A程度(印加電圧は約5V)で実験を行いました。励磁電流が実際にどれくらい流れるのかは、レギュレーターを接続した実験で見てみます。下の波形は1目盛が5Vです。

osc1A.png


 このオルタネーターは、回転子が12極(S-Nペアが6組)、電機子側は36スロットの分布巻きで、発電機1回転につき6サイクルの交流が発生します。
 モーターとオルタネーターのプーリー直径比が約1.25(増速)で、モーターを60Hzで駆動した場合(同期速度1800 RPM)、発電出力は約200Hz(2000 RPM)となります。


posted by masa at 01:05| 電気機械

2017年08月30日

オルタネーターで遊ぶ その1


 ふと、三相同期発電機をいじくりたくなったのです。
 一般人の日常生活で、もっとも身近な三相同期発電機は(というかほとんど唯一の選択肢は)、自動車のオルタネーターでしょう。という訳で、自動車用オルタネーターで遊んでみます。

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■自動車のオルタネーター

 自動車用のオルタネーターは、自動車で消費する電力を供給し、さらにバッテリーに充電するために、12Vか24Vの直流電力を発電します。実際には12V(24V)バッテリーに充電するために、14V(28V)程度の出力電圧になります。
 オルタネーターは交流発電機のことですが、自動車用のオルタネーターは直流出力です。これは、オルタネーター内部に整流/出力調整機能を持っているからです。オルタネーターは、ベルトを介してエンジンによって回転し、三相交流電力を発電します。そして三相全波整流器(レクチファイア)によって直流に変換します。
 エンジンの回転数は10倍近い範囲で変動するので、それに応じてオルタネーターの発電電圧も変わりますが、出力電圧が過剰にならないように、レギュレーターによって調整します。これにより、回転数が変わっても出力電圧が一定値を超えることはなく、自動車の電装品とバッテリーに安定した電圧で電力を供給できます。


■実験用オルタネーターを入手

 ネットオークションで適当なオルタネーターを仕入れました。条件はVベルトプーリー駆動であること。今時の車はたいていリブベルトを使っているのですが、プーリー入手がちと面倒そうです。Vベルトならプーリーもベルトも標準部品を簡単に入手できます。
 入手したのは、スズキキャリイ(軽トラ)用の、12V45A出力のものです。レクチファイアとレギュレーターは内蔵されており、電気的には以下の端子があります。

・アース(ボディ)
 マイナス極です。

・バッテリー(B)端子
 ケース背面にネジ止め端子で、オルタネーターの直流出力端子です。バッテリーと電装系の+母線に接続します。ここにはバッテリーによって常時12Vが加わります。

・制御電源(R)端子
 イグニッションキーにより12Vが供給される端子です。この電源によりレギュレーターの制御回路が機能し、オルタネーターのローターに励磁電流が流れます。つまりこの端子に12Vを加えないと、オルタネーターは(たとえ回転していても)発電しないということです。エンジン始動時はこの12Vはバッテリーから供給されますが、始動後は自身が発電した電力が使われます。
 この端子の名称はメーカーによっても変わるようです。

・チャージランプ(L)端子
 チャージランプ端子です。これは、オルタネーターに制御電源が供給されている(イグニッションキーがON)で、発電出力が発生していないときに、警告ランプを点灯させるための端子です。具体的には、発電出力がない時にグラウンドに落ちます。

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■分解

 オルタネーターを三相発電機として使うためには、電機子コイルの出力から配線を引き出す必要があります。またレクチファイアは必要ありません。ローターへの励磁電流も、外部から供給できるようにします。ローター用のスリップリング/ブラシ部はレギュレーターと一体になっているので、ブラシの電線だけ切り離し、ビニール線でブラシ配線を引き出します。また実験のために、レギュレーターの各端子への配線も引き出しておきます。
 オルタネーターの分解は、ネットで調べれば手順がいくらでも出てきます。ちょっと難しいのは、最初にプーリーの固定ナットを外すことです。ローターの回転を押さえなければならず、エンジンに取り付けられていればどうにかなりますが、オルタネーター単体だとうまく押さえられません。インパクトレンチを使えば簡単に外せます。

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 あとはケースのボルトを外し、軸をプラハンマーなどで叩けば、ケースを前後に分解し、ローターを抜き取ることができます。

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 電機子コイルからの配線はレクチファイアにハンダ付けされているので、これを外して電機子、レクチファイア/レギュレーターを外します。レクチファイアの直流出力がレギュレーターにハンダ付けされているので、これも外します。スリップリングのブラシもレギュレーターにハンダ付けされているので、外します。

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 一般にオルタネーターの分解は、ベアリングやブラシの交換のために行うのですが、今回は、配線を変えるのが目的なので、その辺は手を加えません。


■オルタネーターの内部構成

 オルタネーターは以下の部品で構成されています。

・電機子コイル
 オルタネーターケースの内側の固定巻線で、三相Y結線になっています。この出力をレクチファイアで三相全波整流することで、直流出力を得ています。今回の入手したものは中性線を使わない構成でしたが、3本の巻線を接続している部分を露出させ、中性線を引きだしました。

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・ローター(界磁)コイル
 回転するローターは直流で励磁される電磁石です。励磁電力はスリップリングで供給されます。レギュレーターはこの励磁電流を制御することで、オルタネーターの出力を制御します。今回入手したものは、12極ローターです。
 軸端に厚みのあるベアリングがあり、それとローターの間にほぼ同径のスリップリングが2組あります。

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・レギュレーター
 R端子に12Vが与えられると動作します。レギュレーターは、ブラシとスリップリングを介してローターコイルに励磁電流を供給します。B端子の電圧が規定以下の場合(回転していない、あるいは回転しているが出力電圧が低い)、レギュレーターはローターコイルに励磁電流を供給します。回転数が上がって電圧が上昇し、規定電圧(約14V)以上になると励磁電流をカットし、電圧上昇を抑えます。ローター電流の断切を高速に繰り返すことで、母線電圧を規定電圧に保ちます。制御は断続的ですが、バッテリーが平滑回路として働き、母線では滑らかな直流となります。
 チャージランプは、R端子に12Vが加えらており、オルタネーターが十分な電圧を発生していない場合に点灯します。つまり回転していないか、出力電圧が下限値以下である時に、トランジスタを介してL端子が接地します。自動車の場合、キーをONにすると点灯し、エンジンが始動し、回転が安定して発電を開始すると消灯することになります。
 写真は、レギュレーターとレクチファイアが接続された状態のものです。ハンダ付けを外せば分離できます。

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・レクチファイア
 6個のダイオードで三相全波整流します。+出力はB端子、−出力はケースにアースされます。またこの+出力は、レギュレーターの電圧検知端子(オルタネーター内部の接続)にも送られます。ノイズ防止用に、プラス極とマイナス極の間にコンデンサが接続されています。(間違ってました。今度訂正します。)
 写真では、絶縁用のプラスチック部品が割れてしまっていますが、これを再度組み付けることはないので気にしません。

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posted by masa at 18:18| 電気機械

2017年07月13日

Marantz 7 風プリアンプを作ってみる


 2016年の話です。
 春日無線の2A3シングルアンプが2015年に稼働したので、これにCDのライン出力をつないで聴いていたのですが、やはりレコードもこれで聴きたくなります。しばらくは市販のトランジスタアンプのフォノEQを使っていたのですが、せっかくなので真空管プリアンプを作ることにしました。ネットでいろいろ調べ、有名どころのMarantz 7の回路を作ることにしました。

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■アンプの構成

 Marantz 7はもう60年くらい前の製品ですが、今でもこれが好きな人が多く、資料も容易に入手できます。詳しくはhttp://www.takobeya.com/Marantz7C/Marantz7.htmlにまとめてあるので、そちらを参照してください。
 今回作ったプリアンプの構成、特徴はこんな感じです。

・Marantz 7のフォノEQ、バッファアンプを作る(トーンコントロールは省略)
・Marantz 7っぽい基板、真空管まわりとする
・使用する部品にはこだわらない。

■真空管ソケット周辺

 Marantz 7は、ケース内部の垂直の板に真空管ソケットが取り付けられています。つまり真空管は水平に配置されます。ケース背面には長穴があいていて、シールドケースがケース背面から少し飛び出します。
 今回作ったアンプは、この構造を踏襲し、真空管ソケットをアルミアングルに取り付け、ケース背面にあけた穴からシールドケースが飛び出すように配置してあります。ケース背面はCNCで穴抜きしました。オリジナルは12AX7を6本使っていますが、トーンアンプを組み込まないので、本作は4本構成です。

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■基板

 Marantz 7はラグ板配線ではなく、基板を使っています。しかしプリント基板ではなく、ベークライト板に貫通ポストを立てて、CR類を結線します。本作では、3mm黒色ベークライト板に2.5mmネジを切り、ポストを立てています。この基板の両面にCとRを取り付けます。基板は真空管ソケットに隣接しており、基板とソケットを結ぶCRは、直接ハンダ付けしています。基板に信号配線を接続する部分にはポストを立てています。電源の接続はポスト間のスズメッキ線に直接接続しています。このような構造なので、後から部品交換を行うのはかなり大変です。

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■回路

 回路については、Marantz 7ほぼそのままです。詳しくはWebサイトのほうに書いてあります。Phono入力の抵抗が47kΩと1MΩが並列にはいってますが、これはWebサイトにも書いた通り、オリジナルの回路構成の都合です。47kΩはフォノイコライザ動作の時にのみ挿入され、1MΩは(マイク、テープヘッドなどのために)常時挿入されている入力抵抗です。実装上では、1MΩは基板上、47kΩは入力端子に接続しています。
 使っている部品は、抵抗がごく普通の金属皮膜抵抗、電界コンデンサも普通のもの、信号系のコンデンサはフィルムタイプです。イコライザの時定数はマイラーコンデンサで、オリジナル回路の容量とするために、2つのコンデンサを並列につないでいます。

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■入力セレクタやボリュームなど

 今回は、Photoが1入力、Lineが2入力です。
 ケース背面のRCAコネクタからの配線は、オリジナルではフロントパネルのセレクタ類に直接伸びていますが、作例では配線長を短くするため、セレクタとボリュームを真空管のすぐ上に取り付け、コネクタからの配線長を数十ミリに抑えています。
 オリジナルは、Line入力時にはPhono入力をグラウンドに落とすという回路になっているのですが、引き回し長が伸び、スイッチ回路が増えるので短絡回路は省略しました。

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 セレクタとボリュームは、延長軸でフロントパネルのつまみに接続していますが、ケース組立誤差により、軸が一直線に揃いませんでした。そのためユニバーサルジョイントを作りました。スパイダー部は金属ですが、ヨークがジュラコン樹脂なので、絶縁継手となっています。もちろん、タイトカップリングなどの市販品を使うのが普通で、わざわざジョイントを自作したのはただの自己満足です。

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■電源

 東栄(http://toei-trans.jp/)で買ったP-260Bというトランスで、次の巻線があります。

・260-0-260V 30mA
・0-6.3-15-17V 2A
・6.3V 1A

 これを、基板側への漏洩磁束がなるべく少なくなるような位置に取り付けました。10ターンのコイルをいろいろ動かし、それに発生する1mVほどの電圧を見ながら、位置と向きを決めています。ショートリング付きなのでさほど漏れないのですが、まぁ気持ちの問題です。
 B電源は260V-0V-260Vの巻線をシリコンダイオードで両波整流し、CRフィルターで平滑化しています。フォノイコライザーは245V、フォノEQ出力段と出力バッファのカソードフォロワは280Vの電源を接続しますが、これはCRフィルターの適当なところから引き出すことで、目的の電圧としています。抵抗値は現物合わせで決めました(写真は仮付抵抗で調整中のもの)。

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 ヒーター電源は、12AX7のヒーターを管内で直列で使用し、DC 12.6Vで点灯しています。トランスの15V巻線から適当なシリコンブリッジで全波整流し、LM338で安定化しています。

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 セレン整流器? 何だっけそれ? 昔、鉄道模型のヘッドライト切り替えやパワーパックの整流に使ってたっけ(遠い目)。。。

■問題点

 特に問題もなく音が出たのですが、実は未解決の問題が残っています。
 MCカートリッジのDL-103を接続し、MCトランスをスルーにすると(つまり入力にDL-103を直接接続すると)フォノイコライザーが発振するという症状があります。トランスでステップアップしたり、インピーダンスの高いMMカートリッジを使う分には問題ありません。DL-103の内部抵抗に近い抵抗をつないでも問題なし、DL-103の小さなL分がある時のみだめなようです。
 発振時には入力側にも数十mVの電圧がかかってしまい、カートリッジによくないので、じっくりと各部を調べる訳にもいかず、また実用上の問題もないので放置状態です。今のカートリッジが腐ったら実験してみます。

posted by masa at 02:07| 電子工作

2017年07月02日

ジョグシャトルで遊ぶ その3


 今回は、ジョグモードとシャトルモードの切り替えの説明と、Arduinoで動くサンプルプログラムを示します。

arduino.JPG

■ジョグとシャトルの切り替え

 ツマミを上から押すことで、ノック式ボールペンのような機構的な仕組みによりジョグモードとシャトルモードが切り替わります。この変化は、軸の上下を検出するフォトインタラプタから得られるモード信号を調べることで検出できます。
 これとは別に、シャトルモードで使うための、シャトルセンター位置を示す信号があります。これは羽が1枚だけ付いた回転する板が、シャトルのセンター位置の時に、フォトインタラプタの光を遮るという形で信号を生成します。
 この部品はシャトルモードの時はツマミ軸に噛み合って回転し、回転範囲を制限し、クリック位置を定めます。ジョグモードの時は軸から切り離され、スプリングでセンター位置に移動します。したがって、ジョグモードからシャトルモードに移行した時は、常にセンター位置から始まることになります。
 このような機械的な動作に合わせて、プログラムを作ります。動作は次のようになります。

・シャトルモードでは、回転パルスによってnShuttle変数を増減させる。
・センター信号の検出で、nShuttle変数を0にリセットする。
・ジョグモードでは、回転パルスによってJogFwd()関数かJogRev()関数を呼び出す。
・シャトルモードに移行した時は、センター信号を検出してから動作を始める。
・ジョグモードに切り替えた直後は、ツマミの回転検出を一定時間行わない(切り替え時に意図しない移動をしないようにするため)。


 これを実現するために、ジョグ/シャトルのモードの状態は、過渡的なものも含めて以下のようになります。

・状態1: ジョグモードに移行(回転検出を行わない)
・状態2: ジョグモード(回転検出を行う)
・状態3: シャトルモードに移行(センター未確認)
・状態4: シャトルモード(センター確認済み、回転検出を行う)

 これらの状態は、時間経過やジョグ/シャトルの動作によって別の状態に移動します。定常状態は状態2状態4で、ここでは回転の検出を行い、そして必要に応じて、状態2ではJogFwd()関数かJogRev()関数の呼び出しを行い、状態4ではnShuttleの更新を行います。
 状態1から状態2へは時間経過で、状態3から状態4はセンター検出で移行します。またすべての状態において、モード切替の検出を行います。

state.jpg

 状態は以下の定数で表します。


enum {
JsJogOn = 0, // シャトルからジョグに移行
kJsJog, // 現在、ジョグモードである
kJsShOn, // ジョグからシャトルに移行(センター未確定)
kJsSh // 現在、シャトルモードである(センター確定)
};


 状態はグローバル変数jsModeに保持し、この値で場合分けして、各状態での処理、別の状態への遷移を行います。kJsJogOnkJsShOnは過渡的な状態を示すもので、実際のジョグ動作はkJsJog状態で、シャトル動作はkJsSh状態で処理を行います。
 状態の遷移は、モード信号(GetMode()関数)でジョグモード(kJsJogOn)かシャトルモード(kJsShOn)かを判定します。シャトルモードに移行した場合、その後、センター位置をGetCenter()関数で判断してkJsShに遷移します。
 ジョグモード(kJsJogOn)に遷移した時は、ツマミを押す操作で多少ツマミが回転してしまうため、それをカウントしないように500ミリ秒ほど待機してから、実際にジョグ操作を行う状態(kJsJog)に移行します。
 シャトル処理、ジョグ処理は、ChkRot()関数で回転を検出します。この関数はGetClk()関数で現在のΦ1、Φ2信号を読み込み、以前の信号の状態(prev変数)を組み合わせてテーブルを引き、動作内容を返します。この値に応じて、ジョグモードの場合はJogFwd()関数かJogRev()関数を呼び出し、シャトルモードではnShuttle変数を増減します。またnShuttle変数が変化した時は、JogShuttle()関数は非0を返します。
 シャトルモードでの処理は、常にセンター信号を監視し、センターであればnShuttle変数を0にリセットします。実はここでちょっと問題があります。このジョグ/シャトルユニットは、センターとして認識される角度範囲が意外と広く、この範囲中でカウントが進むことがあるのです。そのためカウントミスが発生し、変数の増減で0になったにも関わらず、センター信号が検出ず、さらに進んでセンターと判断されてしまいます。具体的には、2、1、0、-1、0(センター検出)という出力になってしまいます。このような動作はまずいので、カウントが0になるのにセンター信号が検出されない時は、カウントを0にせず、前の値を維持し、0になるのはセンター信号を検出した時だけとしています。
 JogShuttle()関数を呼び出す前に、変数の初期化が必要です。これは、prev変数に最初の状態を読み込む、jsModeに最初の状態を読み込むといった処理を行います。

 これらの処理を行うプログラム例(Arduino用)を以下に示します。関数JogShuttle()がジョグ/シャトルのためのポーリングルーチンです。この関数はジョグ/シャトルの信号線を読み込み、以前の状態と組み合わせて動作を判定し、必要な作業を行うという処理を1回だけ行います。なので、実際にジョグ/シャトルを使う際は、この関数を繰り返し呼び出す必要があります。呼び出し間隔が長く、その間にツマミが何ステップ分も回されると、データの取りこぼしとなります。ジョグをすばやく回した時でもパルスの取りこぼしがないようにするには、1秒間に数百回程度は呼び出す必要があるでしょう。
 また、この関数を呼び出す前に、最初に使う以前の状態データ、ジョグ/シャトルの状態データを初期化しておく必要があります(setup()関数中で実施)。

 以下のプログラム例は、ATmega328のArduino用のもので、信号入力はすべて別関数として定義しています(GetClk()GetMode()GetCenter())。初期化はsetup()で、メイン部分のloop()は繰り返し呼び出されます。


//
// ジョグ/シャトルのテストプログラム (Arduino ATmega328)
//

// 回転を検出するテーブル
enum {
kRotNotMove = 0,
kRotFwd,
kRotRev,
kRotMiss
};

// クロックの変化パターンから回転を判定
const unsigned char jsPhPat[16] = {
kRotNotMove, // 00 -> 00 Not move
kRotFwd, // 00 -> 01 +
kRotRev, // 00 -> 10 -
kRotMiss, // 00 -> 11 Miss
kRotRev, // 01 -> 00 -
kRotNotMove, // 01 -> 01 Not move
kRotMiss, // 01 -> 10 Miss
kRotFwd, // 01 -> 11 +
kRotFwd, // 10 -> 00 +
kRotMiss, // 10 -> 01 Miss
kRotNotMove, // 10 -> 10 Not move
kRotRev, // 10 -> 11 -
kRotMiss, // 11 -> 00 Miss
kRotRev, // 11 -> 01 -
kRotFwd, // 11 -> 10 +
kRotNotMove // 11 -> 11 Not move
};

// ジョグモードとシャトルモードの遷移
enum {
kJsJogOn = 0, // ジョグモードに移行
kJsJog, // ジョグモード確定
kJsShuttleOn, // シャトルモードに移行
kJsShuttle // シャトルモード確定
};

// 使用するグローバル変数
int jsMode;
unsigned long tMode;
int nShuttle;
unsigned char prev;

//
// セットアップ
//

// ピンの割り当て
const int Clk1 = 2;
const int Clk2 = 3;
const int Center = 4;
const int Mode = 5;

void setup()
{
// ピンの動作を定義
pinMode(LED_BUILTIN, OUTPUT);

pinMode(Clk1, INPUT_PULLUP);
pinMode(Clk2, INPUT_PULLUP);
pinMode(Center, INPUT_PULLUP);
pinMode(Mode, INPUT_PULLUP);
Serial.begin(9600);

// 初期状態を取得
jsMode = (GetMode() == HIGH) ? kJsJogOn : kJsShuttleOn;
prev = GetClk();
nShuttle = 0;
tMode = millis(); // 現在時刻を取得

return;
}

//
// メインループ
//
void loop() {
// ひたすら繰り返し呼び出す
if (JogShuttle()) {
// シャトル値が更新された
Serial.print("S=");
Serial.println(nShuttle);
}

return;
}

//
// ジョグ/シャトルの状態をスキャンし、必要に応じて適切な処理を行う
// シャトル値が変化した時は、非0を返す
//

int JogShuttle()
{
unsigned char act;
int ret = 0; // シャトル値に変化があった場合、1を返す

// 状態の変化の処理、現在の状態での処理など
switch (jsMode) {
case kJsJogOn: // ジョグモードに切り替わった
// モード変更の判定
if (GetMode() == LOW) { // シャトルモードに移行
jsMode = kJsShuttleOn;
break;
}
// 一定時間待ってからジョグモードに移行(回転検出はしない)
if (millis() >= (tMode + 500)) {
jsMode = kJsJog;
prev = GetClk();
}
break;

case kJsJog: // ジョグモード
// モード変更の判定
if (GetMode() == LOW) { // シャトルモードに移行
jsMode = kJsShuttleOn;
break;
}
// ジョグの回転の検出
act = ChkRot();
if (act == kRotFwd) {
JogFwd();
} else if (act == kRotRev) {
JogRev();
}
break;

case kJsShuttleOn: // シャトルモードに切り替わった
// モード変更の判定
if (GetMode() == HIGH) { // ジョグモードに移行
jsMode = kJsJogOn;
tMode = millis();
nShuttle = 0;
ret = 1;
break;
}
// センターを確認してシャトルモードに移行
if (GetCenter() == HIGH) { // シャトルがセンター位置
jsMode = kJsShuttle;
nShuttle = 0;
ret = 1;
prev = GetClk();
}
break;

case kJsShuttle: // シャトルモード
// モード変更の判定
if (GetMode() == HIGH) { // ジョグモードに移行
jsMode = kJsJogOn;
tMode = millis();
nShuttle = 0;
ret = 1;
break;
}
if (GetCenter() == HIGH) { // シャトルがセンター位置
if (nShuttle != 0) {
ret = 1;
}
prev = GetClk();
nShuttle = 0;
} else {
// シャトル回転の検出
act = ChkRot();
if (act == kRotFwd) {
if (nShuttle != -1) { // センターの例外処理
nShuttle++;
ret = 1;
}
} else if (act == kRotRev) {
if (nShuttle != 1) { // センターの例外処理
nShuttle--;
ret = 1;
}
}
}
}
return ret;
}

// ジョグ操作に対応する処理
void JogFwd()
{
Serial.print(">");
return;
}

void JogRev()
{
Serial.print("<");
return;
}

// 回転の検出
int ChkRot()
{
unsigned char t;
unsigned char pat;
unsigned char action;

t = GetClk();
pat = (prev << 2) | t;
action = jsPhPat[pat];
prev = t;

if (action == kRotMiss) {
Serial.print("*");
}

return action;
}

// 2相クロックの読み込み (Arduino用コード)
unsigned char GetClk()
{
unsigned char val;

val = (digitalRead(Clk1) == HIGH) ? 2 : 0;
if (digitalRead(Clk2) == HIGH) {
val |= 1;
}
return val;
}

// モード信号の読み込み (Arduino用コード)
int GetMode()
{
return digitalRead(Mode);
}

// センター信号の読み込み (Arduino用コード)
int GetCenter()
{
return digitalRead(Center);
}


posted by masa at 21:07| 電子工作

2017年06月28日

ジョグシャトルで遊ぶ その2


■ジョグ/シャトルをマイコンにつなぐ

 ジョグシャトルをマイコンなどに接続するためには、ジョグ/シャトルから送られてくる信号を適切に処理し、回転やモードを検出する必要があります。ジョグ/シャトルコントローラに5V電源を供給すると、2相パルス、モード、センターのデジタル信号(0Vと約5V、要プルアップ)が得られます。

・2相パルス
 1回転で24サイクル、各相は90度ずれている。

・モード
 ジョグ時にH、シャトル時にL。

・センター
 シャトルセンター時にH、それ以外でL。ジョグ時はH。

 これらの信号をマイコンで適当に処理すると、ジョグ/シャトルの動作をプログラムで検出することができます。まず、回転を検出する処理を考えます。

■回転の検出

 まず2相パルス信号から回転を検出する方法を考えます。この時、回転方向も調べなければなりません。位相のずれた2相パルスを生成するのは、回転方向を調べるためです。ここでは2本の信号をΦ1とΦ2とします。
 基本的な考え方は以下のようになります。

・Φ1を回転パルスの基準とする。Φ1の信号がLからHに変化した時(ポジティブエッジ)に、ツマミがまわされたと判断する。ツマミには24のスリットを持つ羽根車がつながっているので、ツマミ1回転で、15度おきに、24回のポジティブエッジが発生する。

・Φ1がLからHに変化した時のΦ2の状態を、回転方向とする。

 これだけでいいの?って感じですが、これでいいのです。図は位相が90度ずれた2つのクロックです。ツマミの回転に応じて、波形上の位置が左から右に移動していきます。この時、Φ1がLからHに変わるとき、Φ2は必ずHです。

rot1.jpg

 赤い上向きの矢印がΦ1のポジティブエッジで、この時のΦ2の値を回転方向と判断します。つまりこの回転方向はロジックレベルHとなります。
 ジョグを逆回しすると、Φ1とΦ2の位相がずれ、次の図のようになります。

rot2.jpg

 逆に回すとΦ1とΦ2のタイミングが変わり、Φ1がLからHに変わるとき、Φ2はLになっています。
 つまり、Φ1のポジティブエッジのタイミングでのΦ2の値は、回転方向を示すのです。下の図は、途中で回転方向を変えたときに、波形がどのようになるかを示しています。オレンジの線のタイミングで回転方向を変えています。

rot3.jpg

 これで、回転と方向の検出ができます。しかしこのやり方では、ツマミ1回転で24ステップしか情報が得られません。もう少し細かく欲しい場合はどうすればいいでしょうか? 前の方法では、Φ1のポジティブエッジに着目しましたが、それに加えて、Φ1がHからLに変わる時(ネガティブエッジ)も考えれば、倍の48ステップにできます。回転方向の判定はちょっと複雑になり、ポジティブエッジの時とネガティブエッジの時では、同じ方向にまわっていても、その時のΦ2の値は逆になります。まぁ、この辺は後で考えます。

rot4.jpg

 Φ1のポジティブ、ネガティブエッジの間で、Φ2の信号も変化しています。これも回転を検出するタイミングとして使えます。この場合、Φ2のエッジをタイミングとし、その時のΦ1の値を方向とすればいいのです。こうすればさらに倍の96ステップになります。

rot5.jpg

 ただこのやり方は、方向判定がさらに複雑になります。Φ1とΦ2のそれぞれのポジティブ、ネガティブエッジを回転検出のタイミングとし、その時の他方の信号の状態によって方向を判断するというのは、まぁプログラムで条件判断や論理式をごりごり書けばどうにかなりますが、もう少しすっきりさせましょう。
 Φ1とΦ2の値は、Hを1、Lを0とすると、プログラムから見たとき、以下の組み合わせのどれかとなります。

 Φ1  Φ2
 0   0
 0   1
 1   1
 1   0

 この4通りだけです。つまみを一方向に回した時、Φ1とΦ2はこのように変化します。0から3までの2進数とはちょっと違いますが、とりあえず2ビットで4通りの組み合わせです。
 このような変化パターンをグレイコードといいます。いかなる変化の場合であっても、1ビットしか変化しない(ハミング距離が1)という特徴があります。
 ある時点でのΦ1とΦ2の状態は、2ビットのデータとして表せます。その後のΦ1とΦ2の状態も同じように2ビットで表せます。つまりΦ1とΦ2の変化のパターンは、4ビットの組み合わせ、16通りしかないのです。この程度だったら、if-elseをいくつも組み合わせて判断したり、論理演算で考えるより、テーブルにまとめてしまったほうが簡単です。
 この状態変化を表すのは、4ビットの添え字、つまり16要素の配列で済みます。上位2ビットが以前の状態、下位2ビットを新しい状態でとします。この添え字で示される配列要素の値は、その添え字で表される変化パターンの意味、つまり正回転、逆回転などを示します。
 16要素で4ビットの全組み合わせがあるので、この中には状態が変化していない組み合わせ、つまり以前の状態と現在の状態が同じものも含まれています。これは動きがなかったとみなすことができます。また前述したビット変化のパターンには、2ビットが同時に変化するという組み合わせはありません。例えば00から11に変化することはなく、00からだと必ず01か10になります。もし00から11になったとすると、途中の01か10を読み損ねた可能性があります。これらも考えると、パターン変化の組み合わせは、不動、正回転、逆回転、読み取りミスの4種類となります。
 Φ1とΦ2の変化パターン(2進数)を添え字とし、そのパターンに応じた動作を定数kRotNotMovekRotFwdkRotRevkRotMissとした場合、変化パターンのテーブルを構成する配列は以下のようになります。


enum {
kRotNotMove = 0,
kRotFwd,
kRotRev,
kRotMiss
};

const unsigned char jsPhPat[16] = {
kRotNotMove, // 00 -> 00 Not move
kRotFwd, // 00 -> 01 +
kRotRev, // 00 -> 10 -
kRotMiss, // 00 -> 11 Miss
kRotRev, // 01 -> 00 -
kRotNotMove, // 01 -> 01 Not move
kRotMiss, // 01 -> 10 Miss
kRotFwd, // 01 -> 11 +
kRotFwd, // 10 -> 00 +
kRotMiss, // 10 -> 01 Miss
kRotNotMove, // 10 -> 10 Not move
kRotRev, // 10 -> 11 -
kRotMiss, // 11 -> 00 Miss
kRotRev, // 11 -> 01 -
kRotFwd, // 11 -> 10 +
kRotNotMove // 11 -> 11 Not move
};


 たとえば以前の状態が01で、それが11に変化した場合、添え字は0111(7)となり、正回転で1ステップ進んだことになります。
 Φ1とΦ2が接続された2ビットのポートを繰り返し読み出し、1回前の読み出しデータを保存しておけば、次のようなコード(ループの内部)で回転パルスの検出と方向判定を行うことができます。


unsigned char t;
unsigned char pat;
unsigned char action;

t = GetClk(); // 現在のΦ1とΦ2を2ビットデータとして読み込み
pat = (prev << 2) | t; // 以前の状態と組み合わせて添え字を算出
action = jsPhPat[pat]; // 添え字から動作を判定
prev = t; // 次に使うために現在の値を保存

switch (action) {
case kRotFed: // 正回転
// 正回転の処理
break;
case kRotRev: // 逆回転
// 逆回転の処理
break;
case kRotNotMove: // 移動せず(何もしない)
break;
case kRotMiss: // 読み取りミス
// 必要に応じてエラー処理
}


 ジョグモードであれば、正回転と逆回転はステップ送りの処理を行い、シャトルモードであれば、シャトルのポジションを示す変数を更新する(そしてプログラムのどこかでその値を参照する)ことになるでしょう。
 次は、ジョグモードとシャトルモードの切り替えについて考えます。



posted by masa at 14:09| 電子工作

2017年06月21日

ジョグシャトルで遊ぶ その1

 テープ時代のビデオ編集をやったことがある人なら、ジョグ/シャトルコントローラを知っているでしょう。VHSやベータのビデオでも、高級な機種には本体やリモコンに装備されていました。
 ジョグ/シャトルは、実はビデオ編集に限らず、何かと便利に使うことができます。単発からある程度の周波数まで、パルス発生のためのコントローラとして便利に使うことができます。筆者は、CNCフライス盤のMPGに、このコントローラを使おうと考えています。MPG(Manual Pulse Generator)は、ツマミを回してテーブル移動用ステッピングモーターを回転させるコントローラです。つまりハンドルを手で回す代わりに、モーターで動かせるようにするのです。駆動はパルスに比例して回転するステッピングモーターを使うので、モーター制御にジョグ/シャトルは好都合です。微動はジョグモードで、早送りや定速送りはシャトルでと考えています。

■ジョグ/シャトルコントローラ

 ジョグ/シャトルはVTRのテープの早送りからコマ送りまでを円滑に行えるコントローラです。ジョグ/シャトルという名前が示すように、ジョグとシャトルという2つの機能があります。

・ジョグ
 ジョグは、何回転でも自由に回るツマミを回して、ビデオのコマ送りをする機能です。時計回りで正送り、反時計回りで逆送りで、ツマミの1回転で数フレームから数十フレームのコマ送りができます。
 VHSやベータ、8mmなどの家庭用アナログ機、DVなどのデジタル機では、ジョグを一定角度回転させるごとに1フレーム送りという形でしたが、ベータカムなどではフレーム単位ではなく、まさにテープを微動させるという形で制御できました。つまり1フレームの途中で好きなところで止めることができました。
 ビデオ編集において、フレーム単位(あるいはフィールド単位)でテープの位置決めをする際には、ジョグは欠かせない機能でした。

・シャトル
 シャトルは、正方向、逆方向に、静止画から早送りまで、速度を自由に変えながらテープを送る機能です。ツマミのセンターが静止で、左右にそれぞれ数十度から150程度回すことができます。もちろん、センターから回すほど送り速度が高まります。
 家庭用のシャトルは、手を離すとセンターに戻るものが多かったですが、SONYの業務用のものは、手を放しても戻りません。

DSCN1929.JPG

■ジョグ/シャトルコントローラの構成

 家庭用VTRや一部の業務用のジョグ/シャトルコントローラは、中央にジョグツマミがあり、その周囲にシャトルのリングがあるという構成です。ジョグツマミは自由に回転しますが、シャトルは左右に一定角度しか回転しません。
 一方、SONYの業務用VTRや編集機に使われていたものは構造がちょっと異なります。丸いツマミが1つだけで、上から押すごとにジョグとシャトルが切り替わります。ジョグモードの時は自由に回転し、シャトルモードの時は、中央から左右に150度程度回転します。手を放しても中央には戻らず、中央位置には、中央であること示すクリックがあります。また最大角度に回した時にもクリックがあります。
 ツマミが回転すると、羽車と2組のフォトインタラプタによって、位相が90度ずれた2相パルスが生成されます。各相は1回転で24サイクルなのです。どのエッジに着目するかで、1回転あたりの回転検出数は24回から96回となります。
 ツマミを上から押すと、ノック式ボールペンと同じような仕組みで、ツマミの位置が上下します。ツマミが上に上がっている時はシャトルモードで、ツマミの回転範囲が制限されます。ツマミが沈んでいる時はジョグモードで、回転範囲の制限が外れ、自由に回転できます。この回転角を制限する部品は、シャトルモードの時は軸とともに回転しますが、ジョグモードの時は軸との結合が外れ、スプリングでセンターに戻っています。そのためジョグモードからシャトルモードに切り替わった時は、必ずセンター位置から始まります。
 現在のモードがジョグであるかシャトルであるかは、ツマミの軸受け部分の上下方向の位置を別のフォトインタラプタで検出します。また、シャトルモードの際のセンター位置も、フォトインタラプタによって検出されます。

DSC_3926.JPG

DSC_3919.JPG

DSC_3913.JPG

DSC_3722.JPG

 2相の回転パルス、ジョグ/シャトルモードの判定、シャトルのセンター検出の合計4個のフォトインタラプタは、ユニット側面の基板に装着されており、そこからの信号は基板上のコンパレータICで処理されます。このICとフォトインタラプタの電源は+5Vで、信号出力は0Vか5Vのデジタル信号となります。ただし回路の都合により信号を受ける側に適当なプルアップ抵抗が必要です。

DSC_3908.JPG

 回転パルスのためのフォトインタラプタはヒステリシス特性を持つシュミット回路になっており、境界付近での振動を避けるようになっています。モード切替とセンターのほうは単純に出力をデジタル化しているだけです。
 配線の色は筆者の入手した部品のものです。ほかのものが同じである保証はありません(コネクタは筆者が交換したものです)。

jogShSchm.JPG

 1. 赤 +5V
 2. オレンジ 回転でH/L
 3. 黄 回転でH/L
 4. 青 シャトル時: センターでH、それ以外でL ジョグ時: 常時H
 5. 紫 ジョグ時にH、シャトル時にL
 6. 茶 Gnd

 SONYのこのコントローラは、業務/放送用VTR、編集機に広く使われました。慣れるととても便利に使えます。今では、テープ編集はほとんど行われないため、当時の機材がオークションなどで安く放出されており、うまく探せば、1個1000円程度で入手することができます。例えば1980年代後半から1990年ごろまでの代表的な編集機であるSONY RM-450は、このコントローラを2基備えていますが、1000円から2000円で落札することができます(今回使った部品は、2台のRM-450から取り外したものです)。多くは25年くらい前のものですが、放送用品質のおかげか、今でもほとんど問題なく使うことができます。
 これより新しいものだと、ジョグ/シャトルの切り替えが機械式ではなく電磁式になったようです。このタイプは、ツマミのそばにあるプッシュスイッチでモードを決めるようで、自分で遊ぶにはさらに解析やら付加回路やらが必要そうです。

 次回は、ドライバプログラムについて説明します。
posted by masa at 14:41| 電子工作

2017年06月11日

LEDリングライトをつくる


■ リングライトとは

 小物の撮影や接写を行っていると、被写体にうまく光があてられないことがあります。被写体とカメラが近いために、うまく光源を配置することができないためです。つまり、カメラや被写体そのものが邪魔で、撮影部分が影になってしまうのです。こんな時、レンズのすぐそばに光源を置くことができれば、被写体に光を当てることができます。リングライトは、そのような用途のために、レンズ前部に取り付ける照明装置です。
 レンズの前縁部に円周状に光源を用意すれば、カメラや被写体自体が邪魔になって光が当たらないという状態を回避できます。リングライトはスチル写真では昔から使われている機材で、かつては環状のキセノン灯(ストロボ)が使われていました。これをレンズのフィルターねじを使ってレンズ先端に取り付けることで、レンズを中心として光源が配置され、被写体に均等に光を当てることができます。被写体がレンズ面から数センチ程度の距離であっても、光を当てることができます。また、肉眼では見ることのできない穴の底なども、光源で照らして撮影することができます。
 この写真は、200mmマクロレンズに装着したストロボタイプのリングライトです。

xelight.JPG

 リングライトの特徴は、影ができないことです。光源がレンズ周辺に環状にあるので、事実上、光源とレンズが同一軸上に位置するためです。そのため、影で細部が見えないということはなくなりますが、陰影がつきにくいので、画像はのっぺりした感じになります。

■ リングライトをつくる

 写真に示したように、ストロボタイプのリングライトは持っているのですが、これにはいくつか問題があります。

・昔の銀塩カメラ時代のもので、取り付け口径が小さい(52mm程度)。
・ストロボなので、動画撮影ができない。

 というわけで、白色LEDを使った連続発光のリングライトをつくります。

■ 本体

 本体は3Dプリンタで製作し、レンズのフィルター枠にはまる構造とします。うちの3Dプリンタはフィルター用のネジなどとても造形できないので、プラスチックの弾力でなんとなくはまるという構造としました。

mount.JPG

 使っているデジタル一眼2機種、ビデオカメラ1機種で使えるように、フィルター径52mmと72mmのものを作ります。アタッチメントを付け替えてどうこうするのではなく、それぞれのサイズ用に個別に作りました。52mmのほうはLEDを24個、72mmは36個使います。
 最初に52mm用をつくりました。52mm用は、おもにNikonの200mmマクロレンズ(MF時代のもの)と、エントリークラスのデジタル一眼についている標準(18-55mm f3.5-5.6)ズーム用です。この標準ズームは妙に寄れるレンズで、全焦点距離で28cmくらいまで近づけます。なのでちょっとした物撮りなら、マクロレンズを持ち出さなくてもこれで済んでしまうという、使い勝手のよいレンズです。

rl52-3.JPG

 LEDはちょっと内側に向けて取り付けています。LEDは指向性があるので、単純に正面に向けると、極近接時に中心部分が光量不足になりますが、内側に向けることで、リングライト表面から30mmくらいの位置でも、そこそこ均等に照らせます。離れると周辺光量が低下してしまいますが、まぁ接写で使う分には問題ないでしょう。

rl52-4.JPG

 24個のLEDは12個ずつ配線し、2個のトグルスイッチで別々に点灯できます。この点灯数切り替えは、光量調整のために1個おきに配線したのですが、上下に分けて影をつける効果のための配置にしてもよかったかもしれません。

rl52-2.JPG

 72mm用はフルサイズ一眼の標準ズームとビデオカメラ用で、どちらも極端な接写には使わないので、36個のLEDは正面を向けて取り付けています。またスイッチ2個による光量調整もあまり使わないので、スイッチは1個だけです。

rl62-3.JPG

rl62-2.JPG

■ LED

 LEDは高演色タイプというもので、秋月で1個40円程度のものです(http://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-04762/)。これはパッケージ内で白2個と赤1個の3個のLEDチップが直列につながっており、赤のスペクトルを増やしています。低い電圧でぼんやり点灯させると、3個の素子が発光しているのがわかります。
 ただ3個のLEDが直列になる構造なので、VFが約8.5Vと高くなっています。普通なら、数個のLEDを直列にして電流制限抵抗や定電流ダイオードをいれるのですが、このVFのため、今回はLEDひとつにつき100Ωの抵抗1本を直列に入れ、9.6V電源で点灯させることにしました。
 本体ケースへのLEDの固定はホットボンドを使っています。

led1.JPG

led2.JPG

■ 撮ってみる

 出来上がったリングライトをカメラに装着すると、こんな感じになります。電線を引きずるのでちょっとうっとうしいですが、リングストロボよりは格段に使い勝手が向上しています。

rl52-1.JPG

rl62-1.JPG

 Nikonの18-55標準ズーム(DX)で望遠側でめいっぱい寄ると、こんな感じで撮れます。

closeup1.JPG

 ベローズと200mmマクロレンズ(DXカメラなので300mm相当)を組み合わせて大げさに撮影すると、こんな感じです。非点灯時のLEDの写真は、直径5mmのLEDをこの構成で撮影したものです。トリミングはしていません。

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2017年03月26日

三菱のインバータで遊んでみる その4

 今回使っている三菱電機のE-700シリーズは、汎用磁束ベクトル制御とアドバンスト磁束ベクトル制御という2種類のセンサレスベクトル制御がサポートされていますが、アドバンスト制御のほうが高性能で、汎用のほうは過去の製品との互換性のために用意されているようです。ここではアドバンスト制御を使います。ちなみに、出荷時状態はV/F制御になっています。
 ベクトル制御を正確に行うには、さまざまなパラメータが必要になります。なので、実際に使う前にこれらのパラメータを設定する必要があります。パラメータには、使用するモーターの仕様で決まるものと、モーターそのものの電気的な(仕様書などには示されていない)特性値があります。いまどきのインバータは賢いので、電気的な特性値を自動的に求める機能が備わっています。特性値を調べ、設定する機能を「チューニング」といいます。

■アドバンスト磁束ベクトル制御の設定

 ベクトル制御を行う際は、モーターに関するいくつかのパラメータを設定する必要があります(以下の説明には、ベクトル制御専用のパラメータ以外のものも含まれます)。モーターの出力、極数などの情報は、ユーザーが直接指定します。ここでは以下のパラメータを設定します。おもにインバータ出荷時設定からの変更ですが、初期設定のままのものもあります。見出しの後のPnnは、パラメータnnの意味です。
 電流、周波数のパラメータは、単位を示すA、HzのLEDが点灯します。電圧のVは単位表示はありません。これらのパラメータは、小数点も表示されます。

・上限周波数 P1
 インバータが出力する最高周波数、つまり最高回転数の指定になります。ここでは定格周波数の倍の120(出荷時設定値)とします。これはV/F制御でも参照されます。

・下限周波数 P2
 インバータが出力する最低周波数、つまり最低回転数の指定になります。ここでは0(出荷時設定値)とします。これはV/F制御でも参照されます。

・電子サーマル P9
 サーマルはサーマルリレーの略で、電流による発熱で動作する保護機構です。過負荷などによる過電流を検出し、出力を遮断して機器を保護します。一般にサーマルリレーは独立した部品、あるいは開閉器とセットで使われますが、インバータには、電子的に等価な操作を行う機能、つまり過電流が流れた時に出力を遮断する機能が組み込まれています。これが電子サーマルです。初期設定ではインバータの定格に見合った電流値が設定されていますが、定格より小さなモーターを使う場合は、この値を小さくする必要があります。この値は0.01A単位で設定できます。今回使った200Wモーターの定格電流は60Hzで0.98Aです。汎用モーターの場合は、これを1.1倍した値(1.1A)を設定します(詳細はマニュアルを参照)。

・適用モーター P71
 使用するモーターの種類で、三菱の汎用、高効率、定トルク、他社製などがあります(マニュアル参照)。三菱の指定形式以外の場合、後述するオートチューニングが必要になります。今回、日立の汎用モーターを使っているので、他社汎用モーターを意味する3を指定し、後でオフラインチューニングを行います。

・モーター容量 P80
 モーター容量をkW単位で指定します。9999だとV/F制御(モーター容量は関係しない)となります。ベクトル制御の場合は、0.01kW単位でモーター容量を指定します。今回は200Wモーターなので、0.20を設定します。

・モーター極数 P81
 モーターの極数で、2、4、6などがあります。V/F制御の場合は9999にします。極数が多いほど、同じ周波数でも回転数が低くなります。60Hzの場合、2極だと3600RPM弱、4極だと1800RPM弱になります。今回は4極を使うので4を設定します。

・モーター定格電圧 P83
 モーターの定格電圧を0.1V単位で設定します。ここでは200V(出荷時設定値)を指定します。

・モーター定格周波数 P84
 モーターの定格周波数を0.01Hz単位で設定します。ここでは60Hz(出荷時設定値)を指定します。

・速度制御ゲイン P89
 負荷変動により回転数が変化したときの回復動作の応答性のパラメータで、100(%)が標準です。設定は0.1%単位で行います。9999だと指定したモーターのデフォルト値が使われます。この数字が小さいと変化に対する応答がゆっくりになり、大きいと早くなります。値が大きすぎると、状況によっては過負荷になったり、速度の振動が発生することがあります。このパラメータは実際に負荷をかけた運転で調整することにし、ここでは9999(出荷時設定値)としておきます。

・制御方法 P800
 汎用かアドバンストかを指定します。ここではアドバンスト磁束ベクトル制御なので、20を設定します。

 これらのパラメータを設定すると、アドバンスト磁束ベクトル制御モードとなります。つまり、モーター容量(P80)と極数(P81)を設定するとV/Fモードからベクトル制御モードになり、さらにP800で汎用かアドバンストかの制御方法を決めるということです。
 ベクトル制御を選択した場合は、実際に運転する前に、次に説明するオフラインオートチューニングを行う必要があります。

■オフラインオートチューニングの実行

 アドバンスト磁束ベクトル制御では、モーターの巻線の抵抗やインダクタンスなどのパラメータが必要になりますが、これらはインバータが自身で測定し、設定できます。接続されたモーターに適当な電圧を加え、それに対する電流値を測定することで、これらのパラメータを求めます。これをオフラインオートチューニングといいます。
 オフラインチューニングではモーターは回転させず(多少軸が動くことはあるようです)、必要な調査を行うので、モーターを機器に組み込んだ状態でも実施できます。オフラインチューニングにより、P82P90-94P859が自動的に設定されます。あるいは事前に求めておいたこれらのパラメータをインバータに設定することで、個々の機材でのチューニングを省略することもできるようです。
 オフラインチューニングとは別に、通常運転中にパラメータを調べ、最適な状態に自動的に調整するオンラインチューニングという機能もあります。
 オフラインオートチューニングは、以下のように行います。

・オートチューニング P96
 オートチューニングの実行、現在の状態を示します。0はチューニングを実行しない、1はアドバンスト制御のためのチューニングの実行を示します。

 前述のパラメータ設定を行った後、P96に1を設定し、PU運転モードにしてRUNボタンを押します。この時、LED表示を電流や電圧以外にしておくと、進行が数字で表示され、1から3まで進みます。
 途中で停止する場合はSTOP/RESETを押します。チューニングには数秒から数十秒かかります。RUN LEDが点滅したら正常終了で、STOP/RESETを押してチューニングを終了します。これでパラメータが設定されます。終了後にP96の値を変更する必要はありません(変更するとパラメータが無効化されます)。

 これで出荷時のV/F制御からアドバンスト磁束ベクトル制御になったはずですが、無負荷で回転させる実験では違いがわかりません。このモードの違いは、実際に負荷がかかった環境で低速運転や負荷が変動する運転をしないとわからないでしょう。

posted by masa at 18:34| 電気機械

2017年03月20日

三菱のインバータで遊んでみる その3


■インバータの容量と電源

 インバータの容量は0.4kw、0.75kWなどの表記があり、それぞれ、0.4kW、0.75kWの汎用モーターを駆動することができます。モーターの0.4kWなどの表記は、モーターが0.4kWの電力を消費するという意味ではなく、モーター出力が0.4kWという意味です。そのため実際には、これよりちょっと多い電力を消費することになります。
 インバータでモーターを駆動する際は、一時的な過負荷に耐える必要があります。定格出力よりちょっと超えただけで止まってしまったり、回路が破損するようでは使い物になりません。そのため短時間であれば、定格容量よりも大きな出力が可能になっています。もちろんこの状態で連続使用することはできません(保護機能については、パラメータで設定することができます)。
 モーターはコイルで構成される誘導負荷なので、交流電圧に対して電流の位相が遅れるため、力率が悪くなります。その結果、有効な電力に対して消費電流は増えることになります。そしてそれを駆動するインバータも、実際の電力で必要とされる以上の電流を供給することが求められます。このように、実際の有効な消費電力とは関係なく、実際に流れる電流で考えた電源容量(皮相電力)は、W(ワット)ではなくVA(ボルトアンペア)で示します。
 言うまでもないことですが(そして全体に比べればわずかですが)インバータ自身が消費する電力も考える必要があります。
 こういった理由により、インバータが実際にどれだけの規模の電源を必要とするかは、出力容量だけで算出することはできません。実際に必要な電源容量は、カタログや仕様書で調べることができます。今回使っている400W(0.4kW)モデルの場合、1.5kVAの電源容量が必要となっています。つまり100V 15Aの回路が必要ということです。ちなみに、単相100Vで使用できる最大モデル(0.75kW)の場合、2.5kVAとなっています。したがって普通のコンセントで使おうと思ったら、400Wモデルが限界ということになります。0.75kWを使う場合は、厳密には一般的な100Vエアコン用コンセント(20A)でも不足です。可能であれば、単相200Vの回路を用意し、200V用インバータを使ったほうがいいでしょう。
 もちろん、モーターを全負荷で運転しない、力率改善のための対処をするなどすれば、多少は電源容量を減らすこともできます。ただ、だからといって小容量の電源につなぐと、使い方によっては電源回路側での頻繁なトリップや発熱などの問題が発生する可能性があります。

■インバータでモーターを回す

 出荷時設定のインバータでは、次の手順でモーターを回すことができます。

1. PU/EXTボタンを押して、EXT LEDを点灯させます。
2. ダイヤルを回して周波数を指定し、SETボタンを押します。
3. RUNボタンを押すと、モーターが回転を始め、指定周波数まで加速します。
4. 運転中でも、2.の操作で回転速度を変えることができます。
5. STOP/RESETボタンを押すと、モーターが減速し、停止します。

 運転中にSETボタンを押すと、周波数、電流、電圧の順でLED表示が変化します。

 インバータは出力周波数を変えることができますが、同時に出力電圧も変化させることができます。どのように出力電圧を変化させるかで、モーターの運転特性が大きく変わります。

■V/F制御とベクトル制御

 E-700シリーズは、V/F制御とベクトル制御が可能です。ベクトル制御は、さらに汎用磁束ベクトル制御とアドバンスト磁束ベクトル制御というモードが選べます。詳しくは三菱のテクニカルニュース「三菱汎用インバータの各種制御方式」に書いてあります。
 余談ですが、三菱のインバータで単相100Vで使えるのはE-700シリーズとD-700シリーズになります。Dシリーズのほうが安価なのですが、Dシリーズではアドバンストモードがサポートされていません。大トルクの低速回転を使いたいのであれば、Eシリーズのほうがよいでしょう。

■V/F制御

 これはもっとも基本的な制御で、モーターの定格状態(200V、60Hz)で最高電圧の200Vを印加し、これより低い周波数の場合は、周波数が下がるにつれて出力電圧も下げます。周波数を定格よりも高くする場合は、最高電圧のまま、周波数だけを上げていきます(以下の図は前述のテクニカルニュースから引用)。

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 この方式は、低い周波数の時の電圧が低いため、十分な出力が得られなくなります。そのため、ある程オフセットした周波数/電圧特性とします。具体的には、周波数0Hzの時に0Vではなく、ある程度の電圧を出力するという形です。これをトルクブーストといいます。
 V/F制御は低周波時の出力特性がよくないのですが、接続するモーターの詳細情報が必要なく、1つのインバータで複数のモーターを運転できるといったメリットがあります。そのため、極端な低速回転を使わず、負荷変動の少ないファンやポンプなどに使われます。

■ベクトル制御

 ベクトル制御は、モーターの回転状態を認識し、それに対して適切な出力に制御、つまり出力電圧を調整することで、広い周波数帯域でモーターを効率的に運転することができます。
 誘導モーターは、三相交流による回転磁界で回転子を回しますが、回転子の速度は磁界の速度より遅くなります。これをすべりといいます。実際の回転数を認識することでこのすべり量がわかります。すべりが極端に大きい場合、モーターは十分に回転してない、つまりトルクが足りていないことになります。このような時に出力を高めることで、トルクを増大させて回転数を高めることができます。
 出力電流をモニターすることで、インバータはモーターの回転状態を把握することができます。モーターに流れる電流は界磁を励磁し、これにより回転子に誘導電流が流れ、回転します。モーター電流は励磁分とトルク分があり、うまくベクトル演算することで、これらの成分を算出できます。そして流れる電流成分が最適になるように電圧や周波数を制御することで、さまざまな周波数でモーターを効率的に回転させることができます。これがベクトル制御です。

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 モーターの回転を調べる方法として、モーター軸に回転センサーを装備するという方法と、出力電流を観測して回転状態を類推するという方法があります。後者はセンサーが不要なので、一般的な汎用モーターをそのまま使うことができます。これをセンサーレスベクトル制御といいます。センサーを使う方式はコストが余計にかかりますが、より正確な運転制御が可能です。
 ベクトル制御により、さまざまな周波数領域において、出力周波数と電圧を調整することで、モーターをより効率的に運転できます。特に大トルクで低速回転させることが可能になります。

 次回はアドバンスト磁束ベクトル制御の設定など。

posted by masa at 13:08| 電気機械

2017年03月12日

3Dプリンタ

 うちで使っている3Dプリンタは、XYZprintingのダヴィンチ 1.0Aで、ABSとPLAが使えるものです。Amazonの特売で割と安かったので、ついふらふらと買ってしまいました。
 これはフィラメントカートリッジにROMがはいっていて、残量が記録されます。まぁ、インクジェットプリンタのカートリッジ商売と似たようなものです。カートリッジは、フィラメント600gで約3000円ですが、そんなに大量に出力するわけではないので、コストが負担になるほどではありません。少なくとも、高価なROM制限のないモデルと比較して、差額で元が取れるほど使うかどうか??
 2016年7月から使い始め、半年で100時間ほど使っていますが、今のところ、トラブルはありません。

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 3Dプリンタというと、材料のテーブル表面への貼り付きがどうのこうので、いろいろなやり方があるようですが、うちではメーカー推奨のスティックのり(シワなしPit)の塗布で済ましています。使用後の掃除に多少手間がかかりますが、失敗はほとんどありません。手順はこんな感じ。

・製作部分にノリを塗布。
・作業後、軽く水拭き。
・ノリがだいぶ残っているように感じたら、スクレーパー(プリンタの付属品)でノリをこそぎ落として、最後に仕上げ水拭き。

 3Dプリンタは、いろいろなものを作る際に必要な部品を造形しています。旋盤やフライス盤、あるいは木工などとはまた違う感覚で工作ができるので、それなりに重宝しています。

 3Dモデルを作成する際、デザインはFusion 360を使い、これでSTLファイルを作成しています。そして純正の出力ソフトを使い、USB接続のダヴィンチ 1.0Aに出力します。プリント時間はたいてい数時間以上になるので、夜中に出力します。それなりの騒音ですが、近くに寝ている子供たちからの苦情は、今のところありません。ABSの臭いが多少しますが、閉鎖型のケースの威力か、自分が鈍感なのか、さほど気にはなりません。

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 このプリンタ、安価なのはいいのですが精度がいまいちで、穴、軸などの形状を出力した場合、数パーセント程度の誤差が出ます。そのため、ある程度の精度を求める場合は、実際に出力して寸法を測り、適当に設計データを修正するという作業が必要になります。
 写真の作例(等速ジョイント、軸とボールは金属)は、ボール溝や軸穴などはかなり試行錯誤しています。それでも精度はいまいちで、すっきりとは動きません(笑)。

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posted by masa at 14:04| 3Dプリンタ